パーソナルジムの事業譲渡:最適な売却・買収を成功させる完全ガイド【東京都・神奈川県】
東京都・神奈川県でパーソナルジムの事業譲渡をご検討中ですか。本記事は、M&Aを成功させる売却・買収戦略から、契約、統合プロセス(PMI)までを網羅した完全ガイドです。
個人事業主でも実行でき、必要な資産のみを引き継げる事業譲渡は、パーソナルジムのM&Aに最適な手法です。売り手は高額売却を、買い手は優良案件の獲得を実現するための具体的なノウハウを、専門家が徹底解説します。
【無料】会社売却・事業承継のご相談はコチラ
「M&Aは何から始めればいいかわからない」という経営者からも数多くのご相談をいただいています。M&Aを成功に導くはじめの一歩は無料のオンライン相談から。お気軽にご相談ください。
365日開催オンライン個別相談会
編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
1. パーソナルジムM&Aにおける事業譲渡の基礎知識
東京都内や神奈川県でパーソナルジムの売却や買収を検討する際、M&Aの手法として「事業譲渡」が有力な選択肢となります。M&Aには様々な手法が存在しますが、特にパーソナルジム業界の特性と相性が良く、多くのケースで採用されています。
この章では、事業譲渡の基本的な仕組みやメリット・デメリットを、代表的なM&A手法である「株式譲渡」と比較しながら、分かりやすく解説します。
事業譲渡は、会社が営む事業の全部または一部を他の会社に譲渡するM&Aスキームです。会社の経営権そのものを移転させる株式譲渡とは異なり、譲渡する資産や負債を個別に選択できる点が最大の特徴です。以下に、両者の主な違いをまとめました。
項目 | 事業譲渡 | 株式譲渡 |
---|---|---|
譲渡対象 | 事業に関する資産・負債・契約などを個別に選択 | 会社の株式(経営権) |
債務の引継ぎ | 原則、合意した負債のみ引き継ぐ(簿外債務のリスクが低い) | 会社の権利義務をすべて包括的に引き継ぐ(簿外債務も引き継ぐ) |
手続きの複雑さ | 資産・負債・契約ごとに個別の移転手続きが必要で、複雑になりやすい | 株主の変更手続きが中心で、比較的シンプル |
実行可能な当事者 | 法人、個人事業主ともに可能 | 株式会社のみ可能 |
税金(売り手側) | 譲渡益に対して法人税(個人の場合は所得税)が課税 | 株式の譲渡益に対して所得税・住民税が課税 |
売り手にとって、事業譲渡の最大のメリットは、意図しない債務まで買い手に引き継がれるリスクを回避できる点にあります。
これを「偶発債務の遮断」と呼びます。例えば、帳簿には記載されていない未払いの残業代や、将来的に発生する可能性のある損害賠償請求(トレーニング中の事故など)といった「簿外債務」は、包括的に会社を引き継ぐ株式譲渡では買い手に移転してしまい、後々のトラブルの原因となり得ます。
事業譲渡では、譲渡する資産と負債を契約書で明確に特定します。そのため、契約書に含まれていない簿外債務は原則として売り手側に残ります。これにより、売り手はクリーンな状態で事業を売却でき、買い手も予期せぬリスクを負うことなく事業を開始できるため、双方にとって安心して取引を進められるのです。
1.1.2 【買い手】必要な資産のみを選択して買収できる柔軟性買い手にとっての事業譲渡の魅力は、必要な経営資源だけを選んで買収できる柔軟性にあります。パーソナルジムの買収を検討する際、買い手が魅力を感じるのは、主に以下のような資産です。
- 店舗の立地(駅からの近さ、視認性)
- 内装やトレーニング機器
- 優秀なパーソナルトレーナーとの雇用契約
- 優良な顧客リストや会員契約
- ウェブサイトやSNSアカウントなどのマーケティング資産
事業譲渡であれば、これらの価値ある資産だけを選んで引き継ぎ、一方で不要な資産(老朽化した機器など)や引き継ぎたくない負債(過大なリース契約など)を譲渡対象から除外することが可能です。これにより、買い手は買収後の事業運営をスムーズにスタートでき、投資効率を最大化することができます。
1.2 なぜ今、パーソナルジムのM&Aで事業譲渡が選ばれるのか近年、健康志向の高まりを背景に市場が拡大したパーソナルジム業界ですが、同時に競争も激化しています。特に競合の多い東京都や神奈川県では、事業の選択と集中、大手資本によるエリア拡大などを目的としたM&Aが活発化しています。その中で、事業譲渡が特に選ばれやすいのには、パーソナルジム業界ならではの理由があります。
1.2.1 個人事業主でも実行可能なM&Aスキームパーソナルジムは、法人化せずに個人事業主として運営されているケースが少なくありません。株式を発行していない個人事業主は、当然ながら株式譲渡という手法を用いることができません。しかし、事業譲渡は事業そのものを売買の対象とするため、運営主体が法人か個人かを問いません。
このため、小規模ながらも地域に根差した質の高いサービスを提供してきた個人事業主のジムオーナーが、後継者不在や自身のキャリアチェンジを理由に事業を手放す際、事業譲渡は唯一かつ最適なM&Aスキームとなります。
これにより、オーナーは創業者利益を確保でき、買い手はゼロから立ち上げるよりも低リスクで事業基盤を獲得できるという、双方にメリットのある取引が実現します。
東京都内や神奈川県内で複数の店舗を展開するジム経営者が、経営戦略の見直しから一部の店舗だけを売却したいと考えるケースも増えています。例えば、「不採算店舗を整理して経営資源を優良店舗に集中させたい」「特定のエリアから撤退し、得意なエリアでのドミナント戦略を強化したい」といったニーズです。
このような事業の一部を切り出して売却することを「カーブアウト」と呼びますが、事業譲渡はこのカーブアウトと非常に相性の良い手法です。
特定の店舗に関連する資産(不動産賃貸借契約、トレーニング機器、スタッフ、顧客など)だけを切り出して譲渡対象とすることで、会社全体を売却することなく、事業ポートフォリオの再構築を柔軟に行うことができます。これにより、売り手は経営の効率化を図り、買い手は希望するエリアの店舗をピンポイントで取得することが可能になります。
東京都内や神奈川県といった競争の激しいエリアでパーソナルジムの事業譲渡を成功させ、より高い価格で売却するためには、戦略的な準備が不可欠です。
買い手は単に設備や立地だけでなく、事業の将来性や収益の安定性を厳しく評価します。ここでは、M&Aの専門家が実践する、事業価値を最大化し高額売却を実現するための具体的な戦略とプロセスを詳細に解説します。
「磨き上げ(バリューアップ)」とは、M&Aの実行前に自社の事業価値を高めるための改善活動を指します。買い手にとって魅力的で、リスクの少ない事業であることを客観的なデータや仕組みで示すことが、高額売却の鍵となります。
特にパーソナルジムにおいては、「ヒト」への依存度が高いビジネスモデルからの脱却が重要なテーマです。
特定のカリスマトレーナーの人気に依存した経営は、そのトレーナーが退職した場合に事業価値が大きく毀損する「キーマンリスク」を抱えています。買い手はこのリスクを最も懸念します。そのため、誰が担当しても一定水準以上のサービスを提供できる仕組みを構築し、「脱・属人経営」を実現することが企業価値を飛躍的に高めます。
- 研修マニュアルの整備:新人トレーナー向けの研修プログラム、指導技術のマニュアル、接客応対の標準化など、教育制度を文書化・体系化します。これにより、再現性の高い人材育成が可能であることをアピールできます。
- 指導メソッドの確立:科学的根拠に基づいた独自のトレーニングメソッドや食事指導プログラムを確立し、ジム全体のブランドとして標準化します。特定の個人の技術ではなく、会社のノウハウとして資産価値が評価されます。
- オーナーの現場離脱:オーナー自身がプレイングトレーナーとして現場の最前線に立っている場合、オーナーが抜けた後の事業継続性に疑問符がつきます。店長やチーフトレーナーを育成し、オーナー不在でも店舗運営が円滑に行える組織体制を構築することが重要です。
安定したキャッシュフローを生み出す顧客基盤は、事業の安定性を示す最も重要な指標の一つです。特に、継続的に収益が見込める月額課金(サブスクリプション)モデルは、買い手にとって非常に魅力的です。
- 顧客管理(CRM)の徹底:顧客の属性(年齢、性別、職業)、入会日、利用コース、継続期間、LTV(顧客生涯価値)などをデータで一元管理します。分析された質の高い顧客リストは、それ自体が価値ある無形資産となります。
- サブスク会員比率の向上:都度払いのチケット制だけでなく、月額会費制の会員を増やすことで、将来の売上予測が立てやすくなります。高い継続率や低い解約率を具体的な数値で示すことができれば、交渉を有利に進めることができます。
- 高単価・優良顧客層の開拓:東京都心部や神奈川県の富裕層エリアでは、経営者や専門職といった高単価な顧客層がターゲットとなります。こうした優良顧客が多く在籍していることは、ジムのブランド価値と収益性の高さを証明します。
事業の「磨き上げ」と並行して、事業譲渡の法務・実務プロセスを理解し、計画的に進める必要があります。M&A仲介会社やアドバイザーと連携しながら、以下のステップを確実に実行していくことが、スムーズな取引の実現につながります。
2.2.1 譲渡対象資産リストの作成と債権者保護手続き事業譲渡では、どの資産と負債を買い手に引き継ぐのかを明確に定義することが最初のステップです。この範囲を明確にした「譲渡対象資産リスト」を作成し、双方が合意することが後のトラブルを未然に防ぎます。
具体的に譲渡の対象となる資産・負債の例を以下に示します。
分類 | 具体的な資産・負債の例 | 注意点 |
---|---|---|
有形固定資産 | トレーニングマシン、計測機器、内装設備、PC、ロッカー、什器備品 | リース物件が含まれていないか確認。リース契約の承継手続きが別途必要。 |
無形資産 | 店舗の屋号(商号)、顧客リスト、Webサイト、SNSアカウント、予約システム、指導ノウハウ | 顧客リストの譲渡には個人情報保護の観点から顧客の同意が必要となる場合がある。 |
契約関係 | 店舗の賃貸借契約、従業員との雇用契約、各種取引先との契約 | 契約の相手方から譲渡(承継)に関する承諾を得る必要がある。 |
負債 | 買掛金、未払金、預り金(前受金)など | 原則として負債は譲渡対象に含めないことが多いが、事業継続に必要なものは交渉次第。 |
また、事業譲渡において売り手の商号を買い手が引き続き使用する場合、売り手は会社法に基づき、債権者保護手続き(官報への公告など)を行う義務が生じる可能性があります。専門家と相談し、必要な手続きを漏れなく行いましょう。
2.2.2 従業員の転籍同意と顧客への通知・承諾プロセスパーソナルジム事業の価値の源泉である従業員と顧客の円滑な引き継ぎは、M&Aの成否を分ける最も重要な要素です。
従業員の転籍同意:
事業譲渡では、従業員の雇用契約は自動的には買い手に引き継がれません。そのため、譲渡後も継続して勤務を希望する従業員一人ひとりから、買い手の会社へ「転籍」することへの個別同意を取り付ける必要があります。同意取得のタイミングは、一般的に基本合意契約の締結後、デューデリジェンス(買収監査)の過程で進められます。従業員の不安を払拭するため、譲渡の背景、買い手の情報、今後の処遇(労働条件)などを丁寧に説明し、良好な関係を維持しながら同意を得ることが極めて重要です。
顧客への通知・承諾プロセス:
顧客の個人情報を買い手に引き継ぐためには、個人情報保護法の観点から、原則として顧客本人からの同意が必要となります。運営会社が変更になる旨を通知し、サービスの継続利用をもって黙示の同意とみなす、あるいは書面やWebフォームで明示的な同意を得るなどの方法が考えられます。回数券やコース料金を前払いで受け取っている顧客に対しては、サービスが滞りなく継続されることを明確に伝え、安心感を与えることが顧客離れを防ぐ上で不可欠です。
パーソナルジムの事業譲渡による買収は、新規開業に比べて迅速に事業を開始でき、既存の顧客基盤や運営ノウハウを引き継げる大きなメリットがあります。
しかし、東京都や神奈川県のような競争が激しいエリアでは、数多くの案件の中から真に価値のある優良案件を見極める眼力が成功の鍵を握ります。ここでは、買い手の視点から、案件探し(ソーシング)からデューデリジェンス、価格交渉に至るまでの具体的な実行プロセスを詳細に解説します。
M&Aの成否は、初期段階の案件探索と、その後の詳細な調査(デューデリジェンス)の質に大きく左右されます。特にパーソナルジムのような属人性が高くなりがちなビジネスでは、財務諸表に表れない定性的な価値をいかに正確に把握するかが重要です。
3.1.1 M&Aプラットフォームを活用したノンネームシートの初期分析近年、パーソナルジムのようなスモールM&Aの案件探しは、オンラインのM&Aプラットフォームが主流となっています。TRANBI(トランビ)やBATONZ(バトンズ)といったプラットフォームには、東京都内や神奈川県内の多数の案件が登録されており、匿名性の高い「ノンネームシート」を閲覧することからソーシングが始まります。
ノンネームシートは、売り手企業が特定されない範囲で事業概要がまとめられた資料です。この段階で、自社の買収戦略と合致するかを効率的にスクリーニングします。最低限、以下の項目は必ず確認しましょう。
- エリア:東京都(23区、市部)、神奈川県(横浜市、川崎市など)の具体的な所在地。商圏の将来性や自社の既存店舗とのシナジーを検討します。
- 事業概要:特化型(例:女性専門、短期集中ダイエット)か、総合型か。提供するサービスの独自性や強みを確認します。
- 財務情報:直近の売上高、営業利益、譲渡希望価格。大まかな収益性と投資回収期間をシミュレーションします。
- 譲渡理由:「後継者不在」「事業の選択と集中」など、ポジティブな理由かを確認します。ネガティブな理由(業績不振、トラブルなど)が隠れていないか推測することも重要です。
これらの情報を基に、初期的な関心を持った案件については、秘密保持契約(NDA)を締結し、より詳細な企業情報が記載された「インフォメーション・メモランダム(IM)」の開示を求め、次のステップへと進みます。
3.1.2 店舗オペレーションとトレーナーの質を見抜く現地視察(サイトビジット)書類上の情報だけでは、パーソナルジムの真の価値は判断できません。秘密保持契約締結後、売り手の許可を得て行う現地視察(サイトビジット)は、事業の実態を把握するための最も重要なプロセスです。
一般の顧客を装って訪問する場合もあれば、営業時間外にオーナー立ち会いの下で内覧する場合もあります。サイトビジットでは、以下の点を重点的にチェックします。
カテゴリ | 具体的なチェック項目 | 確認のポイント |
---|---|---|
立地・環境 | 最寄り駅からの距離、周辺の競合状況、ターゲット顧客層の居住・勤務エリアとの一致 | 集客のしやすさ、将来的な商圏の成長性を見極める。 |
店舗・設備 | 清潔感、動線、トレーニングマシンの種類・状態、更衣室やシャワー室の快適性 | 買収後すぐに修繕や追加投資が必要ないか。ブランドイメージと合致しているか。 |
オペレーション | 受付対応、カウンセリングの流れ、清掃状況、予約管理システム | 運営が効率的に標準化されているか。マニュアルの有無。 |
トレーナー | 接客態度、指導の専門性、顧客とのコミュニケーション、勤続年数 | ジムの価値の源泉。キーマンの離職リスクや属人性の高さを評価する。 |
顧客 | 顧客層(年齢・性別)、トレーニング中の雰囲気、顧客満足度の高さ | 優良な顧客が定着しているか。コミュニティが形成されているか。 |
また、オーナーへのヒアリングでは、集客方法(Web広告、SNS、紹介など)と費用対効果、顧客の継続率や平均利用期間、トレーナーの採用基準や育成プログラムといった、ビジネスの根幹に関わる情報を深掘りすることが不可欠です。これらの定性的な情報は、後の事業価値評価における「営業権(のれん)」の評価に大きく影響します。
3.2 パーソナルジムの事業価値評価と価格交渉デューデリジェンスで得た情報を基に、客観的な根拠に基づいた事業価値評価(バリュエーション)を行います。売り手の希望価格を鵜呑みにするのではなく、自ら適正な買収価格を算出し、自信を持って価格交渉に臨むことが重要です。
3.2.1 修正純資産法と営業権(のれん)の評価方法中小規模のパーソナルジムの事業価値評価では、一般的に以下の2つの要素を合算して算出します。
- 時価純資産:貸借対照表(BS)に計上されている資産・負債を時価で評価し直したものです。特にトレーニングマシンは、帳簿上の価値(簿価)と実際の市場価値(時価)が乖離していることが多いため、中古市場価格などを参考に再評価します。
- 営業権(のれん):ブランド力、顧客基盤、優れたトレーナー陣、運営ノウハウといった、貸借対照表には表れない無形の価値を指します。一般的には「実質的な年間営業利益の3年~5年分」を一つの目安としますが、パーソナルジムの特性を考慮して調整が必要です。
評価項目 | 加算要因(高く評価) | 減算要因(低く評価) |
---|---|---|
収益モデル | 安定した月額課金(サブスク)会員が多数 | 都度払いや短期コースの比率が高い |
属人性 | トレーナーの指導法が標準化・マニュアル化されている | 特定のカリスマトレーナーに顧客が集中している |
集客力 | WebサイトやSNSからの自然流入で安定的に集客できている | 高額な広告費に依存している |
顧客基盤 | 顧客の継続率が高く、紹介による新規入会が多い | 新規顧客の獲得に常に追われている |
例えば、時価純資産が300万円、実質営業利益が500万円で、トレーナーの定着率が高く運営が標準化されている場合、営業権を利益の4年分(2,000万円)と評価し、事業価値を2,300万円(300万円+2,000万円)と算出する、といったアプローチを取ります。
3.2.2 譲渡対象資産・負債の範囲を確定させる交渉術事業譲渡の最大のメリットは、買収する資産と負債を個別に選択できる点にあります。買い手は、価値のある資産のみを引き継ぎ、不要な資産や偶発債務(簿外債務)などのリスクを遮断することが可能です。最終的な譲渡価格の交渉は、この譲渡対象範囲の確定と密接に関連します。
交渉のテーブルでは、まず譲渡対象となる資産・負債のリスト(譲渡対象資産リスト)を明確に定義します。
- 譲渡対象資産の例:トレーニング機器、内装造作、顧客管理システムと顧客情報、ウェブサイトのドメイン、SNSアカウント、店舗の賃借権、営業権など。
- 引き継がない負債の例:売り手の借入金、未払費用、リース契約(再契約しない場合)、訴訟リスクなど。
価格交渉においては、単に「値下げしてほしい」と要求するのではなく、「デューデリジェンスの結果、〇〇というリスクが判明したため、その分の価値を減額してほしい」「このトレーニングマシンは老朽化が進んでいるため、譲渡対象から外すか、時価評価額を下げてほしい」といったように、客観的な根拠を提示することが極めて重要です。
これにより、建設的で論理的な交渉が可能となり、双方にとって納得感のある合意形成を目指すことができます。
パーソナルジムのM&A・事業譲渡は、最終契約の締結がゴールではありません。むしろ、そこからが真のスタートであり、譲渡された事業の価値を維持・向上させるためのPMI(Post Merger Integration:統合プロセス)がM&Aの成否を決定づけます。
特にトレーナーと顧客との結びつきが強いパーソナルジム業界では、PMIの巧拙が事業の将来を大きく左右します。東京都や神奈川県といった競争が激しいエリアで勝ち抜くためには、計画的かつ丁寧な統合プロセスが不可欠です。
事業譲渡後の統合プロセスにおいて、最も注力すべきは「人」と「サービス」に関するソフト面の統合です。設備やシステムといったハード面以上に、従業員のモチベーション維持と顧客満足度の担保が、事業価値の源泉となります。
4.1.1 キーマン(主要トレーナー)の離職防止とリテンションプランパーソナルジムの価値は、所属するトレーナーの質と顧客からの信頼に大きく依存します。特に、多くの顧客を抱える「キーマン」となるトレーナーの離職は、顧客の大量流出に直結し、買収した事業の価値を著しく毀損する最大のリスクです。
そのため、彼らを確実に引き留めるためのリテンションプランが極めて重要になります。
具体的な施策としては、以下のようなものが挙げられます。
- 丁寧なコミュニケーション:M&A成立後、速やかに買い手の経営陣がトレーナーと面談の機会を設けます。新しい経営方針やビジョン、期待する役割を直接伝えることで、将来への不安を払拭し、新しい組織への帰属意識を高めます。
- 待遇・労働環境の明確化と改善:給与体系、インセンティブ、福利厚生、キャリアパスなどを具体的に提示します。譲渡前よりも魅力的な条件を提示できれば、モチベーション向上に繋がります。
- キーマン条項(ロックアップ):事業譲渡契約の段階で、特定のキーマンが一定期間(例:1〜2年)退職しないことを譲渡の条件とする条項を盛り込むことも有効な手段です。
- 権限移譲と役割の付与:責任者やマネージャーといった新たな役職を与えることで、当事者意識を醸成し、組織へのコミットメントを深めてもらいます。
経営者が変わることに対して、顧客は「サービス内容が変わってしまうのではないか」「担当トレーナーが辞めてしまうのではないか」といった不安を抱きがちです。顧客の不安を最小限に抑え、スムーズに新体制へ移行させることが顧客離れを防ぐ鍵となります。
顧客引継ぎを成功させるためには、以下のプロセスを丁寧に行う必要があります。
- 適切なタイミングでの通知:譲渡の事実と、サービスがこれまで通り継続されること、今後の運営方針などを、前オーナーと新オーナーの連名で書面やメール、店舗での掲示などで丁寧に通知します。
- 引継ぎ期間の確保:可能であれば、前オーナーや主要トレーナーに一定期間、アドバイザーとして残ってもらい、顧客への挨拶や新体制への橋渡し役を担ってもらうことで、円滑な移行が期待できます。
- 顧客情報の完全な共有:顧客一人ひとりのトレーニング履歴、目標、身体的特徴、コミュニケーション上の注意点などを記録したカルテやデータを、新体制側が完全に把握し、サービスの継続性を担保します。
- サービスレベルの維持・向上:当面は既存のサービスレベルを完全に維持することを最優先とします。その上で、買い手側の強み(例:新しいトレーニングメソッドの導入、栄養指導プログラムの拡充、オンラインサービスの提供など)を付加価値として段階的に導入し、顧客満足度をさらに高めることを目指します。
PMIは従業員や顧客対応といったソフト面だけでなく、契約関係の承継や各種届出といった法務・税務上の手続きを確実に完了させることも重要です。これらの手続きに不備があると、事業運営そのものに支障をきたす可能性があるため、専門家の支援を受けながら計画的に進める必要があります。
4.2.1 不動産賃貸借契約・リース契約の名義変更手続き事業譲渡では、株式譲渡と異なり、契約関係は自動的に買い手に引き継がれません。そのため、事業運営に必要な各種契約を個別に再締結または名義変更する必要があります。特に重要なのが、店舗の賃貸借契約とトレーニングマシンのリース契約です。
契約の種類 | 手続きの要点 | 主な注意点 |
---|---|---|
不動産賃貸借契約 | 貸主(物件オーナー)から承諾を得た上で、買い手名義で新たに契約を締結するか、既存契約の名義変更を行う。 | 貸主の承諾が得られないリスクがある。承諾の条件として、保証金の追加差し入れや賃料の増額、連帯保証人を求められる場合がある。 |
リース契約(トレーニングマシン等) | リース会社から承諾を得て、名義変更手続きを行う。 | 買い手の与信審査が必要となる。審査に通らない場合、契約の承継ができない可能性がある。 |
その他(光熱費・通信費など) | 各事業者(電力会社、ガス会社、通信会社など)に連絡し、名義変更手続きを行う。 | 手続き漏れがあると、サービスの供給が停止されるリスクがあるため、譲渡実行日(クロージング日)に合わせて計画的に行う。 |
事業譲渡契約には、将来のトラブルを未然に防ぐための法的な取り決めが含まれます。特に「競業避止義務」と「商号続用」に関する規定は、買い手にとって事業価値を守る上で非常に重要です。
競業避止義務
これは、売り手が事業譲渡後、一定期間、一定の地域で、譲渡した事業と競合する事業を行うことを禁止する義務です。パーソナルジムの場合、売り手であるオーナートレーナーが近隣(例:同一市区町村や隣接市区町村)で再びジムを開業すると、顧客や従業員が流出し、買い手が大きな損害を被る可能性があります。
そのため、事業譲渡契約書において、競業を禁止する期間(通常10年〜20年)、場所(東京都〇〇区、神奈川県横浜市など)、事業の範囲を明確に定めておくことが不可欠です。
商号続用における法的注意点
買い手が、譲渡されたジムの屋号(商号)を引き続き使用するケースは少なくありません。これにより、既存顧客に安心感を与え、ブランド価値を維持できるメリットがあります。
しかし、商号を続用する場合、会社法第22条1項の規定により、原則として売り手の事業によって生じた債務(買掛金や未払金など)についても弁済する責任を負うことになる点に注意が必要です。このリスクを回避するためには、以下のいずれかの対策を講じる必要があります。
- 免責の登記:事業譲渡後、買い手の本店所在地において、売り手の債務について責任を負わない旨を登記する。
- 免責の通知:事業譲渡後、遅滞なく、売り手の債権者に対して、買い手が売り手の債務の弁済責任を負わない旨を通知する。
これらの法務・税務手続きは専門的な知識を要するため、M&Aに精通した弁護士や税理士といった専門家と連携し、遺漏なく進めることがM&Aを完全に成功させるための最後の鍵となります。
5. まとめ東京都・神奈川県でパーソナルジムの事業譲渡を成功させるには、売り手・買い手双方の周到な準備が不可欠です。売り手は、トレーナーの標準化など属人性を排し事業価値を高める「磨き上げ」が、高額売却の鍵となります。
一方、買い手はM&Aプラットフォームなどを活用しつつ、デューデリジェンスで優良案件を慎重に見極める必要があります。事業譲渡は専門知識を要するため、M&A仲介会社など専門家への相談が、円滑な取引を実現する最善策と言えるでしょう。