通販事業の譲渡後の競業避止義務違反とは?顧客リスト・SNSの守り方

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公開日:2026年5月19日最終更新日:2026年8月24日
通販事業の譲渡後、売り手が同種のECを再開できるかは、会社法第21条の市区町村制限だけでは判断できません。顧客接点や広告資産まで含め、契約で競業範囲を具体化する必要があります。
1. 通販事業を譲渡した後の競業避止義務と会社法21条事業譲渡後の売り手は、譲渡した通販事業と競合する活動を一定期間制限されます。買い手が支払う対価には、商品や在庫だけでなく、顧客基盤、ブランド、販売ノウハウなどの価値も含まれるためです。
会社法第21条第1項は、当事者間で別段の意思表示がない限り、譲渡会社が同一市町村および隣接市町村で、事業譲渡の日から20年間、同一の事業を行うことを禁止しています。
ただし、この規定は契約で変更できます。競業しない旨の特約を置いた場合、その効力は事業譲渡の日から30年間を超えない範囲とされます。期間の短縮や義務の排除も、当事者の合意により設計可能です。
もっとも、会社法の原則だけで通販事業を守るのは困難です。ECでは販売地域が全国や海外に及び、競合の場所が店舗所在地ではなく、検索結果、SNS、広告画面に現れるからです。
1-1. 事業譲渡後に同じ商品を販売すると違反になる条件
同じ商品を扱っただけで直ちに違反と決まるわけではありません。譲渡対象の商品カテゴリー、顧客層、仕入先、価格帯、販売チャネルがどの程度重なるかを、契約条項と事業の実質から判断します。
例えば、譲渡した30代女性向け衣料品ECと同じ顧客に、同じ仕入先の商品を自社サイトで販売すれば、別ブランドでも競業と評価される可能性が高まります。
1-2. 会社法21条の20年規制と最大30年特約の関係会社法第21条の原則は、同一市町村と隣接市町村における20年間の競業禁止です。譲渡契約に同一事業を行わない特約を設ける場合でも、法定の効力期間は30年間が上限となります。
実務では、通販事業の成長サイクルや買い手の投資回収期間を踏まえ、より短い期間を定めることがあります。買い手が全国販売を守りたい場合は地域を広げ、売り手の再起を確保する場合は商品や期間を絞ります。
1-3. 事業譲渡と株式譲渡などで義務が変わる理由会社法第21条が直接対象とするのは事業譲渡です。事業譲渡では、資産、契約、顧客接点などを個別に移すため、売り手の再参入から譲渡価値を守る必要があります。
株式譲渡には、会社法上の同じ競業避止義務はありません。会社分割や合併でも扱いが異なるため、売り手や旧経営者の再参入を防ぎたい場合は、SPAや各最終契約書に明記します。
事業譲渡でも、法定の地域や期間だけに頼らず、通販の実態に即した条項を追加することが重要です。
2. EC再参入を左右する競業範囲と地域制限の設計ECの競業範囲は、地域だけでなく、期間、商品、顧客、販売方法を組み合わせて定めます。「通販事業を行わない」という一文だけでは、許される新規事業と禁止行為の境界が曖昧です。
会社法第21条の同一市町村・隣接市町村という基準は、店舗型ビジネスには機能しやすい一方、全国配送の通販には狭すぎる場合があります。売り手が隣接市町村の外に移転するだけで競合できるからです。
買い手は、譲渡対象の販売実態に合わせて、日本国内全域、特定の国、対象顧客への販売などを明記します。売り手は、許容したい商品や地域を例外として列挙します。
2-1. 全国配送と越境ECでは地域制限をどう定めるか全国配送を行うECでは、所在地ではなく日本国内の顧客に販売する行為を基準にする方法が実務的です。越境ECでは、対象国、言語、通貨、配送先を契約に記載します。
海外法人や海外サーバーを使っても、日本向けに広告を出し、日本の顧客へ発送していれば、実質的な競業と判断され得ます。準拠法と合意管轄も確認が必要です。
2-2. 商品と顧客層を曖昧にしない禁止事業の定義禁止事業は、商品カテゴリーだけでなく、価格帯、顧客属性、用途、販売チャネルを組み合わせて定義します。「EC事業全般」では広すぎるため、「30代女性向けの単価5,000円前後の衣料品EC」のように具体化します。
仕入先や広告手法も重要です。譲渡したブランドの仕入先から同じ商品を仕入れ、検索広告で旧顧客を集める行為まで禁止するなら、その行為を列挙しておきます。
一方、対象外の商品、卸売、法人向け販売、既存の別事業などは例外にします。過度な制限は、売り手の営業活動を不当に妨げ、条項の有効性や独占禁止法上の評価に影響します。
2-3. 役員や従業員への適用と職業選択の自由対象者は、譲渡会社だけでなく、代表者、役員、主要株主、関連会社などに広げることがあります。ただし、第三者を介した実質的な運営まで含める場合は、対象と行為を明確にします。
一般従業員に退職後の競業避止義務を課す場合、憲法第22条の職業選択の自由との調整が必要です。役職、機密情報へのアクセス、期間、地域、禁止業務を限定し、必要に応じて金銭や顧問料などの代償措置を検討します。
家族名義の会社や関連会社を通じた再参入を対象にする場合も、単なる親族関係だけでなく、売り手の指示や資金提供、経営関与などの実質を基準に定めます。
3. 顧客リストやSNSを守る通販譲渡契約の条項設計通販事業の価値は、顧客リストだけでなく、メルマガ、SNS、広告アカウント、ドメイン、商標、商品ページ、レビュー、分析データに分散しています。譲渡対象と利用権限を資産ごとに整理し、引き渡し後の使用禁止まで記載します。
顧客リストは個人情報を含むため、譲渡後の利用目的、管理者、第三者提供、削除や返還の方法を個人情報保護法に沿って確認します。売り手が保有するバックアップデータも、利用・複製・持ち出しの扱いを決めます。
SNSではアカウントの所有者、管理者権限、過去投稿、フォロワーへの告知を分けて考えます。広告アカウントでは、管理画面、オーディエンス、計測タグ、クリエイティブの帰属を定めます。
3-1. 顧客リストとメルマガの奪い返しを禁止する方法
譲渡後に、売り手が購入履歴を使って旧顧客へ新商品を案内する行為は、競業避止義務違反だけでなく、個人情報の目的外利用を問われる可能性があります。契約では、閲覧、複製、持ち出し、メール配信、電話営業を個別に禁止します。
売り手が保有する控えの削除期限、削除証明、アクセス権限の停止、委託先への削除指示も定めます。買い手が正当に顧客へ移行案内を送る場合との区別も必要です。
3-2. 旧SNSや検索広告で流入を横取りする行為の判定旧SNSから新ブランドへ「以前のショップは売却した。今後はこちらで購入してほしい」と誘導すれば、フォロワーという顧客接点の流用と評価され得ます。譲渡対象アカウントだけでなく、個人アカウントからの告知も契約で確認します。
旧ブランド名や商品名を検索広告のキーワードに設定しただけでは、直ちに違反と断定できない場合があります。しかし、広告文で正規の後継店と誤認させたり、旧ブランドの顧客を新サイトへ誘導したりすれば、契約違反や不正競争のリスクが高まります。
SEO記事、比較ページ、リターゲティング広告も対象になり得ます。禁止するキーワード、広告文、リンク先、対象顧客を一覧化すると判定しやすくなります。
3-3. ドメインや商標とレビューの利用権限を整理するドメイン、商標、商品ページ、レビュー、広告素材、アクセス解析データは、誰に帰属し、誰がいつまで使えるのかを記載します。譲渡後に売り手が旧ドメインを新サイトへ転送する場合も、買い手の承諾制にします。
レビューはプラットフォーム規約や表示の正確性にも左右されます。移転できない評価を売り手が複製して別サイトで使う行為、旧商品ページの画像や説明文を再利用する行為も禁止対象に含めます。
ドメイン管理会社、モール、SNS、広告媒体の名義変更と管理者削除をクロージング条件にすると、引渡し後の不正利用を抑えやすくなります。
4. 競業避止義務違反への差止めと損害賠償対応違反を発見したら、まず証拠を保存し、契約条項と損害を確認します。その後、相手方への通知、任意の停止要請、差止め請求や仮処分、損害賠償請求を状況に応じて進めます。
営業が継続すると顧客が流出する場合、金銭賠償だけでは回復できません。差止め請求や仮処分で先に行為を止め、売上減少や広告費などの損害を別途請求する構成を検討します。
契約違反には、損害賠償、違約金、譲渡対価の一部返還、利益の返還、旧資産の使用停止などを定められます。違約金は損害立証の負担を軽くする一方、金額の合理性が必要です。
4-1. 違反を立証するアクセスログと広告出稿の証拠保存する資料には、広告管理画面、広告文、出稿期間、SNS投稿履歴、アクセスログ、顧客へのメール、ドメイン情報、商品ページの更新履歴があります。取得日時と取得者を記録し、改変されていない状態で保管します。
競業行為と損害の因果関係を示すには、譲渡前後の売上、流入元、指名検索、顧客の注文先変更などを比較します。アクセスログだけでなく、注文データや広告費の推移も合わせて確認します。
4-2. 差止め仮処分と損害賠償請求を使い分ける基準顧客流出が続き、営業停止の緊急性が高い場合は、裁判所への仮処分を検討します。契約違反の明確さ、回復困難な損害、保全の必要性を資料で示す必要があります。
損害賠償請求では、失われた利益、追加広告費、調査費用などを主張します。契約上の違約金があれば、実損の立証を補う材料になりますが、請求できる範囲は契約や事実関係によって異なります。
旧顧客リストや広告資産の返還、アカウントの利用停止、競合サイトの閉鎖確認なども、契約上の救済手段として明記しておくと対応が速くなります。
4-3. 独占禁止法と不正競争防止法から見る禁止条項事業譲渡に伴う競業避止義務は、譲渡価値を守る目的で合理的な範囲なら、通常は直ちに独占禁止法違反とはなりません。ただし、譲渡事業と関係の薄い市場まで長期間・広範囲に制限すると問題になる可能性があります。
特に市場への影響が大きい取引や、売り手に対して不当に広い制限を課す取引では、競争制限や優越的地位の濫用が論点になります。禁止範囲には事業上の必要性を対応させます。
旧ブランドと誤認させる表示、営業秘密の利用、顧客情報の不正取得や使用には、不正競争防止法などの問題も生じます。契約違反だけでなく、法令上の根拠を分けて検討します。
5. 通販事業の譲渡契約前に確認する実務チェックリスト
契約前に、禁止事項だけでなく、誰が、いつまで、どこで、何をしてはいけないのかを一覧化します。買い手は顧客接点を守り、売り手は将来の許容事業を確保するという、双方の視点が必要です。
譲渡対象の商品、顧客、ブランド、販売チャネル
競業避止義務の期間、地域、対象者
旧SNS、ドメイン、広告、メルマガの利用条件
海外法人、海外サーバー、越境販売の扱い
違約金、差止め、返還、損害賠償の条項
売り手が継続できる既存事業と例外規定
クロージング時には、アカウントの権限移行、データ削除、パスワード変更、媒体への名義変更まで実行します。契約書と引継ぎチェックリストを連動させると、条項が実務で機能します。
5-1. 買い手が契約書で指定する禁止事項の一覧譲渡対象と同一または実質的に競合する商品の販売
旧顧客への直接営業、メール配信、購入履歴の利用
旧SNSや個人アカウントから新ブランドへ誘導する投稿
旧ブランド名・商品名を使う検索広告や誤認表示
ドメイン、商標、商品ページ、レビュー、広告素材の再利用
仕入先、従業員、外注先への不当な引抜きや働きかけ
「直接または間接に」「自己または第三者を通じて」といった関与形態も必要に応じて記載します。禁止対象が広すぎる場合は、事業上の必要性を説明できる範囲に修正します。
5-2. 売り手が確保すべき許容事業と例外規定売り手が別ブランドを始める予定なら、商品カテゴリー、顧客層、価格帯、販売地域、販売方法を例外規定に書きます。既存の卸売事業や法人向け販売を継続する場合も、譲渡対象との違いを明確にします。
役員や顧問への就任、少数株主としての投資、競合しない広告・制作業務なども、許容するなら個別に記載します。口頭の了解は、担当者が変わると消えるためです。
5-3. 違反時の通知先とプラットフォーム申告の手順違反を確認したら、社内の責任者と法務担当へ報告し、証拠を保全します。相手方への通知は、条項、問題行為、停止期限、必要な返還措置を特定して行います。
モール、SNS、広告媒体、ドメイン管理会社への申告は、契約書や商標権、アカウントの帰属資料を添付して進めます。ただし、媒体の判断だけで相手の営業を止められるとは限りません。
顧客流出が進んでいる、海外運営が絡む、営業秘密や個人情報が使われている、または差止めを急ぐ場合は、通知前に弁護士へ相談します。
6. よくある質問(FAQ) 6-1. 通販事業の譲渡後に別ブランドを始められますか別ブランドであっても、商品、顧客層、価格帯、広告手法、販売チャネルが重なると競業と評価され得ます。契約前に対象外の商品や顧客を例外として明記してください。
6-2. 海外法人や海外サーバーなら競業を避けられますか運営主体やサーバーの所在地だけで判断されません。日本の顧客へ広告を出し、日本向けに注文を受けて発送する実態や、契約上の地域指定が重視されます。
6-3. 旧SNSのフォロワーへ新商品を告知できますか譲渡対象のSNSやフォロワーを使った告知は、顧客誘引やデジタル資産の流用となる可能性があります。個人アカウントであっても、譲渡後の告知可否を契約で確認します。
6-4. 競業避止義務違反を疑ったら最初に何をしますか相手方へ連絡する前に、広告、投稿、アクセスログ、注文情報、メール、ドメイン情報を保存します。その後、契約の禁止範囲と損害を確認し、通知や仮処分を検討します。
7. おすすめ商品: 通販事業の専門M&A仲介サービスの特徴と選び方通販事業の譲渡では、一般的な企業価値だけでなく、広告依存度、モール評価、定期購入、在庫、顧客基盤、ブランド力まで確認する必要があります。通販事業の専門M&A仲介サービスは、自社EC、楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング、Shopify、BASE、STORES、D2C、単品リピート通販に対応しています。
通販事業の専門M&A仲介サービスは、株式譲渡と事業譲渡の両方に対応し、買い手探しから条件交渉、デューデリジェンス、契約、譲渡完了まで支援します。売却するか迷っている段階や、売却価格の目安を知りたい段階から相談できます。
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8. まとめ通販事業の譲渡後は、会社法第21条により、原則として同一市町村と隣接市町村で20年間の競業避止義務が問題になります。特約によって期間、地域、事業範囲を変更できますが、ECでは市区町村の制限だけでは買い手を十分に守れません。
顧客リスト、メルマガ、SNS、広告、ドメイン、商標、レビューなどを資産ごとに分け、禁止行為と許容事業を事業譲渡契約書に記載してください。締結前に専門家の確認を受けることが、譲渡後の顧客流出と紛争を防ぐ最も確実な手段です。


