法務デューデリジェンスの外注は賢い選択!M&Aを成功に導くプロの活用術
M&Aの成否を左右する法務デューデリジェンスは、専門家への外注が成功の鍵です。この記事を読めば、なぜ外注がM&Aのリスク回避と価値向上に不可欠な戦略的選択なのかがわかります。
外注の実務プロセス、弁護士など専門家の選び方、費用対効果を最大化する活用術から失敗回避策までを網羅。潜在リスクを正確に把握し、有利な条件交渉を実現するための具体的な方法を解説します。
「M&Aは何から始めればいいかわからない」という経営者からも数多くのご相談をいただいています。M&Aを成功に導くはじめの一歩は無料のオンライン相談から。お気軽にご相談ください。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
1. 法務デューデリジェンスを外注すべき戦略的理由
M&A(企業の合併・買収)の成否を分ける重要なプロセスが、法務デューデリジェンス(法務DD)です。対象企業が抱える法務リスクを事前に洗い出し、買収の意思決定や条件交渉に活かすこの調査は、自社の法務部だけで対応するには限界があります。
ここでは、M&Aを成功に導くために、なぜ法務デューデリジェンスを外部の専門家へ外注すべきなのか、その戦略的な理由を詳しく解説します。
M&Aにおける法務リスクは、日常的な企業法務とは異なり、非常に専門的かつ多岐にわたります。限られた時間の中で、対象企業の過去から現在に至るまでの膨大な情報を精査し、将来起こりうる潜在的リスクまで見抜く必要があります。
このような特殊な状況下でこそ、外部専門家の活用が極めて有効となります。
法務デューデリジェンスの中核をなすのが、対象企業が締結している契約書のレビューです。一見問題ないように見える契約書にも、M&A実行後に買い手企業の経営を揺るがしかねない「隠れた爆弾」が潜んでいるケースは少なくありません。特に注意すべきは、貸借対照表には現れない「簿外債務」や「偶発債務」です。
例えば、以下のようなリスクが契約書レビューによって発見されることがあります。
- チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項:経営権の移動により、契約が自動的に解除されたり、相手方から取引条件の変更を要求されたりするリスク。
- 不利な独占契約・長期契約:事業の柔軟性を著しく損なう可能性のある契約。
- 未解決の紛争・訴訟リスク:損害賠償請求につながる可能性のあるクレームや係争案件。
- 不適切な保証・誓約:将来的に多額の債務負担につながる可能性のある保証契約。
これらのリスクを見逃せば、買収後に想定外の損失を被ることになります。M&A案件の経験が豊富な弁護士は、どの条項にどのようなリスクが潜んでいるかを迅速かつ的確に判断するノウハウを持っています。自社対応と専門家への外注では、調査の質とスピードに大きな差が生まれます。
評価項目 | 自社法務部による対応 | 外部専門家(弁護士)への外注 |
---|---|---|
調査の網羅性 | 日常業務の範囲内の契約が中心となり、特殊な契約や過去の経緯が複雑な契約は見落とす可能性がある。 | M&A特有の重要論点を熟知しており、網羅的かつ体系的なレビューが可能。潜在リスクの洗い出しに優れる。 |
リスク評価の精度 | 自社の事業基準での判断に偏りがち。M&A市場におけるリスクレベルの判断が難しい場合がある。 | 数多くの事例に基づき、リスクの重要度(金額的影響、事業継続への影響)を客観的に評価できる。 |
スピード | 通常業務と並行して行うため、調査に時間がかかり、M&Aのタイトなスケジュールに対応できない可能性がある。 | 専門チームを組成し、集中的に調査を実施。短期間で質の高い報告(DDレポート)が期待できる。 |
対象企業の事業継続に不可欠な許認可が、適切に取得・更新されているかの確認も極めて重要です。許認可に不備があれば、買収後に事業停止命令などの行政処分を受け、事業計画が根底から覆る可能性があります。建設業、医薬品製造業、人材派遣業など、事業運営に特定の許認可を要する業界では、特に慎重な調査が求められます。
また、近年のコンプライアンス意識の高まりを受け、個人情報保護法、下請法、独占禁止法、労働関連法規などの遵守状況も厳しくチェックされます。
法令違反が発覚した場合、課徴金やブランドイメージの毀損といった深刻なダメージにつながります。外部の専門家は、各業法や最新の法規制に精通しており、自社だけでは気づきにくいコンプライアンス上の欠陥を的確に指摘することができます。
法務デューデリジェンスを外注する最大のメリットは、その圧倒的な専門性と調査精度にあります。M&Aという非日常的な取引において、専門家の知見を活用することは、リスクを最小化し、投資対効果を最大化するための賢明な判断と言えます。
1.2.1 判例・法改正対応力の迅速性法律や条例は常に改正され、新たな判例が日々生まれています。これらの最新動向は、リスク評価の基準そのものを変えることがあります。例えば、働き方改革関連法や改正個人情報保護法など、近年の重要な法改正が対象企業の労務管理やデータ管理体制に与える影響は計り知れません。
M&Aを専門とする法律事務所は、常に最新の法改正や判例動向を収集・分析し、実務に反映させる体制を構築しています。この情報の鮮度と専門的な解釈能力は、M&Aの意思決定において極めて重要です。
自社の法務部が断片的な情報をもとに判断するのに比べ、専門家は体系的な知識に基づき、より正確で将来を見据えたリスク評価を提供します。
法務デューデリジェンスの結果は、単なるリスクの把握に留まりません。それは、買収価格や契約条件を交渉する上での強力な武器となります。外部の専門家が作成した客観的で詳細なデューデリジェンスレポートは、その信頼性の高さから、売り手側も無視することはできません。
例えば、調査によって重大な契約違反のリスクが発見された場合、それを根拠に以下のような交渉が可能です。
- 買収価格の減額交渉:発見されたリスクの大きさに見合った価格の引き下げを要求する。
- 表明保証条項の強化:売り手に対し、特定の法務リスクが存在しないことを契約書上で保証させ、違反があった場合の補償を約束させる。
- クロージングの前提条件設定:契約締結からM&A実行日(クロージング日)までに、発見された法務上の問題を是正することを条件とする。
このような交渉を有利に進めるためには、独立した第三者による客観的な評価が不可欠です。また、専門家による評価は、自社の取締役会や株主に対する説明責任を果たす上でも重要な役割を担います。法務デューデリジェンスへの投資は、交渉を有利に進め、最終的な買収価格を適正化するための戦略的コストと捉えるべきです。
【関連】M&Aデューデリジェンスの流れをステップごとに完全理解2. 法務デューデリジェンス外注の実務プロセス
法務デューデリジェンス(法務DD)を外部の専門家に依頼すると決めた後、具体的にどのようなプロセスで調査が進められるのでしょうか。M&Aの成否を左右するこのフェーズでは、買い手企業と外注専門家が密に連携し、計画的かつ効率的に実務を進めることが不可欠です。
ここでは、調査範囲の設定から専門家との連携体制構築まで、法務DDを成功に導くための実務プロセスを詳細に解説します。
法務デューデリジェンスの第一歩は、調査の対象となる「範囲(スコープ)」と「優先順位」を明確に設定することです。対象会社の事業規模や業種、M&Aの目的によって、リスクが潜む箇所は大きく異なります。
限られた時間と予算の中で最大限の効果を得るためには、網羅的な調査を目指しつつも、特に重要性の高い項目に焦点を当てることが賢明なアプローチです。このスコープ設定は、外注先の弁護士や専門家と協議の上、慎重に決定する必要があります。
一般的には、M&Aの取引価額や事業計画に重大な影響を及ぼす可能性のあるリスクを優先的に調査します。これを「マテリアリティ(重要性)の基準」と呼び、例えば「契約金額が1,000万円以上の契約書」や「現在係属中の訴訟」など、具体的な基準を設けて調査対象を絞り込みます。
2.1.1 株主構成・議事録の法的整合性確認会社の根幹である組織・株式に関する調査は、法務DDにおいて最も基本的ながら極めて重要な項目です。ここでの不備は、M&A取引そのものの有効性や、買収後の経営権の安定性を揺るがしかねません。
外注専門家は、会社の設立から現在に至るまでの沿革を丹念に追い、法的な瑕疵がないかを徹底的に検証します。
主な調査項目は以下の通りです。
調査カテゴリ | 主な調査項目 | 確認するリスク |
---|---|---|
株式・株主 | 株主名簿の正確性、株式の譲渡履歴、株券発行の有無、株主間契約の存在、ストックオプション等の潜在株式 | 名義株主の存在、想定外の株主からの権利主張、買収後の議決権比率の変動リスク |
機関設計 | 定款の規定、登記事項の正確性、取締役会・監査役等の設置状況 | 会社法に準拠しない機関設計、定款と登記の不一致による手続きの瑕疵リスク |
議事録 | 株主総会・取締役会の招集手続きの適法性、議事録の作成・保管状況、決議要件の充足 | 重要な意思決定(増資、役員選任、事業譲渡など)の無効・取消リスク |
特に非公開会社や中小企業では、これらの手続きが形式的に行われているケースも散見されます。議事録が存在しない、あるいは記載内容が不十分といった問題が発見された場合、M&Aのクロージング前に是正を求める必要があります。
2.1.2 知的財産権・ブランド権利の保全状況調査製造業、IT、コンテンツ事業など、無形資産が企業価値の源泉となっている企業にとって、知的財産権(知財)の調査は最重要課題の一つです。
対象会社が保有する特許権や商標権、著作権などが法的に有効に保護されているか、また、第三者の権利を侵害していないかを確認します。知財に関するリスクは、事業の継続性や将来の収益性に直接的な影響を与えます。
専門家は、権利の有効性だけでなく、その管理体制やライセンス契約の内容まで踏み込んで調査します。
調査カテゴリ | 主な調査項目 | 確認するリスク |
---|---|---|
保有知財 | 特許権、商標権、意匠権、著作権等の登録・管理状況、権利の有効期間、職務発明規程の整備状況 | 権利の失効、従業員からの権利主張、ノウハウの流出リスク |
ライセンス契約 | ライセンスイン(導入)・ライセンスアウト(許諾)契約の内容、ロイヤリティ、契約期間、チェンジオブコントロール(COC)条項の有無 | M&Aによる契約解除、不利な条件での契約更新、ロイヤリティ支払義務の発生リスク |
権利侵害 | 第三者の知的財産権を侵害している可能性の有無、他社から警告書等を受領した履歴、係争中の知財訴訟 | 損害賠償請求、製品の製造・販売差止、ブランドイメージの毀損リスク |
情報管理 | 営業秘密、顧客情報、技術ノウハウ等の管理体制、秘密保持契約(NDA)の締結状況 | 重要な経営資源の流出、不正競争防止法違反のリスク |
特にソフトウェア開発会社などでは、オープンソースソフトウェア(OSS)の利用規約(ライセンス)違反が大きなリスクとなる場合があり、専門的な知見に基づいた調査が不可欠です。
2.2 外注専門家との連携体制構築法務デューデリジェンスを成功させるためには、外注専門家を単なる調査委託先として扱うのではなく、M&Aプロジェクトを共に推進するパートナーとして位置づけ、強固な連携体制を構築することが重要です。
買い手企業の担当者、FA(フィナンシャル・アドバイザー)、そして外注先の弁護士が、それぞれの役割を理解し、円滑なコミュニケーションを図るための仕組み作りが求められます。
プロジェクト開始時のキックオフミーティングで、関係者全員が顔を合わせ、目的、スケジュール、各担当者の役割分担、報告・連絡のルールなどを明確に共有することが、後のプロセスをスムーズに進めるための鍵となります。
2.2.1 データルーム活用による情報共有効率化現代のM&Aプロセスでは、対象会社に関する機密情報を安全かつ効率的に共有するため、「バーチャルデータルーム(VDR)」と呼ばれるオンラインプラットフォームの活用が一般的です。
売り手側は、法務DDに必要な契約書、議事録、許認可関連書類などの資料をVDRにアップロードし、買い手側と外注専門家は、与えられた権限の範囲でいつでもどこでも資料を閲覧できます。
データルームの活用には、以下のようなメリットがあります。
- セキュリティの確保:アクセスログの監視や印刷・ダウンロード制限など、高度なセキュリティ機能により情報漏洩リスクを低減します。
- 情報の一元管理:全ての資料が体系的に整理され、関係者全員が常に最新の情報にアクセスできるため、情報の錯綜を防ぎます。
- プロセスの効率化:物理的な移動や書類のコピーが不要となり、調査時間を大幅に短縮できます。また、後述するQ&AプロセスもVDR上で完結できます。
外注専門家と連携し、売り手側に対して必要な資料リスト(DDリクエストリスト)を提示し、VDR内のフォルダ構成を論理的に整理してもらうことで、調査の網羅性と効率性を高めることができます。
2.2.2 Q&Aプロセスによる論点整理と追加調査Q&Aプロセスは、法務DDの核心ともいえる作業です。データルームに開示された資料を外注専門家が精査する中で生じた疑問点や不明点、さらなる確認が必要な事項について、売り手側に書面で質問し、回答を得る一連のやり取りを指します。
このプロセスを通じて、資料だけでは見えてこない潜在的なリスクを炙り出し、法的な論点を明確にしていきます。
効率的かつ効果的なQ&Aプロセスを進めるためのポイントは以下の通りです。
- 質問の一元化:買い手企業内や複数の専門家から出る質問をFAや担当者が取りまとめ、窓口を一本化して売り手側に提出します。これにより、売り手側の負担を軽減し、迅速な回答を促します。
- 具体的で的確な質問:「問題はありませんか?」といった漠然とした質問ではなく、「〇〇契約の第〇条に関して、△△という解釈で相違ないか」「〇〇の許認可について、更新手続きの進捗がわかる資料を提示されたい」など、具体的かつ明確な質問を心がけます。
- 進捗管理の徹底:VDRのQ&A機能や共有のスプレッドシートを活用し、質問番号、質問内容、回答、ステータス(回答待ち、確認中、完了など)、担当者を一覧で管理し、回答漏れや遅延を防ぎます。
- 深掘りと追加調査:得られた回答が不十分な場合や、新たな疑問が生じた場合は、躊躇なく追加の質問(フォローアップクエスチョン)を行います。必要に応じて、特定の契約書や書類の追加開示を求めたり、キーパーソンへのインタビュー(マネジメント・インタビュー)を要請したりすることも重要です。
このQ&Aの往復を通じて、発見されたリスクの重要度を評価し、最終的な買収価格の交渉や契約書への反映事項を整理していくことになります。
【関連】M&Aデューデリジェンス実践チェックリスト|買い手が見落とせない重要項目3. 外注による法務デューデリジェンスのメリット最大化
法務デューデリジェンス(法務DD)は、対象企業の法務リスクを洗い出すだけで終わりではありません。その調査結果であるデューデリジェンスレポートをいかに活用し、M&Aの諸条件に反映させ、買収後の統合プロセス(PMI)を円滑に進めるかが、ディールの成否を分ける重要な鍵となります。
専門家による客観的かつ詳細なレポートは、M&Aの各フェーズにおいて、自社の利益を最大化するための強力な武器となるのです。ここでは、外注による法務DDの成果を最大限に引き出すための具体的な活用術を解説します。
法務DDによって特定されたリスクは、M&Aの最終契約書(SPA: Stock Purchase Agreementなど)における交渉の起点となります。リスクの大きさや内容に応じて、買収価格の調整、表明保証の追加、クロージングの前提条件設定など、様々な形で契約条件に落とし込むことが可能です。
これにより、潜在的なリスクをヘッジし、より安全な取引を実現します。
表明保証とは、M&A取引において、売り手が買い手に対し、対象会社の財務、法務、税務などに関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する条項です。
法務DDで発見されたリスクをこの表明保証に具体的に盛り込むことで、万が一表明した内容に違反があった場合(表明保証違反)、買い手は売り手に対して損害賠償を請求できます。
外注した専門家は、発見したリスクが法的にどのような意味を持つかを正確に評価し、実効性の高い表明保証条項の文案作成を支援します。これにより、漠然とした不安を具体的な契約上の権利へと転換させることが可能になります。
法務DDで発見されたリスクの例 | 表明保証条項への具体的な反映内容 |
---|---|
過去の従業員との未解決の労働紛争 | 「対象会社は、過去及び現在において、従業員との間で未解決の労働審判、訴訟、その他の紛争は一切存在しない」という条項を追加する。 |
主要な取引先との契約書にチェンジオブコントロール(COC)条項が存在する | 「表明保証基準日において、重要な契約について、本件取引を理由とする契約解除事由は発生しない」という保証を得る。 |
第三者の特許を侵害している可能性のある製品の存在 | 「対象会社の事業運営は、第三者の知的財産権を侵害しておらず、また侵害の警告等も受領していない」旨を保証させる。 |
許認可の一部に更新漏れの疑い | 「対象会社は、事業の遂行に必要な全ての許認可を有効に保有しており、取消事由は存在しない」という包括的な保証を求める。 |
クロージングとは、株式や事業の譲渡と対価の支払いを実行し、取引を完了させる手続きを指します。法務DDで発見されたリスクのうち、クロージングまでに是正・解消が可能な問題については、それをクロージングの前提条件(CP: Conditions Precedent)として設定することが有効です。
売り手がこの条件を満たさない限り、買い手は代金の支払義務を負わず、取引を完了させる必要がありません。これにより、売り手に対して問題解決への強いインセンティブを与え、買い手はクリーンな状態の会社を譲り受けることができます。
例えば、事業に必要な重要許認可の再取得や、重要な契約相手方からのCOC条項に関する同意書の取得などが典型例です。
M&Aの成功は、契約締結後の統合プロセス(PMI)が円滑に進むかどうかに大きく左右されます。法務DDのレポートは、このPMIフェーズ、特に法務機能の統合計画を策定する上で、非常に価値のある基礎資料となります。買収対象企業の法務面における実態を正確に把握しているからこそ、的確で効率的な統合が可能になるのです。
3.2.1 契約書体系統合と管理プロセス構築多くの企業、特に中小企業では、契約書の管理体制が十分に整備されていないケースが散見されます。法務DDを通じて、対象会社がどのような契約を締結しているのか、管理状況はどうなっているのか(台帳の有無、保管場所、更新管理など)が明らかになります。
この情報を基に、PMIフェーズでは以下の施策を実行します。
- 自社の契約管理システムへのデータ移行
- 契約書のレビュー・承認プロセスの統一
- 重要な契約の更新期限や義務を管理するリマインダー機能の設定
- 不要な契約の解約や有利な条件への見直し交渉
これらのプロセスを早期に構築することで、グループ全体の契約管理レベルを向上させ、意図しない契約違反やビジネスチャンスの逸失を防ぎます。
3.2.2 ガバナンス体制・内部統制の統一法務DDでは、株主総会や取締役会の議事録、社内規程、コンプライアンス体制なども調査対象となります。この過程で、ガバナンス上の不備(例:議事録の不存在、決議要件の不遵守)や、内部統制の脆弱性が明らかになることがあります。
PMIフェーズでは、これらの調査結果を踏まえ、対象会社のガバナンス体制を自社の基準に合わせて再構築します。具体的には、役員構成の見直し、取締役会規則や職務権限規程の導入、内部監査部門による監査の実施、コンプライアンス研修の展開などが挙げられます。
法務DDの結果は、どこに、どのような優先順位で手を入れるべきかを判断するためのロードマップとなり、グループ全体としてのガバナンス強化と経営の透明性向上に直結します。
4. 法務デューデリジェンス外注の成功事例と失敗回避策
法務デューデリジェンスの外注は、M&Aの成功確率を飛躍的に高める強力な手段です。しかし、外注先の選定や連携方法を誤ると、期待した成果が得られないばかりか、新たなリスクを生み出す可能性さえあります。
本章では、外注を成功に導くための具体的な事例と、陥りがちな失敗を未然に防ぐための実践的な回避策を詳述します。適切なパートナーを選び、効果的に活用するための知識を身につけましょう。
法務デューデリジェンスの成否は、どの専門家に依頼するかに大きく左右されます。単に有名な法律事務所というだけでなく、自社のM&A案件の特性に合致した知見と実績を持つパートナーを見極めることが不可欠です。選定から契約に至るプロセスで注意すべき点を解説します。
4.1.1 業界特有の法務知識と国際取引対応力M&A対象企業の事業内容によって、調査すべき法務リスクの重点項目は大きく異なります。例えば、IT企業であれば個人情報保護法や下請法、知的財産権の帰属が、製造業であれば環境関連法規や製造物責任法(PL法)、許認可の承継が重要な論点となります。
したがって、外注先を選定する際には、対象企業が属する業界でのM&A実績や、特有の法規制に関する深い知見を有しているかを確認することが第一歩です。
また、近年増加しているクロスボーダーM&Aにおいては、国際取引への対応力が必須となります。相手国の法制度や商習慣に精通していることはもちろん、現地の法律事務所との強固なネットワークを有しているかも重要な選定基準です。
単なる語学力だけでなく、複雑な国際契約の交渉や、海外当局への届出といった実務経験が豊富かどうかも見極めましょう。
法務デューデリジェンスの成果物である報告書(DDレポート)は、M&Aの実行可否や買収価格、契約条件を決定するための極めて重要な判断材料です。そのため、報告書の品質は徹底的に管理されなければなりません。
契約前に、過去の報告書のサンプル(個人情報等をマスクしたもの)を提示してもらい、以下の点を確認することが有効です。
- 発見された法務リスクが、その重要度(高・中・低など)に応じて整理されているか
- リスクに対する具体的な対策案や、契約交渉で反映すべき事項が明記されているか
- 専門用語が多すぎず、法務担当者以外でも理解しやすいサマリーが用意されているか
加えて、M&Aは極めてタイトなスケジュールで進行するため、納期遵守は絶対条件です。契約時には、最終報告書の提出期限だけでなく、中間報告やQ&Aの回答期限など、詳細なマイルストーンを設定し、進捗管理の方法(定例会議の実施など)についても合意しておくことが、プロジェクトを円滑に進める上で不可欠です。
4.2 外注活用の失敗を防ぐチェックリスト専門家に外注したからといって、「丸投げ」にしてしまうのは最も危険な行為です。依頼者側が主体的に関与し、外注先と密に連携することで、初めてデューデリジェンスの精度は最大化されます。ここでは、外注活用の失敗を防ぐための具体的なチェックリストを提示します。
4.2.1 情報開示範囲とタイミングの管理外注先への情報提供は、デューデリジェンスの質とスピードを直接的に左右します。しかし、一度にすべての情報を渡すのではなく、調査の進捗に合わせて段階的に開示範囲を広げていく管理が求められます。
特に、対象企業から開示された機密性の高い情報を取り扱う際には、外注先との秘密保持契約の内容を再確認し、情報漏洩リスクを徹底的に管理する必要があります。外注先からの質問(Q&Aリスト)に対して、迅速かつ正確に回答できる社内体制を構築しておくことも、調査をスムーズに進めるための重要なポイントです。
優れた外注パートナーは、デューデリジェンス報告書の提出で終わりません。発見されたリスクを最終契約書(株式譲渡契約書など)の表明保証条項や補償条項にどのように落とし込むか、クロージングまでに是正すべき事項は何かといった、契約交渉のフェーズまで見据えた具体的な助言を提供してくれます。
さらに、M&A後の統合プロセス(PMI)において、契約管理体制の構築やコンプライアンス規程の統合といった法務面の課題解決を継続的に支援してくれるかどうかも、長期的なパートナーシップを築く上で重要な視点です。
以下のチェックリストを活用し、外注の失敗リスクを最小限に抑えましょう。
フェーズ | チェック項目 | 確認すべき具体的内容 | よくある失敗例 |
---|---|---|---|
選定・契約時 | 実績・専門性の確認 | 自社と同業界・同規模のM&A支援実績があるか。担当弁護士の経歴は適切か。 | 業界知識が乏しく、表面的な調査しかできず重要なリスクを見逃す。 |
選定・契約時 | 費用体系の明確化 | タイムチャージか固定報酬か。上限金額(キャップ)の設定は可能か。想定外の調査が発生した場合の追加費用のルールは明確か。 | 費用が想定を大幅に超え、予算オーバーとなる。 |
実務進行中 | コミュニケーション体制 | 報告・連絡・相談の窓口は一本化されているか。定例会議の頻度や形式は適切か。 | 報告が遅れ、重要な意思決定のタイミングを逃す。 |
実務進行中 | Q&Aプロセスの管理 | 外注先からの質問への回答責任者と期限が明確か。回答内容を社内で一元管理できているか。 | 回答が遅延・錯綜し、調査が停滞する。 |
報告・事後 | 報告書の具体性 | リスクの指摘だけでなく、事業への影響度や具体的な対応策が示されているか。 | 抽象的なリスク指摘のみで、次のアクションに繋がらない。 |
報告・事後 | PMIへの関与 | 契約交渉やPMIフェーズでの法務支援について、契約範囲に含まれているか、または別途依頼可能か。 | DDでリスクが発覚したものの、契約やPMIに活かすためのサポートが得られない。 |
5. まとめ
M&Aを成功に導くため、法務デューデリジェンスの外注は極めて有効な戦略です。弁護士などの専門家は、自社では見落としがちな潜在債務やコンプライアンス違反といった重大なリスクを的確に特定します。
その客観的な調査結果は、価格交渉や契約条件を有利に進める強力な材料となります。適切な外注先と連携し、PMIまで見据えた活用をすることで、M&Aの価値を最大化できるでしょう。