M&A仲介における説明義務違反とは?事例と責任、回避策を徹底解説

M&A仲介における説明義務違反とは?事例と責任、回避策を徹底解説

M&A仲介における説明義務違反で、思わぬ損失を被りたくないですか?この記事では、M&A仲介における説明義務違反の定義、対象となる情報、仲介会社の種類による違いなどを分かりやすく解説します。

さらに、不適切な財務情報の提供や隠蔽された負債など、具体的な事例を通して、その責任の重さ(民事・刑事)を理解することができます。また、買主・売主それぞれの立場に立った回避策、デューデリジェンスの徹底や専門家への相談、情報開示の重要性なども紹介。

M&A仲介会社を選ぶ際のコンプライアンスの重要性についても触れ、安全なM&Aを実現するための知識を網羅的に提供します。この記事を読めば、M&Aにおけるリスクを最小限に抑え、成功へと導くための具体的な方法を理解できます。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。




1. M&A仲介における説明義務違反とは

M&A仲介において、仲介会社は売主と買主に対して、M&A成立のために必要な情報を正確かつ網羅的に提供する義務を負います。この義務を「説明義務」といいます。

説明義務違反とは、M&A仲介会社が、この説明義務を怠り、不正確な情報提供や重要な情報の不開示などを行った場合を指します。説明義務違反は、M&A取引の当事者に重大な損害を与える可能性があり、法的責任を問われる可能性もあります。

1.1 説明義務違反の定義

M&A仲介における説明義務違反とは、仲介会社が売主または買主に対して、M&Aに関する重要な情報を正確に伝えなかったり、意図的に隠蔽したりする行為を指します。これは、民法上の善管注意義務違反や信義誠実の原則違反として捉えられます。具体的には、財務状況の虚偽表示、重要な契約内容の不開示、関連会社との取引に関する情報の隠蔽などが該当します。

1.2 どのような情報が説明義務の対象となるのか

説明義務の対象となる情報は、M&Aの成否に影響を与える可能性のある重要な情報全てが含まれます。具体的には、以下の情報が代表的な例として挙げられます。

  • 財務情報:売上高、利益、資産、負債など
  • 事業内容:主要製品・サービス、市場シェア、競合他社など
  • 法務情報:訴訟の有無、許認可の状況、重要な契約内容など
  • 労務情報:従業員数、労働組合の有無、労使関係など
  • 環境情報:環境規制への適合状況、環境問題に関するリスクなど

これらの情報は、買主が企業価値を適切に評価し、M&Aの意思決定を行う上で不可欠です。売主側も、適切な情報開示を行うことで、M&Aプロセスを円滑に進めることができます。

1.3 M&A仲介会社の種類と説明義務

M&A仲介会社には、FA(フィナンシャルアドバイザー)、ブティック型FA、M&A専門会社、事業会社系M&A会社、銀行系M&A会社など、様々な種類があります。それぞれの役割や専門分野は異なりますが、いずれもM&A取引において説明義務を負います。ただし、仲介会社の種類によって、専門性や関与の範囲が異なるため、説明義務の内容や程度も異なってきます。

仲介会社の種類 説明義務の範囲 特徴
FA(フィナンシャルアドバイザー) 財務デューデリジェンス、バリュエーション、交渉支援など 幅広いM&A案件に対応、財務的な専門性が高い
ブティック型FA 特定の業界やM&A手法に特化したアドバイス 専門性の高いアドバイスを提供
M&A専門会社 M&Aに関する総合的な支援 中小企業のM&A支援に強みを持つ場合が多い
事業会社系M&A会社 事業シナジーを重視したM&A支援 特定の業界に特化していることが多い
銀行系M&A会社 資金調達を含むM&A支援 大規模M&A案件への対応力が高い

M&A仲介会社を選ぶ際には、それぞれの特性を理解し、自社のニーズに合った会社を選定することが重要です。また、契約前に説明義務の範囲や内容について明確に確認しておくことが、後のトラブル防止につながります。

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2. M&A仲介における説明義務違反の事例
M&A仲介における説明義務違反の事例 売主側 買主側 M&A取引 不適切な財務情報の提供 隠蔽された負債の存在 重要な契約内容の不開示 環境負債の不開示 知的財産権問題の不開示 買収価格の過大評価 予期せぬ負債の発生 事業計画への悪影響 追加コストの発生 訴訟リスクの発生 説明義務違反による買主への影響 売主側が適切な情報開示を怠ることで、買主側は予期せぬリスクや損失を被る可能性がある

M&A仲介における説明義務違反は、様々な形で発生します。以下に具体的な事例を挙げ、説明義務違反の内容を解説します。

2.1 事例1 不適切な財務情報の提供

売主側が意図的に、あるいは過失によって不適切な財務情報を提供することは、説明義務違反に該当します。例えば、粉飾決算によって利益を水増ししたり、将来の業績について過度に楽観的な見通しを示したりする行為が挙げられます。また、重要な債務を隠蔽したり、偶発債務の存在を開示しなかったりする行為も問題となります。

2.2 事例2 隠蔽された負債の存在

買収後に発覚する隠蔽された負債は、M&Aにおける大きなリスク要因となります。例えば、未計上であった退職給付引当金や、保証債務、係争中の訴訟による潜在的な損害賠償などが挙げられます。これらの負債の存在を買主側に適切に開示しなかった場合、説明義務違反となる可能性があります。

2.3 事例3 重要な契約内容の不開示

企業価値に大きな影響を与える重要な契約内容を、売主側が買主側に開示しない場合も、説明義務違反に該当します。例えば、主要取引先との契約解除の可能性、不利な条件での長期契約の存在、競業避止義務に関する契約内容などが挙げられます。これらの情報は、買収後の事業計画に大きな影響を与える可能性があるため、適切に開示される必要があります。

事例 説明義務違反の内容 影響
不適切な収益認識 売上計上基準を操作し、実際よりも収益を多く計上する。 買収価格の過大評価、買収後の業績悪化
在庫の過大評価 陳腐化したり、需要のない在庫を実際よりも高い価値で計上する。 買収価格の過大評価、買収後の資産価値の減少
環境負債の不開示 土壌汚染やアスベスト問題など、将来発生する可能性のある環境関連の負債を開示しない。 買収後の予期せぬ支出、企業イメージの低下
知的財産権に関する紛争の不開示 特許権や商標権などを巡る係争中の訴訟や、潜在的な紛争の可能性を開示しない。 買収後の事業継続性への影響、訴訟費用等の負担
主要顧客の離脱リスクの不開示 主要顧客との契約が更新されない可能性や、競合他社への移行リスクを開示しない。 買収後の売上減少、事業計画の見直し

上記以外にも、従業員に関する問題(未払い残業代、労使紛争など)、関連会社との不透明な取引、許認可に関する問題など、様々な要因が説明義務違反に繋がる可能性があります。これらの事例はあくまで一例であり、具体的な状況に応じて判断する必要があります。

3. 説明義務違反が生じた場合の責任

M&A仲介における説明義務違反は、重大な法的責任を負う可能性があります。具体的には、民事責任と刑事責任が想定されます。違反の内容や程度によっては、両方の責任が同時に問われるケースもあります。

3.1 民事責任

民事責任とは、 private な関係における責任であり、主に損害賠償請求という形で発生します。説明義務違反によって買主が損害を被った場合、売主またはM&A仲介会社に対して損害賠償請求を行うことができます。

損害賠償の範囲は、説明義務違反と因果関係のある損害全てを含みます。例えば、実際よりも業績が低いことによる逸失利益や、隠蔽された負債の弁済費用などが挙げられます。

また、説明義務違反が契約締結の重要な要素であった場合、買主は契約の取消しや無効を主張できる可能性があります。契約が無効となった場合、当事者は契約締結前の状態に戻す義務が生じます。

責任の種類 内容 対象
損害賠償請求 説明義務違反によって生じた損害の賠償 売主、M&A仲介会社
契約の取消・無効 説明義務違反が契約締結の重要な要素だった場合に契約を無効化 売主
3.2 刑事責任

刑事責任は、 public な関係における責任であり、詐欺罪や偽計業務妨害罪などが適用される可能性があります。意図的に虚偽の情報を開示したり、重要な情報を隠蔽したりした場合、刑事責任を問われる可能性が高まります。特に、組織ぐるみで説明義務違反を行った場合は、法人の代表者なども処罰の対象となる可能性があります。

罪名 内容 対象
詐欺罪 相手を欺罔して財物を交付させる行為 売主、M&A仲介会社の担当者
偽計業務妨害罪 偽計を用いて他人の業務を妨害する行為 売主、M&A仲介会社の担当者

これらの責任は、個々のケースによって判断されるため、専門家である弁護士や公認会計士に相談することが重要です。適切なアドバイスを受けることで、自身のリスクを最小限に抑えることができます。

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4. M&A仲介における説明義務違反の回避策

M&A仲介における説明義務違反は、取引当事者双方にとって深刻な結果をもたらす可能性があります。そのため、売主・買主双方において、適切な対策を講じる必要があります。以下では、売主と買主それぞれの立場における回避策を詳しく解説します。

4.1 買主側の回避策

買主は、M&A取引において情報的に不利な立場に置かれることが多いため、より慎重な対応が必要です。説明義務違反のリスクを軽減するために、以下の対策を積極的に行うべきです。

4.1.1 デューデリジェンスの徹底

デューデリジェンスは、M&A取引における最重要プロセスの一つです。財務、法務、事業、税務など多岐にわたる分野の専門家を活用し、対象企業の現状を詳細に調査することで、隠れたリスクや問題点を発見することができます。

財務諸表の精査だけでなく、将来の収益性や事業計画の妥当性についても検証することが重要です。デューデリジェンスの範囲や深度を適切に設定し、経験豊富な専門家の協力を得ることが、説明義務違反のリスク軽減に繋がります。

4.1.2 専門家への相談

M&A取引は複雑なプロセスであり、専門的な知識が不可欠です。弁護士、公認会計士、税理士などの専門家に相談することで、契約内容の妥当性やリスク評価、デューデリジェンスの方針策定など、多岐にわたるサポートを受けることができます。

専門家の客観的な視点を取り入れることで、説明義務違反の見落としを防ぎ、より安全な取引を実現することができます。特に、M&A仲介会社が提示する情報に疑問点がある場合は、躊躇なく専門家に相談し、セカンドオピニオンを求めることが重要です。

4.2 売主側の回避策

売主は、説明義務違反を犯さないよう、積極的に情報開示を行う必要があります。以下の対策を講じることで、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。

4.2.1 情報開示の徹底

買主に対して、財務状況、事業内容、契約関係、リスク情報など、M&Aの判断に影響を与える可能性のある情報を正確かつ網羅的に開示する必要があります。意図的に情報を隠蔽したり、事実と異なる情報を提供したりすることは、説明義務違反に該当し、重大な責任を問われる可能性があります。

また、開示資料の作成にあたっては、弁護士や公認会計士などの専門家の助言を受けることで、正確性と網羅性を確保することが重要です。積極的に情報開示を行うことで、買主との信頼関係を構築し、スムーズな取引を実現することができます。

4.2.2 適切なM&A仲介会社の選定

M&A仲介会社は、売主と買主の間を取り持ち、取引を円滑に進める役割を担います。経験豊富で信頼できるM&A仲介会社を選定することは、説明義務違反のリスク軽減に大きく貢献します。仲介会社の選定にあたっては、実績や専門性、コンプライアンス体制などを慎重に評価する必要があります。

複数の仲介会社から提案を受け、比較検討することで、自社に最適なパートナーを見つけることができます。適切なM&A仲介会社を選定することで、情報開示のサポートやデューデリジェンスの円滑な実施、契約交渉の支援など、様々なメリットを得ることができます。

当事者 回避策 詳細
買主 デューデリジェンスの徹底 財務、法務、事業、税務など多岐にわたる分野の専門家を活用し、対象企業の現状を詳細に調査
専門家への相談 弁護士、公認会計士、税理士などの専門家に相談し、契約内容の妥当性やリスク評価、デューデリジェンスの方針策定等のサポートを受ける
売主 情報開示の徹底 買主に対して、財務状況、事業内容、契約関係、リスク情報など、M&Aの判断に影響を与える可能性のある情報を正確かつ網羅的に開示
適切なM&A仲介会社の選定 実績や専門性、コンプライアンス体制などを慎重に評価し、自社に最適なM&A仲介会社を選定

M&A取引において、説明義務違反は深刻な問題を引き起こす可能性があります。売主・買主双方にとって、事前の対策を講じることが重要です。上記で説明した回避策を参考に、リスクを最小限に抑え、スムーズなM&Aを実現しましょう。

5. M&A仲介会社におけるコンプライアンスの重要性

M&A仲介会社は、M&Aプロセスにおいて重要な役割を担っており、その業務遂行にあたっては高い倫理観とコンプライアンス意識が求められます。説明義務違反をはじめとする法令違反や不正行為は、M&A取引の当事者双方に深刻な損害を与えるだけでなく、M&A市場全体の信頼性を損ない、市場の健全な発展を阻害する要因となります。

M&A仲介会社がコンプライアンスを徹底するためには、社内規程の整備、従業員教育の実施、適切なリスク管理体制の構築など、多岐にわたる取り組みが必要です。具体的には、以下の点が重要となります。

5.1 コンプライアンス体制の構築

M&A仲介会社は、コンプライアンスに関する責任者を設置し、明確な責任体制を構築する必要があります。また、コンプライアンスに関する社内規程を整備し、従業員に周知徹底させることが重要です。定期的な研修や勉強会などを開催し、従業員のコンプライアンス意識の向上を図ることも必要です。

5.2 利益相反の管理

M&A仲介会社は、買主と売主の双方から手数料を受け取るため、利益相反が発生する可能性があります。利益相反が発生した場合には、適切な情報開示を行い、当事者双方の同意を得ることが重要です。また、社内規程において利益相反に関する規定を明確化し、従業員が適切に対応できるようにする必要があります。

5.3 情報管理の徹底

M&A仲介会社は、M&A取引に関する機密情報を多数保有しています。これらの情報は、厳重に管理し、不正アクセスや情報漏洩を防ぐ必要があります。情報セキュリティに関する社内規程を整備し、従業員教育を実施することで、情報管理の徹底を図る必要があります。

5.4 反社会的勢力との関係遮断

M&A仲介会社は、反社会的勢力との関係を一切遮断する必要があります。反社会的勢力との関係が疑われる場合には、速やかに調査を行い、適切な措置を講じる必要があります。また、従業員に対して反社会的勢力に関する教育を実施し、反社会的勢力との関係を遮断する意識を高める必要があります。

5.5 内部通報制度の整備

M&A仲介会社は、内部通報制度を整備し、従業員が不正行為を発見した場合に安心して通報できる環境を整備する必要があります。内部通報制度は、不正行為の早期発見・防止に役立ち、コンプライアンス経営の推進に不可欠な要素です。

5.6 M&A仲介会社におけるコンプライアンスの重要性に関するまとめ
項目 内容
コンプライアンス体制の構築 責任者設置、社内規程整備、従業員教育
利益相反の管理 情報開示、当事者同意、社内規定の明確化
情報管理の徹底 機密情報の厳重管理、情報セキュリティ規定の整備、従業員教育
反社会的勢力との関係遮断 関係遮断の徹底、調査と適切な措置、従業員教育
内部通報制度の整備 通報しやすい環境整備、不正行為の早期発見・防止

M&A仲介会社がコンプライアンスを徹底することは、M&A市場の健全な発展に不可欠です。M&A仲介会社は、高い倫理観とコンプライアンス意識を持って業務を遂行し、M&A市場の信頼性を高める努力を継続していく必要があります。

6. まとめ

M&A仲介における説明義務違反は、売買当事者双方に深刻な影響を及ぼす可能性があります。買主は不適切な情報に基づいてM&Aを実行してしまうリスクがあり、売主は損害賠償責任を負う可能性があります。説明義務違反の事例としては、不適切な財務情報の提供や重要な契約内容の不開示などが挙げられます。

違反した場合、民事責任や刑事責任を問われる可能性も存在します。買主はデューデリジェンスの徹底や専門家への相談、売主は情報開示の徹底や適切なM&A仲介会社の選定を行うことで、説明義務違反のリスクを軽減することが可能です。

M&Aを成功させるためには、M&A仲介会社を含めた関係者全員がコンプライアンスを遵守し、透明性の高い取引を行うことが重要です。

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