M&A仲介の競業避止義務|期間・範囲・違反事例とトラブル回避策を専門家が解説

M&A仲介の競業避止義務|期間・範囲・違反事例とトラブル回避策を専門家が解説

M&A仲介における競業避止義務について、その定義から期間・範囲、違反事例、ペナルティ、そしてトラブル回避策まで、専門家が分かりやすく解説します。この記事を読めば、M&A仲介における競業避止義務の重要性や、違反した場合のリスクを理解し、契約時に注意すべきポイントを把握できます。

スムーズなM&Aプロセスを実現するために必要な知識を網羅的に解説しているので、M&A仲介に関わる方は必見です。競業避止義務に関するトラブルを未然に防ぎ、安全なM&Aを実現するためのノウハウを習得しましょう。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。




1. M&A仲介における競業避止義務とは

M&A仲介において、競業避止義務とは、M&A仲介会社で働いていた従業員が、退職後一定期間、元の会社と競合する事業を営んだり、競合他社に就職したりすることを制限する契約上の義務です。これは、M&A仲介業務で得た顧客情報やノウハウ、取引先との関係などの機密情報を保護し、M&A仲介会社の競争力を維持するために重要な役割を果たします。

1.1 競業避止義務の定義

競業避止義務は、労働契約や秘密保持契約などに付随する形で定められることが一般的です。民法第178条に基づく「営業譲渡における競業避止義務」とは異なり、M&A仲介における競業避止義務は、雇用契約における一種の合意として位置づけられます。

そのため、公序良俗に反しない範囲で、契約当事者間で自由に内容を定めることができます。具体的には、競業が禁止される期間、地理的範囲、事業内容などが規定されます。

1.2 なぜM&A仲介で競業避止義務が必要なのか

M&A仲介業務は、高度な専門知識や豊富な経験、そして顧客や取引先との信頼関係が重要な要素となります。従業員が退職後に競合企業に転職したり、自ら競合事業を立ち上げたりした場合、顧客情報やノウハウ、取引先との関係などを利用して、元の会社に大きな損害を与える可能性があります。

競業避止義務は、このようなリスクを軽減し、M&A仲介会社の正当な利益を守るために必要不可欠です。

M&A仲介において、特に重要な情報として下記が挙げられます。

情報の種類 内容 保護の必要性
顧客情報 企業の財務状況、M&Aに関する意向、経営戦略など 顧客のプライバシー保護、M&Aの成否に直結する重要な情報
ノウハウ M&Aのスキーム構築、デューデリジェンス、バリュエーション、交渉戦略など M&A仲介会社の競争優位性を維持するために不可欠
取引先との関係 投資銀行、弁護士、会計士、税理士などとのネットワーク M&Aを円滑に進めるための重要なリソース

これらの情報を保護するために、競業避止義務は重要な役割を果たします。競業避止義務を適切に設定することで、M&A仲介会社は、健全な競争環境を維持し、持続的な成長を図ることができます。

2. 競業避止義務の期間
競業避止義務の期間と考慮要素 0 1年 2年 3年以上 一般的な競業避止義務の期間(~2年) 長期の場合の問題点 職業選択の自由の制限・無効リスク 期間設定の考慮要素 M&Aの規模 対象事業の 特性 従業員の 職務内容 地域性 大型M&A =長期傾向 技術革新速い =短期傾向 経営幹部等 =長期傾向 地域限定的 =短期傾向 ※売主の利益保護と従業員の職業選択の自由のバランスが重要

M&A仲介における競業避止義務の期間は、契約によって定められます。期間の設定は、M&A取引の規模や性質、対象事業の特性、従業員の職務内容など、様々な要素を考慮して決定されます。適切な期間設定は、売主と買主双方にとって重要なポイントとなります。

2.1 期間設定の基準

競業避止義務の期間設定には、明確な法的基準はありません。一般的には、M&Aによって取得した営業秘密や顧客情報の価値が維持される期間、および従業員が当該情報を利用して競合事業を展開することで売主側に不利益が生じる可能性のある期間を考慮して決定されます。

裁判例においては、2年程度が妥当と判断されるケースが多いですが、事業内容や職務内容によっては、より長い期間が認められる場合もあります。

期間設定の際に考慮すべき要素は以下の通りです。

考慮要素 詳細
M&Aの規模 大型M&Aの場合、営業秘密や顧客情報の価値が高いため、長期の競業避止義務が設定される傾向があります。
対象事業の特性 技術革新の速い業界では、情報の陳腐化が早いため、短期の競業避止義務が設定される傾向があります。
従業員の職務内容 経営幹部など、高度な営業秘密や顧客情報にアクセスできる従業員には、長期の競業避止義務が設定される傾向があります。
地域性 事業展開の地域が限定的な場合は、全国展開の場合に比べて短い期間が設定されることもあります。
2.2 期間が長期すぎる場合の問題点

競業避止義務の期間が長期すぎる場合、従業員の職業選択の自由を過度に制限する可能性があります。そのため、裁判例では、期間が長期すぎる場合、公序良俗に反し無効となる可能性が示されています。

また、期間が長期であるほど、従業員に対する適切な対価の支払いが求められる傾向があります。対価が不十分な場合も、競業避止義務が無効となる可能性があります。

期間設定においては、売主の利益保護と従業員の職業選択の自由のバランスを考慮することが重要です。専門家である弁護士等のアドバイスを受けながら、適切な期間を設定することが、後のトラブル回避につながります。

3. 競業避止義務の範囲

競業避止義務の範囲は、M&A仲介における重要なポイントです。範囲があまりにも広すぎると、被義務者の生活に大きな支障をきたす可能性があり、逆に狭すぎると、M&A仲介会社が適切に保護されない可能性があります。そのため、期間と同様に、範囲についても合理的かつ明確に定める必要があります。競業避止義務の範囲は、主に地理的な範囲と事業内容の範囲の2つの観点から検討されます。

3.1 地理的な範囲

地理的な範囲は、競業避止義務が及ぶ地域を指します。M&A仲介会社が実際に事業を展開している地域や、将来的に展開を予定している地域を考慮して決定されます。例えば、全国展開しているM&A仲介会社であれば、地理的な範囲も全国となる可能性が高いでしょう。

一方、特定の地域に特化して事業を展開しているM&A仲介会社であれば、地理的な範囲もその地域に限定される可能性があります。 地理的な範囲を定める際には、対象となる市場の規模や特性、競合他社の状況などを考慮する必要があります。

例えば、東京に本社を置くM&A仲介会社の場合、競業避止義務の地理的範囲を「東京都」とする場合もあれば、「関東地方」とする場合、あるいは「全国」とする場合もあります。範囲が広ければ広いほど、被義務者の活動は制限されます。

3.2 事業内容の範囲

事業内容の範囲は、競業避止義務が及ぶ事業活動を指します。M&A仲介会社が取り扱っている事業内容や、将来的に取り扱う予定の事業内容を考慮して決定されます。例えば、中小企業のM&A仲介に特化している会社であれば、事業内容の範囲も中小企業のM&A仲介に限定される可能性があります。一方、様々な業種のM&A仲介を取り扱っている会社であれば、事業内容の範囲も広範にわたる可能性があります。

事業内容の範囲を定める際には、M&A仲介会社の専門性やノウハウ、顧客基盤などを考慮する必要があります。例えば、あるM&A仲介会社がIT企業のM&A仲介に特化している場合、競業避止義務の事業内容の範囲は「IT企業のM&A仲介」に限定される可能性が高いでしょう。

しかし、その会社が幅広い業種のM&A仲介を取り扱っている場合、事業内容の範囲はより広範になり、「M&A仲介全般」となる可能性もあります。

下記の表に、地理的範囲と事業内容の範囲の例をまとめました。

地理的範囲 事業内容の範囲 説明
東京都 中小企業のM&A仲介 東京都内における中小企業のM&A仲介を制限
関東地方 IT企業のM&A仲介 関東地方におけるIT企業のM&A仲介を制限
全国 M&A仲介全般 全国におけるあらゆるM&A仲介を制限
東京都、神奈川県、千葉県 製造業のM&A仲介、M&Aに関するコンサルティング 指定された地域における特定の業種と関連コンサルティングを制限

これらの範囲は、契約当事者間で協議の上、決定されます。 裁判になった場合、裁判所は、これらの範囲が合理的であるかどうかを判断します。公序良俗に反するほど広範な範囲は、無効と判断される可能性があります。そのため、M&A仲介会社と従業員は、競業避止義務の範囲について十分に協議し、合意を形成することが重要です。

4. 競業避止義務違反の事例

M&A仲介における競業避止義務違反の事例を、具体的な状況を想定しながら解説します。違反となるかはケースバイケースですが、以下の事例は違反となる可能性が高いものとして理解しておきましょう。

4.1 違反事例1 同業他社への転職

M&A仲介会社Aで部長を務めていたBさんは、競業避止義務を2年間負っていました。退職後、Bさんは同業他社であるM&A仲介会社Cに転職しました。これは、BさんがAで培った顧客情報やノウハウを利用してCで競争する可能性が高いため、競業避止義務違反となる可能性が高いです。

たとえBさんがCで異なる業務内容を担当する場合でも、Aで得た機密情報や人脈を活用できる立場にあるため、違反と判断される可能性は否定できません。

4.2 違反事例2 独立開業による競合

M&A仲介会社Dで勤務していたEさんは、競業避止義務期間中に独立し、自らM&A仲介会社を設立しました。EさんがDで担当していた顧客に営業活動を行った場合、明確な競業避止義務違反となります。

たとえ顧客からEさんに連絡してきた場合でも、競業避止義務期間中は取引を控えるべきです。Dで培った専門知識や取引先情報を利用して競合することは、競業避止義務の趣旨に反します。

4.3 違反事例3 情報漏洩による競合支援

M&A仲介会社Fを退職したGさんは、競合他社であるM&A仲介会社HにFの顧客情報やM&A案件の進行状況などの機密情報を漏洩しました。Gさん自身はHに転職していなくても、情報漏洩によってHがFと競合する行為を支援したことになるため、競業避止義務違反となる可能性があります。

また、Gさんが金銭的な見返りを得ていた場合は、より重大な違反とみなされるでしょう。

以下に、競業避止義務違反の事例を類型化してまとめました。

類型 内容 違反となる可能性
同業他社への転職 競業避止義務期間中に、同業種の企業に転職し、同様の業務に従事する。
独立開業 競業避止義務期間中に、同業種の企業を設立し、競合する事業を行う。
情報漏洩 競業避止義務期間中に、前職の企業情報や顧客情報を競合他社に漏洩する。
顧客勧誘 競業避止義務期間中に、前職の顧客に接触し、自社への乗り換えを勧誘する。
営業秘密の利用 競業避止義務期間中に、前職で得た営業秘密を利用して競合他社で業務を行う。

上記以外にも、競業避止義務違反となるケースは様々です。違反かどうかは、契約内容や具体的な状況によって判断されます。疑問が生じた場合は、専門家に相談することをお勧めします。

5. 競業避止義務違反に対するペナルティ

M&A仲介において、競業避止義務に違反した場合、様々なペナルティが課せられる可能性があります。主なペナルティとしては、違約金、差止請求などが挙げられます。違反の程度や契約内容によって、ペナルティの内容や金額は大きく変動します。そのため、契約締結前に競業避止義務条項の内容をしっかりと理解しておくことが重要です。

5.1 違約金

競業避止義務違反に対する最も一般的なペナルティは違約金です。契約書に違約金の金額や算定方法が明記されている場合、違反者はその金額を支払う義務が生じます。違約金の金額は、損害の推定額として設定されることが一般的です。

金額は、M&A仲介の規模や内容、違反によって生じた損害の程度などを考慮して決定されます。高額な違約金が設定されている場合もあるため、契約内容を慎重に確認する必要があります。

5.2 差止請求

競業避止義務違反に対して、違約金に加えて、または違約金に代えて、差止請求が行われる場合があります。差止請求とは、裁判所に申し立てを行い、違反行為の停止を求めることです。例えば、競合他社に転職した場合、その会社での業務の停止を求めることができます。

また、独立開業して競合事業を始めた場合、その事業の停止を求めることができます。差止請求が認められるためには、競業避止義務違反によって、M&A仲介会社に重大な損害が生じる可能性があることを立証する必要があります。

ペナルティの種類 内容 具体例
違約金 契約違反に対する金銭的なペナルティ 違反内容に応じて数百万円から数千万円
差止請求 裁判所を通じて違反行為の停止を求める 競合他社への転職の禁止、競合事業の停止
損害賠償請求 実際に発生した損害の賠償を求める 逸失利益、顧客流出による損害

上記以外にも、損害賠償請求が行われるケースもあります。違約金と損害賠償請求は併存することが認められていますが、損害賠償請求を行う場合は、実際に発生した損害を具体的に立証する必要があります。

例えば、M&A仲介会社が顧客を失った場合、その顧客から得られるはずだった利益(逸失利益)を損害として請求することが考えられます。また、情報漏洩によって損害が生じた場合、その損害額を請求することも可能です。

競業避止義務違反は、M&A仲介会社に深刻な損害を与える可能性があります。ペナルティを避けるためには、契約内容を十分に理解し、競業避止義務の範囲内で行動することが重要です。疑問点がある場合は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

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6. まとめ

M&A仲介における競業避止義務は、売却企業の利益を守るために重要な役割を果たします。定義、必要性、期間、範囲、違反事例、ペナルティについて解説しました。競業避止義務の期間と範囲は、M&Aの成否に大きく関わるため、事前に適切な設定が必要です。

期間が長期すぎる場合は、従業員の権利を不当に制限する可能性があり、範囲が広すぎると、従業員の再就職の機会を狭める可能性があります。違反した場合には、違約金や差止請求といったペナルティが科される可能性があります。

M&A仲介に関わる際は、競業避止義務について十分に理解し、トラブルを回避するために専門家への相談も検討しましょう。

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