法務デューデリジェンスとは?売り手・買い手双方が知るべき、法的チェックの全体像

法務デューデリジェンスとは?売り手・買い手双方が知るべき、法的チェックの全体像

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公開日:2024年9月25日
最終更新日:2025年6月10日

M&Aを成功に導くには、法務デューデリジェンス(法務DD)は不可欠です。本記事では、法務DDとは何か、その目的や進め方、具体的なチェック項目、売り手・買い手それぞれの注意点などを網羅的に解説します。

財務DDやビジネスDDとの違い、中小企業M&A特有の法的課題、トラブル事例なども紹介することで、法務DDの重要性を深く理解できます。契約書の精査、知的財産権の確認、訴訟リスクの把握など、実務的なポイントを押さえ、M&Aプロセスにおけるリスク回避と円滑な取引を実現するための実践的な知識を習得しましょう。

本記事を読むことで、M&Aにおける法務DDの全体像を掴み、取引を成功に導くための戦略を立てることができます。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。




1. 法務デューデリジェンスとは何か

M&A(合併・買収)において、法務デューデリジェンス(以下、法務DD)は欠かせないプロセスです。これは、買収対象企業の法的リスクや問題点を洗い出し、M&A取引の安全性を確保するための調査活動です。買収後のトラブルを未然に防ぎ、円滑な統合を進めるために、売り手・買い手双方にとって非常に重要な手続きとなります。

1.1 法務デューデリジェンスの基本的な定義

法務DDとは、対象企業の事業活動、契約関係、コンプライアンス体制などを法的観点から精査し、潜在的なリスクや問題点を明らかにする調査のことです。財務状況や事業内容の調査とは異なり、法的側面に特化した調査を行います。

1.1.1 財務DDやビジネスDDとの違い
デューデリジェンスの種類 調査内容 目的
法務DD 契約書、訴訟リスク、コンプライアンス体制、知的財産権など 法的リスクの洗い出しと評価
財務DD 財務諸表、キャッシュフロー、資産負債状況など 財務状況の把握と企業価値の評価
ビジネスDD 事業計画、市場環境、競合分析、経営陣の能力など 事業の将来性と収益性の評価

これらのDDは相互に関連しており、包括的な企業評価のために組み合わせて実施されます。

1.1.2 なぜ法的観点の確認が必要なのか

法的観点の確認は、M&A取引におけるリスクを最小限に抑えるために不可欠です。例えば、隠れた訴訟リスクや契約上の問題が発覚した場合、M&A後に想定外の損失が発生する可能性があります。

法務DDを通じて事前にこれらのリスクを把握することで、適切な対策を講じることが可能になります。また、法務DDの結果は、買収価格の交渉や契約条件の決定にも重要な役割を果たします。

1.2 法務DDの目的と進め方

法務DDの主な目的は、買収対象企業の法的リスクを特定し、評価することです。これにより、買い手はM&A取引の意思決定に必要な情報を取得し、適切な価格交渉や契約条件の設定を行うことができます。また、売り手は事前に問題点を把握し、必要な対策を講じることで、M&Aプロセスを円滑に進めることができます。

1.2.1 M&Aにおける法務DDの役割

M&Aにおける法務DDの役割は、取引の安全性を確保し、将来発生する可能性のある法的紛争を予防することです。具体的には、以下の役割が挙げられます。

  • 買収対象企業の法的リスクの特定と評価
  • 買収価格や契約条件への反映
  • M&A後の統合プロセス(PMI)の円滑化
  • 潜在的な法的紛争の予防
1.2.2 主なチェック項目と調査対象

法務DDの主なチェック項目としては、契約関係、知的財産権、訴訟リスク、コンプライアンス体制、労働関係などが挙げられます。調査対象は、契約書、社内規程、登記簿謄本、訴訟記録、許認可証など多岐にわたります。

【関連】M&Aで失敗しないデューデリジェンス!目的・種類・費用は?【前編】

2. M&Aにおける法務デューデリジェンスの具体的内容
法務デューデリジェンスの主要チェック項目 法務 デューデリ 契約書 精査 知的財産 許認可 訴訟リスク コンプライアンス 買い手 リスク評価 法的整備確認 売り手 書類準備 情報開示 取引先契約 雇用契約 特許・商標 営業許可 係争中訴訟 法令遵守 潜在的リスクの早期発見と 適切な対策が重要

M&Aにおける法務デューデリジェンスでは、対象会社の法的リスクを洗い出し、M&A成立後のトラブルを未然に防ぐことが重要です。ここでは、具体的なチェック項目と、それぞれの項目で注意すべきポイントを解説します。

2.1 法的リスクのチェックリスト

法務デューデリジェンスのチェック項目は多岐に渡りますが、特に重要な項目は以下の通りです。これらの項目を網羅的に調査することで、潜在的なリスクを早期に発見し、適切な対策を講じることができます。

2.1.1 契約書の精査(取引先・雇用・リースなど)

あらゆる契約書の内容を確認し、不利な条項や将来紛争に発展する可能性のある条項がないか、また契約の有効性などを確認します。例えば、取引先との契約では、契約期間、契約解除条項、債権債務関係などを確認します。

雇用契約では、労働条件、残業代の支払い状況、競業避止義務などを確認します。リース契約では、リース期間、解約条件、リース料の支払い状況などを確認します。秘密保持契約の有無とその内容も重要な確認事項です.

2.1.2 知的財産・許認可の確認

対象会社が保有する知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権など)の有無や権利範囲、有効性などを確認します。また、事業を行う上で必要な許認可(営業許可、製造許可、建設業許可など)の取得状況や有効期限なども確認します。これらの権利関係に問題があると、M&A後の事業継続に支障をきたす可能性があります。

2.1.3 訴訟リスク・コンプライアンス状況

対象会社が現在係争中の訴訟や、将来訴訟に発展する可能性のある紛争の有無を確認します。また、独占禁止法、下請法、労働関係法令などの法令遵守状況についても確認します。コンプライアンス違反は、M&A後に多額の制裁金や損害賠償金の支払いを招く可能性があります。

2.2 売り手・買い手それぞれの留意点

法務デューデリジェンスにおいて、売り手と買い手はそれぞれ異なる視点で留意すべき点があります。

2.2.1 買い手が重視する法的整備状況

買い手は、対象会社の法的整備状況を詳細に確認し、潜在的なリスクを評価する必要があります。特に、契約書の整備状況、知的財産権の管理状況、コンプライアンス体制などは、M&A後の事業継続に大きな影響を与えるため、重点的に確認すべき項目です。過去の訴訟履歴や行政処分なども確認し、将来のリスクを予測します。

確認項目 詳細
契約書の整備状況 契約書の有無、内容の妥当性、締結手続きの適切性などを確認
知的財産権の管理状況 権利の有無、権利範囲、登録状況、活用状況などを確認
コンプライアンス体制 法令遵守に関する社内規程の整備状況、研修の実施状況などを確認
2.2.2 売り手が事前に対応すべき点

売り手は、法務デューデリジェンスに備えて、必要な書類を整理し、適切な情報開示を行う必要があります。特に、契約書、登記簿謄本、財務諸表などは、買い手から要求される可能性が高いため、事前に準備しておくことが重要です。

また、潜在的なリスクを洗い出し、適切な対応策を検討しておくことも重要です。これにより、デューデリジェンスをスムーズに進めることができ、M&A成立の可能性を高めることができます。

準備事項 詳細
書類の整理 契約書、登記簿謄本、財務諸表などを整理・保管
情報開示 買い手からの質問に正確かつ迅速に回答
リスク対応 潜在的なリスクを洗い出し、対応策を検討
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3. 中小企業M&Aで法務デューデリジェンスが特に重要な理由

大企業と比較して、中小企業のM&Aでは法務デューデリジェンスが特に重要になります。その理由は、中小企業特有の組織運営や法務管理の実態に起因するリスクが潜んでいるためです。これらのリスクを事前に把握し、適切な対策を講じることで、M&A後のトラブルを未然に防ぎ、スムーズな事業統合を実現することが可能になります。

3.1 中小企業特有の法的課題

中小企業では、大企業に比べて法務体制が整っていないケースが多く、それがM&Aにおけるリスクにつながることがあります。具体的には、以下のような点が挙げられます。

3.1.1 契約の口頭運用や未整備書類

スピード感や関係性の重視から、契約書を作成せずに口頭で合意したり、作成したとしても内容が曖昧であったり、管理がずさんであったりするケースが少なくありません。このような状況は、M&A後の紛争の火種となる可能性があります。例えば、取引先との契約内容が明確でない場合、売上や利益に影響が出たり、債権回収が困難になるといった事態も想定されます。

3.1.2 オーナー個人との取引・債務保証の問題

中小企業では、オーナー経営者が私的な取引と会社の取引を混同していたり、オーナー個人が会社の債務保証をしているケースが見られます。

これらの問題は、会社の財務状況を不透明にするだけでなく、M&A後の事業継続性にも影響を及ぼす可能性があります。例えば、オーナー個人が会社の資産を私的に使用していた場合、会社の真の価値を評価することが難しくなり、M&A後の財務状況が悪化する可能性があります。

3.2 トラブル事例から学ぶ法務DDの必要性

実際に発生したトラブル事例を学ぶことで、法務デューデリジェンスの重要性をより深く理解することができます。以下は、中小企業M&Aで起こりうる代表的なトラブル事例です。

3.2.1 未整備契約によるM&A後の訴訟

口約束や不十分な契約書に基づいて取引を行っていた場合、M&A後に取引先とのトラブルに発展し、訴訟に発展するケースがあります。

例えば、重要な取引先との契約が口頭合意のみであった場合、M&A後に契約内容が争点となり、事業継続に支障をきたす可能性があります。また、契約書が存在しても、内容が曖昧であったり、重要な条項が欠落していたりする場合も、同様のリスクがあります。

3.2.2 許認可の名義問題と取引停止リスク

必要な許認可がオーナー個人名義で取得されている場合、M&A後に事業を継続するために必要な許認可を改めて取得する必要が生じ、事業の停止や遅延につながる可能性があります。特に、許認可の取得に時間を要する場合、事業への影響は甚大になります。

トラブル事例 原因 結果
取引先との訴訟 契約書の未整備、口頭での契約 損害賠償請求、取引停止
事業停止 許認可の名義問題 事業の遅延、損失発生
想定外の債務負担 オーナー個人の債務保証 財務状況の悪化
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4. 法務デューデリジェンスを成功させるためのポイント

法務デューデリジェンスを成功させるためには、事前の準備と専門家との連携が不可欠です。綿密な準備を行うことで、デューデリジェンスのプロセスをスムーズに進め、M&A取引におけるリスクを最小限に抑えることができます。

4.1 準備すべき書類と整備のすすめ

法務デューデリジェンスでは、様々な書類が求められます。事前にこれらの書類を整理・整備しておくことで、デューデリジェンスの効率化を図り、買い手への好印象を与えることができます。

4.1.1 契約書・登記・社内規程などの整備方法

契約書は、取引先との契約書、雇用契約書、リース契約書など、あらゆる契約書を漏れなく準備します。原本が存在しない場合は、再発行を依頼するなどして必ず揃えましょう。また、登記簿謄本や定款などの企業情報を最新の状態に更新し、社内規程についても整備状況を確認し、必要に応じて改訂を行います。これらの書類は、原本に加え、電子データ化しておくこともおすすめです。

書類の種類 整備方法 注意点
契約書 種類ごとに整理・ファイリングし、原本と電子データの両方を保管する。 有効期限、更新日、特記事項などを確認する。
登記簿謄本・定款 最新版を取得し、変更履歴も確認する。 記載内容に誤りがないか確認する。
社内規程 最新版を整備し、運用状況と整合性を取る。 実態に即した内容になっているか確認する。
4.1.2 クラウドや管理台帳による事前準備

書類の管理には、クラウドサービスや管理台帳を活用することで、効率的に整理・検索できます。特に、大量の契約書を扱う場合は、契約管理システムの導入も検討しましょう。また、重要な書類については、アクセス権限を設定するなど、セキュリティ対策も重要です。

4.2 アドバイザーや専門家の活用方法

法務デューデリジェンスは専門性の高い作業であるため、弁護士やM&A仲介会社などの専門家のサポートを受けることが重要です。専門家は、法的リスクの洗い出しや評価、契約交渉の支援など、様々な面でサポートを提供してくれます。

4.2.1 弁護士・M&A仲介会社との連携

弁護士は、法的な観点からデューデリジェンスを実施し、潜在的なリスクを特定します。また、契約書のレビューや交渉、紛争解決など、法的アドバイスを提供します。

M&A仲介会社は、M&Aプロセス全体のサポートを行い、デューデリジェンスの調整や買い手との交渉などを支援します。それぞれの専門家の役割を理解し、適切に連携することで、スムーズなM&Aプロセスを実現できます。

4.2.2 情報開示の姿勢が与える買い手の印象

買い手は、売り手の情報開示の姿勢を重視します。必要な情報を迅速かつ正確に開示することで、買い手の信頼を得ることができ、M&A取引を円滑に進めることができます。

逆に、情報開示に消極的であったり、不正確な情報を開示したりすると、買い手の不信感を招き、取引が破談する可能性もあります。透明性の高い情報開示を心がけ、買い手との良好な関係を築くことが重要です。

【関連】財務デューデリジェンスとは?M&A初心者向けに目的・内容・進め方を解説!

5. M&Aを円滑に進めるための法務デューデリジェンス活用術

法務デューデリジェンス(法務DD)は、M&Aプロセスにおいて単なるリスクチェックにとどまらず、円滑な取引実行と買収後の統合(PMI)を成功させるための重要なツールとなります。DDの結果をどのように活用し、戦略的に対応していくか、そのポイントを解説します。

5.1 DD結果の活かし方と戦略的対応

法務DDで見つかったリスクや課題は、M&A取引における交渉材料として活用できます。具体的には、以下の2つの対応が考えられます。

5.1.1 契約条件への反映と価格調整交渉

発見された法的リスクの重大性によっては、買収契約書の条件に反映させることで、買収後のリスクを軽減できます。例えば、表明保証条項や補償条項などを盛り込むことで、売主側に一定の責任を負わせる、あるいはリスク顕在化時の補償を求めることが可能です。

また、重大なリスクが発見された場合には、買収価格の調整交渉を行うことも有効な手段となります。リスクの程度や影響範囲を考慮し、適正な価格を交渉する必要があります。

5.1.2 買収後のPMI(統合作業)への橋渡し

法務DDで得られた情報は、買収後のPMIにおいても valuable な資産となります。例えば、従業員の雇用契約や取引先との契約内容、許認可の状況などを把握しておくことで、統合プロセスをスムーズに進めることができます。また、DDで明らかになったコンプライアンス上の課題や内部統制の不備を改善することで、買収後の企業価値向上にも繋がります。

DD結果の活用 具体的な対応 期待される効果
リスクの特定 契約条件への反映(表明保証、補償条項など) 買収後のリスク軽減、売主責任の明確化
課題の発見 価格調整交渉 適正価格での買収実現
情報収集 PMI計画への活用 スムーズな統合プロセス、企業価値向上
5.2 まとめと中小企業経営者へのアドバイス

法務DDは、M&Aを成功させるための「事前の危機回避」策として非常に重要です。特に、法務体制が整っていない中小企業にとっては、潜在的なリスクを洗い出し、適切な対策を講じるための必須プロセスと言えるでしょう。

売却を検討している中小企業経営者は、早期に専門家である弁護士やM&A仲介会社に相談し、法務DDの準備を進めることを強く推奨します。また、買収側も、DD結果を適切に活用することで、リスクを最小限に抑え、円滑なM&Aを実現できるでしょう。法務DDを戦略的に活用することで、M&Aを成功に導き、企業価値の向上を目指しましょう。

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6. まとめ

M&Aにおける法務デューデリジェンスは、取引のリスクを最小限に抑え、円滑な取引を実現するために不可欠です。特に中小企業M&Aにおいては、契約書の口頭運用やオーナー個人との取引など、特有の法的課題が存在するため、綿密なデューデリジェンスが重要となります。

売り手は事前に契約書や社内規程などの整備、クラウドを活用した書類管理などを行い、法務デューデリジェンスをスムーズに進めるための準備を整えましょう。買い手は、デューデリジェンス結果を基に契約条件への反映や価格交渉を行い、買収後のPMI(統合作業)を円滑に進めるための準備をすることができます。

法務デューデリジェンスを「事前の危機回避」と捉え、M&Aを成功に導きましょう。早期に着手することで、よりスムーズなM&Aプロセスを実現できます。

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