M&Aの独占交渉権と優先交渉権の違いとは?適応期間・法的拘束力も解説
M&Aにおいて、交渉をスムーズに進めるために重要な「優先交渉権」と「独占交渉権」。しかし、この2つの違いを明確に理解しているでしょうか?
本記事では、M&Aにおける優先交渉権と独占交渉権の違いを、メリット・デメリット、法的拘束力、期間などを交えながら分かりやすく解説します。さらに、それぞれの使い分けに迷った際のケーススタディも紹介。
この記事を読めば、あなたの会社にとって最適な交渉戦略を選択できるようになるでしょう。具体的な事例を踏まえた解説にもご期待ください。
- 目次
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1. 優先交渉権と独占交渉権の違いを理解する
1.1 優先交渉権とは
1.2 独占交渉権とは
1.3 優先交渉権と独占交渉権の比較
2. M&Aにおける優先交渉権
2.1 優先交渉権のメリット
2.2 優先交渉権のデメリット
2.3 優先交渉権の法的拘束力
3. M&Aにおける独占交渉権
3.1 独占交渉権のメリット
3.2 独占交渉権のデメリット
3.3 独占交渉権の法的拘束力
3.4 独占交渉権の注意点
4. 優先交渉権と独占交渉権の期間
4.1 一般的な期間の目安
4.2 期間延長の可能性
5. 優先交渉権と独占交渉権の違いを踏まえた使い分け
5.1 ケーススタディ:こんな場合はどっち?
6. まとめ
M&Aにおいて、交渉相手との関係性を良好に保ちつつ、円滑かつ優位に交渉を進めるためには、優先交渉権と独占交渉権の違いを正しく理解しておくことが重要です。
それぞれの意味合い、メリット・デメリット、法的拘束力の有無などを把握することで、自社にとって最適な選択をすることができます。
1.1 優先交渉権とは
優先交渉権とは、ある特定の相手方との間で、他の第三者よりも優先的に交渉を行う権利のことを指します。言い換えれば、他の取引候補者よりも先に、交渉相手と条件面などを協議できる権利といえます。
ただし、優先交渉権を付与されたとしても、必ずしも最終的な契約締結が保証されるわけではありません。あくまで交渉を有利に進めるための手段の一つと捉えるべきです。
優先交渉権のポイント
特定の相手方との交渉を優先的に進める権利 | |
契約締結を強制するものではない | |
他の相手方との交渉を完全に制限するものではない |
1.2 独占交渉権とは
独占交渉権とは、特定の期間、特定の相手方とのみ交渉を行い、他の第三者との交渉を一切禁じる権利のことです。この権利が付与されると、交渉権者は、他の競合を排除し、交渉相手と集中的に交渉を進めることができます。優先交渉権と比較して、より強い拘束力を持ち、契約締結に向けた確実性が高い点が特徴です。
独占交渉権のポイント
特定の期間、特定の相手方とのみ交渉する権利 | |
他の相手方との交渉は一切できない | |
契約締結の可能性が高い |
1.3 優先交渉権と独占交渉権の比較
項目 | 優先交渉権 | 独占交渉権 |
---|---|---|
交渉相手の範囲 | 制限されない(ただし優先権保有者を優先) | 特定の相手方のみに限定 |
他の相手方との交渉 | 可能(ただし優先権保有者を優先) | 不可 |
契約締結の義務 | なし | なし(ただし誠実に交渉する義務あり) |
拘束力の強さ | 弱い | 強い |
このように、優先交渉権と独占交渉権は、その名称や権利の内容に類似点がある一方で、契約締結の確実性や拘束力の強さといった点で明確な違いがあります。M&Aを進める際には、それぞれの権利の特徴を理解し、状況に応じて使い分けることが重要です。
2. M&Aにおける優先交渉権
M&Aにおいて、買い手企業は、交渉を有利に進めるために、売手企業に対して優先交渉権や独占交渉権を求めることがあります。これらの交渉権は、M&Aプロセスにおける交渉の主導権を握るための重要な要素となります。ここでは、優先交渉権について詳しく解説していきます。
2.1 優先交渉権のメリット
優先交渉権を持つことで、買い手企業は、他の競合企業よりも有利な立場でM&A交渉を進めることができます。主なメリットとしては、以下の点が挙げられます。
競合他社との交渉を排除できる
優先交渉権の最大のメリットは、他の競合企業との交渉を排除できる点にあります。優先交渉権が付与されると、売手企業は、他の買い手候補との交渉が制限され、基本合意に至るまでは、優先交渉権者とのみ交渉を行う義務を負います。これにより、買い手企業は、競合に邪魔されることなく、集中的に交渉を進めることができます。
有利な条件を引き出しやすい
優先交渉権は、交渉の初期段階で買い手企業に優位性をもたらします。売手企業は、他の買い手候補との交渉が制限されるため、優先交渉権を持つ買い手企業に対して、より有利な条件で交渉に応じる可能性が高まります。
時間的猶予が得られる
優先交渉権は、買い手企業にデューデリジェンスやバリュエーションなどの時間的猶予を与えます。競合企業との競争がないため、買い手企業は、時間をかけて対象会社の調査や評価を行い、より精度の高い買収価格を算定することができます。
2.2 優先交渉権のデメリット
優先交渉権は買い手企業にとって多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。主なデメリットとしては、以下の点が挙げられます。
交渉が長期化する可能性
優先交渉権は、買い手企業にとって有利な条件で交渉を進められる一方、売手企業にとっては、他の買い手候補との交渉機会が制限されるため、交渉が長期化する可能性があります。売手企業は、優先交渉権者との交渉が不調に終わった場合に備え、他の買い手候補との交渉再開に備える必要があり、交渉が複雑化する可能性があります。
優先交渉権の対価が必要となる場合がある
優先交渉権を設定する際には、売手企業に対して、優先交渉権の対価を支払う必要がある場合があります。対価の金額や支払方法は、ケースバイケースで決定されますが、一般的には、一定期間内の独占的な交渉権や、優先交渉権の期間中にM&Aが成立しなかった場合の違約金などが設定されます。
2.3 優先交渉権の法的拘束力
優先交渉権の法的拘束力は、契約内容や解釈によって異なり、明確な法的定義は存在しません。一般的には、優先交渉権は、売手企業に対して、誠実に交渉を進める義務を負わせるものであり、正当な理由なく交渉を打ち切ったり、他の買い手候補と交渉を行ったりすることはできません。
ただし、優先交渉権は、売手企業に対して、必ずしも優先交渉権者とM&A契約を締結する義務を負わせるものではありません。
優先交渉権の法的効力を高めるためには、契約書に、交渉の対象となる事業内容、優先交渉権の期間、対価の有無、違反した場合の違約金などを具体的に明記しておくことが重要です。
3. M&Aにおける独占交渉権
M&Aにおける独占交渉権とは、買収を検討している企業(買収候補先)に対して、特定の期間、特定の買い手候補(買収企業)のみに交渉権を独占的に与える契約です。この間、買収候補先は、他の買い手候補との交渉や、他の企業からの買収提案を受けることができません。
3.1 独占交渉権のメリット
独占交渉権を設定するメリットは、主に買収企業側にあります。主なメリットは以下の点が挙げられます。
競合を排除し、有利に交渉を進められる
独占交渉権を得ることで、他の競合企業が買収候補先にアプローチすることを防ぎ、買収企業は時間をかけて交渉を進めることができます。その結果、より有利な条件で買収契約を締結できる可能性が高まります。
時間とコストを節約できる
複数の競合との交渉や、競争入札への参加は、時間とコストがかかります。独占交渉権を得ることで、これらの負担を軽減し、経営資源を有効活用できます。
買収の可能性を高められる
買収候補先企業との間で、独占的に交渉を進めることで、相互理解を深め、信頼関係を築きやすくなります。その結果、買収の成功率を高めることに繋がります。
3.2 独占交渉権のデメリット
独占交渉権には、主に買収候補先企業側にデメリットがあります。主なデメリットは以下の点が挙げられます。
より有利な条件を引き出せる可能性が低くなる
独占交渉権を設定することで、他の買い手候補との競争がなくなります。その結果、買収価格などの条件面で、より有利な提案を受ける機会を逃してしまう可能性があります。
交渉が長引くリスクがある
買収企業が独占交渉権を盾に、交渉を長引かせる可能性も考えられます。その間、買収候補先企業は他の戦略的な選択肢を追求することが制限されてしまいます。
3.3 独占交渉権の法的拘束力
独占交渉権は、法的拘束力を持つ契約です。契約内容に違反した場合、違約金が発生したり、法的責任を問われる可能性があります。そのため、契約を締結する前に、弁護士などの専門家に相談し、契約内容を十分に確認することが重要です。
独占交渉権契約に含まれる主な項目
独占交渉権の対象となる事業または株式 | |
独占交渉権の期間 | |
秘密保持義務 | |
競業避止義務 | |
違約金 | |
契約解除に関する条項 |
3.4 独占交渉権の注意点
独占交渉権は、買収企業、買収候補先企業の双方にとって重要な意味を持つため、設定する際には以下の点に注意する必要があります。
期間設定
独占交渉期間が長すぎると、買収候補先企業にとって不利になる可能性があります。逆に、短すぎると買収企業が十分なデューデリジェンスを実施できない可能性があります。双方の状況を考慮して、適切な期間を設定することが重要です。
デューデリジェンスの実施
買収企業は、独占交渉権の期間を利用して、買収候補先企業の財務状況、法務状況、事業内容などを詳細に調査するデューデリジェンスを実施します。買収候補先企業は、円滑なデューデリジェンスの実施に協力する必要があります。
誠実な交渉
独占交渉権を設定した場合でも、買収企業、買収候補先企業は、互いに誠実に交渉を進める義務があります。不誠実な交渉や、一方的な契約内容の押し付けは、後のトラブルに繋がる可能性があります。
4. 優先交渉権と独占交渉権の期間 4.1 一般的な期間の目安
権利 | 期間 |
---|---|
優先交渉権 | 1~3ヶ月程度 |
独占交渉権 | 2~6ヶ月程度 |
期間が短い場合のメリット・デメリット
メリット短期間で交渉をまとめ、早期にM&Aを完了させることができる。 | |
交渉が長引くことで発生する、情報漏洩や市場の変動などのリスクを低減できる。 |
十分なデューデリジェンスや条件交渉の時間が確保できない可能性がある。 | |
相手企業に焦りを感じさせ、交渉が不利になる可能性がある。 |
期間が長い場合のメリット・デメリット
メリットデューデリジェンスや条件交渉をじっくりと行うことができる。 | |
相手企業との信頼関係を構築する時間を十分に確保できる。 |
交渉が長引くことで、情報漏洩や市場の変動などのリスクが高まる。 | |
相手企業に他の買収候補が現れる可能性がある。 |
4.2 期間延長の可能性 期間延長のメリット
交渉決裂のリスクを回避し、M&Aを実現する可能性を高めることができる。 | |
時間的な猶予を得ることで、双方が納得できる条件で合意できる可能性が高まる。 |
期間延長によって、交渉がさらに長期化する可能性がある。 | |
期間延長中に、市場環境や企業の業績が変化し、当初の条件では合意が難しくなる可能性がある。 |
5. 優先交渉権と独占交渉権の違いを踏まえた使い分け
M&Aにおいて、基本合意締結前に、買い手企業と売り手企業の間に、交渉をスムーズに進めるための取り決めを設けることがあります。それが優先交渉権と独占交渉権です。
優先交渉権と独占交渉権は、いずれも交渉を有利に進めるための制度ですが、それぞれにメリット・デメリットがあり、状況によって使い分ける必要があります。
ここでは、ケーススタディを交えながら、優先交渉権と独占交渉権の使い分けについて解説します。
5.1 ケーススタディ:こんな場合はどっち?
優先交渉権と独占交渉権のどちらを選択するべきかは、M&Aの状況によって異なります。具体的なケーススタディとして、以下の3つのケースを想定し、それぞれの場合において、優先交渉権と独占交渉権のどちらが適切かを検討していきます。
ケース | 状況 | 優先交渉権 | 独占交渉権 | どちらが適切か |
---|---|---|---|---|
1 | 売り手企業が、できる限り早くM&Aを成立させたいと考えている場合 | 他の買い手企業とも交渉できるため、早期成立は難しい可能性あり | 買い手企業を特定し、交渉を集中できるため、早期成立の可能性が高まる | 独占交渉権 |
2 | 買い手企業が、時間をかけて慎重にデューデリジェンス(DD)を行いたい場合 | 他の買い手企業との競争がないため、時間をかけてデューデリジェンスを実施できる | 一定期間内にデューデリジェンスを完了させ、最終契約を締結する必要があるため、時間的制約が生じる可能性あり | 優先交渉権 |
3 | 買い手企業が、競合他社に買収されることを避けたい場合 | 他の買い手企業とも交渉できるため、競合他社に買収される可能性が残る | 競合他社は交渉に参加できないため、買収されるリスクを排除できる | 独占交渉権 |
このように、M&Aの状況によって、優先交渉権と独占交渉権のどちらが適切かは異なります。 優先交渉権と独占交渉権のメリット・デメリットを理解した上で、自社の状況に最適な選択をするようにしましょう。
優先交渉権と独占交渉権を選択する際の注意点
優先交渉権と独占交渉権のそれぞれのメリット・デメリットを十分に理解した上で、自社の状況に最適な方を選択する必要があります。 | |
契約期間や契約内容については、弁護士などの専門家に相談し、法的リスクを回避できるようにしておくことが重要です。 |
6. まとめ
M&Aにおける優先交渉権と独占交渉権の違いについて解説しました。優先交渉権は、他の買い手候補よりも優遇的に交渉を進める権利である一方、独占交渉権は、特定の期間、売主との交渉を独占できる権利です。
どちらの権利も、M&Aをスムーズに進めるために有効な手段となりえますが、それぞれメリット・デメリットや法的拘束力が異なります。M&A戦略において、状況に応じて適切な権利を選択することが重要です。
編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのエキスパート。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。