IT事業の売却プロセスを徹底解説!M&A成功の秘訣と注意点
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公開日:2024年10月17日最終更新日:2025年6月9日
IT事業の売却を検討している経営者の方へ。売却プロセスは複雑で、多くの疑問や不安を抱えているのではないでしょうか?
この記事では、IT事業売却の全プロセスを、準備段階からクロージングまで徹底解説します。事業価値の算定方法、買い手候補の選定、デューデリジェンス、契約交渉など、成功させるための秘訣や注意点を具体的に示します。
さらに、よくある質問への回答も掲載。この記事を読むことで、売却プロセス全体を理解し、M&Aを成功に導くための具体的なステップと、事前に把握しておくべきポイントが分かります。スムーズな事業承継、事業拡大のための資金調達、市場変化への対応など、あなたの目標達成を後押しする情報が満載です。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
1. IT事業を売却する理由
IT事業を売却する理由は企業によって様々ですが、多くの場合、以下のいずれか、または複数の要因が組み合わされています。売却の検討は、事業の成長段階や経営環境の変化に応じて行われる重要な経営判断です。
1.1 事業拡大のための資金調達事業をさらに拡大・発展させるためには、新たな設備投資や人材採用、マーケティング強化など、多額の資金が必要となる場合があります。株式売却による資金調達は、銀行融資などと異なり、返済義務がないため、財務体質を悪化させることなく、迅速に資金を調達できるメリットがあります。特に、IPOを目指すよりも迅速に資金を調達したい場合に有効な手段となります。
1.2 経営者の高齢化・後継者不足特にオーナー経営の企業では、経営者の高齢化や後継者不足が事業継続の大きな課題となることがあります。後継者が見つからない場合、事業を売却することで、従業員の雇用を守り、事業を継続させる道筋をつけることができます。M&Aによる事業承継は、後継者問題の解決策として注目されています。
1.3 市場の変化への対応IT業界は技術革新が速く、市場の変化も激しい業界です。競争激化や新たなテクノロジーの台頭により、既存事業の収益性が悪化したり、将来性が不透明になることもあります。そのような状況下では、事業を売却することで、損失を最小限に抑え、経営資源を他の成長分野に集中させる戦略的な選択となる場合があります。
例えば、自社の技術やノウハウをより大きな企業に売却することで、より広い市場への展開や更なる技術開発を期待することもできます。
理由 | 詳細 |
---|---|
経営資源の集中 | 特定の事業に経営資源を集中させるため、他の事業を売却するケース。 |
事業ポートフォリオの再構築 | 企業全体の事業ポートフォリオを見直し、非中核事業を売却することで、収益性や成長性を高める戦略。 |
リスクヘッジ | 特定の事業にリスクが集中している場合、その事業を売却することでリスクを分散させる。 |
株主への利益還元 | 売却益を株主への配当などに充てることで、株主価値を高める。 |
2. IT事業売却プロセス
IT事業の売却プロセスは、大きく分けて「準備段階」「売却活動段階」「交渉・契約段階」「クロージング」の4つの段階に分かれます。それぞれの段階における具体的な内容は以下の通りです。
2.1 準備段階売却活動をスムーズに進めるためには、事前の準備が不可欠です。準備段階では、主に以下の3つの作業を行います。
2.1.1 事業価値の算定まずは、売却対象となるIT事業の価値を算定します。事業価値の算定方法は、DCF法、類似会社比較法、純資産法など複数存在し、事業の特性や状況に応じて適切な方法を選択する必要があります。将来のキャッシュフロー予測や、類似企業の財務状況などを分析し、客観的な評価額を算出することが重要です。
2.1.2 売却対象の明確化売却する事業の範囲を明確に定義します。事業の一部のみを売却する場合、どの部門や資産を対象とするかを具体的に決定する必要があります。また、売却対象に含まれる知的財産権や契約関係なども明確にしておくことが重要です。
2.1.3 アドバイザーの選定M&Aのプロセスには専門的な知識と経験が必要となるため、M&Aアドバイザー(金融機関、M&A仲介会社、弁護士、会計士など)を選定します。アドバイザーは、事業価値の算定、買い手候補の探索、デューデリジェンス、交渉、契約締結など、売却プロセス全体をサポートします。信頼できるアドバイザーを選ぶことが、M&Aを成功させるための重要な要素となります。
2.2 売却活動段階準備段階が完了したら、いよいよ売却活動を開始します。この段階では、以下の3つの作業を行います。
2.2.1 ノンネーム資料の作成買い手候補に事業概要を伝えるためのノンネーム資料(会社名や具体的な事業内容を伏せた資料)を作成します。ノンネーム資料には、事業概要、財務情報、強み・弱み、将来展望などが記載されます。買い手候補の興味を引く魅力的な資料を作成することが重要です。
2.2.2 買い手候補の選定アドバイザーの協力を得ながら、ノンネーム資料を基に買い手候補の選定を行います。事業とのシナジー効果が見込める企業や、財務基盤の安定した企業などを候補として選定します。また、買い手候補の企業文化や経営理念なども考慮することが重要です。
2.2.3 デューデリジェンス買い手候補から選定された企業に対して、デューデリジェンス(買収監査)を実施します。デューデリジェンスでは、財務状況、法務状況、事業状況など、多岐にわたる調査が行われます。デューデリジェンスの結果に基づいて、最終的な売却価格や契約条件が決定されます。
2.3 交渉・契約段階デューデリジェンスが完了したら、買い手と最終的な交渉を行い、契約を締結します。この段階では、以下の2つの作業を行います。
2.3.1 最終交渉デューデリジェンスの結果を踏まえ、売却価格、契約条件、クロージング後の経営体制などについて、買い手と最終的な交渉を行います。双方が納得できる条件で合意形成を図ることが重要です。
2.3.2 契約締結最終交渉で合意した内容に基づき、売買契約を締結します。契約書には、売却価格、支払方法、契約条件、表明保証条項などが詳細に記載されます。
2.4 クロージング契約締結後、最終的な手続きを行い、事業の所有権を買い手に移転します。クロージング後、契約に基づき、売却代金の支払いなどが行われます。
IT事業の売却プロセスは複雑で、多くの時間と労力を要します。各段階で専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが重要です。以下の表に、各段階の主要なタスクと、想定される期間をまとめました。
段階 | 主要タスク | 想定期間 |
---|---|---|
準備段階 | 事業価値算定、売却対象明確化、アドバイザー選定 | 1~3ヶ月 |
売却活動段階 | ノンネーム資料作成、買い手候補選定、デューデリジェンス | 3~6ヶ月 |
交渉・契約段階 | 最終交渉、契約締結 | 1~2ヶ月 |
クロージング | 所有権移転、代金支払い | 1~2ヶ月 |
全体として、IT事業の売却プロセスは6ヶ月から1年以上かかる場合もあります。市場環境や事業の状況によって期間は変動するため、余裕を持ったスケジュールで進めることが重要です。
【関連】IT事業の事業売却|事業規模・業種別事例付き完全ガイド3. IT事業売却でM&Aを成功させる秘訣
IT事業の売却、特にM&Aによる売却を成功させるためには、綿密な計画と適切な戦略が不可欠です。売却プロセス全体をスムーズに進め、最大限の価値を実現するために、以下の秘訣を参考にしましょう。
3.1 適切なアドバイザー選びM&Aアドバイザーは、売却プロセス全体をサポートする重要なパートナーです。財務、法務、税務など専門的な知識を持つアドバイザーを選ぶことで、売却価格の最大化、リスクの最小化、スムーズな取引を実現できます。M&Aアドバイザーを選ぶ際には、以下の点を考慮しましょう。
- IT業界のM&A実績
- 専門性と経験
- ネットワーク
- コミュニケーション能力
- 料金体系
複数のアドバイザーに相談し、自社のニーズに合った最適なパートナーを選びましょう。実績や専門性だけでなく、信頼関係を築ける相手であることも重要です。
3.2 綿密な準備M&Aを成功させるためには、事前の準備が不可欠です。準備段階でしっかりと時間をかけることで、売却プロセスをスムーズに進め、有利な条件で売却できる可能性が高まります。具体的には、以下の準備を行いましょう。
項目 | 内容 |
---|---|
財務情報の整理 | 過去数年間の財務諸表、事業計画などを整理し、正確な情報を提供できるように準備します。 |
事業価値の算定 | DCF法や類似会社比較法などを用いて、事業価値を算出し、売却価格の目安を把握します。 |
ノンネーム資料の作成 | 企業概要、事業内容、財務情報などを記載したノンネーム資料を作成し、買い手候補への情報提供に備えます。 |
デューデリジェンスへの対応 | 買い手候補からのデューデリジェンスに備え、必要な資料を準備し、質問への回答を検討しておきます。 |
M&A交渉では、価格だけでなく、契約条件、クロージング時期など、様々な項目について交渉を行います。柔軟な姿勢で交渉に臨むことで、双方が納得できる合意に達しやすくなります。ただし、自社の譲れない条件は明確にしておき、妥協すべき点とそうでない点を見極めることが重要です。交渉においては、以下の点を意識しましょう。
- 買い手候補のニーズの理解
- Win-Winの関係の構築
- 冷静な判断
- 専門家との連携
M&Aは複雑なプロセスであり、予期せぬ事態が発生することもあります。柔軟な対応力と冷静な判断力を持つことで、M&Aを成功に導くことができるでしょう。
【関連】会社売却でアドバイザーに依頼するべきか?自分でM&Aする場合の手間とリスクとは?4. IT事業売却の注意点
IT事業の売却は、企業にとって重要な意思決定となるため、綿密な計画と慎重な実行が必要です。売却プロセスにおいては、以下の注意点に留意することで、リスクを最小限に抑え、成功へと導くことができます。
4.1 秘密保持IT事業売却の情報は、競合他社に漏洩した場合、競争上の不利益を被る可能性があります。また、顧客や従業員の不安を引き起こし、事業に悪影響を与える可能性も懸念されます。そのため、売却に関する情報は、関係者以外には開示しないよう徹底した秘密保持が必要です。秘密保持契約(NDA)の締結は必須です。
4.2 従業員への対応従業員は企業の貴重な財産です。売却に関する情報は、適切なタイミングで、正確かつ丁寧に伝えることが重要です。売却後の雇用条件や事業の方向性について、不安を取り除くよう努め、従業員のモチベーション維持に配慮する必要があります。適切な対応を怠ると、キーパーソンの退職や生産性の低下につながる可能性があります。
4.3 事業継続性売却プロセス中も、事業の継続性は確保しなければなりません。顧客へのサービス提供や新規事業の開発を滞りなく進めることで、企業価値の維持・向上に繋がります。売却活動に注力しすぎるあまり、事業運営がおろそかにならないよう注意が必要です。また、買収後の事業継続性についても、事前に綿密な計画を立てておく必要があります。
4.4 その他留意事項上記以外にも、以下のような点に留意することで、よりスムーズな売却プロセスを実現できます。
項目 | 内容 |
---|---|
デューデリジェンスへの対応 | 買い手候補によるデューデリジェンス(DD)に備え、必要な情報を整理し、スムーズな情報提供を行う必要があります。財務情報、契約書、知的財産権など、広範な資料の準備が必要となる場合もあります。 |
関係各署との調整 | 売却に際しては、弁護士、税理士、公認会計士などの専門家との連携が不可欠です。それぞれの専門家のアドバイスを適切に受けることで、法務・税務・会計上のリスクを最小限に抑えることができます。 |
適切な売却時期の選定 | 市場の動向や自社の業績などを考慮し、適切な売却時期を見極めることが重要です。焦って売却を進めると、企業価値に見合わない価格で売却せざるを得ない状況に陥る可能性があります。 |
契約内容の精査 | 売買契約書は、売却価格だけでなく、買収後の事業計画、従業員の処遇、表明保証条項など、多岐にわたる内容が含まれます。契約内容を詳細に確認し、自社にとって不利な条項がないかを確認することが重要です。専門家のサポートを受けながら、契約内容を精査しましょう。 |
5. よくある質問(FAQ)
IT事業の売却に関するよくある質問をまとめました。売却プロセスをスムーズに進めるために、ぜひご確認ください。
5.1 IT事業売却にかかる期間は?IT事業の売却にかかる期間は、事業規模、売却対象範囲、買い手候補との交渉状況などによって大きく変動します。一般的には、準備段階からクロージングまで、6ヶ月から1年以上かかるケースが多いです。
準備段階では、事業価値の算定、売却対象の明確化、アドバイザー選定などに時間を要します。また、デューデリジェンスや最終交渉も期間に影響を与える大きな要因となります。スムーズな売却を目指すためには、余裕を持ったスケジュールを立てることが重要です。
IT事業売却に必要な書類は多岐に渡り、売却対象や買い手候補の要求によって異なります。主な書類は以下の通りです。
書類の種類 | 内容 |
---|---|
定款 | 会社の目的、事業内容、組織などが記載された基本的な書類 |
登記事項証明書 | 会社の登記内容が記載された公的な書類 |
株主名簿 | 株主の氏名、住所、保有株式数などが記載された書類 |
財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書) | 過去数年間の財務状況を示す書類 |
事業計画書 | 今後の事業展開を示す書類 |
契約書(顧客との契約書、従業員との雇用契約書など) | 事業運営に関わる重要な契約書 |
知的財産権関連書類(特許、商標、著作権など) | 保有する知的財産権に関する書類 |
その他、買い手候補から追加で資料を要求される場合もあります。必要書類を事前に準備することで、売却プロセスをスムーズに進めることができます。
5.3 IT事業売却時の税金は?IT事業売却時には、譲渡所得税や法人税などの税金が発生する可能性があります。売却益が個人の場合は譲渡所得税、法人の場合は法人税が課税対象となります。譲渡所得税は、売却益から取得費や譲渡費用を差し引いた金額に税率が適用されます。
税率は、保有期間によって異なり、5年超の場合は20%(所得税15%、住民税5%)、5年以内は39%(所得税30%、住民税9%)です。ただし、中小企業の株式譲渡など一定の要件を満たす場合には、軽減税率が適用される場合があります。
法人税は、売却益に対して課税されます。税率は、課税所得に応じて変動します。また、消費税も考慮する必要があります。売却前に税理士などの専門家に相談し、適切な税務対策を行うことが重要です。
IT事業の売却は、事業拡大、後継者不足、市場変化への対応など、様々な理由で検討される経営上の重要な決断です。売却プロセスは準備、売却活動、交渉・契約、クロージングといった段階を経て進みます。
成功の秘訣は、適切なアドバイザー選び、綿密な準備、そして柔軟な交渉です。秘密保持、従業員への対応、事業継続性といった注意点にも配慮が必要です。売却期間や必要書類、税金など疑問点は専門家への相談がおすすめです。この記事が、IT事業売却を検討する経営者の方々にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。