EC事業・D2C事業の譲渡価格相場と企業価値算定方法|M&A成功の秘訣

EC事業・D2C事業の譲渡価格相場と企業価値算定方法|M&A成功の秘訣

EC事業・D2C事業の譲渡を検討している方にとって、適切な価格で売却を実現することは非常に重要です。本記事では、EC・D2C事業の譲渡価格相場、企業価値算定方法、M&A成功のための準備と戦略、法的注意点までを網羅的に解説します。

年商規模別の譲渡事例やDCF法、マルチプル法などの算定方法を理解することで、事業の適正価格を把握できます。さらに、M&Aアドバイザーの選び方やデューデリジェンスの重要性、個人情報保護法への対応など、売却プロセスをスムーズに進めるための実践的な知識も習得可能です。

本記事を通して、EC・D2C事業譲渡を成功に導くための具体的なステップを理解し、事業価値最大化を実現しましょう。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。




1. EC事業・D2C事業とは

EC事業とD2C事業は、どちらもインターネットを活用したビジネスモデルですが、販売チャネルや顧客との関係性などに違いがあります。以下でそれぞれの特徴や違いを詳しく解説します。

1.1 EC事業の概要

EC事業とは、Electronic Commerceの略で、インターネット上で商品やサービスを販売するビジネスモデルです。Amazonや楽天市場などのECモールに出店する形態や、自社ECサイトを運営する形態など、様々な方法があります。

近年では、実店舗を持たずにECサイトのみでビジネスを展開する企業も増えており、消費者の購買行動の変化に伴い、EC市場は拡大を続けています。

EC事業の主なメリットとしては、実店舗を持たずに全国の顧客にアプローチできること、24時間365日販売できること、顧客データを取得・分析することでマーケティング戦略に活かせることなどが挙げられます。

1.2 D2C事業の概要

D2C事業とは、Direct to Consumerの略で、製造業者が自社で企画・製造した商品を、中間業者を介さずに直接消費者に販売するビジネスモデルです。従来は卸売業者や小売業者を通して商品を販売するのが一般的でしたが、インターネットの普及により、消費者に直接販売することが容易になりました。そのため、近年ではD2C事業を展開する企業が増加しています。

D2C事業の主なメリットとしては、顧客との直接的な関係構築によるブランドロイヤルティの向上、中間マージンの削減による価格競争力の強化、顧客データの取得・分析による商品開発やマーケティングへの活用などが挙げられます。

1.3 EC事業とD2C事業の違い

EC事業とD2C事業はどちらもインターネットを活用した販売モデルですが、以下のような違いがあります。

項目 EC事業 D2C事業
販売チャネル ECモール、自社ECサイトなど 自社ECサイト、SNS、実店舗(一部)など
顧客との関係性 プラットフォームを介した間接的な関係 直接的な関係構築
商品 様々なメーカーの商品を取り扱う 自社で企画・製造した商品
ブランド プラットフォームのブランド力に依存 自社ブランドの構築
価格設定 競合他社との価格競争が激しい 中間マージンがないため、価格競争力が高い

EC事業は、様々なメーカーの商品を取り扱うため、幅広い商品ラインナップを提供できますが、価格競争が激しく、ブランドの差別化が難しいという課題があります。一方、D2C事業は、自社で企画・製造した商品を販売するため、ブランドイメージの構築や顧客との関係性強化に注力できますが、販売チャネルの開拓や認知度向上に課題があります。

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2. EC事業・D2C事業の譲渡価格相場
EC事業・D2C事業の譲渡価格相場 年商規模別の譲渡価格相場 年商1億円未満 譲渡価格 数百万円~ 数千万円 EBITDA倍率: 2〜5倍 年商1億円~10億円 譲渡価格 数千万円~ 数億円 EBITDA倍率: 3〜7倍 年商10億円以上 譲渡価格 数億円~ 数十億円以上 EBITDA倍率: 5〜10倍以上 譲渡価格に影響を与える要因 収益性 成長性 ブランド力 顧客基盤 競争優位性 市場環境 財務状況 人材 ※あくまで目安であり、個々の事業特性により大きく異なる場合があります

EC事業・D2C事業の譲渡価格は、事業規模、収益性、成長性、ブランド力、顧客基盤など様々な要因によって変動します。そのため、一概に「この規模ならこの価格」と断定することはできません。しかし、過去のM&A事例や市場動向を分析することで、大まかな相場観を把握することは可能です。ここでは、譲渡価格の相場観や規模別の事例、価格に影響を与える要因について解説します。

2.1 譲渡価格の相場観

EC・D2C事業の譲渡価格の相場は、一般的にEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の3倍~7倍程度と言われています。EBITDAは、事業の収益力を示す指標であり、譲渡価格算定の重要な要素となります。

ただし、成長性の高い事業や独自のブランド力を持つ事業などは、EBITDA倍率が10倍を超えるケースも珍しくありません。逆に、収益性が低い事業や将来性に課題のある事業は、EBITDA倍率が3倍を下回ることもあります。

2.2 規模別EC・D2C事業の譲渡価格事例

EC・D2C事業の規模別に、譲渡価格の事例を見てみましょう。あくまで参考値であり、実際の価格は個々の事業によって大きく異なる可能性があることにご注意ください。

2.2.1 年商1億円未満の事例

年商1億円未満のEC・D2C事業の譲渡価格は、数百万円から数千万円程度が相場となります。この規模の事業は、まだ成長段階にあり、収益性も低い場合が多いため、譲渡価格は比較的低くなります。ただし、独自の商品やサービス、将来性のあるビジネスモデルを持っている場合は、高値で譲渡される可能性もあります。

2.2.2 年商1億円~10億円の事例

年商1億円~10億円のEC・D2C事業の譲渡価格は、数千万円から数億円程度が相場となります。この規模の事業は、一定の収益基盤を築いており、成長性も期待できるため、譲渡価格は年商1億円未満の事業に比べて高くなります。また、ブランド力や顧客基盤の強固さも、譲渡価格に大きく影響します。

2.2.3 年商10億円以上の事例

年商10億円以上のEC・D2C事業の譲渡価格は、数億円から数十億円、あるいはそれ以上となる場合もあります。この規模の事業は、安定した収益基盤と高い成長性を持ち、市場でのプレゼンスも確立しているため、高額で譲渡される傾向があります。M&A市場においても、大型案件として注目を集めることが多いです。

2.3 譲渡価格に影響を与える要因

EC・D2C事業の譲渡価格に影響を与える主な要因は以下の通りです。

要因 説明
収益性 EBITDA、営業利益率、純利益率など、事業の収益性を示す指標は、譲渡価格に大きな影響を与えます。
成長性 将来的な売上成長率や市場シェア拡大の可能性は、譲渡価格を押し上げる要因となります。
ブランド力 確立されたブランドイメージや高い顧客ロイヤルティは、事業の価値を高め、譲渡価格にプラスの影響を与えます。
顧客基盤 顧客数、顧客単価、リピート率など、顧客基盤の質と量は、譲渡価格を左右する重要な要素です。
競争優位性 独自の技術、特許、ノウハウ、強力なサプライチェーンなどは、競争優位性を高め、譲渡価格に反映されます。
市場環境 市場の成長性や競争状況、法規制の変化などは、事業の将来性やリスクに影響を与え、譲渡価格に反映されます。
財務状況 健全な財務状況は、事業の安定性を示し、譲渡価格を高める要因となります。負債が多い場合は、譲渡価格が低くなる可能性があります。
人材 優秀な経営陣や従業員の確保は、事業の継続的な成長に不可欠であり、譲渡価格にも影響を与えます。
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3. EC事業・D2C事業の企業価値算定方法

EC事業・D2C事業のM&Aにおいて、適切な譲渡価格を決定するために欠かせないのが企業価値算定です。この章では、企業価値算定の基礎知識から、主要な算定方法、そしてEC・D2C事業特有の評価ポイントまで詳しく解説します。

3.1 企業価値算定の基礎知識

企業価値算定とは、企業の経済的な価値を客観的に評価することです。M&Aにおける譲渡価格の決定だけでなく、事業承継、資金調達、投資判断など様々な場面で活用されます。企業価値は、将来の収益力や資産価値などを基に算出されますが、その算定には絶対的な正解はなく、複数の方法を組み合わせて総合的に判断することが重要です。

3.2 主な企業価値算定方法

企業価値算定には様々な方法がありますが、ここでは代表的な3つの方法を紹介します。

3.2.1 DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)

DCF法は、将来予測されるキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計することで企業価値を算出する方法です。将来の収益力を重視するため、成長性の高いEC・D2C事業の評価に適しています。ただし、将来キャッシュフローの予測精度が結果に大きく影響するため、綿密な市場調査と分析が必要です。割引率の設定も重要で、一般的には加重平均資本コスト(WACC)が用いられます。

3.2.2 マルチプル法(類似会社比較法)

マルチプル法は、類似上場企業の財務指標や市場価値を参考に、対象企業の価値を算定する方法です。類似企業の株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)、EBITDA倍率などのマルチプルを対象企業の財務データに適用することで、簡易的に企業価値を算出できます。

EC・D2C事業の場合、適切な類似企業を見つけることが難しい場合があり、その選定には注意が必要です。また、上場企業と非上場企業の間には、流動性プレミアムなどの違いがあるため、その調整も必要となります。

3.2.3 純資産法

純資産法は、企業の貸借対照表に基づき、資産から負債を差し引いた純資産額をもって企業価値とする方法です。財務データから客観的に算出できるというメリットがありますが、将来の収益力は考慮されないため、成長性の高いEC・D2C事業の評価には適さない場合があります。主に清算価値の算定などに用いられます。

3.3 EC・D2C事業特有の評価ポイント

EC・D2C事業の企業価値算定においては、一般的な評価項目に加えて、事業特有のポイントを考慮する必要があります。以下に主要な項目をまとめました。

評価項目 解説
顧客基盤 顧客数、リピート率、顧客単価、LTV(顧客生涯価値)など、顧客基盤の質と量は重要な評価ポイントです。
ブランド力 ブランド認知度、ブランドロイヤルティ、SNSフォロワー数などは、D2C事業において特に重要な評価項目となります。
Webサイト/アプリ アクセス数、コンバージョン率、UI/UX、SEO対策などは、EC事業の収益力に直結する重要な要素です。
プラットフォーム依存度 Amazon、楽天市場などの特定プラットフォームへの依存度は、事業リスクとして評価されます。
物流体制 配送スピード、在庫管理、返品対応などは、顧客満足度や運営コストに影響を与えるため、評価対象となります。
デジタルマーケティング力 SEO、リスティング広告、SNSマーケティングなど、デジタルマーケティングのノウハウと実績は重要な評価ポイントです。

これらの要素を総合的に考慮することで、EC・D2C事業の適切な企業価値を算定し、M&Aを成功に導くことができます。

4. M&Aを成功させるための準備と戦略

EC事業・D2C事業のM&Aを成功させるためには、綿密な準備と戦略が不可欠です。譲渡側、買収側双方にとって、M&Aは企業の将来を左右する重要な決断となります。適切な準備と戦略によって、M&Aのリスクを最小化し、成功の可能性を高めることができます。

4.1 適切なアドバイザー選び

M&Aのプロセスは複雑で専門的な知識が求められるため、経験豊富なアドバイザーのサポートが重要です。M&Aアドバイザーには、財務アドバイザー、法務アドバイザー、税務アドバイザーなど様々な専門家がいます。それぞれの専門家に適切なアドバイスを受けることで、M&Aプロセスをスムーズに進めることができます。

アドバイザーを選ぶ際には、M&Aの実績や専門性、費用などを比較検討することが重要です。複数のアドバイザーから提案を受け、自社のニーズに合ったアドバイザーを選ぶようにしましょう。また、アドバイザーとの相性も重要です。信頼できるアドバイザーと密にコミュニケーションを取り、M&Aを進めていくことが成功の鍵となります。

4.2 事業計画の精査

譲渡企業は、事業計画の精査が不可欠です。買収企業は、譲渡企業の将来性を見極めるために、事業計画を詳細に بررسیします。事業計画には、市場分析、競合分析、売上予測、収益予測などが含まれるべきです。

現状分析だけでなく、将来の成長戦略についても明確に示す必要があります。説得力のある事業計画を作成することで、買収企業の信頼を得ることができ、M&Aの成功につながります。

財務諸表の信頼性も重要です。正確な財務情報を提供することで、買収企業のデューデリジェンスをスムーズに進めることができます。過去の売上高や利益だけでなく、キャッシュフローの状況も明確に示すことが重要です。また、今後の事業展開に必要な資金計画も具体的に示す必要があります。

4.3 交渉戦略の立案

M&A交渉では、譲渡価格や契約条件など、様々な事項について交渉を行います。交渉を有利に進めるためには、事前に綿密な交渉戦略を立案することが重要です。自社の強みと弱みを分析し、交渉における優位性を確保するための戦略を立てる必要があります。

また、買収企業のニーズや戦略を理解し、交渉のポイントを絞り込むことも重要です。柔軟な対応力も必要です。交渉は状況に応じて変化するため、状況に合わせて戦略を修正していく必要があります。

交渉におけるポイント 譲渡側の視点 買収側の視点
譲渡価格 事業価値を最大限に評価してもらう 適正価格で買収する
契約条件 自社に有利な条件を交渉する リスクを最小限に抑える条件を交渉する
クロージング スムーズな事業譲渡を実現する 速やかに事業を統合する
5. EC事業・D2C事業譲渡における法的注意点

EC事業・D2C事業の譲渡は、通常のM&Aと同様に、様々な法的注意点が存在します。譲渡契約の締結から事業の引継ぎまで、法的なリスクを最小限に抑え、スムーズな取引を実現するために、以下の点に留意する必要があります。

5.1 契約書の確認

譲渡契約書は、事業譲渡における最も重要な法的文書です。契約内容をしっかりと理解し、自身に不利な条項がないかを確認することが不可欠です。特に以下の項目については、重点的に確認しましょう。

  • 譲渡対象事業の範囲
  • 譲渡価格および支払方法
  • 従業員の処遇
  • 表明保証条項
  • 解除条件
  • 秘密保持条項
  • 競業避止義務
  • 知的財産権の取扱い

契約書の内容に不明点がある場合は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

5.2 個人情報保護法への対応

EC事業・D2C事業では、顧客の個人情報を大量に保有しているケースが一般的です。個人情報保護法に基づき、適切な個人情報の取扱いが求められます。譲渡においては、以下の点に注意が必要です。

  • 譲渡における個人情報の取扱いに関する条項を契約書に明記する
  • 顧客への譲渡に関する通知、同意取得手続きを適切に行う
  • 安全管理措置の引継ぎを確実に行う

個人情報保護委員会が公表しているガイドライン等も参考に、適切な対応を行いましょう。

5.3 競業避止義務

譲渡後、売主が同業種の事業を新たに開始することで、買主の事業に悪影響を与える可能性があります。これを防ぐために、売主に対して一定期間、同業種の事業への従事を禁止する「競業避止義務」を契約で定めることが一般的です。競業避止義務については、以下の点に注意が必要です。

  • 競業避止義務の期間、地域、範囲を明確に定める
  • 競業避止義務違反に対する違約金条項を設ける

競業避止義務は、売主の職業選択の自由を制限するものであるため、公序良俗に反しない範囲で設定する必要があります。過度に広範な制限は、無効と判断される可能性があるため、注意が必要です。

5.4 その他留意事項

上記以外にも、EC事業・D2C事業譲渡においては、以下のような法的な注意点が存在します。

項目 内容
特定商取引法 ECサイトにおける表記、クーリングオフ等に関する規定を遵守する必要があります。
景品表示法 不当な景品類や表示による顧客の誘引を禁止する法律です。
知的財産権 商標権、著作権等の知的財産権の譲渡についても、契約書で明確に定める必要があります。
債権債務の引継ぎ 売掛金、買掛金等の債権債務の引継ぎについても、契約書で明確に定める必要があります。

EC事業・D2C事業の譲渡は、複雑な法的問題を伴う可能性があります。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが重要です。

6. まとめ

EC事業・D2C事業の譲渡価格は、事業規模、収益性、成長性、ブランド力など様々な要因に影響を受けます。本記事では、年商規模別の譲渡事例を紹介することで、大まかな相場観を掴めるようにしました。しかし、実際の譲渡価格は個々の事業によって大きく異なるため、事例はあくまでも参考として捉えるべきです。

企業価値算定には、DCF法、マルチプル法、純資産法など複数の方法があり、それぞれの特徴を理解した上で適切な方法を選択することが重要です。EC・D2C事業特有の評価ポイントとして、顧客基盤やプラットフォーム依存度なども考慮が必要です。

M&Aを成功させるためには、経験豊富なアドバイザーの選定、綿密な事業計画の策定、適切な交渉戦略が不可欠です。また、個人情報保護法への対応や競業避止義務など、法的注意点にも留意しなければなりません。

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