建材業界のM&A動向|事例から読み解く業界再編のシナリオ
建材業界のM&Aは近年増加傾向にあり、業界再編の大きな要因となっています。この現状を理解することは、業界関係者にとって事業戦略上非常に重要です。この記事では、建材業界におけるM&Aの現状と背景、具体的な事例、メリット・デメリット、そして今後の展望について解説します。
需要の変化やデジタル化、後継者不足といった課題に対し、M&Aがどのような役割を果たしているのかを理解し、今後の業界動向を予測する一助となるでしょう。LIXILグループやYKK APといった大手企業の事例だけでなく、中小企業の事例も紹介することで、多角的な視点からM&Aを読み解きます。
この記事を通して、建材業界のM&Aに関する理解を深め、今後のビジネスチャンスを掴むためのヒントを得てください。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
1. 建材業界を取り巻く現状
日本の建材業界は、住宅着工戸数の増減に大きく左右される市場特性を持っています。近年では、少子高齢化による人口減少の影響を受け、新設住宅着工戸数は減少傾向にあります。加えて、リフォーム市場もコロナ禍による巣ごもり需要の一巡で、堅調な伸びは落ち着きを見せています。こうした市場環境の中、建材業界は厳しい競争にさらされています。
また、ウッドショックに代表される原材料価格の高騰や、エネルギーコストの上昇も業界全体に大きな影響を与えています。価格転嫁が難しい中小企業にとっては、収益を圧迫する深刻な問題となっています。
さらに、働き方改革やESG経営への意識の高まりも、建材業界の企業活動に変化をもたらしています。生産性向上や環境負荷低減への取り組みは、企業の競争力を左右する重要な要素となっています。
1.1 需要構造の変化新築住宅着工戸数の減少傾向に対し、リフォーム・リノベーション市場は一定の需要を維持しています。特に、中古住宅流通市場の活性化に伴い、既存住宅のリノベーション需要は増加傾向にあります。そのため、建材メーカー各社は、リフォーム市場向けの商品開発や販売戦略に力を入れています。
1.2 競争環境の激化国内建材市場は、LIXIL、YKK AP、TOTOなどの大手企業が寡占状態にあります。これらの大手企業は、M&Aや事業提携を通じて事業規模を拡大し、市場シェアをさらに高めています。中小企業にとっては、大手企業との価格競争やシェア争いが激化しており、生き残りをかけた戦略が求められています。
1.3 サプライチェーンの課題課題 | 内容 |
---|---|
ウッドショックの影響 | 木材価格の高騰や供給不足により、建材メーカーの調達コストが増加し、製品価格への転嫁を迫られています。 |
物流コストの上昇 | 原油価格や人件費の高騰により、物流コストが増加しており、建材メーカーの収益を圧迫しています。 |
脱炭素化への対応 | 環境規制の強化に伴い、建材メーカーはCO2排出量削減のための設備投資や製品開発が求められています。 |
BIM(Building Information Modeling)やIoTなどのデジタル技術の導入が進んでおり、設計・施工プロセスにおける効率化や品質向上が期待されています。また、AIを活用した需要予測や生産管理システムの導入も進んでいます。これらの技術革新に対応できるかが、今後の建材メーカーの競争力を左右する重要な要素となります。
【関連】建設業界におけるM&A仲介の現状と今後の動向2. M&Aが増加している背景
建材業界におけるM&A増加の背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。ここでは主な要因として、需要の変化と競争激化、デジタル化・DXへの対応、そして後継者不足問題について解説します。
2.1 需要の変化と競争激化近年の日本では、新築住宅着工戸数の減少傾向やリフォーム市場の拡大といった需要構造の変化が見られます。加えて、少子高齢化による人口減少も市場縮小の圧力となっています。
このような状況下で、建材メーカーや商社は生き残りをかけて、競争力を強化する必要に迫られています。M&Aは、事業規模の拡大や新たな市場への進出を迅速に実現する手段として、企業の競争戦略において重要な役割を果たしています。
建設業界全体でデジタル化(DX)が加速する中、建材業界もその流れに取り残されるわけにはいきません。BIM(Building Information Modeling)の普及やIoTを活用したスマートホームの需要増加など、デジタル技術への対応は企業の競争力を左右する重要な要素となっています。
しかし、DX推進には多額の投資と専門的な人材が必要となるため、中小企業にとっては大きな負担となります。M&Aによって経営資源を統合し、DX投資を効率的に行うことで、競争優位性を築くことが期待されます。
特に地方の中小建材企業において、後継者不足は深刻な問題となっています。事業承継を円滑に進めるため、M&Aを選択する企業が増加しています。
M&Aは、後継者問題の解決だけでなく、従業員の雇用維持や地域経済の活性化にも貢献する可能性を秘めています。また、大手企業にとっては、M&Aを通じて地方市場への進出やニッチな技術の獲得を図る機会となります。
要因 | 詳細 |
---|---|
需要の変化と競争激化 | 新築住宅着工戸数減少、リフォーム市場拡大、少子高齢化による市場縮小、競争激化 |
デジタル化・DXへの対応 | BIMの普及、IoT活用、スマートホーム需要増加、DX投資負担、競争優位性確保 |
後継者不足問題 | 事業承継の円滑化、雇用維持、地域経済活性化、大手企業による地方市場進出、ニッチ技術の獲得 |
3. M&Aの動向と事例
建材業界におけるM&Aは、近年増加傾向にあります。大手企業による規模拡大を目的としたものから、中小企業の事業承継を目的としたものまで、その目的や規模は多岐に渡ります。ここでは、具体的な事例を交えながら、M&Aの動向を解説します。
3.1 大手企業によるM&A事例 3.1.1 LIXILグループによる国内建材メーカーの買収LIXILグループは、国内建材市場におけるリーディングカンパニーとして、積極的にM&Aを展開しています。例えば、衛生陶器メーカーの買収や、住宅設備機器メーカーの買収などを通じて、事業ポートフォリオの拡充とシェア拡大を図っています。これらのM&Aにより、LIXILグループは、より幅広い顧客ニーズに対応できる体制を構築しています。
3.1.2 YKK APによる窓・サッシ関連企業の買収YKK APは、窓・サッシ業界のリーディングカンパニーとして、M&Aを通じて事業領域の拡大を図っています。例えば、窓・サッシ関連部材メーカーの買収や、施工会社との提携などを通じて、バリューチェーンの強化と競争力の向上を目指しています。これらのM&Aにより、YKK APは、より高品質な製品・サービスの提供を実現しています。
3.2 中小企業のM&A事例 3.2.1 地方建材商社同士の合併地方建材商社同士の合併は、近年増加傾向にあります。市場縮小や競争激化といった経営環境の変化に対応するため、経営資源の統合による効率化や規模の経済の追求を目的としています。合併により、販売網の拡大やコスト削減効果が期待できます。
3.2.2 異業種からの参入によるM&A異業種からの参入によるM&Aも、注目すべき動向です。例えば、IT企業や物流企業が建材メーカーを買収するケースが見られます。これらの企業は、自社の技術やノウハウを活かして建材業界のDX推進や新たなビジネスモデルの構築を目指しています。異業種からの参入は、建材業界に新たなイノベーションをもたらす可能性を秘めています。
企業規模 | M&Aの形態 | 主な目的 | 事例 |
---|---|---|---|
大手企業 | 買収 | 事業ポートフォリオの拡充、シェア拡大、競争力強化 | LIXILグループ、YKK AP |
中小企業 | 合併 | 経営資源の統合、効率化、規模の経済の追求、事業承継 | 地方建材商社 |
異業種 | 買収 | DX推進、新ビジネスモデル構築、市場参入 | IT企業、物流企業 |
上記はあくまで代表的な事例であり、M&Aの形態や目的は多様化しています。市場環境の変化や企業の戦略に応じて、最適なM&A戦略を策定することが重要です。
【関連】M&Aで激変するリフォーム業界の最新動向と未来予測4. 建材業界のM&Aにおけるメリット・デメリット
建材業界においてM&Aは、企業成長や事業再編の有効な手段となりますが、メリットだけでなくデメリットも存在します。M&Aを検討する際には、双方の側面を理解し、慎重な判断が必要です。
4.1 M&AのメリットM&Aによるメリットは多岐に渡り、企業規模や経営戦略によって期待できる効果も異なります。主なメリットは以下の通りです。
メリット | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
規模の経済によるコスト削減 | 生産量の増加による仕入れコストの削減、管理部門の統合による間接費の削減などが期待できます。 | 複数の木材加工会社が合併することで、木材の大量仕入れによるコスト削減を実現。 |
販売網の拡大とシェア獲得 | 合併や買収によって、互いの販売網を活用し、新たな市場への進出や既存市場でのシェア拡大が可能になります。 | 関東地方に強い建材商社と関西地方に強い建材商社が合併することで、全国規模での販売網を構築。 |
技術・ノウハウの共有 | 異なる技術やノウハウを持つ企業同士のM&Aにより、相乗効果を発揮し、新たな製品開発やサービス向上に繋がります。 | 耐震技術に強みを持つ企業と省エネ技術に強みを持つ企業が合併することで、高機能な建材の開発を実現。 |
事業ポートフォリオの多様化 | 異なる事業領域を持つ企業を買収することで、事業リスクの分散や新たな収益源の確保が可能になります。 | 住宅建材メーカーがリフォーム事業を行う企業を買収することで、事業ポートフォリオを拡大。 |
後継者問題の解決 | 後継者不足に悩む企業にとって、M&Aは事業承継の有効な手段となります。 | 後継者不在の老舗木材店が、大手建材商社に事業を譲渡することで、事業の継続を確保。 |
M&Aはメリットばかりではなく、様々なリスクも伴います。主なデメリットは以下の通りです。
デメリット | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
企業文化の衝突 | 異なる企業文化を持つ組織の統合は、従業員の反発やモチベーション低下に繋がる可能性があります。 | 合併後の企業文化の統一が難航し、従業員の離職率が上昇。 |
従業員のモチベーション低下 | 人事異動や雇用不安など、M&Aに伴う変化は従業員のモチベーションに影響を与える可能性があります。 | 合併による人員削減の発表により、残留従業員のモチベーションが低下。 |
統合プロセスにおけるコストと時間 | システム統合や人事制度の統一など、統合プロセスには多大なコストと時間を要します。 | システム統合に想定以上の費用と時間がかかり、事業計画に遅延が生じる。 |
買収価格の妥当性 | 買収価格が適切でないと、買収後に財務負担が大きくなり、経営を圧迫する可能性があります。 | 過大な買収価格により、買収後の企業の財務状況が悪化。 |
デューデリジェンスの不足 | 買収対象企業の調査不足により、想定外の負債やリスクが発覚し、損失を被る可能性があります。 | 買収対象企業の財務状況の調査不足により、隠れた負債が発覚。 |
M&Aを成功させるためには、メリットとデメリットを十分に理解し、綿密な計画と実行が必要です。事前のデューデリジェンスやPMI(Post Merger Integration)を適切に行うことで、M&Aのリスクを軽減し、シナジー効果を最大化することが重要です。
【関連】事業売却プロセス|準備から成約までの流れと費用を徹底解説!5. 今後の建材業界M&Aの展望
建材業界を取り巻く環境変化は激しさを増しており、M&Aは今後も業界再編の重要な手段であり続けると予想されます。
需要の減少、原材料価格の高騰、サプライチェーンの混乱、環境規制の強化など、企業が単独で対処するには困難な課題が山積しています。これらの課題を克服し、持続的な成長を遂げるためには、M&Aによる経営資源の最適化、事業ポートフォリオの再構築、新たな市場への進出が不可欠となるでしょう。
今後は、以下のトレンドがM&Aの動きを加速させると考えられます。
- DX推進を目的としたM&A:業務効率化やデータ活用による新たな価値創出を目指し、IT企業やソフトウェア開発企業の買収が増加するでしょう。
- サステナビリティ経営を強化するM&A:環境負荷低減や再生可能エネルギー関連技術を持つ企業の買収が活発化すると予想されます。
- 海外市場への進出を目的としたM&A:国内市場の縮小を見据え、成長が見込まれるアジア諸国などへの進出を加速させるためのM&Aが増加するでしょう。
- ニッチ市場特化型M&A:特定の建材分野に強みを持つ中小企業同士のM&Aが増加し、専門性を高めることで競争優位性を築く動きが強まるでしょう。
M&Aを成功させるためには、綿密なデューデリジェンス、PMI(Post Merger Integration:合併後統合)の計画策定、従業員への丁寧な説明と理解の促進が重要です。特に、企業文化の融合、人事制度の統合、システムの統一など、PMIのプロセスを適切に管理することが、M&A後のシナジー効果最大化に不可欠です。
フェーズ | ポイント | 具体的な施策 |
---|---|---|
デューデリジェンス | 財務状況、法務リスク、事業内容の精査 | 財務諸表分析、契約書の確認、現場視察、従業員へのヒアリング |
PMI計画策定 | 統合後の組織体制、事業戦略、システム統合計画の策定 | 統合シナリオの作成、人事制度設計、システム統合計画の策定、リスク管理体制の構築 |
PMI実行 | 計画に基づいた統合プロセスの実行とモニタリング | 進捗状況の確認、課題発生時の対応策検討、従業員への継続的な情報提供とコミュニケーション |
M&Aは企業にとって大きな転換期となるため、慎重な検討と周到な準備が求められます。市場環境の変化を的確に捉え、最適なM&A戦略を策定することで、企業は持続的な成長と発展を実現できるでしょう。
6. まとめ建材業界では、需要の変化、デジタル化の進展、後継者不足といった課題を背景に、M&Aが活発化しています。大手企業による市場再編や、中小企業の生き残り戦略としてのM&Aなど、様々な事例が見られました。
M&Aは規模の経済によるコスト削減、販売網拡大、技術共有といったメリットがある一方、企業文化の衝突や統合コストといったデメリットも存在します。今後の建材業界では、M&Aがさらに加速すると予想されます。
企業は、M&Aのメリット・デメリットを理解し、綿密な戦略を立てることで、変化の激しい市場環境を乗り越え、持続的な成長を実現していく必要があるでしょう。