M&Aの税金対策!節税効果を高める戦略とは?

M&Aの税金対策!節税効果を高める戦略とは?

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公開日:2025年3月13日
最終更新日:2025年6月10日

M&Aにおける税金対策は、成功の鍵を握る最重要項目です。本記事では、M&Aで発生する税金の種類や、株式譲渡と事業譲渡における税務上の違い、組織再編や持株会社化といった形態ごとの節税効果、そしてM&A前後の具体的な節税対策まで、網羅的に解説します。

売却益にかかる譲渡所得税、法人税、住民税、事業税など、多額の税負担を軽減し、手取り額を最大化するための戦略を理解することで、数千万円単位で結果が変わることがあります。過度な節税は税務調査のリスクを高めるため、節税と法令遵守のバランス、専門家との連携の重要性についても言及します。

M&Aを検討している経営者の方、特に中小企業のオーナー経営者の方にとって、必読の内容です。この記事を読み終える頃には、M&Aにおける税務戦略全体像を把握し、自身にとって最適な出口戦略を描くための知識が身についているでしょう。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。




1. なぜM&Aには税金対策が欠かせないのか

M&A(合併・買収)は、企業の成長戦略において非常に重要な手段ですが、同時に多額の税金が発生する可能性があるため、綿密な税金対策が不可欠です。

適切な対策を講じることで、M&Aに伴う税負担を軽減し、取引後の資金繰りを円滑にすることができます。逆に、税金対策を怠ると、想定外の税負担によってM&A後の事業展開に支障をきたす可能性も出てきます。M&Aの成否は、税金対策の巧拙に大きく左右されると言っても過言ではありません。

1.1 M&Aで発生する主な税金とは

M&Aにおいて発生する主な税金は、M&Aの形態によって異なりますが、代表的なものとしては以下が挙げられます。

1.1.1 売却益にかかる譲渡所得税

株式譲渡や事業譲渡によって売却益が生じた場合、譲渡所得税が課税されます。譲渡所得税は、売却益から取得費や譲渡費用を控除した金額に税率を乗じて計算されます。個人が株式を譲渡した場合、税率は20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)です。法人が株式を譲渡した場合、税率は23〜34%(法人税、住民税、事業税の合計)となります。

1.1.2 法人税・住民税・事業税の影響

M&A後の事業再編や組織変更に伴い、法人税、住民税、事業税の負担額が変動する可能性があります。例えば、合併により法人格が消滅する場合、清算所得に対して法人税等が課税されます。また、事業譲渡によって固定資産を売却した場合、売却益に対して法人税等が課税されます。

税金の種類 課税対象 税率(目安) 納税者
譲渡所得税 株式・事業用資産の譲渡益 個人:20.315%
法人:約23%
譲渡した個人または法人
法人税 法人の所得 23〜34% 法人
住民税 法人の所得、個人の所得、資産 法人:約12%
個人:10%
法人、個人
事業税 事業の収入 約5% 法人
1.2 節税対策が結果を左右する理由

M&Aにおいては、税金対策が結果を大きく左右します。適切な節税対策を講じることで、M&A後の資金繰りを改善し、事業成長を加速させることができます。

1.2.1 税負担が利益を大きく圧迫する

M&Aでは、多額の税金が発生する可能性があります。特に、売却益が大きい場合、譲渡所得税の負担が大きくなり、M&A後の利益を圧迫する可能性があります。適切な節税対策を講じることで、税負担を軽減し、利益を確保することが重要です。

1.2.2 節税の有無で手取りが数千万円単位で変わる

M&Aの規模によっては、節税対策の有無によって手取り額が数千万円単位で変わる可能性があります。例えば、株式譲渡の際に適切なスキームを活用することで、譲渡所得税を大幅に軽減できる場合があります。数千万円単位の差は、M&A後の事業展開に大きな影響を与えるため、節税対策は軽視できません。

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2. M&Aの形態ごとの税金の違いを理解する
M&Aの形態と税務の違い 株式譲渡 売却側 譲渡所得税 個人:約20% 法人:20-30% 買収側 のれん償却 による節税 簿外債務リスク メリット: ・キャピタルゲイン課税 ・軽減税率適用可能性 デメリット: ・評価額による税負担増 ・簿外債務のリスク 事業譲渡 売却側 法人税等 約20-30% 欠損金控除可 買収側 資産償却 による節税 DD重要性高 メリット: ・欠損金控除可能 ・資産償却による節税 デメリット: ・資産評価の手間 ・事業全体把握必要 組織再編・持株会社化 グループ内再編 適格合併・分割: 課税繰延べ 非適格合併: 合併差益課税 税務戦略重要 持株会社化 メリット: 配当金課税繰延べ 統括機能強化 設立コスト発生 費用対効果検討 選択のポイント • 事業目的との整合性 • 税務メリットの大きさ • 手続きコストの検討 • 将来の事業戦略 • リスクの評価 vs 税率目安: 個人株式譲渡 約20% | 法人 約20-30% | 事業譲渡 約20-30%

M&Aには、大きく分けて株式譲渡と事業譲渡という2つの形態があり、それぞれで税務上の取扱いが異なります。また、組織再編や持株会社化といった選択肢も存在し、状況に応じて最適な方法を選択することが重要です。それぞれの形態における税金の違いを理解し、M&A戦略に活かしましょう。

2.1 株式譲渡と事業譲渡の比較

株式譲渡と事業譲渡は、M&Aにおける主要な2つの形態です。売却側と買収側の双方にとって、税務上のメリット・デメリットが異なるため、それぞれの特性を理解することが重要です。

2.1.1 売却側にかかる税金の違い
項目 株式譲渡 事業譲渡
課税対象 譲渡益(売却価格 - 取得価格) 譲渡益(売却価格 - 簿価)
税金の種類 譲渡所得税(個人)、法人税(法人) 法人税、住民税、事業税
税率 約20%(個人)、約20-30%(法人) 約20-30%
メリット キャピタルゲイン課税の適用可能性、特定株式譲渡による軽減税率の適用可能性 欠損金の控除が可能
デメリット 株式の評価額によっては税負担が大きくなる可能性 譲渡資産の特定、評価に手間がかかる
2.1.2 買収側の税務メリットと留意点
項目 株式譲渡 事業譲渡
メリット のれん代償却による節税効果(非連結の場合) 取得資産の償却による節税効果
デメリット 簿外債務のリスク 事業全体を把握する必要性
留意点 買収後の組織再編の可能性を考慮 譲渡対象資産の明確化、デューデリジェンスの重要性
2.2 組織再編や持株会社化のケース

M&Aにおいては、組織再編や持株会社化といった手法を活用することで、更なる節税効果が見込める場合があります。これらの手法は、事業の効率化やリスク分散といった経営戦略上のメリットも併せ持つため、M&Aの目的や状況に応じて検討することが重要です。

2.2.1 グループ内再編での税務戦略

グループ内再編では、適格合併や適格分割といった手法を活用することで、税負担を軽減できる場合があります。例えば、非適格合併の場合には、合併差益に対して課税される可能性がありますが、適格合併であれば、課税繰延べが認められます。

2.2.2 組織形態の工夫による節税効果

持株会社を設立することで、グループ全体の統括機能の強化や事業ポートフォリオの最適化といったメリットが得られるだけでなく、配当金や株式譲渡益に対する課税の繰り延べといった節税効果も期待できます。ただし、持株会社設立には一定のコストや手続きが必要となるため、費用対効果を慎重に検討する必要があります。

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3. 節税を意識したM&A戦略とは?

M&Aにおいては、事前の準備と適切な売却タイミングを見極めることで、税負担を軽減し、手取り額を最大化することが可能です。綿密な計画と専門家との連携が成功の鍵となります。

3.1 M&A前に行うべき節税準備

M&Aを検討し始めたら、まずは現状の財務状況を把握し、適切な対策を講じる必要があります。事前に準備することで、売却時の税負担を最小限に抑えることが可能になります。

3.1.1 資産整理・貸借対照表の見直し

不要資産や不良債権を整理することで、企業価値を向上させ、譲渡所得を圧縮できます。また、貸借対照表の健全化は、買収側の評価向上にも繋がります。具体的には、売却前に不要な在庫処分、不良債権の償却、遊休資産の売却などを検討します。これにより、企業の財務体質が強化され、M&Aにおける交渉力を高めることができます。

3.1.2 株価評価とその引き下げ方法

株式譲渡の場合、株価評価額が譲渡益に直結するため、適正な評価が重要です。評価方法には、純資産法、類似会社比較法、DCF法などがあり、状況に応じて最適な方法を選択する必要があります。

株価を引き下げる方法としては、配当の実施、自己株式の取得、退職金の積み増しなどが挙げられます。ただし、これらの方法は税務リスクを伴う場合があるため、専門家と相談の上、慎重に進める必要があります。

3.2 節税効果を最大化する売却タイミング

M&Aの売却タイミングは、税負担に大きく影響します。会計年度や経営状況を考慮し、最適な時期を見極めることが重要です。

3.2.1 会計年度末と税務処理の関係

会計年度末に近い時期に売却することで、決算対策と連動した節税効果が期待できます。例えば、売却益を翌期に繰り延べることで、一時的な税負担を軽減することが可能です。また、譲渡損失が発生した場合には、通算控除を活用して、他の所得と相殺することで節税効果を高めることができます。

3.2.2 経営状況と売却時期の最適化

企業の業績が好調な時期に売却することで、高い評価額での譲渡が期待できます。一方で、業績が悪化している場合には、早期に売却することで、更なる損失拡大を防ぐことができます。最適な売却時期は、企業の業績、市場環境、将来展望などを総合的に判断して決定する必要があります。以下の表は、経営状況と売却時期の最適化についてまとめたものです。

経営状況 売却時期 メリット デメリット
好調 業績ピーク時 高評価額での譲渡 売却後の成長機会の喪失
悪化 早期売却 損失拡大防止 低評価額での譲渡
安定 事業承継時など 計画的な事業承継 市場環境の変化への対応遅れ

上記はあくまで一般的な例であり、個々の状況によって最適な売却時期は異なります。専門家と相談し、最適な戦略を策定することが重要です。

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4. 税金リスクを避けるための注意点

M&Aにおける税金対策は、事業の成功に不可欠な要素ですが、過度な節税追求は思わぬリスクを招く可能性があります。法令遵守を最優先事項とし、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが重要です。

4.1 節税スキームの失敗例とその教訓

節税スキームの中には、税法の解釈を拡大解釈したり、実態のない取引を装ったりするものも存在します。このようなスキームは、税務調査で否認され、追徴課税や延滞税、場合によっては重加算税が課されるリスクがあります。最悪の場合、刑事罰に問われる可能性も否定できません。

4.1.1 過度な節税が税務調査を招く

税務当局は、不自然な取引や過度な節税スキームに対しては厳しくチェックしています。特に、近年は租税回避への対策が強化されており、高度なスキームであっても否認されるリスクが高まっています。安易な節税策に飛びつかず、実現可能性を慎重に見極める必要があります。

4.1.2 顧問税理士との連携ミスによる損失

M&Aにおける税務処理は複雑であり、専門的な知識が不可欠です。顧問税理士との綿密な連携を欠くと、適切な税務申告が行われず、思わぬ税金負担が発生する可能性があります。また、税務調査の際に適切な対応が取れず、不利な結果を招くこともあります。M&Aの計画段階から税理士に相談し、継続的に連携していくことが重要です。

4.2 節税と法令遵守のバランス

M&Aにおける税金対策は、合法的な範囲内で行う必要があります。節税と脱税の境界線を明確に理解し、コンプライアンスを重視した戦略を立てることが重要です。

4.2.1 節税と脱税の境界線とは

節税とは、法律で認められた範囲内で税負担を軽減することを指します。一方、脱税は、法律に違反して意図的に税金を免れる行為であり、犯罪に該当します。租税回避行為も、実質的に脱税とみなされる場合があります。節税と脱税の境界線は複雑であり、専門家でない場合は判断が難しい場合もあります。不明な点は必ず税理士に確認しましょう。

4.2.2 専門家チームでのチェック体制が重要

M&Aの税務リスクを最小限に抑えるためには、税理士、弁護士、公認会計士などの専門家チームを組成し、多角的な視点からチェック体制を構築することが重要です。それぞれの専門家が持つ知識や経験を共有し、綿密な連携を取ることで、税務リスクの早期発見と適切な対応が可能になります。

専門家 役割
税理士 税務申告、税務相談、税務調査対応
弁護士 契約書作成、法的デューデリジェンス、紛争解決
公認会計士 財務デューデリジェンス、企業価値評価、会計監査

M&Aは、企業にとって大きな転換期となる重要なイベントです。税金リスクを適切に管理し、成功へと導くためには、専門家チームと連携し、法令遵守を徹底しながら、最適な税務戦略を策定することが不可欠です。

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5. 中小企業のM&Aを成功に導く税金戦略

M&Aは、中小企業にとって事業承継や成長戦略の重要な選択肢となります。特にオーナー経営者にとっては、M&Aによる売却益が将来の生活設計に直結するため、税金対策はM&A全体戦略の中でも特に重要な位置を占めます。適切な税務プランニングを行うことで、手取り額を最大化し、M&A後の豊かな生活を実現できる可能性が高まります。

5.1 税務面から考える「出口戦略」

M&Aを検討する際には、最終的な目標である「出口戦略」を明確にする必要があります。特にオーナー経営者にとっては、M&Aによる売却益が退職金や老後資金となるケースが多いため、税務面を考慮した出口戦略が重要です。

5.1.1 オーナー経営者の手取り最大化とは

オーナー経営者にとってのM&Aの成功は、単に会社の売却価格を最大化することではなく、手取り額を最大化することです。譲渡所得税や住民税などの税金は売却益から差し引かれるため、売却価格が高くても税負担が大きければ手取り額は少なくなってしまいます。

株式譲渡か事業譲渡か、自社株対策の有無、M&Aの時期など、様々な要素が税負担に影響を与えます。これらの要素を総合的に考慮し、最適なストラクチャーを選択することが重要です。

項目 株式譲渡 事業譲渡
課税対象 株式の譲渡益 事業用資産の譲渡益
税率 約20%(所得税・住民税の合計) 法人税等、その後、配当課税
メリット 手続きが比較的簡素 買収側がのれん償却できる場合がある
デメリット 負債も引き継がれる 手続きが複雑な場合がある
5.1.2 M&A後のライフプランと税金設計

M&A後の生活設計を具体的に描き、それに合わせた税金設計を行うことが重要です。例えば、M&A後の資金をどのように運用していくか、相続対策はどうするかなどを考慮する必要があります。M&Aによる売却益を適切に管理・運用することで、長期的な資産形成を実現できます。

5.2 税金対策はM&A全体戦略の一部である

税金対策は、M&A全体戦略における重要な要素の一つです。M&Aを成功させるためには、財務、法務、人事など様々な側面を考慮する必要がありますが、税務も同様に重要な要素です。

5.2.1 経営判断としての税務プランニング

税務プランニングは、単なる節税対策ではなく、経営判断の一つです。M&Aの目的を達成するためには、税務リスクを最小限に抑えつつ、最適な税務ストラクチャーを選択する必要があります。そのためには、専門家のアドバイスを受けながら、自社の状況に合わせたプランニングを行うことが重要です。

5.2.2 専門家とともに"出口から逆算"する視点

M&Aを検討する際には、「出口から逆算」して考えることが重要です。つまり、M&A後の理想の状態を想定し、そこから逆算して現在の戦略を立案するということです。

税務についても同様に、M&A後のライフプランや事業計画を考慮し、最適な税務戦略を策定する必要があります。そのためには、税理士やM&Aアドバイザーなどの専門家と連携し、専門的な知見を活用することが不可欠です。

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6. まとめ

M&Aにおける税金対策は、成否を分ける重要な要素です。譲渡所得税や法人税など、M&Aに伴う税金の種類を理解し、株式譲渡か事業譲渡かなど、M&Aの形態によって税務上のメリット・デメリットが異なることを把握しておく必要があります。

節税対策として、M&A前の資産整理や株価評価の見直し、売却タイミングの最適化などが有効です。ただし、過度な節税は税務調査のリスクを高めるため、節税と法令遵守のバランスを保つことが重要です。

顧問税理士などの専門家と連携し、M&A全体の戦略の中に税務プランニングを組み込み、出口戦略から逆算して検討することで、M&Aを成功に導き、オーナー経営者の手取り最大化を実現できるでしょう。

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