EC事業・D2C事業の売却価格相場とM&A成功の秘訣|高額売却を実現する方法
EC事業・D2C事業の売却を検討している方にとって、売却価格は最大の関心事でしょう。この記事では、EC事業・D2C事業の売却価格相場を規模別に解説し、過去の事例も紹介します。
さらに、高額売却を実現するための準備として、収益性向上、顧客基盤強化、財務状況の健全化といった重要なポイントを具体的に解説します。M&Aプロセスやアドバイザー選定、デューデリジェンス、契約交渉といった売却活動における注意点も網羅することで、売却を成功に導くための実践的な知識を得ることができます。
この記事を読み終える頃には、ご自身の事業価値を理解し、M&A市場で有利な立場に立つための戦略を立てることができるでしょう。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
1. EC事業・D2C事業の売却価格相場
EC事業・D2C事業の売却価格は、事業規模、収益性、成長性、将来性など様々な要因によって変動します。そのため、一概に「いくらで売れる」とは言えません。ここでは、一般的な算定方法や規模別の相場、実際の事例などを紹介することで、売却価格の目安を掴めるように解説します。
【関連】EC事業・D2C事業の会社売却で価値最大を実現!M&Aのプロが徹底解説1.1 EC事業の売却価格相場
EC事業の売却価格は、主にEBITDA倍率を用いて算定されます。EBITDAとは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略で、金利、税金、減価償却費および償却費控除前利益のことです。EBITDAに一定の倍率をかけることで、事業価値を算出します。この倍率は、業界の平均値や事業の成長性などを考慮して決定されます。
1.1.1 売却価格の算定方法EC事業の売却価格算定に用いられる代表的な方法は、以下の通りです。
- EBITDA倍率法:直近のEBITDAに一定の倍率を乗じて算出する方法です。EC業界では、一般的に3~8倍程度の倍率が用いられます。
- DCF法:将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出する方法です。将来の予測に基づくため、不確実性が高い点がデメリットです。
- 類似会社比較法:類似の上場企業の市場価値を参考に算出する方法です。非上場企業の評価に用いられることが多く、市場の動向を反映しやすい点がメリットです。
EC事業の規模別の売却価格相場は、以下の表を参考にしてください。あくまで目安であり、実際の売却価格は事業の内容によって大きく変動する可能性があります。
売上規模 | EBITDA | EBITDA倍率(目安) | 売却価格相場(目安) |
---|---|---|---|
1億円未満 | 500万円 | 3~5倍 | 1,500万円〜2,500万円 |
1億円〜5億円 | 2,000万円 | 4~6倍 | 8,000万円〜1億2,000万円 |
5億円〜10億円 | 5,000万円 | 5~7倍 | 2億5,000万円〜3億5,000万円 |
10億円以上 | 1億円以上 | 6~8倍 | 6億円以上 |
D2C事業の売却価格も、EC事業と同様にEBITDA倍率を用いて算定されることが多いです。ただし、D2C事業はブランド力や顧客ロイヤルティといった無形資産も重要な評価要素となるため、EC事業よりも高倍率で取引される傾向があります。
【関連】EC事業・D2C事業の譲渡価格相場と企業価値算定方法|M&A成功の秘訣1.2.1 売却価格の算定方法
D2C事業の売却価格算定には、EC事業と同様の方法が用いられますが、ブランド力や顧客ロイヤルティといった無形資産の評価が重要になります。
- EBITDA倍率法:EC事業と同様に、直近のEBITDAに一定の倍率を乗じて算出します。D2C事業では、ブランド力や顧客基盤の強さによって、EC事業よりも高い倍率が適用される場合があります。
- DCF法:将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出します。D2C事業の将来性を適切に評価することが重要です。
- 類似会社比較法:類似の上場企業の市場価値を参考に算出します。D2C事業は、類似企業が少ない場合もあるため、比較対象の選定が難しい場合があります。
D2C事業の規模別の売却価格相場は、以下の表を参考にしてください。ただし、ブランド力や顧客ロイヤルティによって大きく変動するため、あくまで目安として捉えてください。
売上規模 | EBITDA | EBITDA倍率(目安) | 売却価格相場(目安) |
---|---|---|---|
1億円未満 | 500万円 | 5~8倍 | 2,500万円〜4,000万円 |
1億円〜5億円 | 2,000万円 | 6~10倍 | 1億2,000万円〜2億円 |
5億円〜10億円 | 5,000万円 | 7~12倍 | 3億5,000万円〜6億円 |
10億円以上 | 1億円以上 | 8~15倍 | 8億円以上 |
具体的な事例として、近年では、急成長中のD2C化粧品ブランドが数十億円規模で大手化粧品メーカーに買収されたケースや、中小規模のECサイトが数億円規模で同業他社に買収されたケースなどがあります。これらの事例は、事業の成長性や収益性、ブランド力などが評価された結果です。ただし、これらの事例はあくまでも一例であり、すべてのEC・D2C事業が同じように高額で売却できるとは限りません。
【関連】EC・D2C事業の事業売却を成功させる方法|M&Aの専門家が教えます!2. EC事業・D2C事業を高額売却するための準備
EC事業・D2C事業をM&Aで高額売却するためには、事前の準備が不可欠です。売却価格を最大化するため、また、M&Aプロセスをスムーズに進めるために、以下の3つのポイントに重点を置いて準備を進めましょう。
【関連】M&A仲介で通信販売事業を成長・発展させるための完全ガイド2.1 事業の収益性を向上させる
収益性は、EC・D2C事業の価値を評価する上で最も重要な指標の一つです。収益性が高いほど、事業の魅力は高まり、売却価格も上昇する傾向があります。売上高の増加とコスト削減の両面から取り組み、収益性の向上を目指しましょう。
2.1.1 売上高の増加売上高増加のためには、効果的なマーケティング戦略の実施が重要です。例えば、SEO対策、リスティング広告、SNSマーケティングなどを活用し、ターゲット顧客へのリーチを最大化します。また、顧客ニーズに合わせた新商品開発や、既存商品の改良も売上増加に貢献します。さらに、Amazonや楽天市場などの主要なECモールへの出店戦略も検討しましょう。
2.1.2 コスト削減不要なコストを削減することも、収益性向上には不可欠です。例えば、物流コストの最適化、広告費用の効率化、人件費の見直しなどを検討します。また、業務プロセスの自動化やITツールの導入による業務効率化も効果的です。
2.2 顧客基盤を強化する安定した顧客基盤は、事業の将来性と持続可能性を示す重要な要素です。顧客ロイヤリティを高め、新規顧客を獲得することで、顧客基盤を強化し、事業価値を高めましょう。
2.2.1 顧客ロイヤリティの向上既存顧客の維持・育成は、新規顧客獲得よりもコスト効率が高く、安定した収益基盤を築く上で重要です。顧客ロイヤリティ向上のためには、CRMシステムを活用した顧客一人ひとりに合わせた丁寧なコミュニケーション、ポイントプログラムや会員限定特典の提供、質の高いカスタマーサポートの提供などが有効です。
2.2.2 新規顧客の獲得新規顧客の獲得は、事業の成長を加速させるために不可欠です。ターゲット顧客層を明確に定義し、適切なマーケティングチャネルを選択することで、効率的な新規顧客獲得を目指します。例えば、インフルエンサーマーケティング、アフィリエイトマーケティング、コンテンツマーケティングなどを活用し、新規顧客へのリーチを拡大します。
2.3 財務状況を健全化する健全な財務状況は、事業の信頼性を高め、M&Aプロセスをスムーズに進めるために重要です。債務の削減、キャッシュフローの改善などに取り組み、財務状況の健全化を図りましょう。
2.3.1 債務の削減過剰な債務は、事業の財務リスクを高めるため、売却価格に悪影響を与える可能性があります。可能な限り債務を削減し、健全な財務体質を構築することが重要です。返済計画の見直しや、不要な資産の売却などを検討しましょう。
2.3.2 キャッシュフローの改善安定したキャッシュフローは、事業の運営を円滑に進める上で不可欠です。売掛金の回収期間短縮、在庫管理の最適化、経費の削減などに取り組み、キャッシュフローの改善を図りましょう。
【関連】EC事業・D2C事業を売る!ベストタイミングを見極める最強戦略3. M&Aプロセスと成功の秘訣
EC事業・D2C事業のM&Aプロセスは、一般的に以下のステップで進みます。それぞれのステップで適切な対応をすることで、M&Aを成功に導くことができます。
3.1 M&Aアドバイザーの選定M&Aアドバイザーは、M&Aのプロセス全体をサポートしてくれる重要な存在です。M&Aアドバイザーには、財務デューデリジェンス、バリュエーション、交渉戦略の立案、契約書の締結など、様々な専門知識と経験が求められます。
事業規模や特性、売却希望価格などを考慮し、適切なM&Aアドバイザーを選定することが、M&A成功の第一歩です。複数のアドバイザーに相談し、比較検討することをおすすめします。
3.2 デューデリジェンスへの対応
デューデリジェンスとは、買収対象企業の事業内容、財務状況、法務状況などを詳細に調査するプロセスです。買収希望企業は、デューデリジェンスを通じて、買収対象企業の価値を正確に評価し、潜在的なリスクを洗い出します。
売却企業側は、デューデリジェンスにスムーズに対応するために、必要な資料を事前に準備し、正確な情報を提供することが重要です。財務諸表、契約書、顧客データ、従業員情報など、広範な資料の提出が求められるため、事前に準備を整えておくことで、プロセスを円滑に進めることができます。また、想定される質問への回答を準備しておくことも有効です。
デューデリジェンスの結果を踏まえ、売却企業と買収企業の間で契約交渉が行われます。売却価格、株式譲渡の方法、従業員の処遇、事業継続性など、様々な項目について交渉が行われます。M&Aアドバイザーのサポートを受けながら、自社の利益を最大限に守る契約内容を目指しましょう。交渉は、双方が納得できる条件を見つけるためのプロセスです。柔軟な姿勢で交渉に臨むことが重要です。
3.4 クロージング契約交渉が成立した後、最終的な契約書が締結され、株式譲渡が行われます。クロージング後には、事業の引継ぎが行われ、M&Aプロセスが完了します。クロージングに至るまでには、様々な手続きや調整が必要となるため、M&Aアドバイザーと連携し、計画的に進めることが重要です。円滑な事業承継のため、従業員への丁寧な説明や、顧客への適切なアナウンスも必要です。
プロセス | 概要 | 成功のポイント |
---|---|---|
M&Aアドバイザーの選定 | M&Aを支援する専門家を選ぶ | 実績、専門性、相性などを考慮 |
デューデリジェンス | 買収対象企業の調査 | 正確な情報開示とスムーズな対応 |
契約交渉 | 売却条件などを交渉 | 柔軟な姿勢とWin-Winの関係構築 |
クロージング | 契約締結と株式譲渡 | 計画的な手続きと円滑な事業承継 |
4. EC事業・D2C事業売却における注意点
EC事業・D2C事業の売却は、事業の成長を加速させる大きなチャンスである一方、綿密な準備と注意深い意思決定が必要です。売却プロセスをスムーズに進め、事業価値を最大化するため、以下の注意点に留意しましょう。
4.1 売却時期の選定売却時期は、事業価値に大きく影響します。市場の動向、競合他社の状況、自社の業績などを考慮し、最適なタイミングを見極めることが重要です。成長期にあるうちに売却することで、高額売却が期待できます。
一方で、業績が低迷している時期の売却は、売却価格が低くなる可能性があります。また、季節要因も考慮する必要があります。例えば、クリスマス商戦で売上がピークを迎える事業であれば、その直前に売却するよりも、商戦後に売却する方が有利な場合があります。
M&Aプロセスでは、財務情報や顧客データなど、事業に関する機密情報を買い手候補に開示する必要があります。情報漏洩のリスクを最小限に抑えるため、秘密保持契約(NDA)の締結は必須です。NDAには、開示情報の範囲、利用目的、情報の取り扱い方法などを明確に記載し、法的拘束力を持たせることが重要です。また、NDAの内容について、弁護士などの専門家に相談することも推奨されます。
4.3 従業員への対応従業員は事業の重要な資産です。売却に関する情報は、適切なタイミングで、正確に伝える必要があります。売却によって従業員の雇用が不安定になる可能性があるため、売却後の雇用に関する計画を明確に示すことが重要です。
また、従業員のモチベーション維持にも配慮し、売却プロセスにおける従業員の協力を得られるよう、丁寧なコミュニケーションを心がけるべきです。売却に関する情報を適切に管理し、風評被害を防ぐことも重要です。
デューデリジェンスは、買い手候補が事業の価値を評価するために実施する調査です。財務状況、法務状況、事業内容など、多岐にわたる情報提供を求められます。スムーズな売却プロセスを実現するためには、事前に必要な情報を整理し、デューデリジェンスに適切に対応することが重要です。正確な情報開示を行い、買い手候補からの信頼を得ることが、売却価格の向上にも繋がります。
4.5 適切なアドバイザーの選定M&Aのプロセスは複雑で専門的な知識が求められます。M&Aアドバイザーは、売却価格の交渉、デューデリジェンスの支援、契約書の締結など、売却プロセス全体をサポートしてくれます。経験豊富なアドバイザーを選定することで、売却を成功に導く可能性が高まります。アドバイザーの選定にあたっては、実績、専門性、費用などを比較検討することが重要です。
4.6 事業計画と将来展望の提示買い手は、事業の将来性を見据えて投資を行います。そのため、事業計画や将来展望を明確に提示することが重要です。市場の成長性、競争優位性、今後の事業展開などを具体的に説明することで、買い手の投資意欲を高めることができます。また、想定されるリスクについても言及することで、買い手からの信頼性を高めることができます。
4.7 譲渡契約の条件交渉譲渡契約書には、売却価格、譲渡対象資産、クロージング日など、売却に関する重要な事項が記載されます。契約内容を十分に理解し、自社にとって有利な条件で交渉することが重要です。契約内容に不明点がある場合は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
注意点 | 詳細 |
---|---|
売却時期 | 市場動向、競合状況、自社業績を考慮 |
秘密保持契約 | NDA締結、情報漏洩防止策 |
従業員対応 | 適切な情報伝達、雇用に関する説明 |
デューデリジェンス | 正確な情報開示、スムーズな対応 |
アドバイザー選定 | 実績、専門性、費用を比較検討 |
事業計画提示 | 将来性、競争優位性、リスクを明確化 |
譲渡契約交渉 | 売却価格、譲渡対象、クロージング日など |
これらの注意点に留意し、適切な準備を行うことで、EC事業・D2C事業の売却を成功させ、事業価値を最大化することが可能になります。専門家のアドバイスも積極的に活用し、慎重に進めることが重要です。
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EC事業・D2C事業の売却価格は、事業規模、収益性、成長性、顧客基盤など様々な要因によって決定されます。一般的に、EBITDA倍率を用いた算定方法が用いられます。高額売却を実現するためには、売上増加やコスト削減による収益性向上、顧客ロイヤリティ向上や新規顧客獲得による顧客基盤強化、債務削減やキャッシュフロー改善による財務状況の健全化が重要です。
また、M&Aアドバイザーの選定、デューデリジェンスへの対応、契約交渉といったM&Aプロセスを適切に進めることも成功の秘訣です。売却時期の選定や秘密保持契約、従業員への対応といった注意点にも留意することで、スムーズな売却を実現できるでしょう。楽天やAmazonといった競合他社の状況も考慮に入れながら、適切な戦略を立てることが重要です。