IT事業の事業譲渡|会社は残し事業だけ売るM&A手法とは?
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公開日:2024年10月12日最終更新日:2025年6月11日
IT事業の事業譲渡を検討中の方へ。事業だけを売却するM&A手法である事業譲渡は、株式譲渡とは異なり、会社自体は存続させながら特定の事業のみを売却できます。
この記事では、IT事業における事業譲渡のメリット・デメリット、契約上の注意点、エンジニアの引き継ぎ、事業価値の評価方法、買い手候補、価格交渉、契約締結までの流れ、そして売却後の経営戦略まで、実例を交えて網羅的に解説します。
事業譲渡を成長の契機とするための実践的な知識を得て、未来への一歩を踏み出しましょう。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
1. 事業譲渡とは何か?株式譲渡との違い
事業譲渡と株式譲渡は、M&Aにおける2つの主要な手法です。どちらも企業の所有権が移転するという点では共通していますが、その対象と手続きは大きく異なります。この章では、事業譲渡と株式譲渡の違いを詳しく解説し、それぞれの特徴を理解することで、最適なM&A戦略を選択するための基礎知識を提供します。
1.1 会社を売らずに"事業だけ"売る方法とは事業譲渡とは、会社を売却するのではなく、会社が持つ事業の一部または全部を他の会社に譲り渡す方法です。譲渡対象となるのは、事業に関連する資産、負債、契約、従業員、顧客情報などです。会社自体は存続し、譲渡した事業以外の事業を継続することができます。
1.1.1 M&Aの2大手法:株式譲渡と事業譲渡の違い株式譲渡と事業譲渡の主な違いは、以下の表の通りです。
項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
---|---|---|
譲渡対象 | 会社の株式 | 事業に関連する資産、負債、契約など |
所有権の移転 | 会社の支配権 | 特定の事業の支配権 |
手続き | 株式の売買契約締結 | 事業譲渡契約締結、個別の資産・契約の移転手続き |
メリット | 手続きが比較的簡素 | 必要な事業のみを選択して譲渡可能 |
デメリット | 潜在的な負債リスク | 手続きが複雑な場合がある |
事業譲渡が選ばれる主な理由は、以下の通りです。
- 特定の事業に特化したい場合:例えば、成長が見込めない事業を売却し、コア事業に経営資源を集中させることができます。
- 事業ポートフォリオの再編:市場の変化や企業戦略に合わせて、事業の取捨選択を行うことができます。
- ノンコア事業の売却:本業とのシナジー効果が低い事業を売却し、経営効率を高めることができます。
- 後継者不足問題の解決:事業承継の一環として、後継者が見つからない事業を売却することができます。
事業譲渡は、譲渡対象となる事業の範囲を明確に定め、必要な資産、負債、契約などを特定する必要があります。また、譲渡契約においては、譲渡価格、譲渡日、債権債務の処理、従業員の処遇など、様々な事項を規定する必要があります。
1.2.1 譲渡対象は「資産・契約・人材」事業譲渡の対象となるのは、事業を構成する要素である「資産・契約・人材」です。具体的には、以下のようなものが含まれます。
- 資産:機械設備、在庫、知的財産権、顧客リストなど
- 契約:取引先との契約、賃貸借契約、ライセンス契約など
- 人材:事業に携わる従業員
事業譲渡には、様々な法的・会計的な手続きが必要となります。例えば、譲渡契約の締結、債権債務の移転、従業員の転籍手続きなどです。また、税務上の影響も考慮する必要があります。専門家のアドバイスを受けながら、適切な手続きを進めることが重要です。
1.3 どんな企業が事業譲渡を活用しているか事業譲渡は、様々な業種・規模の企業で活用されています。例えば、大企業がノンコア事業を売却する場合や、中小企業が後継者不足を解消するために事業を譲渡する場合などがあります。近年では、IT業界を中心に、事業の再編や成長戦略の一環として事業譲渡が積極的に活用されています。
1.3.1 一部事業だけを手放したいケース企業が成長していく過程で、事業の多角化を進めることがあります。しかし、すべての事業が成功するとは限りません。業績不振の事業を抱えている場合、その事業を切り離すことで経営資源をコア事業に集中させることができます。また、将来性のある事業に特化するために、一部事業を売却することもあります。
1.3.2 IT業界での事業譲渡の実例紹介IT業界では、技術革新や市場の変化が激しいため、事業譲渡が頻繁に行われています。例えば、新しい技術を持つスタートアップ企業を買収することで、既存企業は新たな市場に参入することができます。
また、特定のサービスやプロダクトに特化した事業を売却することで、企業は経営資源をより効率的に活用することができます。具体的には、サイバーエージェントによるゲーム事業の売却や、DeNAによるソーシャルゲーム事業の売却などが挙げられます。
2. IT事業における事業譲渡の特徴と注意点
IT事業の事業譲渡は、他の業種と比べていくつかの特徴と注意点があります。特に、無形資産の価値が高い、変化のスピードが速い、契約関係が複雑といった点が、事業譲渡のプロセスに大きく影響します。
2.1 なぜIT事業は"部分売却"と相性が良いのかIT事業は、サービスやプロダクトごとに独立性が高いため、事業全体を売却するのではなく、一部を切り出して売却する"部分売却"がしやすいという特徴があります。例えば、成長性の鈍化したサービスや、コア事業とのシナジーが低いプロダクトなどを売却することで、経営資源を集中させ、成長を加速させることが可能です。
2.1.1 サービス単位・プロダクト単位での切り出しIT事業は、サービスやプロダクトごとに開発チームや顧客基盤が比較的明確に分かれていることが多く、部分売却を容易にします。例えば、ECサイト運営事業の中で、特定のカテゴリに特化したECプラットフォームだけを売却する、といったことが可能です。
2.1.2 顧客基盤・人材・IPを分離しやすい業態IT事業では、顧客データやソースコード、開発ノウハウといった無形資産が重要な価値を持ちます。これらは物理的な資産と異なり、比較的容易に分割・移転が可能です。そのため、特定の顧客基盤に紐づく事業や、特定の技術を持つ人材チームを売却対象とすることも可能です。
2.2 IT事業を事業譲渡する際に注意すべき契約関係IT事業の事業譲渡では、複雑な契約関係を適切に処理することが重要です。顧客との契約、ソフトウェアライセンス、クラウドサービス利用契約など、様々な契約について、譲渡に伴う影響を慎重に検討し、必要な手続きを進める必要があります。
2.2.1 顧客契約・ライセンス契約の移転リスク事業譲渡に伴い、顧客契約やライセンス契約を買い手に移転する際には、契約内容の確認、相手方の同意取得など、複雑な手続きが必要になります。
例えば、顧客契約に譲渡制限条項が含まれている場合、事業譲渡自体が困難になる可能性もあります。また、ソフトウェアライセンスが譲渡不可の場合、買い手は新たにライセンスを取得する必要が生じ、コスト増加につながる可能性があります。
近年、多くのIT事業がクラウドサービスやSaaSを利用しています。これらのサービス利用契約は、事業譲渡に伴う移転が制限されている場合があり、注意が必要です。例えば、Amazon Web ServicesやMicrosoft Azureといったクラウドサービスの利用契約は、事業譲渡時に買い手へのアカウント移行が必要となるケースがあります。また、SalesforceなどのSaaS利用契約も、譲渡に関する規定を確認し、必要な手続きを行う必要があります。
2.3 エンジニア・運営体制をどう引き継ぐかIT事業の価値は、技術力を持つエンジニアや円滑な運営体制に大きく依存します。事業譲渡においては、これらの人的資源をどのように引き継ぐかが重要なポイントとなります。
2.3.1 技術者の引き継ぎと雇用問題事業譲渡に伴い、エンジニアの雇用契約を買い手に移転する場合、労働関連法規に基づいた適切な手続きが必要です。また、エンジニアの引き継ぎをスムーズに行うためには、技術的なドキュメントの整備や、引継ぎ期間の設定などが重要です。円滑な引き継ぎが実現できない場合、事業の継続性に悪影響を及ぼす可能性があります。
2.3.2 引き継ぎマニュアルやサポート体制の整備事業譲渡後も、システムの安定稼働や顧客への継続的なサービス提供を維持するためには、綿密な引き継ぎ計画とサポート体制の構築が不可欠です。
システムの運用マニュアルやトラブルシューティング手順書などを整備し、買い手がスムーズに事業を引き継げるように準備する必要があります。また、一定期間のサポート体制を構築することで、事業譲渡後の混乱を最小限に抑えることができます。
3. IT事業の事業譲渡に向けた準備とは
IT事業の事業譲渡を成功させるためには、事前の準備が不可欠です。譲渡対象の明確化、事業価値の適切な提示、そして円滑な譲渡プロセスを実現するための実務的な準備が必要です。これらを怠ると、売却価格が低くなったり、交渉が難航したりする可能性があります。
3.1 何を売却対象に含めるかを決める事業譲渡では、株式譲渡とは異なり、事業の一部だけを売却することができます。そのため、何を売却対象に含めるかを明確に定義することが重要です。売却対象を明確にすることで、買い手も対象事業の価値を正しく評価しやすくなります。
3.1.1 プロダクト単位か、部門単位か売却対象は、プロダクト単位、部門単位など、様々な切り口で検討できます。例えば、特定のソフトウェア製品のみを売却することも可能ですし、開発部門全体を売却対象とすることもできます。会社の規模や事業内容、今後の事業戦略などを考慮し、最適な切り口を選択しましょう。場合によっては、複数のプロダクトをまとめて売却することで、シナジー効果を期待できることもあります。
3.1.2 ソースコード、顧客、契約、従業員の整理売却対象を決定したら、それに付随するソースコード、顧客リスト、契約書、従業員などの整理が必要です。どの資産が売却対象に含まれ、どれがそうでないのかを明確に区別することで、後々のトラブルを避けることができます。例えば、ソースコードの所有権やライセンス、顧客情報保護に関する契約内容、従業員の雇用条件などを整理しておく必要があります。
3.2 事業の価値をどう見せるかが鍵になる事業譲渡において、事業の価値をいかに魅力的に見せるかは、売却価格に大きく影響します。単に過去の売上や利益だけでなく、将来的な成長性や収益性をアピールすることが重要です。そのためには、適切な指標を用いて、事業の価値を客観的に示す必要があります。
3.2.1 売上・利益より"再現性と成長性"IT事業の価値を評価する際には、過去の売上や利益だけでなく、将来的な成長性や収益性を示すことが重要です。特に、持続的な収益を生み出す仕組み(ビジネスモデル)の再現性や、市場における競争優位性などを明確に示すことで、買い手の投資意欲を高めることができます。例えば、独自の技術や特許、強力な顧客基盤、優秀な開発チームなどをアピールポイントとして挙げることができます。
3.2.2 KPI・契約継続率・LTVなどの見せ方事業の価値を客観的に示すためには、KPI(重要業績評価指標)を活用することが有効です。売上高成長率、顧客獲得コスト、契約継続率、顧客生涯価値(LTV)など、事業の特性に応じた適切なKPIを設定し、その推移を明確に示すことで、買い手に事業の成長性や収益性を理解してもらうことができます。これらの指標を、分かりやすいグラフや表を用いて視覚的に表現することも効果的です。
3.3 IT事業を「売れる状態」に整える実務事業の魅力を効果的に伝えるためには、必要な情報を整理し、買い手にとって理解しやすい形で提示する必要があります。これは、いわば商品を店頭に並べるのと同じで、買い手が安心して購入できるよう、必要な情報を分かりやすく提示することで、スムーズな事業譲渡を実現できます。
3.3.1 データ整理とドキュメント整備事業に関する情報を整理し、ドキュメントとして整備することは、デューデリジェンス(買収監査)をスムーズに進める上で非常に重要です。
財務諸表、契約書、顧客リスト、システム構成図、ソースコードのドキュメントなど、買い手が事業内容を理解するために必要な情報を整理し、提供できるように準備しておきましょう。これらの情報は、データルームと呼ばれる安全な場所に保管し、アクセス権限を適切に管理する必要があります。
売却前に、自社で簡易的なデューデリジェンス(バーチャルデューデリジェンス)を実施することで、潜在的なリスクや課題を事前に洗い出し、対策を講じることができます。
これにより、実際のデューデリジェンスプロセスをスムーズに進めることができ、売却価格への悪影響を最小限に抑えることができます。例えば、弁護士や会計士などの専門家に依頼し、契約書のレビューや財務状況の確認などを行うことで、潜在的な問題点を早期に発見することができます。
4. 事業譲渡によるM&Aの進め方と買い手との交渉
IT事業の事業譲渡を進めるにあたっては、適切な買い手候補の選定と交渉が成功の鍵を握ります。ここでは、IT事業の買い手の種類や交渉のポイント、契約締結までの流れを解説します。
4.1 IT事業を買うのは誰か?買い手の分類と意図IT事業の買い手候補は、大きく以下の3つのタイプに分類できます。
買い手タイプ | 事業譲渡の意図 | メリット・デメリット |
---|---|---|
同業他社 | 事業拡大、競合排除、技術・ノウハウの獲得 | シナジー効果が見込める、事業理解が早い/価格競争が激化しやすい |
異業種企業 | 新規事業参入、デジタル化推進、顧客基盤の拡大 | 新たな市場開拓、高値での売却の可能性/事業理解に時間を要する、文化の違いによる摩擦 |
投資ファンド(PEファンド、VCなど) | 投資リターン、事業の成長・再編 | 資金力がある、経営支援を受けられる/短期的な売却圧力、経営への介入 |
同業他社は、既存事業とのシナジー効果を狙って事業譲渡を検討します。例えば、顧客基盤の拡大、技術・ノウハウの獲得、競合他社の排除などが目的として挙げられます。事業内容への理解が深く、スムーズな事業統合が期待できる一方、価格競争が激化しやすい点がデメリットです。
4.1.2 新規参入を狙う異業種・ファンド異業種企業は、新規事業参入やデジタル化推進を目的としてIT事業の買収を検討します。既存事業とのシナジーや顧客基盤の拡大を期待できます。また、投資ファンドは、事業の成長性を見込んで投資を行い、将来的に株式公開(IPO)や再売却によるリターンを狙います。高値での売却が期待できる一方、事業理解に時間を要する点や、経営への介入が懸念材料となる場合もあります。
4.2 価格交渉のポイントと着地点の探り方事業譲渡における価格交渉は、売主と買い手の双方が納得できる着地点を見つけることが重要です。IT事業の価値評価は、売上や利益だけでなく、将来の成長性や収益性も考慮されます。
4.2.1 成長性・収益性に応じた評価指標(EV・マルチプル)IT事業の価値を評価する指標として、企業価値(EV)やマルチプル(売上高倍率、EBITDA倍率など)が用いられます。成長性が高い事業は、将来の収益を織り込んで高めに評価される傾向があります。また、類似のIT企業のM&A事例を参考に、適切なマルチプルを算出することも重要です。
4.2.2 資産評価と引継ぎリスクの反映方法譲渡対象となる資産(ソフトウェア、ハードウェア、顧客データなど)の評価額に加えて、事業の引継ぎに伴うリスクも価格に反映されます。例えば、顧客の解約リスク、従業員の退職リスク、システム障害のリスクなどが考慮されます。これらのリスクを軽減するための対策を事前に講じておくことで、売却価格を高めることができます。
4.3 事業譲渡契約の締結とクロージングの流れ事業譲渡は、以下の流れで進められます。
- 基本合意書(LOI)の締結
- デューデリジェンス(DD)の実施
- 最終契約書の締結
- クロージング(事業譲渡の実行)
- 事業の引継ぎ
売主と買い手は、基本合意書(LOI)を締結し、事業譲渡の大枠を決定します。その後、買い手はデューデリジェンス(DD)を実施し、事業内容の詳細な調査を行います。DDの結果を踏まえて、最終的な売買価格や契約条件を交渉し、事業譲渡契約を締結します。
4.3.2 引継ぎ・従業員対応・顧客通知の実務契約締結後は、事業の引継ぎ作業を行います。譲渡対象となる資産や契約、従業員をスムーズに買い手に移管することが重要です。また、顧客への丁寧な通知を行い、事業譲渡による影響を最小限に抑える必要があります。従業員の雇用についても適切な対応を行い、不安を取り除くことが重要です。
【関連】AI業界のM&A動向を掴む!市場変化への対応と企業戦略5. 会社を残すM&A戦略で未来をつくる
事業譲渡は、事業の一部を売却する一方で、会社自体は残すことができるM&A手法です。売却後も会社は存続するため、売却益を新たな事業展開に投資したり、残った事業に経営資源を集中投下したりと、更なる成長を目指すことができます。この章では、事業譲渡後の会社運営について、その戦略と成功事例、そして経営の再設計という視点から解説します。
5.1 売却後も"会社が続く"からこそ考えるべきこと事業譲渡後も会社が存続する場合、売却益の活用方法や残った事業の成長戦略、新たな事業の柱の構築など、中長期的な視点で経営戦略を再構築する必要があります。売却によって得た資金や経営資源をどのように活用し、持続的な成長を実現していくかが、今後の企業価値を左右する重要なポイントとなります。
5.1.1 経営者として残す事業への集中と成長戦略事業譲渡によって、経営資源を特定の事業に集中投下できるようになります。売却した事業に割いていた人員や資金を、残ったコア事業に集中することで、競争力を強化し、市場シェアの拡大や収益性の向上を目指せます。また、新たな成長市場への参入や新製品・サービスの開発など、積極的な投資を行うことも可能です。
5.1.2 会社の新しい軸をどう再構築するか事業譲渡は、会社の事業ポートフォリオを見直す良い機会です。売却した事業の穴を埋めるだけでなく、将来を見据えた新たな事業の柱を構築することが重要です。
例えば、既存事業とのシナジー効果が見込める新規事業への投資や、M&Aによる事業拡大、技術提携による新技術の導入などを検討できます。市場トレンドや競合他社の動向を分析し、自社の強みを活かせる分野に資源を集中投下することで、持続的な成長を実現できる基盤を築くことが重要です。
事業譲渡を成功させ、新たな成長軌道に乗ったIT企業の事例を紹介します。これらの事例は、事業譲渡が企業にとって必ずしも「縮小」を意味するものではなく、「選択と集中」による成長戦略になり得ることを示しています。
5.2.1 赤字事業を切り離して黒字化した成功例株式会社〇〇は、長年赤字が続いていたオンラインゲーム事業を事業譲渡しました。売却によって固定費負担が軽減され、経営資源を収益性の高いシステム開発事業に集中投下できた結果、黒字化を達成し、更なる成長を実現しました。この事例は、不採算事業の売却が、経営体質の改善と成長への転換点になり得ることを示しています。
5.2.2 主力事業を売却し第二創業に踏み切った例株式会社△△は、主力であったパッケージソフトウェア事業を大手IT企業に売却しました。売却益を元手に、AI技術を活用した新規事業を立ち上げ、第二創業に踏み切りました。この事例は、既存事業の売却が、新たな挑戦への資金と機会を提供し、企業の変革を促す契機となり得ることを示しています。
5.3 IT事業の事業譲渡は"経営の再設計"であるIT事業の事業譲渡は、単なる事業の売却ではなく、経営戦略全体の再設計と捉えるべきです。売却によって得た資金や経営資源をどのように活用し、将来の成長につなげていくか、綿密な計画と実行が求められます。
5.3.1 売ることは「終わり」ではなく「選択」事業を売却することは、その事業の「終わり」を意味するのではなく、新たな成長に向けた戦略的な「選択」です。売却によって生まれた余力を、残りの事業の強化や新規事業の開拓に活用することで、企業全体の成長を加速させることができます。
5.3.2 部分売却を成長の起点に変える発想事業譲渡は、企業にとってネガティブなイメージを持たれがちですが、成長の起点と捉えることも可能です。売却によって得た資金や経営資源、そして経営の自由度を活かすことで、新たな市場への参入やイノベーションの創出など、更なる成長を実現できる可能性を秘めています。
【関連】SES業界のM&A動向を徹底分析!生き残るための戦略とは?6. まとめ
IT事業の事業譲渡は、会社を売却する株式譲渡とは異なり、事業の一部だけを売却するM&A手法です。IT事業の特徴として、サービスやプロダクト単位で切り出しやすく、顧客基盤や知的財産を分離しやすい点が挙げられます。
そのため、成長事業に集中するための戦略的な部分売却や、ノンコア事業の整理に有効です。事業譲渡を成功させるためには、譲渡対象の明確化、事業価値の適切な提示、契約関係の綿密な確認、円滑な引継ぎが重要です。売却後の事業展開を見据え、事業譲渡を成長の起点とする戦略的な経営判断が必要です。