M&Aの優先交渉権とは?独占交渉権との違いなど
M&Aにおいて、「優先交渉権」と「独占交渉権」という言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。どちらも買収を目指す企業にとって重要なキーワードですが、その意味や違いを正しく理解していないと、M&Aプロセスで思わぬ落とし穴に陥る可能性があります。
この記事では、M&Aにおける優先交渉権と独占交渉権の定義、メリット・デメリット、両者の違いについて、具体例を交えながら分かりやすく解説します。これを読めば、それぞれの権利が持つ意味合い、M&Aプロセスにおける役割、契約締結に向けた戦略的な活用方法などが理解できるでしょう。
例えば、伊藤忠商事がファミリーマートを完全子会社化した際には、最初に優先交渉権を取得し、その後独占交渉権に移行したとされています。このように、実際のM&Aの現場では、これらの権利が重要な役割を果たしています。この記事を通して、M&Aにおける交渉を有利に進めるための知識を深め、成功確率を高めるためのヒントを得てください。
「M&Aは何から始めればいいかわからない」という経営者からも数多くのご相談をいただいています。M&Aを成功に導くはじめの一歩は無料のオンライン相談から。お気軽にご相談ください。
365日開催オンライン個別相談会
編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
- 目次
-
1. M&Aにおける優先交渉権とは
1.1 優先交渉権の定義と意味
1.2 優先交渉権が付与されるケース
1.3 優先交渉権のメリット・デメリット
2. M&Aにおける独占交渉権とは
2.1 独占交渉権の定義と意味
2.2 独占交渉権が付与されるケース
2.3 独占交渉権のメリット・デメリット
3. M&Aにおける優先交渉権と独占交渉権の違い
3.1 拘束力の有無
3.2 交渉期間の違い
3.3 複数社との交渉の可能性
3.4 契約締結の確実性
4. 優先交渉権・独占交渉権に関するよくある誤解
4.1 優先交渉権があれば必ず買収できるわけではない
4.2 独占交渉権でも破談になるケースがある
5. まとめ
1. M&Aにおける優先交渉権とは
M&Aにおいて、売却側が複数の候補者と交渉を進める際、特定の買収希望者に「優先交渉権」を付与することがあります。優先交渉権とは、他の買収希望者よりも優先的に交渉を進める権利のことです。あくまで「優先的に」交渉を進める権利であり、必ずしも契約締結を保証するものではありません。この点が、後述する独占交渉権との大きな違いです。
1.1 優先交渉権の定義と意味
優先交渉権は、売主が特定の買主に対して、他の買主よりも優先的にM&A交渉を進める権利を与える契約上の合意です。法的拘束力を持つ契約として締結される場合もあれば、口約束のような簡易な形で付与される場合もあります。書面で締結する場合、優先交渉権の範囲、期間、対価などが明記されます。優先交渉権は、売主にとってより有利な条件でM&Aを実現するための手段の一つであり、買主にとっては競合他社を出し抜いて交渉を進めるチャンスとなります。
1.2 優先交渉権が付与されるケース
優先交渉権は、様々な状況で付与されます。例えば、売主が特定の買主との取引を希望する場合や、複数の買主から提案を受けている中で、特定の買主の提案内容に興味を持った場合などが挙げられます。また、時間的な制約がある場合や、特定の買主との関係性を重視する場合にも、優先交渉権が付与されることがあります。
1.2.1 株式譲渡における優先交渉権
株式譲渡においては、既存株主や経営陣が特定の買収希望者に対して優先交渉権を付与することがあります。これは、会社の将来像や企業文化との適合性などを考慮した結果であることが多いです。例えば、創業家一族が経営権を維持したい場合や、従業員の雇用を守りたい場合などに、特定の買収希望者と優先的に交渉を進めることがあります。
1.2.2 事業譲渡における優先交渉権
事業譲渡においては、売主企業が特定の事業部門を譲渡する際に、特定の買収希望者に対して優先交渉権を付与することがあります。これは、譲渡対象事業とのシナジー効果や事業継続性などを考慮した結果であることが多いです。例えば、競合他社への事業譲渡を避けたい場合や、特定の事業部門の成長を期待できる買収希望者と優先的に交渉を進めることがあります。
1.3 優先交渉権のメリット・デメリット
優先交渉権には、売主・買主双方にメリット・デメリットが存在します。
1.3.1 売主側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
希望する相手と優先的に交渉できる | 他の有利な提案を見逃す可能性がある |
交渉期間の短縮が見込める | 優先交渉権付与による機会損失の可能性 |
特定の買主との関係強化 | 他の買主との関係悪化の可能性 |
1.3.2 買主側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
競合他社を出し抜いて交渉できる | 優先交渉権獲得のための時間とコスト |
買収の可能性が高まる | 必ずしも買収できるとは限らない |
売主との関係強化 | デューデリジェンスに制限がかかる場合がある |
2. M&Aにおける独占交渉権とは
M&Aにおいて、独占交渉権とは、買収候補先企業(売主)が特定の買主候補企業(買主)とのみM&A交渉を行う権利を認める契約のことです。この契約期間中は、売主は他の買主候補と交渉を行うことができません。独占交渉権は、買主にとって、競合他社を排除し、じっくりと対象企業のデューデリジェンスを実施し、最終的な買収条件を交渉するための重要な権利となります。
2.1 独占交渉権の定義と意味
独占交渉権とは、売主が特定の買主候補とのみM&A交渉を行うことを約束する契約上の権利です。この期間中、売主は他の潜在的な買主との交渉を中断し、選択した買主とのみ交渉を進める義務を負います。これは、買主にとって、競合他社を排除し、対象企業の詳細な調査(デューデリジェンス)を行い、買収条件を交渉するための排他的な機会を提供します。
2.2 独占交渉権が付与されるケース
独占交渉権は、一般的に以下のケースで付与されます。
買主がデューデリジェンスを実施し、買収条件を確定するために一定の期間を必要とする場合 | |
売主が複数の買主候補との交渉を避け、特定の買主との交渉に集中したい場合 | |
機密情報の漏洩リスクを最小限に抑えたい場合 | |
交渉の早期妥結を目指したい場合 |
2.3 独占交渉権のメリット・デメリット
独占交渉権には、売主と買主の双方にとってメリットとデメリットがあります。
2.3.1 売主側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
特定の買主との交渉に集中できるため、交渉期間の短縮が期待できる。 |
他の潜在的な買主との交渉機会を失う可能性があるため、より有利な条件を引き出せる機会を逃す可能性がある。 |
機密情報の漏洩リスクを最小限に抑えることができる。 |
独占交渉期間中に交渉が破談になった場合、時間と労力を失うことになる。 |
2.3.2 買主側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
競合他社を排除し、対象企業の買収に向けた優先的な地位を確保できる。 |
独占交渉権を得るために、売主に対して有利な条件を提示する必要が生じる場合がある。 |
デューデリジェンスを十分に実施し、買収条件を詳細に検討する時間を確保できる。 |
独占交渉期間中にデューデリジェンスで重大な問題が発覚した場合、撤退するためのコストが発生する可能性がある。 |
交渉を有利に進めることができる可能性が高まる。 |
独占交渉が必ずしも買収成功を保証するものではない。 |
独占交渉権は、M&Aプロセスにおいて重要な役割を果たします。売主と買主は、それぞれのメリットとデメリットを理解した上で、慎重に交渉を進める必要があります。例えば、独占交渉期間、契約解除条件、デューデリジェンスの範囲などを明確に定めることが重要です。また、弁護士やM&Aアドバイザーなどの専門家の助言を得ることも有効です。
3. M&Aにおける優先交渉権と独占交渉権の違い
M&Aにおいて、優先交渉権と独占交渉権はどちらも買収を目指す企業にとって重要な概念ですが、その意味合いと効力は大きく異なります。この章では、両者の違いを様々な観点から詳しく解説します。
3.1 拘束力の有無
最も大きな違いは、売主に対する拘束力の有無です。優先交渉権は、売主に対して他の企業との交渉を制限する拘束力がありません。売主は、優先交渉権を付与した企業以外にも、自由に他の企業と交渉を進めることができます。一方、独占交渉権は、売主に対して他の企業との交渉を一定期間禁止する拘束力があります。つまり、売主は独占交渉権を付与した企業とのみ交渉を進めなければなりません。
3.2 交渉期間の違い
優先交渉権の期間は、当事者間の合意で自由に設定できます。一般的には数週間から数ヶ月程度が目安となります。一方、独占交渉権の期間も当事者間の合意で設定できますが、優先交渉権と比較すると、より短い期間で設定されることが多いです。これは、独占交渉権が売主の交渉機会を制限するため、長期に設定することは売主にとって不利になる可能性があるからです。通常は数週間程度で設定されるケースが多いです。
3.3 複数社との交渉の可能性
優先交渉権の場合、売主は複数の企業と並行して交渉を進めることができます。これは、売主にとってより有利な条件を引き出すための戦略として有効です。一方、独占交渉権の場合、売主は独占交渉権を付与した企業とのみ交渉を進めることができます。そのため、他の企業からより良い条件が提示される可能性があっても、交渉することはできません。
3.4 契約締結の確実性
優先交渉権は、必ずしも契約締結を保証するものではありません。売主は、他の企業からより良い条件が提示された場合、優先交渉権を付与した企業との交渉を打ち切り、他の企業と契約を締結することができます。一方、独占交渉権は、契約締結の可能性を高くする効果があります。
売主は他の企業と交渉することができないため、独占交渉権を付与した企業との交渉に集中することができます。ただし、独占交渉権が付与されていても、条件面で合意に至らなかった場合は、最終的に契約が破談になる可能性もあります。
項目 | 優先交渉権 | 独占交渉権 |
---|---|---|
拘束力の有無 | なし | あり |
交渉期間 | 数週間~数ヶ月 | 数週間 |
複数社との交渉 | 可能 | 不可能 |
契約締結の確実性 | 低い | 比較的高い |
法的根拠 | 契約自由の原則に基づく | 契約自由の原則に基づく |
売主の自由度 | 高い | 低い |
買主のメリット | 競合他社を一定期間牽制できる | 集中的に交渉を進められる |
売主のメリット | 複数の買い手候補と交渉できる | 迅速な取引完了が見込める |
このように、優先交渉権と独占交渉権は、売主と買主双方の権利義務、交渉期間、契約締結の確実性など、様々な点で違いがあります。M&Aを進める際には、それぞれの違いを理解し、自社にとって最適な方法を選択することが重要です。
例えば、早期に売却を完了したい売主にとっては独占交渉権が有利に働く可能性がありますが、より高い売却価格を目指す売主にとっては、複数の買い手候補と交渉できる優先交渉権を選択する方が有利な場合もあります。買主の立場でも、時間をかけてでも確実に買収を実現したい場合は独占交渉権を、まずは売主の意向を探りたい場合は優先交渉権を選択するなど、状況に応じて使い分けることが重要です。
4. 優先交渉権・独占交渉権に関するよくある誤解
M&Aにおける優先交渉権と独占交渉権は、売買交渉を進める上で重要な役割を果たしますが、その意味や効果については誤解も多いです。この章では、よくある誤解を解き明かし、正確な理解を促します。
4.1 優先交渉権があれば必ず買収できるわけではない
優先交渉権は、他の買収候補者よりも優先的に交渉できる権利であり、必ずしも買収できることを保証するものではありません。優先交渉権が付与されていても、最終的な価格や条件面で折り合いがつかなければ、売主は他の買収候補者と交渉し、契約を締結する可能性があります。
例えば、より有利な条件を提示する他の買収候補が現れた場合、売主はそちらを選ぶ可能性が高いです。また、デューデリジェンスの結果、想定外の負債やリスクが判明した場合、買主は交渉を打ち切る可能性もあります。優先交渉権はあくまで交渉上のアドバンテージであり、買収の成功を約束するものではないことを理解しておく必要があります。
4.1.1 優先交渉権と価格交渉
優先交渉権を持つ買主は、価格交渉において有利な立場に立つことができますが、売主が希望する価格を下回る価格を提示した場合、交渉が難航する可能性があります。売主は、他の買収候補者との交渉も視野に入れながら、最適な価格で売却することを目指しているため、優先交渉権を持つ買主であっても、市場価格から乖離した価格を提示することは避けるべきです。また、買収価格だけでなく、買収後の経営体制や従業員の雇用維持など、売主が重視する条件についても配慮する必要があります。
4.2 独占交渉権でも破談になるケースがある
独占交渉権は、一定期間、売主が他の買収候補者と交渉することを制限する権利ですが、これもまた契約締結を保証するものではありません。独占交渉期間中に、買主と売主の間で条件面での合意に至らなかった場合、交渉は破談となる可能性があります。
例えば、デューデリジェンスの結果、当初想定していたよりも企業価値が低いと判断された場合、買主は買収価格の引き下げを要求する可能性があり、売主がこれを受け入れなければ交渉は決裂します。また、独占交渉期間中に予期せぬ外部要因(例えば、経済状況の悪化や法規制の変更など)が発生した場合、買主は買収を断念する可能性があります。
4.2.1 独占交渉権とデューデリジェンス
独占交渉権は、買主が安心してデューデリジェンスを実施できる期間を確保するために設定されることが多いです。デューデリジェンスは、買収対象企業の財務状況、法務状況、事業状況などを詳細に調査するプロセスであり、買収価格の決定や契約条件の交渉において重要な役割を果たします。
しかし、デューデリジェンスの結果、重大な問題が発見された場合、買主は独占交渉権を放棄し、買収を断念する可能性があります。このような事態を避けるため、売主は事前に適切な情報開示を行い、買主との信頼関係を構築することが重要です。
4.2.2 独占交渉権と秘密保持契約
独占交渉権が付与される際には、通常、秘密保持契約(NDA)が締結されます。秘密保持契約は、交渉過程で開示される機密情報を保護するための契約であり、違反した場合には違約金が発生する可能性があります。独占交渉権は、買主にとって大きな投資であり、秘密保持契約によって保護されることで、安心して交渉を進めることができます。
項目 | 優先交渉権 | 独占交渉権 |
---|---|---|
交渉相手 | 複数社と交渉可能 | 一社のみと交渉 |
拘束力 | 弱い | 強い |
契約締結の確実性 | 低い | 比較的高い(ただし絶対ではない) |
破談の可能性 | 高い | 低い(ただし存在する) |
上記のように、優先交渉権と独占交渉権にはそれぞれメリット・デメリットがあり、その違いを正しく理解することが重要です。M&Aのプロセスは複雑であり、専門家によるアドバイスを受けることで、スムーズな交渉を進めることができます。M&Aアドバイザーや弁護士などの専門家に相談することで、契約上のリスクを最小限に抑え、最適な取引を実現できる可能性が高まります。
5. まとめ
M&Aにおける優先交渉権と独占交渉権の違いについて解説しました。優先交渉権は、売主が他の買主候補と交渉する前に、特定の買主と優先的に交渉する権利です。一方、独占交渉権は、売主が特定の買主とのみ交渉する権利であり、他の買主候補との交渉はできません。つまり、拘束力という点で大きな違いがあります。
優先交渉権は、売主にとって他の買主候補との交渉可能性を残せるメリットがある一方、買主にとっては必ずしも買収に繋がる保証がないデメリットがあります。一方、独占交渉権は、買主にとって買収の可能性が高まるメリットがある一方、売主にとっては他のより良い条件の買主候補との交渉機会を失うデメリットがあります。また、交渉期間も独占交渉権の方が一般的に長くなります。
優先交渉権と独占交渉権は、M&Aを進める上で重要な要素です。それぞれのメリット・デメリットを理解し、状況に応じて適切な選択をすることが、M&Aを成功させる鍵となります。両者の違いを正しく理解し、スムーズなM&Aプロセスを実現しましょう。