会社売却の譲渡価格を自分で計算する方法|M&Aの基礎知識

会社売却の譲渡価格を自分で計算する方法|M&Aの基礎知識

本ページの更新日について

公開日:2024年11月7日
最終更新日:2025年6月9日

会社売却を検討している経営者の方にとって、譲渡価格の算定は重要な関心事です。売却価格が適切でなければ、売却後に後悔する可能性もあります。この記事では、純資産法、収益還元法、類似会社比較法という3つの代表的な方法を用いて、会社売却の譲渡価格を自分で計算する方法を分かりやすく解説します。

それぞれの計算方法のメリット・デメリットや具体的な計算例も示すことで、ご自身の会社に最適な方法を選択できるようになります。また、譲渡価格交渉のポイントや会社売却の手続きと流れについても理解を深め、スムーズなM&Aを実現するための基礎知識を習得できます。この記事を読み終えることで、譲渡価格の相場観を掴み、M&Aアドバイザーとの交渉も有利に進められるようになるでしょう。

【無料】会社売却・事業承継のご相談はコチラ
「M&Aは何から始めればいいかわからない」という経営者からも数多くのご相談をいただいています。M&Aを成功に導くはじめの一歩は無料のオンライン相談から。お気軽にご相談ください。

365日開催オンライン個別相談会

編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。




1. 会社売却における譲渡価格とは

会社売却における譲渡価格とは、会社を売却する際に買い手が売り手に支払う金額のことです。これは、会社の株式や事業全体を譲渡する対価として支払われます。

譲渡価格は、会社の規模や業績、将来性、市場環境など様々な要因によって決定されます。適切な譲渡価格を算定することは、売却側にとっては適正な対価を得るために、買収側にとっては投資に見合う価値があるか判断するために非常に重要です。

1.1 譲渡価格の決定要因

譲渡価格は、単一の要素で決まるものではなく、複数の要因が複雑に絡み合って決定されます。主な決定要因は以下の通りです。

1.1.1 会社の価値を決める要素

会社の価値を評価する際には、財務状況、収益性、将来性、事業の安定性、無形資産(ブランド力、特許、ノウハウなど)といった様々な要素が考慮されます。これらの要素を分析することで、会社の客観的な価値を算出することが可能となります。

要素 説明
財務状況 資産、負債、純資産、キャッシュフローなど、会社の財務状態を示す指標。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などが分析対象となります。
収益性 売上高、利益率、投資収益率など、会社がどれだけの利益を生み出しているかを示す指標。収益性が高いほど、会社の価値は高くなります。
将来性 市場の成長性、競争優位性、経営陣の能力など、将来的な収益成長の可能性を示す指標。将来性が高いほど、会社の価値は高くなります。
事業の安定性 顧客基盤の安定性、事業の継続性、リスク管理体制など、事業が安定的に継続できるかを示す指標。安定性が高いほど、会社の価値は高くなります。
無形資産 ブランド力、特許、ノウハウ、顧客リストなど、財務諸表には現れないものの、会社に価値をもたらす資産。
1.1.2 市場環境の影響

会社の価値は、市場環境の影響も大きく受けます。景気動向、業界の成長性、金利水準、M&A市場の活況度など、マクロ経済や業界特有の状況によって、譲渡価格は変動します。例えば、同業他社のM&Aにおける譲渡価格や、株式市場における類似企業の株価なども参考にされます。

【関連】会社を売る?会社売却・事業売却を成功させるための5つのポイント

2. 会社売却の譲渡価格を自分で計算する3つの方法
会社売却の譲渡価格を自分で計算する3つの方法 純資産法 計算式 純資産 = 総資産 - 総負債 簡単 客観的 収益性 考慮× 収益還元法 計算式 譲渡価格 = 将来収益 ÷ 割引率 将来性 反映 精緻 予測 困難 将来予測 類似会社比較法 市場データ活用 類似会社の 株価・指標参考 市場 反映 客観的 類似 選定困難 上場企業 適用場面:純資産法(簡易評価) 収益還元法(成長企業) 類似会社比較法(上場予定企業)

会社売却における譲渡価格は、会社の将来性や市場環境など様々な要因によって決定されます。譲渡価格を算出する代表的な方法として、純資産法、収益還元法、類似会社比較法の3つがあります。これらの方法を理解し、自社の状況に合わせて適切な方法を選択することが重要です。それぞれの計算方法について詳しく解説します。

2.1 純資産法による計算方法

純資産法は、会社の貸借対照表に基づいて、資産から負債を差し引いた純資産を譲渡価格とする方法です。比較的シンプルな計算方法であるため、簡易的な評価に適しています。

2.1.1 純資産の算出方法

純資産は、以下の式で算出します。

純資産 = 総資産 - 総負債

総資産には、現金預金、売掛金、棚卸資産、土地、建物などが含まれます。総負債には、買掛金、借入金などが含まれます。

2.1.2 純資産法のメリット・デメリット
メリット デメリット
計算が簡単 会社の将来収益性を反映しない
客観的なデータに基づく 簿価と時価が乖離している場合、実態と合わない可能性がある
2.2 収益還元法による計算方法

収益還元法は、会社の将来の収益力を現在価値に割り引いて、譲渡価格を算出する方法です。将来の収益を予測するため、より精緻な評価が可能となります。

2.2.1 収益還元法の計算式と必要な情報

収益還元法の計算式は、以下の通りです。

譲渡価格 = 将来の収益 ÷ 割引率

将来の収益は、過去の財務諸表や事業計画などを参考に予測します。割引率は、事業リスクなどを考慮して設定します。

2.2.2 割引率の設定方法

割引率は、リスクフリーレートにリスクプレミアムを加算して設定します。リスクフリーレートは、10年物国債の利回りなどが用いられます。リスクプレミアムは、事業の安定性や成長性などを考慮して決定します。一般的には、5%~15%程度で設定されることが多いです。

2.2.3 収益還元法のメリット・デメリット
メリット デメリット
会社の将来収益性を反映できる 将来の収益予測が難しい
割引率の設定によって柔軟な評価が可能 割引率の決定に恣意性が入る可能性がある
2.3 類似会社比較法による計算方法

類似会社比較法は、類似した業種・規模の会社の株価や財務指標などを参考に、譲渡価格を算出する方法です。市場における評価を反映した価格を算出できるため、客観的な評価が可能となります。

2.3.1 類似会社の選定方法

類似会社は、事業内容、売上規模、収益性などを考慮して選定します。東京証券取引所などに上場している企業のデータが参考になります。

2.3.2 類似会社比較法のメリット・デメリット
メリット デメリット
市場における評価を反映した価格を算出できる 完全に一致する類似会社を見つけるのが難しい
客観的な評価が可能 類似会社の数や指標の選択によって結果が大きく変わる可能性がある
【関連】会社売却前の経営再建で得られる3つのメリット|高値売却の秘訣

3. 譲渡価格の計算例

ここでは、具体的な数値を用いて、純資産法、収益還元法、類似会社比較法による譲渡価格の計算例を紹介します。これらの計算例はあくまで簡略化されたものであり、実際の会社売却においては、より詳細な分析と専門家の助言が必要となります。

3.1 事例1:純資産法を用いた場合

株式会社A社の純資産が1億円の場合、純資産法による譲渡価格は1億円となります。この計算方法はシンプルですが、会社の将来的な収益性を考慮していないため、成長性の高い企業の評価には適さない場合があります。

3.1.1 純資産の算出
資産 金額(億円)
現金預金 0.5
売掛金 0.3
有形固定資産 0.2
合計 1.0
負債 金額(億円)
買掛金 0.2
短期借入金 0.1
合計 0.3

純資産 = 資産合計 - 負債合計 = 1.0 - 0.3 = 0.7億円

この場合、純資産法による譲渡価格は0.7億円となります。

3.2 事例2:収益還元法を用いた場合

株式会社B社の将来3年間の予測純利益がそれぞれ1億円、1.2億円、1.5億円と予想され、割引率を10%と仮定した場合、収益還元法による譲渡価格は、以下のようになります。

3.2.1 収益還元法の計算

1年目:1億円 / (1 + 0.1) = 約0.91億円
2年目:1.2億円 / (1 + 0.1)2 = 約0.99億円
3年目:1.5億円 / (1 + 0.1)3 = 約1.12億円
譲渡価格 = 約0.91億円 + 約0.99億円 + 約1.12億円 = 約3.02億円

この計算では、将来の予測純利益を現在価値に割り引くことで、企業の収益力を評価しています。ただし、将来の予測は不確実性を含むため、割引率の設定が重要になります。

3.3 事例3:類似会社比較法を用いた場合

株式会社C社と類似する上場企業D社のPER(株価収益率)が15倍で、株式会社C社の純利益が1億円の場合、類似会社比較法による譲渡価格は、1億円 × 15倍 = 15億円となります。

この計算方法は、市場における類似企業の評価を参考にできるため、客観的な評価が可能となります。ただし、完全に一致する類似企業を見つけることは難しく、PER以外の指標も考慮する必要があります。

類似会社として、例えば、株式会社〇〇や株式会社△△などを挙げることができます。これらの企業は、株式会社C社と事業内容や規模が類似しており、PERなどの財務指標も参考にできます。

これらの計算例はあくまでも簡略化されたものであり、実際の会社売却の場面では、より複雑な計算や詳細な分析が必要となります。また、最終的な譲渡価格は、売主と買主の交渉によって決定されます。これらの計算方法を理解し、専門家のアドバイスを受けながら、適切な譲渡価格を決定することが重要です。

【関連】会社売却前に赤字解消!M&Aで成功するための完全ガイド

4. 会社売却時の譲渡価格交渉のポイント

会社売却における譲渡価格の交渉は、売却プロセスの中でも特に重要なステップです。売主としては、会社の価値を正当に評価してもらい、納得のいく価格で売却したいと考えるでしょう。一方、買主は、将来の収益性を考慮しながら、適切な価格で購入したいと考えるでしょう。双方の利害が一致するポイントを見つけることが、スムーズな売却につながります。

4.1 譲渡価格の根拠を明確にする

譲渡価格交渉を有利に進めるためには、譲渡価格の根拠を明確に示すことが重要です。そのためには、会社の財務状況、収益性、将来性などを客観的なデータに基づいて説明できるように準備しておく必要があります。以下の3つの評価方法を用いて算出した価格を提示し、それぞれのメリット・デメリットを踏まえて、なぜその価格が妥当なのかを説明できるようにしましょう。

  • 純資産法
  • 収益還元法
  • 類似会社比較法

例えば、収益還元法を用いる場合、将来の収益予測や割引率の設定根拠などを明確に示す必要があります。また、類似会社比較法を用いる場合は、類似会社の選定基準や比較対象となる指標などを明確にすることが重要です。これらの根拠を明確にすることで、買主の理解と納得を得やすくなり、スムーズな交渉につながります。

4.2 専門家への相談

会社売却は複雑な手続きを伴うため、M&Aアドバイザー、弁護士、税理士などの専門家に相談することが重要です。専門家は、市場の動向や法的な規制などを踏まえ、適切なアドバイスを提供してくれます。特に譲渡価格交渉においては、専門家の知識と経験が大きな力となります。

M&Aアドバイザーは、市場の相場観や買主のニーズを把握しており、適切な価格設定や交渉戦略の立案をサポートしてくれます。弁護士は、契約書の作成や法的リスクのチェックを行い、税理士は、税務上の最適なスキームを提案してくれます。

専門家 役割
M&Aアドバイザー 市場調査、価格交渉、デューデリジェンス支援、契約締結支援など
弁護士 契約書作成、法的リスクのチェック、法的アドバイスなど
税理士 税務デューデリジェンス、税務申告、税務アドバイスなど

専門家に相談することで、売却プロセス全体をスムーズに進めることができ、より有利な条件で売却を実現できる可能性が高まります。譲渡価格交渉においては、専門家のサポートを積極的に活用しましょう。

【関連】会社売却の際の財務諸表の整え方|中小企業のM&A成功の虎の巻

5. 会社売却の手続きと流れ

会社売却は複雑なプロセスであり、複数の段階を経て完了します。それぞれの段階で必要な手続きを理解し、適切な準備を行うことが重要です。以下に、一般的な会社売却の手続きと流れをまとめました。

5.1 準備段階

まずは会社売却に向けての準備が必要です。この段階でしっかりと準備を行うことで、スムーズな売却プロセスを実現できます。

5.1.1 事業の棚卸し

会社の強み・弱み、財務状況、事業計画などを改めて見直し、整理します。デューデリジェンスで必要な資料を事前に準備することで、売却プロセスを円滑に進めることができます。

5.1.2 売却目的の明確化

なぜ会社を売却するのか、売却によって何を達成したいのかを明確にすることが重要です。後継者不足、事業拡大のための資金調達など、売却目的を明確にすることで、適切な売却戦略を立てることができます。

5.1.3 アドバイザーの選定(任意)

M&Aアドバイザーは、売却価格の算定、買い手候補の探索、交渉のサポートなど、売却プロセス全体を支援してくれます。M&Aアドバイザーの選定は必須ではありませんが、専門知識を持つアドバイザーに相談することで、より有利な条件で売却できる可能性が高まります。

5.2 買い手候補の探索

準備が整ったら、適切な買い手候補を探します。M&Aアドバイザーに依頼する場合は、アドバイザーがネットワークを活用して買い手候補を探してくれます。

5.2.1 候補先への打診

秘密保持契約を締結した上で、候補先へ売却の打診を行います。事業概要や財務状況などの情報を開示し、買収への関心を高めます。

5.3 デューデリジェンス

買い手候補は、会社の財務状況、法務状況、事業内容などを詳細に調査します。この調査をデューデリジェンスと呼びます。デューデリジェンスで指摘事項が出た場合は、誠実に対応することが重要です。

5.3.1 デューデリジェンスへの対応

買い手候補からの質問や資料要求に迅速かつ正確に対応します。スムーズなデューデリジェンスの実施は、売却成約の可能性を高めることに繋がります。

5.4 最終交渉

デューデリジェンスの結果を踏まえ、譲渡価格や契約条件などについて最終交渉を行います。譲渡価格だけでなく、従業員の雇用維持など、重要な条件についても交渉を行います。

5.4.1 契約条件の調整

譲渡価格、譲渡日、従業員の処遇、事業の継続性など、様々な条件について交渉し、最終的な契約内容を決定します。

5.5 契約締結

最終交渉が成立したら、正式に売買契約を締結します。契約書には、売買の条件が詳細に記載されます。

5.5.1 クロージング

契約締結後、株式の譲渡や代金決済など、最終的な手続きを行います。この手続きをクロージングと呼びます。

5.6 契約締結後

契約締結後も、事業の引継ぎなど、必要な手続きがあります。スムーズな事業の引継ぎは、売却後の事業の安定に繋がります。

5.6.1 事業の引継ぎ

新しい経営体制へのスムーズな事業引継ぎを行います。従業員への説明や顧客への連絡なども適切に行う必要があります。

段階 内容 ポイント
準備段階 事業の棚卸し、売却目的の明確化、アドバイザー選定 デューデリジェンスに必要な資料を事前に準備
買い手候補の探索 候補先への打診 秘密保持契約の締結
デューデリジェンス 買い手候補による会社調査 迅速かつ正確な対応
最終交渉 譲渡価格や契約条件の交渉 譲渡価格以外の条件も重要
契約締結 売買契約の締結 契約内容の確認
契約締結後 事業の引継ぎ スムーズな引継ぎ
【関連】債務超過で会社売却?それとも倒産?違いを知って企業の危機を乗り越える!

6. まとめ

この記事では、会社売却における譲渡価格の計算方法について解説しました。譲渡価格の算定には、純資産法、収益還元法、類似会社比較法の3つの主要な方法があり、それぞれメリット・デメリットや計算方法が異なります。

会社の規模や業種、市場環境などによって適切な方法は変わるため、それぞれの方法を理解し、自社に最適な方法を選択することが重要です。また、譲渡価格の算定は複雑なため、これらの計算方法を参考にしながらも、M&Aアドバイザーなどの専門家への相談も検討しましょう。

最終的な譲渡価格は、買い手との交渉によって決定されるため、事前に譲渡価格の根拠を明確にしておくことが交渉を有利に進める鍵となります。

メニュー