EC事業・D2C事業の事業譲渡で失敗しないための7つのポイント|M&Aのプロが解説
EC事業・D2C事業の事業譲渡を検討しているが、何から始めたら良いか分からない、失敗したくないという経営者の方へ。本記事では、EC・D2C事業譲渡の成功に不可欠な7つのポイントを、M&Aのプロの視点から分かりやすく解説します。
事業譲渡のメリット・デメリット、譲渡価格の算定方法、デューデリジェンスの重要性、譲渡契約書の注意点、手続き、事業譲渡後の事業継続まで、網羅的に解説することで、スムーズかつ成功する事業譲渡を実現するための道筋を明確にします。
この記事を読めば、事業譲渡の基本的な知識から具体的な手続き、成功のためのポイントまでを理解し、安心して事業譲渡を進めることができるようになります。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
1. EC事業・D2C事業の事業譲渡とは
EC事業・D2C事業の事業譲渡とは、インターネットを通じて商品やサービスを販売するECサイトや、自社で企画・製造・販売を行うD2Cブランドの事業全体、あるいは一部を他の企業に売却することを指します。
譲渡対象には、ドメイン、顧客リスト、在庫、商標、ノウハウ、システムなどが含まれます。事業譲渡は、M&A(合併・買収)の一形態であり、事業を売却する側(譲渡企業)と事業を買収する側(譲受企業)の間で行われる取引です。
EC事業譲渡には、譲渡企業・譲受企業双方にメリット・デメリットが存在します。
1.1.1 EC事業譲渡のメリット譲渡企業 | 譲受企業 |
---|---|
事業の縮小・撤退による経営資源の集中 | 既存事業とのシナジー効果による売上拡大 |
事業承継問題の解決 | 新規事業立ち上げにかかる時間・コストの削減 |
キャッシュフローの確保 | 既存顧客基盤・ブランド力の獲得 |
譲渡企業 | 譲受企業 |
---|---|
従業員の雇用に関する問題発生の可能性 | 既存システム・文化との統合の難しさ |
ブランドイメージの毀損リスク | 隠れた負債・リスクの存在 |
売却価格が期待値を下回る可能性 | 想定通りのシナジー効果が得られない可能性 |
D2C事業譲渡も、EC事業譲渡と同様にメリット・デメリットが存在します。D2C事業特有のメリット・デメリットとしては下記が挙げられます。
1.2.1 D2C事業譲渡のメリット譲渡企業 | 譲受企業 |
---|---|
独自のブランド力・商品力を持つ事業の売却による高額売却の可能性 | 確立されたブランド・顧客基盤・商品開発ノウハウの獲得 |
製造・販売の一貫体制の売却による事業価値向上 | 独自の商品ラインアップ拡充による競争力強化 |
譲渡企業 | 譲受企業 |
---|---|
ブランドイメージ維持の難しさ | ブランドイメージ維持の責任 |
顧客ロイヤリティ維持の難しさ | 既存顧客との関係構築の難しさ |
EC事業・D2C事業の事業譲渡は、事業の成長戦略、事業承継、経営資源の再配分など、様々な目的で行われます。譲渡企業・譲受企業双方にとって、事業譲渡は大きなメリットをもたらす可能性がある一方、それぞれのデメリットも理解した上で、慎重に進める必要があります。
【関連】EC事業・D2C事業の会社売却で価値最大を実現!M&Aのプロが徹底解説2. 譲渡価格の算定方法
EC事業・D2C事業の譲渡価格を算定することは、売主と買主双方にとって非常に重要なプロセスです。適切な価格設定は、スムーズな事業譲渡を実現するための鍵となります。譲渡価格の算定には、いくつかの方法があり、事業の特性や状況に応じて適切な方法を選択する必要があります。
【関連】EC事業・D2C事業のシナジー効果最大化!M&Aでシナジー効果を高める方法2.1 事業価値の評価方法
事業価値の評価方法は、大きく分けて3つのアプローチがあります。それらを組み合わせることで、より精緻な評価が可能になります。
インカムアプローチ:将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を算定する方法です。DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)が代表的な手法です。EC事業・D2C事業のように将来の成長性が見込まれる事業では、この方法が有効です。将来のキャッシュフローの予測には、売上高の成長率、利益率、割引率などを考慮する必要があります。
マーケットアプローチ:類似企業の市場価格を参考に事業価値を算定する方法です。上場企業の株価や、M&Aの成約事例などを参考に、類似指標(PER、PSRなど)を用いて評価額を算出します。ただし、EC事業・D2C事業はビジネスモデルが多様化しているため、完全に一致する類似企業を見つけることは難しい場合もあります。
アセットアプローチ:事業が保有する資産の市場価値から負債を差し引いて事業価値を算定する方法です。在庫、設備、知的財産権などの資産を評価します。ただし、EC事業・D2C事業の場合、ブランド力や顧客基盤といった無形資産の価値が大きいため、この方法だけでは適切な評価が難しい場合があります。
類似のEC事業・D2C事業の譲渡事例を参考に、譲渡価格の妥当性を検証することも重要です。M&Aデータベースや業界団体などが公表している情報などを活用できます。ただし、事業規模、収益性、成長性などが異なるため、単純な比較は避けるべきです。また、非公開情報である場合が多いため、入手が難しいケースもあります。
比較項目 | 自社 | 類似事例A | 類似事例B |
---|---|---|---|
売上高 | - | - | - |
営業利益 | - | - | - |
顧客数 | - | - | - |
譲渡価格 | - | - | - |
上記はあくまで例であり、実際の比較項目は事業の内容によって異なります。また、各項目の数値をそのまま比較するのではなく、事業の特性や状況を考慮した上で総合的に判断する必要があります。
2.3 デューデリジェンスの重要性デューデリジェンスは、買主が事業の実態を把握し、リスクを評価するために実施する調査です。財務、法務、事業、税務などの専門家が、売主から提供された資料やヒアリングなどを基に調査を行います。デューデリジェンスの結果は、譲渡価格の算定に大きな影響を与えます。
例えば、隠れた負債や将来発生する可能性のあるリスクが発見された場合、譲渡価格は下方修正される可能性があります。
デューデリジェンスによって、以下のような項目が明らかになります。
- 財務状況(売上、利益、資産、負債など)
- 法務リスク(契約上の問題、訴訟リスクなど)
- 事業リスク(競争環境、市場動向など)
- 税務リスク(過去の税務処理の妥当性など)
デューデリジェンスを適切に行うことで、売主と買主間の情報格差を縮小し、スムーズな事業譲渡を実現することができます。また、デューデリジェンスの結果を踏まえて、譲渡契約書の内容を調整することも重要です。
【関連】EC事業・D2C事業の譲渡価格相場と企業価値算定方法|M&A成功の秘訣3. 譲渡契約書の注意点
EC事業・D2C事業の事業譲渡において、譲渡契約書は非常に重要な書類です。契約内容が事業の将来を左右するため、細心の注意を払って作成・確認する必要があります。譲渡契約書で想定されるトラブルを未然に防ぎ、スムーズな事業譲渡を実現するために、以下の注意点を確認しましょう。
3.1 契約条項の確認譲渡契約書には、事業譲渡に関する様々な条項が記載されています。譲渡価格、譲渡対象資産、譲渡日、債権債務の引継ぎ、表明保証、競業避止義務、解除条項など、多岐にわたる内容が含まれます。これらの条項を一つ一つ丁寧に確認し、内容を完全に理解することが重要です。特に、以下の項目は重点的に確認しましょう。
3.1.1 譲渡対象資産の明確化譲渡対象となる資産を明確に特定し、契約書に明記することが重要です。ECサイトのドメイン、顧客リスト、在庫、商標権、特許権など、事業運営に必要な資産が漏れなく含まれているかを確認しましょう。曖昧な表現は避け、具体的に記載することで、後々のトラブルを防止できます。
3.1.2 表明保証条項表明保証条項とは、譲渡企業が譲受企業に対して、事業に関する重要な事実について真実かつ正確な情報を提供することを約束する条項です。例えば、財務状況、訴訟の有無、契約上の義務などに関する表明保証が求められます。表明保証に違反があった場合、譲受企業は損害賠償請求などを行うことができます。
3.1.3 競業避止義務競業避止義務とは、譲渡企業が一定期間、譲渡事業と競合する事業を営むことを禁止する条項です。譲渡企業のノウハウや顧客基盤が競合他社に流出するのを防ぐために重要な条項です。競業避止義務の期間や範囲を適切に設定する必要があります。
3.1.4 解除条項譲渡契約を解除できる条件を定めた条項です。例えば、表明保証違反、重要な契約違反、法令違反などが解除事由として挙げられます。解除条件を明確に定めることで、予期せぬ事態が発生した場合にも適切に対応できます。
3.2 秘密保持契約の締結事業譲渡の交渉過程では、企業の機密情報が共有されることが多いため、秘密保持契約を締結することが重要です。秘密保持契約によって、譲受企業は取得した情報を適切に管理し、第三者に開示しない義務を負います。秘密保持契約の内容には、秘密情報の定義、秘密保持の期間、違反時のペナルティなどを明記する必要があります。
3.3 弁護士・会計士の活用譲渡契約書の作成・確認は専門的な知識を必要とするため、弁護士や会計士などの専門家に相談することを強く推奨します。専門家は、契約条項の妥当性やリスクを評価し、適切なアドバイスを提供してくれます
。特に、複雑な取引や高額な取引の場合は、専門家のサポートが不可欠です。専門家の活用により、法的なリスクを最小限に抑え、スムーズな事業譲渡を実現できるでしょう。
以下に、専門家活用のメリットをまとめます。
専門家 | 活用メリット |
---|---|
弁護士 | 契約条項の適法性チェック、リスク評価、交渉サポート、契約書作成 |
会計士 | 財務デューデリジェンス、事業価値評価、税務アドバイス |
譲渡契約書は、EC事業・D2C事業の譲渡を成功させるための重要な要素です。契約内容を理解し、専門家のサポートを受けながら、慎重に手続きを進めるようにしましょう。
【関連】M&A仲介で通信販売事業を成長・発展させるための完全ガイド4. 事業譲渡の手続き
EC事業・D2C事業の事業譲渡は、複雑な手続きを伴います。スムーズな事業譲渡を実現するためには、各段階における手続きを正しく理解し、適切な対応を行うことが重要です。ここでは、主な手続きの流れとそれぞれの注意点について解説します。
4.1 譲渡契約の締結事業譲渡における最重要事項の一つが、譲渡契約の締結です。譲渡契約書には、譲渡対象事業の内容、譲渡価格、譲渡日、債権債務の引継ぎ、従業員の処遇、競業避止義務など、事業譲渡に関する重要な事項が規定されます。契約内容に不明点や疑問点がある場合は、必ず弁護士や会計士などの専門家に相談し、内容を十分に理解した上で契約を締結することが重要です。
特にEC事業・D2C事業の譲渡においては、プラットフォーム利用規約、顧客データの取り扱い、システムの移行、ドメインや商標権の譲渡など、特有の項目についても明確に規定する必要があります。
4.2 事業の引継ぎ譲渡契約締結後、実際の事業の引継ぎ作業を行います。事業の引継ぎは、譲渡対象事業の規模や内容によって異なりますが、一般的には以下の項目が含まれます。
項目 | 内容 | 注意点 |
---|---|---|
資産の引継ぎ | 在庫、設備、システム、知的財産権など | 棚卸し、資産評価、権利関係の確認を徹底する |
契約の引継ぎ | 仕入契約、販売契約、システム利用契約など | 契約相手への通知、同意取得が必要な場合も |
顧客情報の引継ぎ | 顧客データ、購買履歴など | 個人情報保護法に基づいた適切な手続きが必要 |
運営ノウハウの引継ぎ | 業務フロー、マーケティング戦略など | ドキュメント化、研修の実施などが有効 |
EC事業・D2C事業においては、特に顧客データやシステムに関する引継ぎが重要です。円滑な事業継続のため、綿密な計画と準備が必要です。システムの互換性、データ移行方法、顧客への周知方法などを事前に確認し、トラブル発生時の対応策も検討しておくことが重要です。
4.3 従業員の処遇事業譲渡に伴い、従業員の処遇についても適切な対応が必要です。従業員の雇用は、原則として譲渡企業から譲受企業に引き継がれます。ただし、労働条件の変更が生じる場合は、労働契約法に基づいた手続きが必要となります。
従業員への丁寧な説明、個別の面談などを実施し、不安や疑問を解消することが、事業譲渡後の円滑な事業運営につながります。
EC事業・D2C事業では、顧客対応やマーケティング、システム運用など、専門性の高い人材の確保が事業の成功に不可欠です。従業員のモチベーション維持、退職防止策なども検討する必要があります。
これらの手続きを適切に行うことで、事業譲渡を成功させ、新たな事業展開につなげることが可能になります。専門家のサポートを受けながら、慎重に進めることが重要です。
【関連】EC・D2C事業の事業売却を成功させる方法|M&Aの専門家が教えます!5. 事業譲渡後の事業継続について
EC事業・D2C事業の譲渡は、単に契約を締結して終わりではありません。譲渡後の事業継続を成功させるためには、綿密な計画と準備、そして迅速な実行が必要です。譲受側にとっては、既存顧客の維持、従業員のモチベーション維持、そして新たな成長戦略の実現が重要な課題となります。
5.1 事業計画の策定譲渡後の事業をスムーズに軌道に乗せるためには、具体的な事業計画の策定が不可欠です。既存事業の現状分析を基に、売上目標、利益目標、顧客獲得戦略、マーケティング戦略などを明確に定義しましょう。
特にEC・D2C事業では、Webサイトのアクセス状況、コンバージョン率、顧客単価などのデータ分析が重要になります。これらのデータに基づいて、具体的なKPIを設定し、進捗状況を定期的にモニタリングすることで、PDCAサイクルを効果的に回すことができます。
- 現状分析:SWOT分析などを活用し、事業の強み・弱み、機会・脅威を明確にする。
- 目標設定:具体的な数値目標を設定し、達成のための戦略を立案する。
- KPI設定:目標達成を測るための具体的な指標を設定する。
- 実行計画:具体的なアクションプランを策定し、担当者・期限を明確にする。
- モニタリング:進捗状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて計画を修正する。
EC・D2C事業において、顧客との良好な関係は事業の生命線です。事業譲渡によって、顧客が不安を感じたり、離れてしまう可能性があるため、丁寧なコミュニケーションが重要になります。譲渡後も変わらず高品質な商品・サービスを提供し続けることを明確に伝え、顧客ロイヤリティの維持に努めましょう。
5.2.1 顧客との関係維持のポイント時期 | 実施内容 | 目的 |
---|---|---|
譲渡契約締結後 | 顧客への譲渡に関する通知 | 顧客の不安解消 |
事業引継ぎ後 | 継続的な情報提供(メールマガジン、SNS等) | 顧客とのエンゲージメント向上 |
中長期的に | 顧客の声を収集し、サービス改善に反映 | 顧客満足度向上 |
5.3 従業員のモチベーション維持
事業譲渡は、従業員にとっても大きな変化であり、不安や戸惑いを感じやすい時期です。譲渡後の事業ビジョンや戦略を明確に伝え、従業員の不安を払拭することが重要です。また、従業員のスキルや経験を活かせる役割分担を検討し、新たな組織体制へのスムーズな移行を支援することで、モチベーション維持に繋げましょう。
5.3.1 従業員のモチベーション維持のポイント- 事業ビジョン・戦略の共有:譲渡後の事業の方向性を明確に伝える。
- コミュニケーションの活性化:従業員との対話を密にし、不安や疑問に答える。
- 適切な評価・処遇:従業員の貢献を適切に評価し、処遇に反映させる。
- スキルアップ支援:研修制度などを活用し、従業員のスキルアップを支援する。
- 働きやすい環境づくり:労働環境の改善に努め、従業員の満足度を高める。
これらのポイントを踏まえ、事業譲渡後の事業継続を成功に導きましょう。綿密な計画と適切な対応によって、新たな成長を実現することが可能になります。
【関連】通販事業の事業売却、成功させるための準備と戦略|M&A専門家による解説6. まとめ
EC事業・D2C事業の事業譲渡は、適切な準備と手続きを行うことで、売主・買主双方にとって大きなメリットをもたらします。譲渡価格の算定には、事業価値の評価、類似事例との比較、デューデリジェンスが重要です。
譲渡契約書の作成にあたっては、契約条項の確認、秘密保持契約の締結、弁護士や公認会計士などの専門家の活用が不可欠です。事業譲渡後も、事業計画の策定、顧客との関係維持、従業員のモチベーション維持といった継続的な取り組みが成功の鍵となります。
本記事で解説した7つのポイントを参考に、スムーズかつ成功する事業譲渡を実現してください。