M&Aでの譲渡価格の調べ方|EBITDAマルチプル法で自社の譲渡価格を知る方法

M&Aでの譲渡価格の調べ方|EBITDAマルチプル法で自社の譲渡価格を知る方法

本ページの更新日について

公開日:2025年3月10日
最終更新日:2025年6月11日

M&Aにおける譲渡価格の算定方法を理解したい方、特にEBITDAマルチプル法について知りたい経営者の方必見です。この記事では、M&Aの基本から譲渡価格の決まり方、EBITDAマルチプル法を使った簡易的な企業価値の算出方法まで、分かりやすく解説します。

EBITDAとは何か、営業利益との違い、業種別のマルチプル目安などを知ることで、自社の譲渡価格の相場観を掴むことができます。さらに、譲渡価格を上げるための具体的な施策や、M&Aを成功させるための準備についてもご紹介。

M&Aを検討している方、将来的な事業承継を考えている方は、ぜひこの記事でM&Aの全体像と、自社の価値最大化のヒントを掴んでください。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。




1. そもそも「M&A」とは何か?

M&Aとは、Mergers and Acquisitionsの略で、日本語では「企業の合併・買収」を意味します。合併とは、複数の企業が一つになることで、全く新しい企業が誕生する手続きです。買収とは、ある企業が他の企業の経営権を取得することを指します。広義には、合併だけでなく、経営統合や事業譲渡、資本提携などもM&Aに含まれます。

1.1 中小企業におけるM&Aの実態

近年、中小企業の間でM&Aが活発化しています。後継者不足や事業の成長戦略、経営リスクの分散など、様々な目的でM&Aが活用されています。特に、後継者問題を解決するための「事業承継型M&A」が増加傾向にあります。

1.1.1 増える「事業承継型M&A」

少子高齢化の影響で、後継者が見つからない中小企業が増えています。廃業という選択肢もありますが、従業員の雇用を守るため、取引先との関係を維持するため、そして長年培ってきた技術やノウハウを継承するために、M&Aを選択する企業が増えています。M&Aによって、後継者不在の問題を解決するだけでなく、新たな経営資源の獲得や事業拡大の機会を得ることも可能です。

1.1.2 売却側に求められる視点とは

M&Aを成功させるためには、売却側にも適切な準備と心構えが必要です。自社の強みと弱みを客観的に分析し、適切な譲渡価格を設定することが重要です。また、M&A後の事業計画や従業員の処遇についても、買い手企業としっかりと協議する必要があります。円滑な事業承継のためには、早期からの準備と情報開示が不可欠です。

1.2 M&Aの流れをざっくり把握する

M&Aは複雑なプロセスであり、多くの関係者が関わります。大まかな流れを理解することで、M&Aに対する不安や疑問を解消し、スムーズな手続きを進めることができます。

1.2.1 準備から譲渡までの6ステップ
ステップ 内容
1. 検討・準備段階 M&Aの目的や目標を設定し、自社の現状分析や市場調査などを行います。
2. 相手探し M&Aアドバイザーなどを活用し、適切な相手企業を探します。
3. 基本合意 M&Aの基本的な条件(譲渡価格、譲渡時期など)について合意します。
4. デューデリジェンス 買収側が、売却側の企業価値を詳細に調査します。
5. 最終契約 デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な契約を締結します。
6. 譲渡実行 契約に基づき、株式や事業の譲渡を実行します。
1.2.2 よくある誤解と落とし穴

M&Aには、「会社を売却する=敗北」という誤解や、「M&A後はすぐに経営から解放される」といった誤解など、様々な誤解が存在します。また、M&Aプロセスにおける交渉の難しさや、予期せぬトラブル発生のリスクなども考慮しておく必要があります。M&Aを成功させるためには、専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが重要です。

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2. 譲渡価格とは何か?その決まり方と背景
譲渡価格決定の基本構造 評価アプローチ 資産価値アプローチ 土地・建物 設備・機械 在庫・流動資産 客観的評価しやすい 収益価値アプローチ 将来収益力 成長性 EBITDA 成長性を反映可能 買い手の価値評価 市場動向 分析 競争環境 評価 経営陣 能力 事業 リスク 財務 リスク シナジー 効果 総合評価

M&Aにおける譲渡価格は、買収企業が被買収企業の全株式または事業を取得するために支払う対価です。この価格は、単に会社の帳簿上の純資産価額を反映するだけでなく、将来の収益力、成長性、リスク、市場環境など、様々な要因を考慮して決定されます。

譲渡価格の決定プロセスは複雑で、明確なルールや公式があるわけではありません。しかし、基本的な考え方や評価手法を理解することで、おおよその価格帯を把握することは可能です。

2.1 譲渡価格の基本構造を知る

譲渡価格を決定する際には、大きく分けて「資産価値」と「収益価値」という2つのアプローチがあります。これらのアプローチは、会社の業種、成長ステージ、財務状況などによって使い分けられます。

2.1.1 資産価値と収益価値の違い

資産価値アプローチは、会社の保有資産(土地、建物、設備、在庫など)の時価をベースに算出する方法です。一方、収益価値アプローチは、会社の将来における収益力をベースに算出する方法です。

一般的に、成長性の高い企業や無形資産の価値が高い企業の場合は、収益価値アプローチが用いられることが多いです。成熟企業や資産の価値が大きい企業の場合は、資産価値アプローチが用いられることもあります。また、両方のアプローチを組み合わせて算出する場合もあります。

アプローチ 概要 メリット デメリット
資産価値アプローチ 会社の保有資産の時価をベースに算出 客観的な評価がしやすい 将来の収益力を反映しにくい
収益価値アプローチ 会社の将来における収益力をベースに算出 将来の成長性を反映できる 将来予測の精度に左右される
2.1.2 なぜ「会社の利益」が重要なのか

収益価値アプローチにおいては、会社の利益が重要な指標となります。特に、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は、事業本来の収益力を示す指標として重視されます。EBITDAが高いほど、会社の収益力が高いと判断され、譲渡価格も高くなる傾向があります。また、純資産価額も会社の財務状況を示す重要な指標であり、譲渡価格に影響を与えます。

2.2 買い手が見る「企業の価値」

買い手企業は、単に現在の利益だけでなく、将来の利益とリスクを総合的に評価して譲渡価格を決定します。そのため、売却側企業は、自社の強みと弱みを客観的に分析し、買い手にとって魅力的な企業価値を提示する必要があります。

2.2.1 将来利益とリスクの見極め方

買い手は、市場動向、競争環境、経営陣の能力などを分析し、将来の収益性を予測します。同時に、事業上のリスクや財務リスクなども見極め、それらを価格に反映させます。

例えば、市場の成長性が高い企業は、将来の収益性も高いと期待されるため、高い譲渡価格が提示される可能性があります。逆に、競争が激化している市場や、経営陣に問題がある企業は、リスクが高いと判断され、譲渡価格が低くなる可能性があります。

2.2.2 買収側の視点で価格を考えるコツ

売却企業は、買収側の視点に立って、自社の価値を客観的に評価することが重要です。買収側がどのようなメリットを求めているのか、どのようなリスクを懸念しているのかを理解することで、適切な譲渡価格を提示することができます。また、類似企業のM&A事例を参考にしたり、M&Aアドバイザーに相談することで、相場観を養うことも重要です。

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3. EBITDAマルチプル法とは?譲渡価格を可視化する方法

EBITDAマルチプル法は、M&Aにおける譲渡価格を算定する際に用いられる代表的な手法の一つです。会社の収益力に着目し、簡便に譲渡価格の目安を算出できるため、初期段階の検討において特に役立ちます。

3.1 EBITDAとは何か?

EBITDAとは、「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」の略で、日本語では「利払い前・税引き前・減価償却前・のれん償却前利益」を意味します。これは、企業の本業における純粋な収益力を示す指標として用いられます。

3.1.1 営業利益との違い

EBITDAは営業利益と似ていますが、減価償却費やのれん償却費が含まれていない点が異なります。これらの費用は、会計処理の方法によって企業ごとに大きく変動する可能性があります。EBITDAを用いることで、これらの会計処理の影響を受けずに、より客観的に企業の収益力を比較することが可能になります。

3.1.2 なぜM&Aで使われるのか

M&Aにおいては、異なる会計基準や財務状況を持つ企業同士を比較する必要があります。EBITDAは、こうした違いの影響を排除し、企業の本質的な収益力を比較するのに適しているため、M&Aにおける譲渡価格算定で広く利用されています。また、簡便に計算できるため、初期段階の交渉や社内での検討材料としても有用です。

3.2 マルチプル法で自社の価値をざっくり試算

EBITDAマルチプル法では、EBITDAに一定の倍率(マルチプル)をかけることで譲渡価格を算出します。このマルチプルは、業種、企業規模、成長性、収益性など様々な要因によって変動します。

3.2.1 業種別マルチプルの目安

業種によって、EBITDAマルチプルは大きく異なります。例えば、成長性の高いIT業界では高いマルチプルが適用される傾向があり、一方で成熟した業界では低いマルチプルとなる傾向があります。以下の表は、業種別のマルチプルの目安を示したものです。あくまで目安であり、実際のマルチプルは個々の企業の状況によって異なります。

業種 EBITDAマルチプル(目安)
IT 8~12倍
製造業 5~8倍
小売業 4~6倍
3.2.2 「うちの会社はいくら?」と知りたい社長へ

自社のEBITDAマルチプルを算出するためには、まず直近のEBITDAを計算します。そして、類似企業のM&A事例や業界平均のマルチプルを参考に、自社に適切なマルチプルを検討します。

これらの情報を元に、自社の譲渡価格の目安を算出することができます。ただし、EBITDAマルチプル法はあくまで簡便的な算定方法であるため、最終的な譲渡価格は、デューデリジェンスや交渉を通じて決定されます。専門家への相談も重要です。

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4. 譲渡価格を上げるために今できること

M&Aにおける譲渡価格を最大化するためには、事前の準備が不可欠です。譲渡価格を決定づける要因は様々ですが、中でも重要なのは「収益力」と「経営の見える化」です。これらの要素を強化することで、買い手にとって魅力的な企業となり、結果として譲渡価格の向上に繋がります。

4.1 収益力アップと経営の見える化

M&Aにおいては、現在の売上高だけでなく、将来的な収益力も重視されます。安定した収益基盤を築き、持続的な成長が見込める企業は、高い評価を得られる可能性が高まります。

4.1.1 売上よりも「利益率」が大切

売上高は企業規模を示す指標ですが、M&Aでは利益率がより重要視されます。高い利益率は、効率的な経営と将来的な収益性を示唆するため、買い手にとって魅力的な要素となります。コスト削減や業務効率化などに取り組み、利益率を高める努力が重要です。

4.1.2 「社長依存」から脱却する

多くのオーナー企業では、経営者の手腕に依存したビジネスモデルとなっているケースが見られます。しかし、M&Aにおいては、特定の個人に依存しない、標準化された組織体制が求められます。経営の属人化を解消し、誰が経営しても安定した収益を確保できる体制を構築することで、企業価値の向上に繋がります。

4.2 マルチプルが高くなる会社の特徴

EBITDAマルチプルは、企業価値を評価する上で重要な指標となります。マルチプルが高い会社は、市場から高い評価を受けていることを意味し、譲渡価格にも影響を与えます。以下では、マルチプルが高くなる会社の特徴を解説します。

4.2.1 優良なM&A対象になるには

高いマルチプルを獲得するためには、市場における競争優位性や成長性、健全な財務状況などが求められます。独自の技術やノウハウ、強力なブランド力、安定した顧客基盤などは、企業価値を高める重要な要素となります。

項目 内容
競争優位性 独自の技術、ブランド力、市場シェアなど
成長性 市場の拡大、新規事業の展開など
財務状況 健全なキャッシュフロー、低い負債比率など
経営体制 透明性の高いガバナンス、優秀な経営陣など
4.2.2 財務以外の「無形資産」に注目

M&Aにおいては、財務諸表に表れない無形資産も重要な評価対象となります。例えば、優秀な人材、独自のノウハウ、顧客との良好な関係、ブランドイメージなどは、企業の競争力を高める上で重要な役割を果たします。これらの無形資産を適切に評価し、アピールすることで、譲渡価格の向上に繋げることができます。

これらの要素を強化することで、企業価値を高め、M&Aを成功に導く可能性を高めることができます。早めの準備と適切な対策が、譲渡価格の最大化に繋がります。

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5. M&A成功の鍵は「準備」にあり

M&Aを成功させ、納得のいく譲渡価格を実現するためには、事前の準備が何よりも重要です。準備を怠ると、売却活動が長期化したり、希望価格での譲渡が難しくなったり、最悪の場合M&A自体が破談になる可能性もあります。早期の準備によって、企業価値を高め、スムーズなM&Aプロセスを実現できるでしょう。

5.1 譲渡価格を最大化するステップ

M&Aで譲渡価格を最大化するためには、以下のステップを踏むことが重要です。

5.1.1 早めの事業整理・数値管理

M&Aを検討し始めたら、まずは事業の棚卸しを行い、不要な事業や資産を整理しましょう。これにより、財務状況が改善され、企業価値向上に繋がります。

また、日頃から正確な財務諸表の作成や経営指標の管理を行うことで、買い手企業からの信頼獲得に繋がります。具体的には、月次決算を導入し、キャッシュ・フローの把握に努めましょう。これらの数値は、M&Aにおけるデューデリジェンスで必ず確認される項目です。正確な数値管理は、M&Aプロセスを円滑に進める上で不可欠です。

5.1.2 外部専門家との連携で損を防ぐ

M&Aは専門性の高い取引です。M&Aアドバイザー、弁護士、税理士などの専門家と早期に連携することで、法務・税務・財務デューデリジェンス、契約交渉、クロージングまで、M&Aプロセス全体をスムーズに進めることができます。

専門家のアドバイスを受けることで、予期せぬトラブルや損失を未然に防ぎ、最適なM&Aを実現できるでしょう。特に、M&Aアドバイザーは、適切な買い手候補の選定や価格交渉において重要な役割を果たします。

5.2 「売れる会社」になるための心構え

M&Aを成功させるためには、単に会社を「売る」という考え方ではなく、会社の価値を次の世代に「渡す」という視点を持つことが重要です。譲渡後の未来を見据え、従業員や顧客、取引先など、すべてのステークホルダーにとって最善の結果となるM&Aを目指しましょう。

5.2.1 "会社を売る"のではなく"価値を渡す"

M&Aは、単に会社を売却する行為ではなく、企業の価値を次の世代に引き継ぐ、バトンパスのようなものです。従業員の雇用を守り、事業を継続・発展させるためには、買い手企業の経営理念や事業計画との整合性も重要な要素となります。

買い手企業にとって、自社とのシナジー効果が見込めるかどうかが、M&Aを検討する上での大きな判断材料となります。そのため、自社の強みや競争優位性を明確に示すことが重要です。

5.2.2 譲渡後の未来から逆算する

M&A後の事業展開や従業員の処遇、自らの役割など、譲渡後の未来像を具体的に描いておくことが重要です。譲渡後のビジョンを明確にすることで、M&Aの目的や目標が定まり、最適なパートナー選びや交渉戦略を立てることができます。例えば、事業承継を目的としたM&Aの場合、後継者へのスムーズな事業引継ぎ計画を策定しておく必要があります。

準備項目 内容 効果
事業整理 不要な事業・資産の整理 財務状況の改善、企業価値の向上
数値管理 月次決算の導入、キャッシュ・フロー管理 デューデリジェンスへの対応、信頼性の向上
専門家連携 M&Aアドバイザー、弁護士、税理士との連携 スムーズなM&Aプロセス、リスクの軽減
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6. まとめ

M&Aにおける譲渡価格は、会社の将来収益をベースに決定されます。EBITDAマルチプル法は、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)に業種ごとの倍率(マルチプル)を掛けて算出する簡便な方法です。

自社の譲渡価格の目安を知ることで、M&Aへの心構えができます。ただし、最終的な譲渡価格はデューデリジェンスや交渉を経て決定されるため、あくまで参考値として捉えるべきです。譲渡価格を最大化するには、収益力向上、経営の見える化、事業整理、専門家との連携といった準備が重要です。

M&Aを成功させるには、「会社を売る」のではなく「価値を渡す」という視点と、譲渡後の未来を見据えた戦略が必要です。

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