スポーツジム事業売却の税金Q&A:知っておくべき節税ポイントと手続き
スポーツジムの事業売却を検討中の経営者の皆様、税金に関する不安はありませんか?本記事では、事業売却で発生する税金の種類や計算方法、そして効果的な節税対策を網羅的に解説します。
株式譲渡と事業譲渡それぞれの税務上の違いから、法人税、所得税、消費税の具体的なポイント、さらには繰越欠損金の活用法まで、売却益を最大化するための秘訣を詳細にお伝えします。適切な知識と準備、そして専門家との連携が、安心して売却を進める鍵となることをご理解いただけるでしょう。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
1. スポーツジム事業売却と税金の全体像
スポーツジムの事業売却を検討する際、最も重要な要素の一つが税金です。事業売却は、単に経営権や資産を譲渡するだけでなく、それによって発生する利益に対して様々な税金が課せられます。この章では、なぜ事業売却で税金が発生するのか、そして売却の形式によって税金がどのように異なるのか、その全体像を分かりやすく解説します。
1.1 スポーツジム事業売却で税金が発生する理由スポーツジム事業の売却によって税金が発生する主な理由は、売却によって「利益(譲渡益)」が生じるためです。この利益は、売却価格から、売却対象の取得にかかった費用(取得費)や売却にかかった費用(譲渡費用)などを差し引いて計算されます。企業や個人が経済活動を通じて得た利益には、その種類に応じて税金が課せられるのが原則です。
具体的には、売却対象が法人(会社)の株式である場合は、株主である個人または法人に「譲渡所得」として所得税や法人税が課せられます。
一方、事業そのもの(資産や負債など)を売却する「事業譲渡」の場合は、売却を行った法人に「法人税」が課せられるほか、売却される資産の種類によっては「消費税」も発生します。このように、事業売却は、単なる所有権の移転ではなく、経済的価値の移転に伴う利益の確定とみなされ、それに対する課税が生じるのです。
スポーツジム事業の売却には、主に「株式譲渡」と「事業譲渡」という2つの主要な形式があります。これらの形式の選択は、売却によって課せられる税金の種類、税額、そして納税主体に大きな影響を与えます。
そのため、売却を検討する際には、それぞれの形式が持つ税務上の特徴を正確に理解し、自身の状況に最適な形式を選択することが極めて重要となります。
スポーツジム事業の売却において、株式譲渡と事業譲渡は、売却対象、手続き、そして税務上の取り扱いが大きく異なります。それぞれの特徴を理解することが、適切な売却戦略を立てる上で不可欠です。
項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
---|---|---|
売却対象 | 会社の株式 | 会社の事業に関連する資産(不動産、設備、顧客リスト、ブランドなど)および負債 |
売却主体 | 株主(個人または法人) | 法人(会社) |
買収主体 | 株式を取得する個人または法人 | 事業資産を取得する個人または法人 |
課税主体 | 売却益を得た株主(個人または法人) | 売却益を得た法人(会社) |
主な税金 | 個人の場合:譲渡所得税(所得税・住民税) 法人の場合:法人税 |
法人税、消費税、登録免許税、不動産取得税など |
手続きの簡便性 | 比較的簡便(株式の名義変更が主) | 個別の資産・負債の移転手続きが必要で複雑 |
簿外債務のリスク | 原則として会社全体を引き継ぐため、簿外債務も引き継ぐリスクがある | 資産・負債を個別に選択できるため、簿外債務のリスクを限定しやすい |
スポーツジム事業の売却において、税金対策や手続きの簡便さから、一般的には「株式譲渡」が選択されるケースが多い傾向にあります。株式譲渡は、会社そのものを売却する形式であるため、個別の資産や負債の移転手続きが不要であり、手続きが比較的スムーズに進む利点があります。
また、売却益に対する税金が、個人の場合、分離課税の譲渡所得として一律の税率で課税されるため、所得税の累進課税に比べて税負担が軽減される可能性があります。
しかし、事業譲渡が選択されるケースも存在します。例えば、売却したい事業の一部のみを切り離したい場合や、買い手側が特定の資産や負債のみを承継したいと考える場合、あるいは売却する法人に多額の繰越欠損金があり、売却益と相殺して税負担を軽減できる場合などが挙げられます。
スポーツジム事業の場合、特定の店舗のみを売却したいといったニーズがある際には、事業譲渡が検討されることもあります。最終的な売却形式の選択は、売り手と買い手の双方の意向、税務上のメリット・デメリット、事業内容や規模、そしてデューデリジェンスの結果を総合的に考慮して決定されます。
2. スポーツジム事業売却にかかる税金の種類と計算
スポーツジムの事業売却において発生する税金は、売却の形式によって大きく異なります。ここでは、事業譲渡と株式譲渡のそれぞれで、どのような税金が、誰に、どの程度かかるのかを具体的に解説します。
2.1 事業譲渡の場合に法人にかかる税金事業譲渡は、事業に関連する個々の資産や負債を売却する形式です。この場合、売却益は売却する法人に帰属し、法人に税金が課されます。
2.1.1 法人税の計算と売却益スポーツジム事業を事業譲渡する際、売却によって得られる利益は、売却元の法人にとっての収益となり、法人税の課税対象となります。この売却益は、譲渡対価から譲渡した資産の帳簿価額と譲渡にかかった費用を差し引いて計算されます。
具体的には、建物、内装設備、トレーニング機器、会員情報などの資産、そして「のれん代(営業権)」といった無形資産も売却の対象となり、それぞれの売却益が法人の所得として計上されます。これらの所得は、法人の他の事業活動から生じる所得と合算され、法人税、法人住民税、法人事業税が課税されます。
法人税の実効税率は、国税である法人税、地方税である法人住民税、法人事業税を合計したものであり、法人の規模や所得によって変動しますが、一般的に約25%〜35%程度となります。
売却益の計算式は以下の通りです。
売却益 = 譲渡対価の総額 - (譲渡資産の帳簿価額 + 譲渡費用)
この売却益が法人の課税所得に加算され、税金が計算されます。
2.1.2 消費税の課税対象と計算事業譲渡においては、売却される資産のうち、消費税の課税対象となるものと、そうでないものがあります。課税対象となる資産の譲渡には消費税が課され、売主である法人が買主から受け取った消費税を国に納付する義務を負います。
消費税の課税対象となる主な資産は以下の通りです。
- 建物(店舗、事務所など)
- 内装設備、電気設備、空調設備
- トレーニング機器、器具
- 什器備品、車両
- 棚卸資産(物販商品など)
- 営業権(のれん代)
一方、消費税の非課税となる主な資産は以下の通りです。
- 土地
- 有価証券
- 債権(売掛金など)
- 預貯金
消費税の計算は、課税対象となる資産の譲渡対価に、その時点の消費税率を乗じて行われます。売主は、買主から受け取った消費税から、事業活動で支払った仕入れに係る消費税額を差し引いて納税します。
消費税額 = 課税売上高にかかる消費税額 - 課税仕入れ等にかかる消費税額
買手側は、支払った消費税を仕入れ税額控除として、自身の納税額から差し引くことができます。
2.2 株式譲渡の場合に個人にかかる税金株式譲渡は、スポーツジム事業を運営する会社の株式を売却する形式です。この場合、事業を売却するのではなく、会社の所有権を売却するため、売却益は株式を保有していた個人(株主)に帰属し、個人に税金が課されます。
2.2.1 譲渡所得税の計算と税率株式譲渡によって個人が得た利益は「譲渡所得」と呼ばれ、所得税および復興特別所得税、住民税の課税対象となります。譲渡所得は、株式の売却価格から、その株式を取得するためにかかった費用(取得費)と、売却にかかった費用(譲渡費用)を差し引いて計算されます。
譲渡所得 = 株式の売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
株式の譲渡所得は、他の所得(給与所得や不動産所得など)とは合算されず、「申告分離課税」として個別に税額が計算されます。これにより、所得が高額になっても税率が累進的に上がることはありません。
現在の税率は以下の通りです。
税目の種類 | 税率 |
---|---|
所得税 | 15% |
復興特別所得税 | 0.315%(所得税額の2.1%) |
住民税 | 5% |
合計税率 | 20.315% |
この合計税率20.315%が、譲渡所得に対して課されます。
2.2.2 住民税の取り扱い株式譲渡による譲渡所得に対しては、所得税と復興特別所得税に加えて住民税も課されます。税率は譲渡所得に対して一律5%です。通常、証券会社を通じて株式を売却した場合、特定口座(源泉徴収あり)を選択していれば、所得税と住民税がまとめて源泉徴収されるため、原則として確定申告は不要となります。
しかし、複数の証券会社で取引がある場合や、一般口座を利用している場合は確定申告が必要となることがあります。
事業売却の形式や売却対象となる資産によっては、上記以外にも特定の税金が発生する場合があります。特に不動産が含まれるケースでは注意が必要です。
2.3.1 登録免許税と不動産取得税スポーツジム事業の売却において、土地や建物といった不動産が含まれる事業譲渡の場合、買手側には登録免許税と不動産取得税が課される可能性があります。
- 登録免許税:不動産の所有権移転登記を行う際に課される国税です。原則として、固定資産税評価額に一定の税率(通常は2%)を乗じて計算されます。この税金は、不動産を譲り受ける買主が負担するのが一般的です。
- 不動産取得税:不動産を取得した際に一度だけ課される地方税です。土地や建物の取得に対して課税され、固定資産税評価額に一定の税率(土地・建物ともに原則4%)を乗じて計算されます。こちらも通常、買主が負担します。
これらの税金は、事業譲渡契約においてどちらが負担するかを明確に定めておくことが重要です。
【関連】スポーツジムの売却価格を最大化する算定ガイド:M&A専門家が教える適正評価と成功の秘訣3. スポーツジム事業売却における節税のポイント
スポーツジム事業の売却は、多額の資金が動くため、発生する税金も大きくなりがちです。しかし、適切な知識と計画的な対策を講じることで、合法的に税負担を軽減することが可能です。ここでは、事業売却における主要な節税ポイントについて解説します。
3.1 M&Aスキームを活用した税金対策事業売却における税金対策の最も重要な要素の一つは、どのようなM&Aスキームを選択するかです。スキームによって、売主にかかる税金の種類や税率が大きく異なるため、慎重な検討が求められます。
3.1.1 株式譲渡と事業譲渡の税務上の比較検討スポーツジム事業の売却において、主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つの形式が用いられます。それぞれの形式で、売主(法人または個人)と買主にかかる税金の種類や税率、税務上のメリット・デメリットが異なります。
売主側の税負担を最小限に抑える観点からは、一般的に個人が株主である場合は株式譲渡が有利とされることが多いです。
これは、株式譲渡の場合、個人株主には譲渡所得税(所得税と住民税を合わせて約20%)が課されるのに対し、事業譲渡の場合は法人に法人税等が課され、さらに残余財産を株主が受け取る際に所得税等が課される二重課税のリスクがあるためです。ただし、買主側の税務メリットや事業内容によって最適なスキームは異なります。
項目 | 株式譲渡(売主:個人株主) | 事業譲渡(売主:法人) |
---|---|---|
売主にかかる税金 | 譲渡所得税(所得税・復興特別所得税・住民税):約20.315% | 法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、消費税 |
売主のメリット |
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売主のデメリット |
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買主にかかる税金 | 特になし(株式取得対価) | 消費税(課税仕入れ)、登録免許税、不動産取得税(不動産取得の場合) |
買主のメリット |
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買主のデメリット |
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事業売却を検討している法人に過去の赤字(繰越欠損金)がある場合、その欠損金を売却益と相殺することで、法人税等の課税所得を圧縮し、税負担を軽減できる可能性があります。
この制度を利用するには、青色申告書を提出していることや、欠損金が発生した事業年度から一定期間内であることなど、いくつかの要件を満たす必要があります。繰越欠損金の有効活用は、事業譲渡において特に重要な節税策となり得ます。
事業譲渡の場合、売却対象となるスポーツジムの個々の資産(不動産、トレーニング機器、内装設備、顧客リスト、のれんなど)の評価額が、売却益の計算に直接影響し、ひいては法人税等の納税額を左右します。適正な資産評価は、過剰な税負担を避ける上で不可欠です。
例えば、減価償却が終了した機器であっても市場価値がある場合、その評価額を適切に計上することで売却益が増加し、法人税額も増えます。一方で、簿価と時価の乖離が大きい資産については、その評価方法が税務上の争点となることもあります
。特に、スポーツジムの顧客基盤やブランド力といった無形資産(のれん)の評価は専門的な知見を要します。これらの資産を適切に評価し、税務当局に説明できる根拠を持つことが重要です。
スポーツジム事業の売却における税金対策は非常に複雑であり、専門的な知識が不可欠です。税理士、M&Aアドバイザー、弁護士などの専門家は、売却スキームの選択から、資産評価、契約書における税務関連条項の精査、そして売却後の税務申告に至るまで、多岐にわたるサポートを提供してくれます。
特に、M&Aに精通した税理士は、売主と買主双方の税務上のメリット・デメリットを考慮し、最も税負担が少なくなるようなスキームを提案してくれます。
また、デューデリジェンスの段階で潜在的な税務リスクを洗い出し、適切な対策を講じることで、売却後の予期せぬトラブルを防ぐことも可能です。早期に専門家へ相談し、戦略的な税金対策を立てることが、事業売却を成功させるための重要な鍵となります。
4. スポーツジム事業売却の税務手続きとスケジュール 4.1 売却決定から税務申告までの流れ
スポーツジム事業の売却は、単に契約を締結するだけでなく、税務上の複雑な手続きを伴います。売却決定から最終的な税務申告まで、複数のステップを踏む必要があり、これらのステップを事前に理解し、計画的に進めることが、スムーズな事業承継と適切な税務処理には不可欠です。
一般的な事業売却のプロセスは以下の通りです。
- 売却検討・準備:売却の目的を明確にし、スポーツジム事業の強みや課題を整理します。この段階で、事業の価値評価を概算し、税理士などの専門家へ相談を開始することが重要です。
- M&A仲介業者選定・売却先探索:信頼できるM&A仲介業者を選定し、売却先の候補を探索します。秘密保持契約(NDA)を締結し、ノンネームシートなどで事業概要を提示します。
- 基本合意(LOI/MOU)締結:売却価格の目安、売却形式(株式譲渡か事業譲渡か)、今後のスケジュールなど、基本的な合意内容を文書化します。この段階で、税務上の形式が決定されることが多く、その後の税務処理に大きな影響を与えます。
- デューデリジェンス(DD)実施:買手側が売却対象事業の財務、法務、税務、事業、人事などの詳細な調査を行います。特に税務デューデリジェンスは、潜在的な税務リスクや税務上のメリット(繰越欠損金など)を洗い出す重要なプロセスです。
- 最終契約(SPA)締結:デューデリジェンスの結果を踏まえ、売却価格、売却条件、表明保証、補償条項、そして税金に関する取り決めを含む最終的な売却契約書を締結します。
- クロージング(決済・引き渡し):売却対価の支払いと、事業の引き渡しが行われます。株式譲渡であれば株式の移転、事業譲渡であればスポーツジムの資産・負債の移転手続きが行われます。
- 税務申告:クロージング後、売却によって発生した所得や利益に対して、所定の税務申告を行います。事業譲渡の場合は法人税と消費税、株式譲渡の場合は個人の譲渡所得税が主な対象となります。
各段階で税理士と密に連携し、適切なアドバイスを受けることで、予期せぬ税務トラブルを回避し、合法的な節税対策を講じることが可能になります。
4.2 デューデリジェンスと税務リスクの確認スポーツジム事業の売却において、デューデリジェンス(DD)は買手側が事業の実態を詳細に把握し、リスクを評価するために不可欠なプロセスです。特に「税務デューデリジェンス」は、売却後の税務リスクを特定し、適正な企業価値を評価する上で極めて重要となります。
税務デューデリジェンスでは、主に以下の項目が確認されます。
- 過去の税務申告状況:法人税、消費税、源泉所得税などの申告が適切に行われているか、過去の税務調査で指摘事項がないかを確認します。
- 未払税金や滞納税の有無:将来的に発生しうる税金債務や、過去の未払・滞納税がないかを精査します。
- 繰越欠損金の有無と利用可能性:過去の欠損金がある場合、その繰越要件を満たしているか、将来の所得と相殺できるかを確認します。これは買手にとって税務上のメリットとなる可能性があります。
- 固定資産の評価と減価償却:スポーツジム特有のトレーニング機器や内装設備、不動産などの固定資産が適正に評価され、減価償却が適切に行われているかを確認します。資産評価の誤りは、売却益の計算に影響します。
- 消費税の取り扱い:会費収入、物販収入、施設利用料など、スポーツジムの多様な収益源における消費税の課税・非課税区分が正しく適用されているかを確認します。消費税の計算誤りは大きな追徴課税につながるリスクがあります。
- 役員報酬や給与の適正性:役員報酬や従業員への給与が税務上適正に処理されているか、源泉徴収義務が履行されているかを確認します。
- 簿外債務の有無:会計帳簿には計上されていないが、将来的に税金債務として顕在化する可能性のあるリスク(例:未払い消費税、未払い社会保険料など)がないかを調査します。
これらの調査を通じて、売却側は自社の税務状況を客観的に把握し、潜在的なリスクを事前に開示することで、買手との信頼関係を構築できます。
また、買手側はこれらのリスクを考慮して売却価格の交渉や、契約書における補償条項の設定を行うことになります。売却側も買手側も、税務デューデリジェンスの結果を踏まえ、必要に応じて税理士や弁護士と連携し、リスクヘッジ策を講じることが重要です。
スポーツジム事業の売却における最終契約書(株式譲渡契約書または事業譲渡契約書)は、売却の条件を法的に定める最も重要な文書です。特に税金に関する条項は、売却後の予期せぬ税負担やトラブルを避けるために細心の注意を払って確認する必要があります。
主な税金関連条項と注意点は以下の通りです。
4.3.1 表明保証条項売却側が、契約締結時点での事業の状況について買手に対して事実を保証する条項です。税務に関しては、以下のような内容が盛り込まれます。
- 過去の税務申告が適正に行われていること。
- 未払いの税金や滞納税がないこと。
- 税務調査を受けていない、または受けている場合はその内容を開示していること。
- 繰越欠損金が存在する場合、その金額と利用可能性について正確であること。
これらの表明保証が事実に反した場合、売却側は買手に対して損害賠償責任を負う可能性があります。特に税務に関する虚偽の表明は、多額の追徴課税リスクを伴うため、正確な情報提供が求められます。
4.3.2 補償条項表明保証に違反があった場合や、契約締結前に発生した事由によって買手側に損害が生じた場合に、売却側がその損害を補償する範囲や期間を定める条項です。税務関連では、以下のような点が重要です。
- 補償の対象となる税金の種類(法人税、消費税、源泉所得税など)。
- 補償の範囲(追徴税額、加算税、延滞税、関連費用など)。
- 補償の期間(通常、税務調査の時効期間を考慮して設定されることが多い)。
- 補償の限度額(売却価格の一部を上限とすることが一般的)。
この条項は、売却後の税務リスクを売却側と買手側のどちらが負担するかを明確にするものであり、交渉において非常に重要なポイントとなります。
4.3.3 税負担の分担事業売却に伴い発生する各種税金(譲渡所得税、法人税、消費税、登録免許税、不動産取得税など)を、売却側と買手側のどちらが負担するかを明確にする条項です。特に事業譲渡の場合、消費税の取り扱いは複雑になるため、明確な合意が必要です。
一般的な税金の負担者は以下の通りですが、契約で変更することも可能です。
税金の種類 | 主な負担者(一般的なケース) | 備考 |
---|---|---|
譲渡所得税(株式譲渡) | 売却側(個人) | 個人の所得税・住民税として課税 |
法人税(事業譲渡) | 売却側(法人) | 事業売却益に対して課税 |
消費税(事業譲渡) | 買手側(実質負担) | 課税資産の譲渡に対して発生。買手は仕入れ税額控除が可能 |
登録免許税 | 買手側 | 不動産や債権譲渡登記などに発生 |
不動産取得税 | 買手側 | 不動産(土地・建物)を事業譲渡で取得した場合に発生 |
これらの税金負担について、契約書に明記することで、後の紛争を避けることができます。
4.3.4 クロージング後の税務協力義務売却後も、買手側が税務申告や税務調査に対応するために、売却側が情報提供や書類提出に協力する義務を定める条項です。スムーズな税務処理のためには、この協力義務の範囲と期間を明確にしておくことが重要です。
これらの税金関連条項は、専門的な知識が求められるため、必ずM&Aに精通した税理士や弁護士のレビューを受けるようにしてください。
4.4 スポーツジム事業売却後の税務申告期限スポーツジム事業の売却が完了し、クロージングが済んだら、次は税務申告の準備と実行が待っています。売却形式(株式譲渡か事業譲渡か)によって、申告主体と申告期限が異なりますので、注意が必要です。
4.4.1 株式譲渡の場合(個人)個人が所有する株式を譲渡した場合、その譲渡益は「譲渡所得」として課税されます。この譲渡所得は、他の所得(給与所得など)とは分離して課税される「申告分離課税」の対象となります。
- 申告主体:株式を譲渡した個人
- 申告期限:譲渡した年の翌年2月16日から3月15日まで(確定申告期間)
- 必要書類:
- 株式譲渡契約書の写し
- 譲渡対価の受領を証明する書類(銀行の入金明細など)
- 取得費や譲渡費用を証明する書類(購入時の契約書、仲介手数料の領収書など)
- 特定口座年間取引報告書(特定口座を利用していた場合)
- 確定申告書B様式、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書など
期限内に申告を怠ると、無申告加算税や延滞税が課される可能性がありますので、早めに準備を進めましょう。
4.4.2 事業譲渡の場合(法人)法人が事業の一部または全部を譲渡した場合、その売却益は法人の所得となり、法人税の課税対象となります。また、課税資産(建物、設備、営業権など)の譲渡には消費税も発生します。
- 申告主体:事業を譲渡した法人
- 申告期限:
- 法人税:事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内(原則)
- 消費税:事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内(原則)
- 必要書類:
- 事業譲渡契約書の写し
- 譲渡対象資産・負債の明細書
- 譲渡対価の計算根拠となる資料
- 法人税申告書、消費税申告書
- 勘定科目内訳明細書、事業概況説明書など
法人の事業年度によって申告期限が異なります。また、消費税は課税事業者である場合に申告義務が生じます。売却益が大きくなる場合は、中間申告義務が発生することもありますので、税理士と連携して適切な納税計画を立てることが重要です。
いずれの形式においても、売却によって多額の税金が発生する可能性があるため、事前に税理士と相談し、必要な書類を漏れなく準備し、期限内に正確な申告を行うことが極めて重要です。特に、取得費や譲渡費用を正確に把握し、計上することで、課税所得を適正に圧縮できる可能性があります。
【関連】スポーツジムの事業譲渡したい時どうする?高値売却とスムーズな承継の完全ガイド5. まとめ
スポーツジム事業の売却は、オーナーにとって大きな転換点ですが、多岐にわたる税金が複雑に絡み合います。法人税、消費税、譲渡所得税、住民税など、売却形式(株式譲渡か事業譲渡か)によって課税される税金の種類や計算方法が大きく異なり、その選択が手取り額を大きく左右します。
節税のためには、M&Aスキームの適切な検討、繰越欠損金の活用、資産評価の見直しなどが有効ですが、これらは専門的な知識を要します。予期せぬ税務リスクを回避し、最適な売却を実現するためには、売却決定の早い段階から税理士やM&Aアドバイザーといった専門家と連携し、計画的に手続きを進めることが不可欠です。
デューデリジェンスや売却契約書の内容確認も怠らず、スムーズな事業承継を目指しましょう。