M&Aデューデリジェンスの最適な相談先と選び方

M&Aデューデリジェンスの最適な相談先と選び方

M&Aの成否を分けるデューデリジェンスの相談先選びは極めて重要です。本記事では、M&A仲介会社、FAS、弁護士といった主要な相談先ごとの特徴を徹底比較し、自社のディールサイズや状況に合わせた最適な専門家の選び方を解説します。

費用体系や選定プロセスで失敗しないための注意点も網羅。この記事を読めば、M&A成功の鍵となる信頼できるパートナーを見つけるための具体的な方法がわかります。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。




1. M&Aデューデリジェンスにおける最適な相談先の重要性

M&A(企業の合併・買収)は、企業の成長戦略を実現するための強力な手段ですが、そのプロセスには多くのリスクが潜んでいます。特に、買収対象企業の価値やリスクを精査する「デューデリジェンス(Due Diligence、DD)」は、M&Aの成否を分ける極めて重要な工程です。

このデューデリジェンスを誰に相談し、どのように進めるかが、最終的な成果に直結します。本章では、なぜ最適な相談先を選ぶことが重要なのか、その本質的な理由と、選定を誤った場合に生じる深刻なリスクについて詳しく解説します。

1.1 M&A成功の鍵を握るデューデリジェンス(DD)

デューデリジェンスは、単なる形式的な調査ではありません。M&Aという重大な経営判断を下すための根拠となる情報を収集・分析し、意思決定を支える羅針盤の役割を果たします。その精度が低ければ、航路を見失い、M&Aは失敗という暗礁に乗り上げてしまうでしょう。

1.1.1 デューデリジェンスの本質と目的の再確認

デューデリジェンスの本質は、「買収対象企業の実態を正確に把握し、内在するリスクを特定すること」にあります。これにより、M&Aの実行可否から買収価格、契約条件、そして買収後の統合プロセス(PMI)に至るまで、あらゆる局面で適切な判断を下すことが可能になります。具体的な目的は多岐にわたりますが、主に以下の点が挙げられます。

目的 具体的な内容
取引実行の可否判断(Go/No-Go判断) 調査によって判明した問題点(ディールブレイカー)が、M&Aを中止すべきほど深刻なものかを見極めます。
企業価値評価(バリュエーション)と買収価格の妥当性検証 事業計画の実現可能性や収益性、潜在的なリスクを評価し、買収価格が適正であるか、または価格交渉の材料がないかを判断します。
M&Aスキームの検討 株式譲渡、事業譲渡など、対象企業の実態や発見されたリスクに応じて、最も適切なM&Aの手法を再検討します。
最終契約書への反映事項の抽出 特定されたリスクを買い手が負わないよう、表明保証条項や前提条件として株式譲渡契約書(SPA)などの最終契約書に盛り込むべき内容を洗い出します。
PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)の準備 買収後の統合プロセスで対応すべき課題(人事制度、ITシステム、組織文化など)を事前に把握し、円滑なPMI計画の策定に役立てます。

これらの目的を達成するためには、財務、税務、法務、人事、ITといった多岐にわたる分野での高度な専門知識が不可欠です。だからこそ、各分野のプロフェッショナルである相談先の選定が極めて重要になるのです。

1.1.2 買い手と売り手で異なるデューデリジェンスの視点

デューデリジェンスは主に買い手によって行われますが、売り手側にとってもその重要性は変わりません。それぞれの立場によって、デューデリジェンスに求める目的や視点が異なります。

立場 デューデリジェンスの主な視点と目的
買い手(バイサイド)
  • 対象企業の事業、財務、法務等のリスクを網羅的に洗い出す。
  • 将来の収益性やシナジー効果の実現可能性を客観的に評価する。
  • 簿外債務や偶発債務など、財務諸表に現れない隠れたリスクを発見する。
  • 適正な買収価格を算定し、価格交渉を有利に進めるための根拠を得る。
  • 買収後のPMIを円滑に進めるための課題を事前に把握する。
売り手(セルサイド)
  • 事前に自社の問題点を把握し、買い手から指摘される前に対策を講じる(セルサイドDD)。
  • 買い手からの質問や資料要求に迅速かつ的確に対応し、交渉プロセスを円滑化する。
  • 自社の強みや価値を客観的なデータで示し、企業価値の最大化を図る。
  • ディールの途中で予期せぬ問題が発覚し、取引が中止になるリスクを低減する。
  • 複数の買い手候補がいる場合、情報開示の範囲やプロセスをコントロールしやすくする。

このように、買い手は「リスクの発見と価値の検証」、売り手は「リスクの事前把握と価値の最大化」という異なる視点を持っています。自社の立場と目的を明確にした上で、それに合致した知見を持つ相談先を選ぶことが成功への第一歩となります。

1.2 相談先選定の失敗が招くリスク

デューデリジェンスの相談先選定を軽視したり、コスト削減のみを優先したりすると、M&Aそのものを失敗に導く深刻な事態を招きかねません。専門家の知見が不足していると、重大なリスクを見落とし、買収後に想定外の損失やトラブルに見舞われる可能性が高まります。

1.2.1 M&Aのブレイク要因となる典型的な見落とし

専門性の低い相談先に依頼した場合、以下のような典型的な見落としが発生しがちです。これらはM&A交渉の最終段階で発覚し、ディールブレイク(取引の中止)に直結するケースも少なくありません。

  • 法務面の見落とし:重要な契約に含まれるチェンジ・オブ・コントロール(COC)条項を見逃し、買収後に取引先との契約が解除される。事業継続に必要な許認可が承継できないことが判明する。
  • 財務面の見落とし:不適切な会計処理や過大な資産評価を見抜けず、過剰な価格で買収してしまう。運転資金が想定以上に必要であることが後から判明する。
  • 税務面の見落とし:過去の税務申告における重大な誤りや追徴課税リスクを発見できない。利用を想定していた繰越欠損金が、買収によって利用できなくなる。
  • 人事面の見落とし:キーパーソンの退職リスクや未払いの残業代といった労務問題の存在を把握できず、買収後に人材流出や訴訟が発生する。

これらの見落としは、M&Aによって得られるはずだったシナジー効果を打ち消し、時には買収した事業の存続すら危うくするほどのインパクトを持ちます。

1.2.2 専門家不在による偶発債務と簿外債務のリスク

M&Aにおける最大のリスクの一つが、貸借対照表に記載されていない「簿外債務」や、将来債務に発展する可能性のある「偶発債務」です。これらは財務諸表を分析するだけでは発見が極めて困難であり、専門家の深い洞察力と経験がなければ見抜くことはできません。

  • 簿外債務の例:退職給付引当金の不足、未払いの残業代、実態がファイナンス・リースであるにもかかわらず賃貸借処理されている資産など。
  • 偶発債務の例:係争中の訴訟における将来の損害賠償義務、製品の欠陥に対するリコール費用、他社への債務保証、環境汚染に対する修復義務など。

もし、デューデリジェンスでこれらの債務を見逃したまま買収してしまうと、ある日突然、巨額の支払義務が発生し、買い手企業の財務状況を著しく悪化させることになります。適切な専門家への相談は、こうした「見えない時限爆弾」から自社を守るための、最も効果的な保険なのです。

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2. M&Aデューデリジェンスの主要な相談先とその特徴
M&Aデューデリジェンスの主要な相談先 各専門分野のスペシャリスト FAS系コンサル・監査法人 BIG4系(デロイト、PwC、EY、KPMG) 主な担当領域: • 財務デューデリジェンス • 税務デューデリジェンス • 企業価値評価 強み: • 高度な専門知識 • 大規模案件への対応力 • グローバルネットワーク 弁護士事務所・法律事務所 四大法律事務所など 主な担当領域: • 法務デューデリジェンス • 契約関係・訴訟リスク • 知的財産・許認可 強み: • 法的リスクの専門的分析 • 契約交渉サポート • コンプライアンス評価 総合的サービス提供 M&A仲介・アドバイザリー 中小企業M&Aに強み 主な担当領域: • M&Aプロセス全体管理 • 交渉支援・マッチング • 専門家の紹介・調整 強み: • ワンストップ対応 • 豊富な案件情報 • 中小企業向け実績 金融機関のM&A部門 銀行・証券会社 主な担当領域: • M&Aアドバイザリー • M&Aファイナンス • 企業マッチング 強み: • 広範な顧客ネットワーク • 資金調達との一体提案 • 長年の取引関係 連携 協力 ※ 案件の規模や複雑さに応じて、適切な相談先を選択することが重要

M&Aのデューデリジェンス(DD)を依頼できる専門家は多岐にわたります。対象企業の規模やM&Aの目的、調査したい領域によって最適な相談先は異なります。ここでは、主要な相談先を「各専門分野のスペシャリスト」と「総合的なサービスを提供する相談先」の2つに大別し、それぞれの特徴、強み、注意点を詳しく解説します。

2.1 各専門分野のスペシャリスト

特定の分野において、高度な専門知識と豊富な経験を持つ専門家集団です。財務・税務、法務といった特定の領域のリスクを詳細に洗い出す場合に依頼します。大規模で複雑なディールでは、複数の専門家が連携してデューデリジェンスチームを組成することも一般的です。

2.1.1 FAS系コンサルティングファームと監査法人

FAS(Financial Advisory Service)は、M&Aに関する財務アドバイザリーサービスを提供する専門組織です。特に、デロイト、PwC、EY、KPMGといった世界的な会計事務所(BIG4)系のFASは、M&Aの財務・税務デューデリジェンスにおいて中心的な役割を担っています。監査法人としての知見を活かし、会計基準に基づいた厳格な調査を実施します。

主な役割は、対象企業の財政状態や収益性を分析し、正常な収益力や潜在的な財務リスク(簿外債務、偶発債務など)を特定することです。また、企業価値評価(バリュエーション)やM&Aの会計処理に関するアドバイスも提供します。

FAS系コンサルティングファーム・監査法人の特徴
項目 内容
主な担当領域 財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンス、企業価値評価(バリュエーション)
強み ・高度な会計・税務知識と豊富な実績
・大規模・複雑な案件やクロスボーダー案件への対応力
・グローバルネットワークを活かした情報収集力
注意点 ・費用が比較的高額になる傾向がある
・法務DDやビジネスDDなど、専門外の領域は別途依頼が必要
・中小規模のM&Aではオーバースペックとなる可能性がある
代表的な相談先 デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー、PwCアドバイザリー、EYストラテジー・アンド・コンサルティング、KPMG FAS、山田コンサルティンググループなど
2.1.2 弁護士事務所と法律事務所

法務デューデリジェンスは、弁護士が所属する法律事務所の独壇場です。M&A取引における法的なリスクを網羅的に洗い出し、その影響を評価します。契約書のレビューから許認可の状況、訴訟リスク、知的財産権、人事・労務問題まで、調査範囲は多岐にわたります。

特に、M&Aの最終契約書(SPA)の交渉・作成においては、法務デューデリジェンスで発見されたリスクを契約条件に反映させるため、弁護士の役割は極めて重要です。企業の根幹に関わる重要な法的問題を看過すると、M&A後に深刻なトラブルに発展する可能性があるため、専門家による調査が不可欠です。

弁護士事務所・法律事務所の特徴
項目 内容
主な担当領域 法務デューデリジェンス全般(契約関係、訴訟、知的財産、許認可、人事労務など)
強み ・法的リスクの発見・分析に関する深い専門知識
・最終契約書へのリスク反映や交渉における法的サポート
・コンプライアンス体制の評価
注意点 ・財務やビジネス面のリスク評価は専門外
・事務所によってM&Aに関する経験値や得意な業界が異なる
代表的な相談先 西村あさひ法律事務所、アンダーソン・毛利・友常法律事務所、長島・大野・常松法律事務所、森・濱田松本法律事務所(四大法律事務所)、その他M&Aを専門とするブティック型法律事務所など
2.2 総合的なサービスを提供する相談先

M&Aのプロセス全体をサポートするプレイヤーです。デューデリジェンスだけでなく、相手企業の探索(ソーシング)から交渉、クロージングまでを一気通貫で支援します。自社に専門チームを抱える場合や、外部の専門家と連携してプロジェクトを管理する場合があります。

2.2.1 M&A仲介会社とアドバイザリー

M&A仲介会社やM&Aアドバイザリー(FA:ファイナンシャル・アドバイザー)は、M&Aの成立を目的として、売り手と買い手のマッチングや交渉支援、手続きのサポートを行います。特に中小企業のM&Aにおいては、最も身近な相談先と言えるでしょう。

デューデリジェンスに関しては、提携している会計事務所や法律事務所を紹介したり、プロジェクトマネージャーとして各専門家を取りまとめたりする役割を担います。ワンストップで相談できる手軽さが魅力ですが、DD自体の専門性は外部パートナーに依存することが多い点を理解しておく必要があります。

M&A仲介会社・アドバイザリーの特徴
項目 内容
主な担当領域 M&Aプロセス全体の管理、交渉支援、専門家の紹介・調整
強み ・豊富な案件情報とマッチング能力
・中小企業のM&Aに関する多くの実績とノウハウ
・相談からクロージングまでワンストップで対応可能
注意点 ・DDの専門家が社内にいない場合がある(外部委託が基本)
・仲介会社は売り手・買い手双方と契約するため、利益相反の可能性に留意
・成功報酬型の料金体系が一般的
代表的な相談先 日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク、M&A総合研究所など
2.2.2 金融機関(銀行・証券会社)のM&A部門

メガバンクや地方銀行、証券会社なども、法人顧客向けにM&Aアドバイザリーサービスを提供しています。長年の取引関係から得られる豊富な企業情報やネットワークを活かし、M&Aの相手先を紹介したり、プロセス全体を支援したりします。

金融機関の最大の強みは、M&Aに必要な資金調達(M&Aファイナンス)と一体でサービスを提供できる点です。デューデリジェンスについても、自行の専門部署や提携先のFAS、法律事務所と連携して実施します。主に中堅企業から大企業向けのサービスが中心となります。

金融機関(銀行・証券会社)のM&A部門の特徴
項目 内容
主な担当領域 M&Aアドバイザリー業務全般、M&Aファイナンスの提供
強み ・広範な顧客ネットワークと情報網
・M&Aファイナンスと一体となった提案力
・長年の取引関係に基づく信頼性
注意点 ・主に中堅・大企業が対象で、小規模案件は対応が難しい場合がある
・融資部門との利益相反について留意が必要なケースもある
代表的な相談先 三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行などの法人部門、野村證券、大和証券などの投資銀行部門
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3. 失敗しないM&Aデューデリジェンスの相談先の選び方

M&Aデューデリジェンス(DD)の相談先は多岐にわたりますが、どの専門家を選ぶかによってM&Aの成否が大きく左右されます。

自社の規模や状況、そしてM&Aの目的に合致した最適なパートナーを見つけることが、リスクを最小限に抑え、成功の確率を高めるための第一歩です。ここでは、数多くの選択肢の中から自社に最適な相談先を選び抜くための具体的な基準とプロセスを解説します。

3.1 自社の状況に合わせた選定基準

相談先を選ぶ最初のステップは、自社の置かれている状況を客観的に把握することです。M&Aの規模や対象企業の業界、そして自社の文化などを多角的に分析し、選定の軸を明確にしましょう。

3.1.1 ディールサイズと業界特有の論点

M&Aの取引価額、いわゆる「ディールサイズ」は、相談先を選ぶ上で最も重要な指標の一つです。ディールサイズによって、必要とされる専門家の体制や調査の深度が大きく異なるためです。

  • 小規模M&A(数千万円~数億円)
    小規模なM&Aでは、公認会計士事務所や税理士法人、M&Aブティックファームなどが主な相談先となります。限られた予算の中で、財務・税務DDを中心に、重要なリスクを効率的に洗い出すことが求められます。フットワークが軽く、柔軟な対応が期待できる専門家が適しています。
  • 中規模M&A(数億円~数十億円)
    この規模になると、FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)系コンサルティングファームや中堅の監査法人、法律事務所などが候補となります。財務・税務・法務DDに加えて、ビジネスDDや人事DDなど、より広範な調査が必要になるケースが増えます。各分野の専門家がチームを組んで対応できる総合力が求められます。
  • 大規模M&A(数百億円以上)
    大規模案件では、BIG4と呼ばれる大手監査法人系のFASや大手法律事務所、外資系投資銀行などが中心的な役割を担います。クロスボーダー案件も多く、グローバルなネットワークと各専門分野における深い知見、そして大規模なチームを組成できる組織力が必要不可欠です。

また、対象企業の業界特有の論点を見極めることも重要です。例えば、製造業であれば環境汚染リスクや工場の設備評価、IT企業であれば知的財産権の帰属やソフトウェアの脆弱性、人材の流出リスクなどが重要な調査項目となります。その業界におけるM&Aの実績が豊富で、特有のリスクに精通した専門家を選ぶことが、見落としを防ぐ鍵となります。

3.1.2 企業文化と担当者との相性

デューデリジェンスは、企業の内部情報という非常にセンシティブな情報を扱うプロセスです。そのため、専門的なスキルだけでなく、自社の企業文化や価値観に合うパートナーを選ぶことが、円滑なコミュニケーションとプロジェクトの成功に繋がります。

例えば、トップダウンで迅速な意思決定を重視する企業であれば、スピーディーな報告と的確な示唆をくれる専門家が合うでしょう。一方で、現場の意見を尊重し、合意形成を重視する企業であれば、丁寧なヒアリングと詳細な分析でサポートしてくれる専門家が適しています。

さらに、最終的に重要となるのは「担当者との相性」です。M&Aのプロセスは数ヶ月に及ぶこともあり、困難な局面も少なくありません。そのような状況下で、気軽に相談でき、信頼して任せられる担当者であるかは極めて重要です。

契約前の面談では、プロジェクトの責任者だけでなく、実際にDDを担当する実務メンバーとも顔を合わせ、以下の点を確認しましょう。

  • 専門分野における経験と実績
  • コミュニケーションの取りやすさ(レスポンスの速さ、説明の分かりやすさ)
  • 自社のビジネスやM&Aの目的への理解度
  • プロジェクトに対する熱意

会社のブランドや規模だけで選ぶのではなく、最終的には「人」で選ぶという視点を持つことが、後悔のない選択に繋がります。

3.2 具体的な選定プロセスと注意点

自社に合った選定基準が明確になったら、次はいよいよ具体的な選定プロセスに進みます。複数の候補先を比較検討し、契約内容を精査することで、費用対効果が高く、信頼できるパートナーを選びましょう。

3.2.1 提案書(プロポーザル)の比較検討ポイント

まずは3社程度の候補先に声をかけ、秘密保持契約(NDA)を締結した上で、M&Aの概要を説明し、提案書(プロポーザル)の提出を依頼します。提出された提案書は、単に費用だけを比較するのではなく、以下のポイントを総合的に評価することが重要です。下記の表を参考に、各社の提案内容を整理・比較してみましょう。

デューデリジェンス提案書の比較検討ポイント
比較項目 確認すべきポイント
DDのスコープ(調査範囲) 財務・税務・法務といった基本的な範囲に加え、自社が懸念しているビジネス、人事、IT、環境などの論点が網羅されているか。調査の深度は適切か。
体制と主要メンバー プロジェクト責任者や実務担当者の経歴、公認会計士・弁護士などの資格、同業種・同規模のM&A案件における実績は十分か。
具体的な調査手法とスケジュール 資料分析、マネジメントインタビュー、現地調査(オンサイトDD)などの具体的な進め方。キックオフから最終報告会までの詳細なタイムラインが示されているか。
成果物(アウトプット) 報告書のサンプルや形式。単なる事実の羅列ではなく、リスクの重要度評価やディールへの影響、具体的な対応策まで踏み込んだ提言が含まれているか。
M&A全体への理解度 DDで発見された論点が、最終契約や買収価格(バリュエーション)、PMI(統合プロセス)にどう影響するかという視点を持っているか。

優れた提案書は、テンプレート的な内容ではなく、自社の状況やM&Aの背景を深く理解した上で、調査の勘所が的確に示されています。提案内容に関するプレゼンテーションを受け、質疑応答を通じて、候補先の理解度や専門性の高さを確かめましょう。

3.2.2 費用(フィー)体系と契約内容の確認

デューデリジェンスの費用は、専門家のスキルと投入時間によって決まるため、決して安価ではありません。だからこそ、費用体系と契約内容を事前にしっかりと確認し、納得した上で契約を結ぶ必要があります。

費用体系は、主に以下の種類があります。

  • タイムチャージ制
    コンサルタントや弁護士の役職に応じた時間単価(タイムレート)に、実際にかかった作業時間を掛けて算出する方法。最も一般的な体系ですが、作業が長引くと費用が想定を上回るリスクがあります。そのため、事前に費用の概算見積もりや上限(キャップ)を設定できるかを確認することが重要です。
  • 固定報酬制
    事前に調査範囲と作業内容を定義し、総額を固定で決定する方法。予算管理がしやすいメリットがありますが、想定外の調査が必要になった場合に追加費用が発生する可能性があります。

また、見積もり金額を確認する際は、報酬本体だけでなく、交通費・宿泊費・印刷費といった実費(アウトオブポケット経費)が含まれているか、別途請求されるのかも必ず確認しましょう。

最終的に業務委託契約を締結する際には、弁護士などの専門家にもレビューを依頼し、以下の点に注意してください。

  • 業務範囲(スコープ)の明確化:どこまでの調査を依頼するのか、契約書上で具体的に定義する。
  • 報告義務:中間報告や最終報告の形式、時期などを明記する。
  • 秘密保持義務:DDを通じて知り得た情報の取り扱いについて厳格に定める。
  • 免責事項:専門家が責任を負わない範囲が不当に広くなっていないか確認する。
  • 契約解除条項:M&A交渉が破談になった場合など、中途解約時の費用精算方法を定めておく。

これらのプロセスを丁寧に進めることが、M&Aデューデリジェンスにおける不要なトラブルを避け、信頼できるパートナーと共にプロジェクトを成功に導くための確実な方法です。

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4. 今後のM&Aで求められるデューデリジェンスと相談先の動向

現代のM&Aは、単なる事業規模の拡大や多角化にとどまらず、デジタルトランスフォーメーション(DX)への対応、サステナビリティ経営の実現、グローバル市場での競争力強化など、より複雑で戦略的な目的を持つようになりました。

このような背景から、M&Aの成否を判断するデューデリジェンス(DD)の対象領域も、従来の財務・法務・税務といった領域から大きく広がり、深化しています。ここでは、今後のM&Aで成功を収めるために不可欠となる新しいデューデリジェンスの潮流と、それに対応できる相談先の動向について解説します。

4.1 デューデリジェンスの多様化と深化

ビジネス環境の急速な変化に伴い、これまで見過ごされがちだったリスクや、新たな価値の源泉を特定するためのデューデリジェンスが重要視されています。特に、IT、人事、そしてESGの3つの領域は、M&A後の企業価値を大きく左右する要素として注目されています。

4.1.1 IT・人事・ESGデューデリジェンスの重要性

これら3つの領域は、それぞれが独立しているだけでなく、相互に密接に関連し合っています。例えば、ITシステムの脆弱性は情報漏洩というガバナンス(G)の問題に直結し、従業員のエンゲージメント低下は人事(S)の問題として顕在化します。

したがって、これらのデューデリジェンスを個別に実施するだけでなく、統合的な視点で評価できる専門家の知見が求められます。

多様化するデューデリジェンスの概要
デューデリジェンスの種類 主な調査項目 主な相談先
ITデューデリジェンス システム統合の実現可能性とコスト、情報セキュリティ体制、ライセンス契約の承継、保有データの価値評価、基幹システム(ERP)の状況 ITコンサルティングファーム、監査法人やFAS系のIT専門チーム、サイバーセキュリティ専門会社
人事デューデリジェンス キーパーソンのリテンションプラン、人事制度・給与体系の統合、企業文化・風土のギャップ、簿外債務(未払残業代など)、労働組合の有無 人事コンサルティングファーム、社会保険労務士法人、組織・人事分野に強みを持つ法律事務所
ESGデューデリジェンス 土壌汚染などの環境リスク、サプライチェーンにおける人権問題、製品の安全性、贈収賄防止などのコンプライアンス体制、情報開示の状況 ESG専門コンサルティングファーム、監査法人のサステナビリティ部門、環境調査会社、関連法規に詳しい法律事務所

これらの新しい分野のデューデリジェンスを依頼する際は、財務や法務といった伝統的なデューデリジェンスを行うチームとの連携が極めて重要です。各分野の専門家が情報を共有し、M&Aのリスクと機会を多角的に分析できる体制を構築できるかどうかが、相談先選定の重要なポイントとなります。

4.1.2 クロスボーダーM&Aにおける留意点

日本企業による海外企業の買収、あるいは外資系企業による日本企業の買収といったクロスボーダーM&Aでは、デューデリジェンスの難易度が格段に上がります。言語や文化の壁はもちろんのこと、国ごとに異なる法制度、会計基準、税制、商慣習への深い理解が不可欠です。

特に注意すべき点として、以下のような項目が挙げられます。

  • カントリーリスク:対象企業が所在する国の政治・経済情勢、為替変動リスク、法規制の変更リスクなどを評価します。
  • コンプライアンス:米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)や英国の贈収賄防止法など、グローバルに適用される贈収賄規制への準拠状況を確認します。
  • 税務ストラクチャー:国際的な租税回避を防ぐためのタックスヘイブン対策税制やBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトへの対応状況など、国際税務のリスクを精査します。
  • 労働関連法規:現地の労働法や労働組合との関係、年金制度などを詳細に調査し、買収後の人員整理や制度統合に伴うリスクを洗い出します。

クロスボーダーM&Aのデューデリジェンスを成功させるためには、グローバルに拠点を持つ大手監査法人系のFASや、世界各国の法律事務所と提携している法律事務所など、広範なネットワークと現地の事情に精通した専門家を擁する相談先を選ぶことが必須条件となります。

4.2 PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を見据えた相談先

M&Aの真の価値は、契約締結後に双方の事業をいかにスムーズに統合し、シナジー効果を創出できるかにかかっています。この統合プロセスをPMI(Post Merger Integration)と呼びますが、デューデリジェンスの段階からPMIの成功を見据えて課題を抽出しておくことが、M&A全体の成功確率を高める上で極めて重要です。

4.2.1 M&A後の統合プロセスを支援する専門家

デューデリジェンスは、単なるリスク発見のプロセスではありません。発見された課題、例えば「対象会社のITシステムが老朽化している」「両社の評価制度が大きく異なり、従業員の不満につながる可能性がある」といった情報を基に、PMIでどのようなアクションを取るべきかを計画するためのインプットとなります。

そのため、相談先を選ぶ際には、デューデリジェンスの報告書を提出して終わりではなく、その結果を踏まえてPMIフェーズで具体的な支援を提供できるかどうかも評価すべきです。具体的には、以下のような専門家がPMIを支援します。

  • 戦略系・総合系コンサルティングファーム:経営戦略の再構築、業務プロセスの統合、組織設計、シナジー創出の実行プラン策定などを主導します。
  • PMI専門ブティックファーム:M&A後の統合実務に特化し、PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)の設置・運営など、ハンズオンでの支援を提供します。
  • デューデリジェンスを担当した専門家:財務、法務、人事などの各分野でデューデリジェンスを担当したFASや法律事務所が、引き続きPMIの個別課題(会計方針の統一、契約の巻き直し、人事制度統合など)を支援するケースも増えています。

デューデリジェンスとPMIを一気通貫で支援できる相談先は、情報の引き継ぎがスムーズで、DDで得た深いインサイトをPMIに直接活かせるという大きなメリットがあります。

4.2.2 長期的なリレーションシップが築けるパートナーの選定

特に、成長戦略の一環として継続的にM&Aを検討している企業にとって、相談先は一回限りの取引相手ではなく、長期的な視点で伴走してくれるパートナーとなり得ます。自社の事業内容や経営戦略、企業文化を深く理解し、案件ごとに最適なアドバイスを提供してくれる存在は非常に貴重です。

したがって、相談先を選定する際には、提案内容や費用だけでなく、担当者の知見や誠実さ、コミュニケーションの円滑さといった「相性」も重視すべきです。また、自社の成長ステージや将来のM&A戦略までを視野に入れ、長期的な関係性を築けるかどうかを見極めることが、将来の成功に向けた賢明な選択と言えるでしょう。

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5. まとめ

M&A成功の鍵を握るデューデリジェンスでは、相談先選びが極めて重要です。FASや弁護士、M&A仲介会社など各専門家の特徴を理解し、自社のディール規模や業界特性に合わせて選ぶ必要があります。

潜在リスクを見抜き、M&A後の統合(PMI)まで見据えた最適なパートナーを見つけることが、M&Aの価値を最大化する道筋となります。

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