財務デューデリジェンスとは?M&A初心者向けに目的・内容・進め方を解説!
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公開日:2024年8月24日最終更新日:2025年6月11日
M&Aにおける財務デューデリジェンスの目的、内容、進め方について、初心者にも分かりやすく解説します。デューデリジェンスとは何か、なぜ重要なのか、といった基本から、具体的な調査項目、実施手順、費用感まで網羅的に解説。
さらに、中小企業特有の注意点や、デューデリジェンス結果をM&A後の経営にどう活かすかについても言及します。この記事を読むことで、M&Aにおける財務デューデリジェンスの重要性を理解し、M&Aプロセス全体をスムーズに進めるための知識を得ることができます。
結果として、M&Aの成功確率を高め、企業価値向上に繋げることが可能になります。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
1. そもそも「M&A」とは何か?──中小企業にとっての意味と可能性
M&Aという言葉はよく耳にするようになりましたが、その具体的な意味や中小企業にとってのメリットを正しく理解しているでしょうか。この章では、M&Aの基本から中小企業がM&Aを検討する理由、そしてM&Aの大まかな流れまでを解説します。
1.1 M&Aとは何を指すのか?M&Aとは、Mergers and Acquisitionsの略で、企業の合併と買収を意味します。合併とは、複数の企業が一つに統合されることで、買収とは、ある企業が他の企業の経営権を取得することです。どちらも企業の規模や事業内容を大きく変化させる可能性を持つ重要な経営戦略です。
1.1.1 合併と買収の基本的な違い項目 | 合併 | 買収 |
---|---|---|
企業数 | 複数企業が1社に統合 | 買収企業が被買収企業の経営権を取得 |
新会社の設立 | 原則として新会社を設立 | 被買収企業は存続する場合と消滅する場合がある |
権利義務の承継 | 新会社が全ての権利義務を承継 | 買収企業が被買収企業の権利義務の一部または全部を承継 |
中小企業におけるM&Aは、事業承継を目的としたものが多く見られます。その他、事業拡大や経営資源の獲得などを目的としたM&Aも増加傾向にあります。主なパターンとしては、同業他社との合併、異業種との買収、事業の一部売却などが挙げられます。
1.2 なぜ今、中小企業がM&Aを考えるべきなのか?後継者不足、人材確保の難しさ、市場の縮小など、中小企業を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。M&Aは、これらの課題を解決し、企業の成長を促す有効な手段となり得ます。
1.2.1 事業承継・人材不足・市場縮小への対応後継者が見つからない場合、M&Aによって円滑な事業承継を実現できます。また、優秀な人材の確保や新たな市場への進出もM&Aによって可能になります。市場の縮小に直面している企業は、M&Aによって事業規模を縮小したり、新たな事業領域に進出することで生き残りを図ることができます。
1.2.2 成長戦略としてのM&Aの活用M&Aは、企業の成長を加速させるための戦略としても有効です。競合他社を買収することで市場シェアを拡大したり、技術力やノウハウを持つ企業を買収することで競争力を強化することができます。また、新たな市場に進出するための足掛かりとしてM&Aを活用することも可能です。
1.3 M&Aの流れと全体像をつかむM&Aは複雑なプロセスを経て成立します。全体像を把握することで、財務デューデリジェンスの位置付けや重要性を理解することができます。
1.3.1 M&Aの主要なステップ- 準備段階(M&Aの目的・目標の設定、アドバイザー選定)
- 相手企業の探索
- 基本合意締結(LOI締結)
- デューデリジェンス(財務、法務、事業など)
- 最終契約締結
- クロージング(株式譲渡・合併手続き)
- 統合プロセス(PMI)
財務デューデリジェンスは、基本合意締結後、最終契約締結前に実施されます。買収対象企業の財務状況を詳細に調査し、買収価格の決定や契約条件の交渉に重要な役割を果たします。
【関連】業績向上までサポートするM&A仲介サービス2. 財務デューデリジェンスとは何か?──M&Aにおける役割と重要性
M&Aにおいて、財務デューデリジェンスは取引の成否を左右する重要なプロセスです。財務デューデリジェンスとは、買収対象企業の財務状況を詳細に調査し、潜在的なリスクや問題点を明らかにすることを指します。これにより、買い手は適切な買収価格を決定し、将来のリスクを最小限に抑えることができます。
【関連】ITデューデリジェンスの目的・調査項目・進め方を初心者向けに解説【M&A成功の鍵】2.1 財務デューデリジェンスの定義と目的
財務デューデリジェンスは、企業価値評価、リスク評価、投資判断の基礎となる情報を提供します。単なる財務諸表の確認にとどまらず、その背後にある経営の実態を把握することが重要です。
2.1.1 デューデリジェンスとは?デューデリジェンスとは、企業買収や投資などの重要な意思決定を行う前に、対象企業の事業内容、財務状況、法務状況などを詳細に調査するプロセスです。財務デューデリジェンスは、その中でも財務状況に特化した調査を指します。
2.1.2 なぜ「財務」が特に重要なのか財務情報は、企業の健全性や収益性を客観的に示す重要な指標です。財務デューデリジェンスによって、企業の過去の業績や将来の収益性を評価し、隠れたリスクを洗い出すことができます。これにより、買い手は適正な買収価格を判断し、買収後の経営戦略を策定することができます。
2.2 M&Aにおける財務デューデリジェンスの位置付け財務デューデリジェンスは、M&Aプロセスにおける基本合意後、最終契約締結前に実施されるのが一般的です。買い手は、財務デューデリジェンスの結果に基づいて買収条件を交渉し、最終的な投資判断を行います。
2.2.1 実施タイミングと買い手・売り手の視点視点 | 実施タイミング | 目的 |
---|---|---|
買い手 | 基本合意後 | 適正価格の算定、リスク把握、契約条件交渉 |
売り手 | 基本合意前 | 企業価値の向上、スムーズな取引の実現 |
財務デューデリジェンスによって、予期せぬ負債やリスクが明らかになる場合があります。これらの情報が不足していると、買収後に想定外の損失が発生したり、訴訟に発展する可能性もあります。そのため、財務デューデリジェンスはM&Aの成否を左右する重要なプロセスと言えます。
2.3 財務デューデリジェンスが明らかにするリスクとは?財務デューデリジェンスは、企業の財務状況に潜む様々なリスクを明らかにします。これにより、買い手は買収前にリスクを認識し、適切な対策を講じることができます。
2.3.1 隠れた債務・過大資産・税務リスク財務デューデリジェンスでは、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などを詳細に分析し、簿外債務や偶発債務、過大評価された資産、未払いの税金など、隠れたリスクを洗い出します。例えば、将来発生する可能性のある訴訟費用や環境対策費用なども重要な調査対象となります。
2.3.2 粉飾や不正の兆候を見抜くポイント経験豊富な専門家は、財務データの不自然な変動や不透明な会計処理など、粉飾や不正の兆候を見抜くことができます。例えば、売上の水増しや費用の過少計上、関連会社との不適切な取引などは、財務デューデリジェンスによって発見される可能性があります。また、内部統制の脆弱性も重要なチェックポイントです。
【関連】M&Aで失敗しないデューデリジェンス!目的・種類・費用は?【前編】3. 財務デューデリジェンスの具体的な内容とは?──中小企業に特有のチェックポイント
財務デューデリジェンスでは、企業の財務状況を詳細に調査し、M&Aにおけるリスクを洗い出します。ここでは、特に中小企業の財務デューデリジェンスにおいて重点的に確認すべきポイントを解説します。
3.1 調査される財務項目の全体像財務デューデリジェンスでは、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書といった財務諸表を中心に、様々な財務情報を分析します。これらの情報を多角的に分析することで、企業の収益性、安全性、成長性などを評価します。
3.1.1 貸借対照表・損益計算書の読み解き方貸借対照表からは、企業の資産、負債、資本の状況を把握します。資産の内容や負債の構成、自己資本の比率などを分析することで、企業の財務健全性を評価します。
損益計算書からは、売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業利益、経常利益、当期純利益などを確認し、企業の収益構造や収益性を分析します。特に、売上高の推移や利益率の変動、費用項目の構成比などに注目します。
キャッシュフロー計算書からは、企業の資金の流れを把握します。営業活動、投資活動、財務活動によるキャッシュフローを分析することで、企業の資金調達能力や資金運用状況を評価します。
特に、営業活動によるキャッシュフローがプラスであるか、安定的に資金を生み出しているかを確認することが重要です。また、資金繰りの状況についても、短期借入金や買掛金の状況、手元資金の推移などを確認します。
中小企業の財務デューデリジェンスでは、大企業とは異なる特有の注意点があります。これらを理解しておくことで、より精度の高い調査を行うことができます。
3.2.1 代表者貸付・オーナー経費・名義株中小企業では、代表者による会社への貸付や、オーナーの個人的な経費が会社経費に計上されているケースがあります。また、名義株の存在も確認が必要です。これらの項目は、会社の財務状況を正確に反映していない可能性があるため、注意深く調査する必要があります。
3.2.2 従業員給与や退職金の未払い問題従業員給与や退職金の未払いも、中小企業で発生しやすい問題です。未払いがある場合、M&A後に買い手が負担する可能性があるため、デューデリジェンスでしっかりと確認する必要があります。
3.3 成果物と報告書の内容とは?財務デューデリジェンスの結果は、報告書としてまとめられます。この報告書には、調査結果やリスク評価、改善提案などが記載されています。
3.3.1 財務デューデリジェンス報告書の構成財務デューデリジェンス報告書は、一般的に以下の項目で構成されます。
項目 | 内容 |
---|---|
調査概要 | 調査の目的、範囲、期間、方法などを記載 |
財務分析 | 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の分析結果などを記載 |
リスク評価 | 特定されたリスクとその影響度、発生可能性などを記載 |
改善提案 | リスクへの対応策や経営改善のための提案などを記載 |
結論 | 調査結果に基づく総合的な評価や提言などを記載 |
財務デューデリジェンス報告書は、M&Aにおける意思決定に重要な役割を果たします。報告書の内容を理解し、リスクを適切に評価することで、より良い経営判断を行うことができます。
例えば、報告書で指摘されたリスクに基づいて、買収価格の調整や契約条項の見直しを行うことができます。また、買収後の経営方針や事業計画にも、デューデリジェンスの結果を反映させることが重要です。
4. どう進める?財務デューデリジェンスの進行ステップ
財務デューデリジェンスは、M&Aプロセスにおいて非常に重要なステップです。誰がどのように行うのか、具体的な流れ、そして必要となる期間や費用感など、この章では財務デューデリジェンスの進め方について詳しく解説します。
4.1 誰が、どのように行うのか?財務デューデリジェンスは、専門的な知識と経験を持つ第三者機関に依頼するのが一般的です。主な担当者は以下の通りです。
4.1.1 公認会計士・税理士・アドバイザーの役割公認会計士は、財務諸表の分析や会計処理の妥当性などを検証します。税理士は、税務リスクや税務上の問題点などを洗い出します。M&Aアドバイザーは、デューデリジェンス全体のプロセス管理や、買い手と売り手の間の調整役などを担います。これらの専門家は、それぞれ異なる視点から財務状況を分析し、客観的な評価を提供します。
4.1.2 買い手・売り手それぞれの準備と対応買い手は、デューデリジェンスの結果に基づいて買収価格や契約条件を交渉します。そのため、事前にデューデリジェンスの目的や範囲を明確にしておく必要があります。
売り手は、スムーズなデューデリジェンス実施のために、必要な資料を事前に準備し、質問に対して誠実に回答する必要があります。透明性の高い対応が、買い手の信頼獲得に繋がります。
財務デューデリジェンスは、一般的に以下のステップで進められます。
4.2.1 事前資料の準備と初期面談売り手は、財務諸表、契約書、登記簿謄本などの資料を準備します。買い手と専門家チームは、初期面談でデューデリジェンスの目的、範囲、スケジュールなどを確認します。
4.2.2 現地調査・データ分析・質疑応答専門家チームは、売り手のオフィスを訪問し、資料の確認や担当者へのヒアリングを行います。収集したデータに基づいて財務分析を行い、リスクや課題を特定します。不明点があれば、売り手側に質問し、追加資料の提出を求めることもあります。
ステップ | 内容 | 担当 |
---|---|---|
1. 計画立案 | デューデリジェンスの目的・範囲・スケジュールを設定 | 買い手、アドバイザー |
2. 資料収集 | 売り手から財務資料等を収集 | 買い手、アドバイザー |
3. 現地調査 | 売り手企業を訪問し、ヒアリング等を実施 | アドバイザー |
4. 分析・評価 | 収集した資料に基づき財務状況を分析・評価 | アドバイザー |
5. 報告書作成 | デューデリジェンスの結果をまとめた報告書を作成 | アドバイザー |
デューデリジェンスに必要な期間や費用は、企業規模や取引内容の複雑さによって異なります。一般的な目安は以下の通りです。
4.3.1 調査にかかる日数とスケジュール中小企業のM&Aの場合、数週間から数ヶ月程度かかるのが一般的です。複雑な取引の場合、さらに時間を要することもあります。スケジュールは、買い手と売り手の都合を考慮して決定します。
4.3.2 コストの相場と費用対効果の考え方デューデリジェンスの費用は、数百万円から数千万円程度が相場です。費用対効果を考慮し、適切な範囲と深度で実施することが重要です。デューデリジェンスによって、将来発生する可能性のある損失を回避できれば、費用以上のメリットを得られる可能性があります。
【関連】法務デューデリジェンスとは?売り手・買い手双方が知るべき、法的チェックの全体像5. M&Aを成功させるために──財務デューデリジェンス後の経営判断
財務デューデリジェンスは、M&Aプロセスにおける重要なステップですが、その結果を適切に解釈し、経営判断に活かすことが最終的な成功を左右します。ここでは、デューデリジェンス後の対応と、M&Aを成功に導くための視点を解説します。
5.1 デューデリジェンスの結果をどう活かすか?財務デューデリジェンスの結果は、M&A取引における最終判断の材料となるだけでなく、買収後の統合プロセスにも大きな影響を与えます。具体的には、以下の2つの側面で活用されます。
5.1.1 買収価格の調整や契約条項の見直しデューデリジェンスで発見されたリスクや想定外の負債は、買収価格の交渉材料となります。当初提示された価格が妥当かどうかを再検討し、必要に応じて調整を行うべきです。
また、契約条項に表明保証条項や補償条項などを盛り込むことで、リスクを軽減することも可能です。例えば、デューデリジェンスで発覚した偶発債務については、売主側に一定の責任を負わせる条項を設けるといった対応が考えられます。
デューデリジェンスで得られた情報は、買収後の統合プロセスをスムーズに進めるためにも役立ちます。例えば、対象企業の財務状況や事業の強み・弱みを把握することで、適切な経営戦略を策定できます。
また、デューデリジェンスで発見された課題やリスクへの対策を事前に計画することで、統合後の業績悪化を防ぐことが可能です。
過去のM&Aの事例から、財務デューデリジェンスの重要性を改めて認識し、成功と失敗の分かれ道を理解しましょう。
5.2.1 財務デューデリジェンスを軽視した失敗例デューデリジェンスを十分に行わずにM&Aを実行した結果、想定外の負債や訴訟リスクが発覚し、買収後に多額の損失を被るケースは少なくありません。
例えば、過去の不正会計が発覚して株価が暴落したり、隠蔽されていた環境問題への対応を迫られたりするといった事態も発生しています。このような事態を避けるためにも、財務デューデリジェンスは決して軽視すべきではありません。
適切なデューデリジェンスを実施することで、潜在的なリスクを早期に発見し、M&A取引を成功に導いた事例も数多く存在します。例えば、デューデリジェンスによって対象企業の収益構造の脆弱性を把握し、買収後に事業ポートフォリオの見直しやコスト削減策を迅速に実施することで、業績を回復させたケースなどが挙げられます。
5.3 中小企業経営者が知っておくべき視点中小企業のM&Aにおいては、経営者自身がデューデリジェンスプロセスに積極的に関与することが重要です。専門家に任せきりにするのではなく、自社の将来像を明確に描き、その実現のためにデューデリジェンスをどのように活用するかを常に意識する必要があります。
5.3.1 専門家に任せきりにしない姿勢が大切専門家のサポートは不可欠ですが、最終的な経営判断は経営者自身が行うべきです。専門家の意見を鵜呑みにするのではなく、自社の状況や戦略に照らし合わせて、デューデリジェンスの結果をどのように解釈し、活用するかを主体的に考えることが重要です。
5.3.2 M&Aの先にある企業の未来を見据えるM&Aはあくまで手段であり、目的ではありません。M&Aを通じてどのような企業を目指し、どのような価値を創造したいのかを明確にすることが、デューデリジェンス後の経営判断においても重要な指針となります。M&Aの先にある企業の未来を見据え、長期的な視点で判断することが大切です。
【関連】ビジネスデューデリジェンスの目的・確認事項・進め方とは?【初心者向け】6. まとめ
この記事では、M&Aにおける財務デューデリジェンスの目的、内容、進め方について解説しました。財務デューデリジェンスは、M&A取引において不可欠なプロセスであり、企業の財務状況を詳細に調査することで、潜在的なリスクを明らかにし、取引の成否を左右する重要な役割を担います。
貸借対照表や損益計算書などの財務諸表の分析だけでなく、中小企業特有のポイントとして、代表者貸付やオーナー経費、名義株なども確認が必要です。公認会計士や税理士などの専門家の協力を得ながら、適切なデューデリジェンスを実施することで、M&Aのリスクを軽減し、成功の可能性を高めることができます。
M&A後の経営方針への反映も視野に入れ、デューデリジェンスの結果を最大限に活用しましょう。