IT事業の事業売却|事業規模・業種別事例付き完全ガイド
IT事業の売却を検討しているが、何から始めれば良いのか分からない、売却価格の相場を知りたい、成功させるためのポイントを知りたいとお考えではありませんか?この記事では、IT事業売却の基礎知識から、価格算定方法、必要な準備、そして事業規模・業種別の成功事例まで、売却を成功に導くための完全ガイドを提供します。
売却プロセスを理解することで、売却価格を最大化し、スムーズな事業承継を実現するための具体的なステップを把握できます。例えば、DCF法やマルチプル法といった評価方法を理解することで、適正な価格で売却交渉を進めることが可能になります。
また、事業規模に応じた事例や、Web制作、システム開発といった業種別の事例を知ることで、自身の事業に最適な売却戦略を立てることができます。この記事を読み終える頃には、IT事業売却に関する不安が解消され、自信を持って次のステップに進めるようになるでしょう。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建などを10年経験。3か月の経営支援サポートで、9か月後には赤字の会社を1億円の利益を計上させるなどの実績を多数持つ専門家。
1. IT事業売却の基礎知識
IT事業の売却は、経営戦略の大きな転換点となる重要な決断です。事業拡大、資金調達、経営者のリタイアなど、様々な理由でIT事業の売却が検討されます。この章では、IT事業売却の基礎知識について、メリット・デメリット、種類、流れなどを詳しく解説します。
【関連】IT事業売却で最大利益!M&Aのプロが教える成功戦略と注意点1.1 IT事業売却とは
IT事業売却とは、経営しているIT事業の所有権を他社に譲渡することです。譲渡対象には、顧客リスト、ブランド、技術、従業員、契約などが含まれます。売却形態としては、株式譲渡と事業譲渡の2種類があり、それぞれ法的な手続きや税務上の取り扱いが異なります。売却先は、競合他社、異業種の大企業、投資ファンドなど様々です。M&Aアドバイザーなどの専門家を活用することで、最適な売却先を見つけることができます。
【関連】IT企業のイグジット戦略!会社売却時の株式価値最大化の秘訣と落とし穴1.2 IT事業売却のメリット・デメリット
IT事業の売却には、メリットとデメリットが存在します。売却を検討する際には、両方を理解した上で判断することが重要です。
1.2.1 メリット事業の継続性確保 | 後継者不足の場合でも、事業を継続できる可能性が高まります。 |
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資金調達 | 売却によって得た資金を新たな事業展開や投資に活用できます。 |
経営リスクの軽減 | 市場の変化や競争激化によるリスクを軽減できます。 |
経営者のリタイア | 経営者が事業から引退するための手段となります。 |
シナジー効果 | 売却先とのシナジー効果で事業価値を高められる可能性があります。 |
従業員の不安 | 売却による雇用への影響を懸念する従業員が出てくる可能性があります。 |
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顧客の離反 | 売却先に不信感を持つ顧客が離反する可能性があります。 |
情報漏洩リスク | 売却過程で機密情報が漏洩するリスクがあります。 |
売却価格の不確実性 | 市場環境や交渉によって売却価格が変動する可能性があります。 |
売却後の経営への関与 | 売却後も一定期間、経営に関与を求められる場合があります。 |
1.3 IT事業売却の種類
IT事業の売却には、主に株式譲渡と事業譲渡の2つの種類があります。
【関連】事業売却の手法を徹底解説!M&A・株式譲渡・事業譲渡の違いと最適な選び方1.3.1 株式譲渡
株式譲渡は、会社の株式を売却することで、会社そのものの所有権を譲渡する方法です。会社の権利義務はすべて引き継がれます。メリットとしては、手続きが比較的簡素であることが挙げられます。デメリットとしては、簿外債務など、潜在的なリスクも引き継ぐ可能性があることです。
1.3.2 事業譲渡事業譲渡は、事業の一部または全部を売却する方法です。特定の事業部門や資産、負債、契約、従業員などを個別に譲渡します。メリットとしては、必要な事業のみを選択して売却できること、不要な負債などを引き継がなくて良いことが挙げられます。デメリットとしては、手続きが複雑になる場合があることです。
項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
---|---|---|
譲渡対象 | 会社の株式 | 事業の一部または全部 |
権利義務の承継 | すべて承継 | 選択的に承継 |
手続き | 比較的簡素 | 複雑な場合あり |
リスク | 潜在的なリスクも承継 | 選択したリスクのみ承継 |
1.4 事業売却の流れ
IT事業の売却は、一般的に以下の流れで進められます。
準備段階 | 売却目的の明確化、事業価値の算定、財務状況の整理、必要な書類の準備などを行います。 |
---|---|
売却先の探索 | M&Aアドバイザーなどを活用し、適切な売却先を探します。ノンネーム資料の作成や企業概要説明会の実施なども行います。 |
交渉・契約 | 売却条件や価格などを交渉し、最終的な契約を締結します。デューデリジェンス(買収監査)や秘密保持契約の締結なども行います。 |
クロージング | 契約に基づき、事業の譲渡を実行します。株式の譲渡や事業資産の移転などを行います。 |
事業統合 | 売却後、事業の統合や従業員の引継ぎなどを行います。PMI(Post Merger Integration)と呼ばれる統合プロセスが重要になります。 |
売却プロセス全体を通して、弁護士、税理士、公認会計士などの専門家のサポートを受けることが重要です。また、売却に関する情報は機密事項として慎重に取り扱う必要があります。
2. IT事業売却の価格算定方法
IT事業の売却価格は、事業の将来性や収益性、市場環境など様々な要因を考慮して決定されます。適切な価格で売却するためには、客観的な評価に基づいた価格算定が不可欠です。ここでは、IT事業売却における価格算定方法について詳しく解説します。
2.1 事業価値評価の基礎
事業価値評価とは、企業の経済的な価値を算出するプロセスです。売却価格の決定だけでなく、M&A、投資、事業承継など様々な場面で活用されます。事業価値評価には、絶対評価法と相対評価法の2つのアプローチがあります。
絶対評価法は、事業そのものの価値を算出する方法です。
代表的な手法として、DCF法があります。一方、相対評価法は、類似企業の市場価格を参考に事業価値を算出する方法です。代表的な手法として、マルチプル法があります。それぞれの評価方法の特徴を理解し、事業の特性に合った方法を選択することが重要です。
2.2 一般的な価格算定方法
IT事業の価格算定で一般的に用いられる手法は以下の通りです。
2.2.1 DCF法DCF法(Discounted Cash Flow法)は、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を算出する方法です。将来の収益予測が重要な要素となるため、IT事業のような成長性の高い事業の評価に適しています。割引率の設定や将来キャッシュフローの予測精度が評価額に大きく影響します。将来の予測は、市場動向、競合状況、技術革新などを考慮して行います。IT事業特有の成長性やリスクを適切に織り込むことが重要です。
2.2.2 マルチプル法マルチプル法は、類似企業の財務指標や市場価格を参考に、対象企業の価値を算出する方法です。EBITDA倍率、PER(株価収益率)、PSR(株価売上高比率)などの指標が用いられます。類似企業の選定や適切なマルチプルの適用が評価額に大きく影響します。公開情報が得やすい上場企業のデータなどを参考に、事業規模や収益性などが類似する企業を選定します。IT業界では、成長性や収益性、ビジネスモデルなどが類似する企業を比較対象とすることが一般的です。
2.3 IT事業特有の評価ポイント
IT事業の評価においては、一般的な事業評価に加えて、IT事業特有の要素を考慮する必要があります。以下に主な評価ポイントをまとめます。
評価ポイント | 内容 |
---|---|
技術力 | 保有技術の優位性、特許の有無、技術者のスキルレベルなどを評価します。 |
顧客基盤 | 顧客数、顧客の属性、顧客との関係性などを評価します。安定した顧客基盤は事業価値を高めます。 |
システムの scalability | システムの拡張性や柔軟性を評価します。将来の事業拡大に対応できるシステムは高く評価されます。 |
セキュリティ対策 | 情報セキュリティ対策のレベルを評価します。セキュリティの脆弱性は事業価値を大きく損なう可能性があります。 |
知的財産権 | ソフトウェアの著作権や特許など、知的財産権の有無や価値を評価します。 |
開発体制 | 開発チームの規模、スキル、組織体制などを評価します。効率的な開発体制は事業の成長性を高めます。 |
今後の成長性 | 市場の成長性、競争優位性、将来の収益性などを評価します。高い成長性を持つ事業は高く評価されます。 |
これらの要素を総合的に考慮し、市場の動向や競合他社の状況なども踏まえ、適正な価格を算出することが重要です。専門家であるM&Aアドバイザーや事業価値評価の専門家に相談することで、より精度の高い評価を行うことができます。
【関連】M&AにおけるEBITDAとは?企業価値算定を理解する3. IT事業売却の準備
IT事業の売却を成功させるためには、綿密な準備が不可欠です。準備不足は売却価格の低下や、最悪の場合、売却自体が頓挫する原因になりかねません。この章では、IT事業売却に必要な準備について、書類や手続き、財務状況の整理、事業計画の見直し、従業員への対応といった観点から詳しく解説します。
3.1 必要な書類と手続き
IT事業売却に必要な書類と手続きは、株式譲渡か事業譲渡か、また対象事業の規模や内容によって異なります。以下に主な書類と手続きをまとめました。
種類 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
---|---|---|
契約書 | 株式譲渡契約書 | 事業譲渡契約書 |
財務書類 | 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書 (過去3期分以上) |
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書 (過去3期分以上) 事業計画書 譲渡対象資産・負債リスト |
その他 | 株主名簿 定款 登記事項証明書 |
従業員同意書 取引先への通知書 債権者への通知書 許認可関係書類 |
これらの書類は、買収希望企業のデューデリジェンス(買収監査)に必要となるだけでなく、売却価格の算定にも大きな影響を与えます。正確かつ網羅的な書類作成が重要です。
手続きとしては、弁護士や公認会計士、M&Aアドバイザーなどの専門家への相談、買収希望企業との交渉、契約締結、そして譲渡実行といった流れになります。専門家のサポートを受けることで、スムーズかつ有利な売却を実現できる可能性が高まります。
3.2 財務状況の整理
財務状況の健全性は、事業売却における重要な評価ポイントです。買収希望企業は、過去の財務諸表だけでなく、将来の収益性も重視します。財務状況の整理は、売却価格の向上に直結する重要な準備です。
具体的には、以下の点を重点的に行います。
不良債権の処理 | |
過剰在庫の削減 | |
経費の最適化 | |
収益性の向上 |
これらの取り組みを通じて、財務諸表を改善し、事業の魅力を高めることが重要です。
【関連】M&A譲渡の準備内容とは?スケジュールと成功のためのポイントを徹底解説!3.3 事業計画の見直し
将来の成長性も、事業売却における重要な評価ポイントです。事業計画は、買収希望企業に事業の将来性を示す重要な資料となります。売却を検討する段階で、事業計画を見直し、成長性をアピールできる内容にブラッシュアップすることが重要です。
具体的には、市場動向の分析、競合他社の分析、今後の成長戦略などを明確に示す必要があります。特にIT事業は技術革新が速いため、最新のトレンドを踏まえた事業計画が求められます。例えば、AI、クラウドコンピューティング、IoT、ブロックチェーンといったキーワードを盛り込み、将来的なビジョンを示すことが効果的です。
【関連】会社売却を事業計画で有利に進める!作成手順と成功ポイント|M&A準備の必須知識3.4 従業員への対応
従業員の士気とモチベーションは、事業の継続的な成長に不可欠です。事業売却は従業員に大きな不安を与える可能性があるため、丁寧な説明と適切な対応が重要です。売却プロセスを透明化し、従業員の不安を解消することで、事業の安定的な運営を維持し、円滑な事業売却を実現することができます。
具体的には、以下の点を意識することが重要です。
売却の目的と理由を明確に説明する | |
雇用条件の変化について説明する | |
従業員の質問に真摯に答える | |
経営陣と従業員とのコミュニケーションを密にする |
これらの対応を通じて、従業員の理解と協力を得ることが、事業売却の成功には不可欠です。
【関連】M&Aを従業員に公表するタイミング|説明する内容と最適な時期とは?4. 事業規模別のIT事業売却事例
IT事業の売却価格は、事業規模によって大きく異なります。ここでは、小規模、中規模、大規模のIT事業の売却事例をそれぞれ紹介します。
4.1 小規模IT事業の売却事例
小規模IT事業の売却では、事業の将来性や収益性に加え、経営者のスキルやノウハウも評価対象となります。そのため、M&Aアドバイザーを活用し、適切な売却戦略を立てることが重要です。
4.1.1 従業員数10名以下のWeb制作会社の事例東京都内にある従業員数7名のWeb制作会社が、地方の印刷会社に売却されました。売却理由は、創業者の高齢化による事業承継です。Web制作事業のノウハウと顧客基盤を評価され、譲渡価格は約3億円でした。この事例では、後継者不足という課題解決と、印刷会社の新規事業進出というシナジー効果が生まれました。
4.1.2 フリーランスエンジニアの事業売却事例フリーランスエンジニアが、開発した独自のソフトウェアと共に事業をIT企業に売却した事例です。売却理由は、事業拡大のための資金調達と、より大きな組織での開発を希望したためです。ソフトウェアの将来性とエンジニアの技術力が評価され、譲渡価格は約1億円でした。フリーランスエンジニアの場合、事業売却という形ではなく、業務委託契約の延長線上として、段階的に事業を譲渡していくケースもあります。
4.2 中規模IT事業の売却事例
中規模IT事業の売却では、財務状況の健全性や事業の成長性が重視されます。デューデリジェンス(買収監査)に備え、財務情報を整理しておくことが重要です。
4.2.1 従業員数50名程度のシステム開発会社の事例大阪に拠点を置く従業員数45名のシステム開発会社が、大手SIerに売却されました。売却理由は、更なる事業拡大のための資金調達と、大手企業の経営資源を活用した事業成長を目的としたものです。安定した収益基盤と高い技術力が評価され、譲渡価格は約20億円でした。この事例では、売却後も経営陣は残留し、事業を継続しています。
4.3 大規模IT事業の売却事例
大規模IT事業の売却は、市場に与える影響も大きいため、慎重な検討が必要です。M&Aアドバイザーのサポートを受け、最適な売却先を選定することが重要です。
4.3.1 上場IT企業の子会社売却事例東証プライム上場企業であるIT企業が、子会社であるゲーム開発会社を売却しました。売却理由は、経営資源をコア事業に集中させるためです。ゲーム開発会社の業績は好調でしたが、親会社の中長期的な戦略に合致しないため、売却が決定されました。譲渡価格は約50億円でした。この事例は、事業ポートフォリオの見直しによる選択と集中を目的とした売却事例です。
規模 | 事例 | 売却理由 | 評価ポイント | 譲渡価格 |
---|---|---|---|---|
小規模 | Web制作会社(従業員7名) | 創業者の高齢化による事業承継 | ノウハウ、顧客基盤 | 約3億円 |
小規模 | フリーランスエンジニア | 資金調達、組織での開発 | ソフトウェアの将来性、技術力 | 約1億円 |
中規模 | システム開発会社(従業員45名) | 資金調達、事業成長 | 収益基盤、技術力 | 約20億円 |
大規模 | 上場IT企業の子会社(ゲーム開発会社) | 経営資源の集中 | 業績、市場価値 | 約50億円 |
これらの事例はあくまで一例であり、実際の売却価格は事業内容、収益性、将来性、市場環境など様々な要因によって変動します。売却を検討する際は、専門家への相談が不可欠です。これらの事例を参考に、自社の事業規模や状況に合った売却戦略を検討しましょう。
5. 業種別のIT事業売却事例
IT事業の売却は、業種によってその特性が大きく異なります。ここでは、代表的なIT事業の業種別に、売却事例を詳しく見ていきましょう。売却価格の算定方法やM&Aアドバイザーの活用、デューデリジェンスのポイントなども合わせて解説します。
5.1 Web制作事業の売却事例
Web制作事業は、顧客基盤や制作実績、デザイナーやエンジニアといった人材が重要な評価ポイントとなります。小規模なWeb制作会社から、大規模なWeb制作会社まで、売却規模も様々です。
5.1.1 従業員数15名のWeb制作会社の事例東京都内にある従業員数15名のWeb制作会社A社は、大手企業との取引実績を強みとして、地方展開を目指す同業他社B社に株式譲渡で売却されました。売却価格は、A社の直近3年間の平均利益の5倍で算定されました。M&Aアドバイザーを活用し、スムーズな売却を実現しました。デューデリジェンスでは、顧客との契約内容や従業員の引き継ぎについて重点的に調査されました。
5.1.2 フリーランスWebデザイナーの事業売却事例埼玉県在住のフリーランスWebデザイナーC氏は、個人事業を法人化し、事業拡大を目指していましたが、健康上の理由から事業売却を決断しました。顧客リストや制作実績を評価され、都内のWeb制作会社に事業譲渡で売却。売却価格は、過去の売上実績と将来の収益性を考慮して算定されました。事業譲渡のため、従業員の引き継ぎ問題は発生しませんでした。
5.2 システム開発事業の売却事例
システム開発事業は、保有技術や開発実績、主要顧客との関係性などが評価のポイントとなります。特に、ニッチな分野での高い技術力を持つ企業は、高値で売却される傾向があります。
5.2.1 従業員数50名程度のシステム開発会社の事例大阪に拠点を置く従業員数50名程度のシステム開発会社D社は、独自のAI技術を強みとして、大手IT企業E社に株式譲渡で売却されました。売却価格は、将来の収益性に加え、AI技術の将来性を高く評価され、高額での売却となりました。デューデリジェンスでは、AI技術に関する特許やノウハウの確認が重要視されました。
5.3 ソフトウェア開発事業の売却事例
ソフトウェア開発事業は、開発したソフトウェアの市場シェアや将来性、開発チームの技術力などが評価のポイントとなります。SaaS型のビジネスモデルを展開している企業は、安定した収益基盤を評価され、高値で売却されるケースが多いです。
5.3.1 会計ソフト開発会社の売却事例クラウド型の会計ソフトを開発・販売するF社は、中小企業を中心に多くの顧客を獲得し、急成長を遂げていました。更なる事業拡大を目指し、大手IT企業G社に株式譲渡で売却。売却価格は、今後の市場拡大予測も加味され、高額となりました。デューデリジェンスでは、ソフトウェアのセキュリティ対策や顧客データの管理体制が重点的に調査されました。
5.4 ITコンサルティング事業の売却事例
ITコンサルティング事業は、コンサルタントの専門性や実績、顧客との信頼関係が重要な評価ポイントとなります。大規模なプロジェクトの実績を持つ企業は、高値で売却される傾向があります。
5.4.1 中小企業向けITコンサルティング会社の売却事例中小企業向けにITコンサルティングを提供するH社は、顧客からの信頼も厚く、安定した収益を上げていました。代表取締役の高齢化に伴い、事業承継を目的として、同業他社I社に事業譲渡で売却。売却価格は、顧客基盤とコンサルタントのノウハウを評価され、良好な結果となりました。デューデリジェンスでは、顧客との契約内容やコンサルタントの引き継ぎについて重点的に調査されました。
業種 | 事例 | ポイント |
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Web制作 | 15名規模の会社が同業他社に株式譲渡 フリーランスWebデザイナーが事業譲渡 |
顧客基盤、制作実績、人材 事業規模に応じた多様な売却形態 |
システム開発 | 50名規模の会社が大手IT企業に株式譲渡 | 保有技術、開発実績、主要顧客との関係性 ニッチな技術力は高評価 |
ソフトウェア開発 | クラウド会計ソフト開発会社が大手IT企業に株式譲渡 | 市場シェア、将来性、開発チームの技術力 SaaS型ビジネスモデルは高評価 |
ITコンサルティング | 中小企業向けコンサル会社が同業他社に事業譲渡 | コンサルタントの専門性、実績、顧客との信頼関係 事業承継目的の売却事例も |
上記はあくまで一例であり、実際の売却価格は個々の企業の状況によって大きく異なります。事業売却を検討する際は、M&Aアドバイザーに相談し、適切な評価と売却戦略を立てることが重要です。
6. まとめ
IT事業の売却は、事業規模や業種によって適切な手法や価格が大きく異なります。小規模なWeb制作会社から大規模な上場IT企業の子会社まで、それぞれの状況に合わせた綿密な準備と戦略が不可欠です。この記事では、IT事業売却の基礎知識から価格算定方法、必要な準備、そして具体的な事例までを網羅的に解説しました。
売却価格を決定づけるDCF法やマルチプル法といった評価方法を理解し、事業価値を最大化するための準備を行うことが重要です。財務状況の整理や事業計画の見直しだけでなく、従業員への丁寧な説明も円滑な売却プロセスには欠かせません。また、事業規模や業種によって異なる事例を参考に、自社に最適な売却戦略を立てることが成功への鍵となります。
例えば、フリーランスエンジニアの場合、過去の収益実績や顧客基盤が評価のポイントとなる一方、上場企業の子会社売却では、市場における競争力や将来的な成長性などが重視されます。Web制作会社やシステム開発会社など、業種によっても評価基準や売却プロセスは変化します。それぞれの状況を理解し、専門家であるM&Aアドバイザーのサポートを受けながら、最適な売却方法を選択しましょう。