M&A・非上場株式の売却・買収|株価算定からDD、税金まで

本ページの更新日について
公開日:2024年8月6日最終更新日:2026年8月9日
非上場株式のM&Aは、株式譲渡を軸に進めるケースが多い一方、譲渡制限、簿外債務、税金で結果が変わります。手法・価格・承認・DDを同時に確認することが重要です。
1. 非上場株式を使うM&Aの結論と選択基準非上場企業とは、株式を証券取引所に公開していない会社です。非上場株式にも株式譲渡自由の原則はありますが、定款で譲渡制限を設けている会社が多く、上場株式のように市場で即時売買はできません。
会社全体と経営権を引き継ぐなら株式譲渡、不要な債務を切り離して特定事業だけを取得するなら事業譲渡が基本です。資金調達を伴う場合は第三者割当増資、完全子会社化で現金流出を抑える場合は株式交換を検討します。
手法 | 承継範囲 | 主な特徴 |
|---|---|---|
株式譲渡 | 会社全体 | 契約や許認可を維持しやすいが、簿外債務も承継 |
事業譲渡 | 選択した事業 | 債務を選別しやすいが、契約・従業員の移転が必要 |
第三者割当増資 | 新株と資金 | 会社に資金が入り、既存株主との共同経営になる |
株式交換 | 発行済株式の全部 | 完全子会社化に適し、株式を対価にできる |
上場株式は証券取引所で多数の投資家が売買し、市場価格が形成されます。非上場株式は相対交渉で価格を決め、株主名簿や定款、譲渡承認の確認が必要です。
上場会社には継続的な情報開示義務がありますが、非上場会社の情報は外部から把握しにくい傾向があります。そのため、買い手は財務・税務・法務の調査を厚く行います。
1-2. 株式譲渡と事業譲渡を選ぶ判断材料株式譲渡は、株主が株式を売り、法人格を維持したまま経営権を移します。許認可や取引契約を引き継ぎやすい反面、未払残業代や保証債務なども会社に残ります。
事業譲渡は、対象資産、契約、従業員などを個別に移します。不要な事業や債務を除きやすい一方、取引先との契約再締結や許認可の取り直しが必要になる場合があります。
1-3. 第三者割当増資と株式交換の使い分け第三者割当増資は、買い手が新株を引き受け、対価を対象会社へ払い込む手法です。売り手株主に売却代金が入るのではなく、会社の成長資金を確保しながら出資比率を変えたい場面に適します。
株式交換は、買い手会社の株式などを対価として対象会社を完全子会社化する方法です。現金負担を抑えられますが、買い手側の株主構成や企業価値に影響するため、株式の評価が重要です。
1-4. 売却側と買収側で異なる初期診断項目売却側は、株主名簿、名義株、株券の有無、経営者保証、簿外債務、重要契約を確認します。株主が分散している場合は、早期に集約方針を決めることが必要です。
買収側は、取得目的、許容できる投資額、統合後の人員体制、資金調達、撤退基準を決めます。目的が「売上拡大」だけでは、買収後の施策と評価基準が曖昧になります。
2. 非上場株式M&Aの進行手順と承認実務
一般的な流れは、方針策定、候補先探索、秘密保持契約、トップ面談、基本合意、デューデリジェンス、最終契約、決済、名義書換です。期間は案件の規模や論点で変わるため、最初から余裕を持った工程を組みます。
売却・買収目的と条件を整理する
候補先を探索し、秘密保持契約を締結する
企業概要書をもとにトップ面談を行う
価格レンジや独占交渉を基本合意に記載する
財務・税務・法務・事業・人事を調査する
最終契約とクロージングを実行する
売り手は、財務諸表、事業内容、従業員数、主要取引先、許認可などを企業概要書に整理します。買い手は、自社との顧客・技術・地域の重なりを確認し、候補先の優先順位を付けます。
秘密保持契約を締結する前に、開示する情報の範囲を決めます。トップ面談では、経営方針、従業員処遇、屋号や取引先の維持、経営者の引継ぎ期間を確認します。
2-2. 基本合意書に定める独占交渉と条件基本合意書には、対象会社や株式数、価格レンジ、手法、独占交渉期間、秘密保持、DDの前提条件を記載します。独占交渉を設ける場合は、期間と解除条件を明確にします。
価格や最終契約の締結義務は、法的拘束力を持たせない記載が一般的です。一方、秘密保持、独占交渉、費用負担などは拘束力を持たせることがあるため、条項ごとに確認します。
2-3. 譲渡承認請求から株主名簿書換まで譲渡制限株式では、売主と買主が株式譲渡承認請求書を作成し、会社へ提出します。承認機関は定款に従い、取締役会設置会社では取締役会、非設置会社では株主総会などが担います。
承認通知後に株式譲渡契約書を締結し、代金決済と株式・株券の引渡しを行います。最後に株主名簿の名義書換を行い、買主が会社に対して株主であることを主張できる状態にします。
2-4. M&A株式譲渡に必要な書類チェックリスト事前確認:定款、履歴事項全部証明書、株主名簿、決算書、株券発行の有無
承認手続き:譲渡承認請求書、取締役会議事録または株主総会議事録、承認通知
契約・決済:株式譲渡契約書、印鑑証明書、委任状、送金記録、株券
完了手続き:株主名簿書換請求書、株券受領書、役員変更関係書類
3. 非上場株式の価格算定と税引後手取り比較
非上場株式には市場価格がないため、純資産価額方式、類似会社比較法、DCF法などで企業価値を試算します。ただし、M&A価格、相続税評価額、税務上の評価額は目的が異なり、一致するとは限りません。
例えば、時価純資産が7,000万円、平均営業利益が1,000万円で、営業利益3年分を加える簡易試算なら企業価値は1億円です。実際の価格は、ネットデット、成長性、DD結果、買い手とのシナジーで変動します。
3-1. 純資産法と類似会社比較法の適用場面純資産価額方式は、資産と負債を時価に置き換え、会社の現在の財産価値を把握する方法です。不動産や機械を多く持つ製造業では、含み損益が価格に与える影響を確認します。
類似会社比較法は、同業上場会社のPERやEV・EBITDA倍率などを参考にします。収益力を比較しやすいサービス業に向きますが、規模、地域、顧客構成の差を調整する必要があります。
3-2. DCF法で将来キャッシュフローを評価する方法DCF法では、事業計画から将来のフリーキャッシュフローを予測し、割引率で現在価値に換算します。算出した事業価値から現預金や有利子負債などのネットデットを調整し、株式価値を求めます。
5年間の計画が高成長でも、売上や利益の未達リスクが高ければ割引率や計画修正で価値は下がります。計画の根拠、受注残、顧客継続率などを検証することが重要です。
3-3. M&A価格と相続税評価額が異なる理由相続税評価額は、相続や贈与にかかる税額を計算するための評価です。類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式など、税法上のルールに基づきます。
一方、M&Aの企業価値評価は、将来収益、資産、リスク、買い手のシナジーを反映します。相続税評価額をそのまま売買価格と考えると、事業の収益力や買い手の価値を見落とします。
3-4. 株式譲渡と事業譲渡の税引後手取り比較個人株主が株式を売却する場合、譲渡益は原則として申告分離課税の対象で、所得税・復興特別所得税と住民税を合わせた税率は20.315%です。取得費や譲渡費用を差し引いて計算します。
法人株主の株式譲渡益は、他の所得と合算して法人税等の対象になります。事業譲渡では、売り手法人に法人税等や消費税の論点が生じ、株主への資金移転時に追加課税が発生することがあります。
発行会社が自社株式を買い取る場合は、対価の一部がみなし配当となる可能性があります。売却価格だけでなく、仲介手数料、税金、専門家費用、引継ぎ条件を差し引いた手取りで比較します。
4. 買い手が確認するDDと簿外債務の実務買い手は、財務・税務・法務・事業・人事の5領域を調査します。調査の目的は問題探しだけでなく、買収価格、契約条件、統合計画に反映することです。
領域 | 主な確認項目 |
|---|---|
財務・税務 | 売上の実在性、未払金、税務申告、保証債務 |
法務 | 重要契約、訴訟、許認可、知的財産、担保 |
事業 | 顧客集中、競争環境、受注残、設備更新 |
人事 | 雇用契約、未払残業代、退職金、キーパーソン |
未払残業代、退職給付、賞与引当、保証債務、未払税金は、貸借対照表に十分反映されていないことがあります。過年度申告、税務調査、消費税、関連当事者取引も確認対象です。
例えば、社長個人が会社借入を保証している場合、買収後の保証解除が条件になることがあります。発見したリスクは、価格減額、特別補償、 escrow に相当する留保、契約解除条件で対応します。
4-2. 法務DDで確認する契約と許認可の承継株式譲渡では法人格が維持されるため、契約や許認可が継続しやすい一方、重要契約のチェンジオブコントロール条項に注意します。支配株主の変更で相手方の承諾が必要になる契約があります。
事業譲渡では、契約、許認可、従業員、知的財産を個別に移します。許認可が買い手へ自動承継されない業種もあるため、所管官庁と事前に確認します。
4-3. 少数株主と名義株を整理する対応手順まず株主名簿、定款、株式申込書、売買契約書、相続関係資料を突き合わせ、実質的な株主を確認します。名義株は、名義人と実質所有者の合意書や取得資金の記録などを整理します。
相続未了株式や所在不明株主がいる場合は、遺産分割、住所調査、通知記録を整えます。無理に名義を変更せず、弁護士や司法書士と会社法上の手続きを確認します。
4-4. 株券紛失や譲渡制限違反を発見した場合株券を紛失している場合は、定款、株券発行の有無、株主名簿、発行記録、旧契約を確認します。株券発行会社では、株券の扱いが決済条件に影響するため、再発行や除権手続きの要否を専門家に確認します。
過去の譲渡承認が不完全なら、当時の議事録、承認通知、代金支払記録、関係者の確認書を集めます。問題を伏せてクロージングを急ぐと、表明保証違反や株主権争いにつながります。
5. 非上場株式M&Aで迷いやすい実務FAQ
5-1. 譲渡制限株式は承認なしで売却できますか
定款で譲渡制限が定められている場合、会社の承認なしに買主へ株主としての地位を対抗することは困難です。まず譲渡承認請求を行い、定款に定めた機関の決議を得ます。
会社が承認しない場合、会社または指定買取人による買取りが問題になります。承認・不承認の通知には会社法上の期間があるため、請求日と通知日を記録してください。
5-2. 非上場株式の価格は誰がどのように決めますか価格は、売り手と買い手の合意で決まります。公認会計士や税理士などが純資産法、類似会社比較法、DCF法で試算し、DD結果、将来収益、シナジー、株式の支配権を踏まえて交渉します。
評価額は取引価格の自動的な答えではありません。評価手法を1つに固定せず、複数の試算と前提条件を並べて比較すると、交渉の基準を作りやすくなります。
5-3. 株式譲渡で簿外債務を引き継ぐ可能性はありますかあります。株式譲渡では対象会社の法人格が存続するため、帳簿に現れていない未払賃金、保証債務、訴訟リスク、税務リスクも会社に残ります。
買い手はDDで確認し、売り手の表明保証、補償条項、補償上限、請求期間、クロージング前の是正条件を株式譲渡契約書に定めます。事業譲渡でも承継範囲の記載が不明確だと争いになります。
5-4. 非上場株式の売却で確定申告は必要ですか個人株主が株式を売却して譲渡益を得た場合、原則として確定申告と納税の確認が必要です。取得費が不明な場合は、一定の要件で売却価格の5%を概算取得費とする扱いがあります。
法人株主は法人税等の申告に含めます。発行会社による自己株式取得ではみなし配当が生じる場合があるため、売却主体、相手方、取得費、譲渡費用を税理士へ提示してください。
6. おすすめ商品: 手取りを重視するならM&A PMI AGENTの特徴と選び方非上場株式M&Aでは、売却価格が同じでも、仲介手数料、税金、実費、引継ぎ条件によって手元に残る金額が変わります。売り手は、提示価格ではなく「売却価格から何が差し引かれるか」を一覧にして比較する必要があります。
手取りを重視するならM&A PMI AGENTは、売却価格・仲介手数料・税金・実費・引継ぎ条件を踏まえた手取り額の整理を特徴とするサービスです。初回相談、着手金、中間金が無料で、最低報酬は500万円〜とされています。
他社から提案書や見積りを受け取っている場合も、仲介契約前であれば、最低報酬、成功報酬の計算方法、テール条項、買い手探索方針を比較相談できます。オンライン面談中心で、買い手候補への打診からDD、最終契約、クロージングまで支援します。
中小規模の案件では、最低報酬の差が手取りを大きく左右することがあります。例えば、譲渡価格5,000万円の比較例では、他社最低報酬2,000万円に対し最低報酬500万円〜となり、手数料差額は最大1,500万円とされています。具体的な条件は案件ごとに確認してください。
仲介会社を選ぶ際は、手数料だけでなく、財務・税務・法務の連携、DD対応、PMI、企業再生や経営改善までの支援範囲を確認します。契約前に複数社の見積りを並べることが、手取りを守る実務的な方法です。
7. まとめ非上場株式のM&Aでは、株式譲渡が会社全体の承継に適し、事業譲渡は対象事業や債務を選別したい場合に適します。第三者割当増資や株式交換も、資金調達や完全子会社化の目的に応じて選択肢になります。
実行前に、定款、株主名簿、譲渡制限、名義株、株券、保証、簿外債務を確認してください。価格は純資産価額方式やDCF法などで試算し、M&A価格と税務評価額を分けて考えます。
次の行動は、売却側なら株主・保証・税引後手取りの整理、買収側なら取得目的・DD項目・資金上限の決定です。会社法、税務、契約が交差するため、早い段階で専門家に資料を確認してもらうことが安全です。


