WEB広告代理店の事業売却で税金を最小化する秘訣【手取り最大化へ】

WEB広告代理店の事業売却で税金を最小化する秘訣【手取り最大化へ】

WEB広告代理店の事業売却で「税金で損をした...」と後悔しないために。本記事では、売却手法である「株式譲渡」と「事業譲渡」で税金がどう変わるかを徹底比較し、あなたの手取り額を最大化する具体的な節税策を解説します。

結論、最適なスキーム選択と役員退職金などの計画的な活用が成功の鍵です。この記事を読めば、複雑な税金の仕組みを理解し、納得のいくM&Aを実現するための知識が身につきます。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。




1. 【基本】WEB広告代理店の事業売却における税金の全体像:スキームで変わる税金

WEB広告代理店の事業売却を成功させ、手取り額を最大化するためには、税金に関する知識が不可欠です。事業売却と一言でいっても、その手法(スキーム)によって、誰が、いつ、どのような税金を納めるのかが大きく異なります。

まずは、事業売却における税金の全体像を掴むため、最も代表的な2つのスキーム「株式譲渡」と「事業譲渡」の違いから理解を深めていきましょう。

この最初のステップを理解することが、将来的な税金対策の選択肢を広げ、最終的な手取り額に直結する極めて重要なポイントとなります。

1.1 事業売却の2大手法と税金の違いを理解する

WEB広告代理店のM&A(事業売却)で主に用いられるのは、「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つの手法です。株式譲渡は会社を丸ごと売却する手法であり、事業譲渡は会社の中の特定の事業だけを切り出して売却する手法です。

どちらを選択するかで、課税対象者や税率が根本的に変わるため、それぞれの特徴を正確に把握しておく必要があります。

以下の表で、両者の違いを整理しました。

項目 株式譲渡 事業譲渡
売却の主体(誰が売るか) 株主(オーナー個人など) 会社(法人)
売却の対象(何を売るか) 会社の株式 事業に関連する資産・負債(広告アカウント、顧客リスト、人材、ノウハウなど)
納税者(誰が税金を払うか) 株主(オーナー個人など) 会社(法人)
主な税金の種類 所得税・住民税(譲渡所得) 法人税等(譲渡益)、消費税(課税資産)
税率(目安) 合計 20.315% 法人実効税率 約30% + 消費税 10%
手続きの煩雑さ 比較的シンプル 複雑(資産・負債の個別移転手続きが必要)
1.1.1 オーナー個人の手取り額を最大化しやすい「株式譲渡」と申告分離課税

株式譲渡は、会社のオーナー経営者が保有する株式を買い手企業に売却する手法です。これにより、会社の経営権が買い手に移転します。WEB広告代理店の場合、会社そのものを一体として売却するため、運用ノウハウを持つ人材や取引先との契約関係もスムーズに引き継がれやすいというメリットがあります。

税務上の最大のメリットは、株主個人の「譲渡所得」として扱われる点です。株式の売却によって得た利益(譲渡価額から取得費や手数料を引いた額)に対して、所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%を合わせた合計20.315%の税率が適用されます。

これは給与所得など他の所得とは合算せずに計算される「申告分離課税」であり、法人税率(約30%)と比較して税率が低く抑えられるため、オーナー個人の手取り額を最大化しやすいスキームと言えます。

1.1.2 特定事業のみを切り離す「事業譲渡」と法人税・消費税の論点

事業譲渡は、会社が運営する事業の一部または全部を、資産や負債を個別に選別して売却する手法です。例えば、「リスティング広告運用事業部だけを売却する」といったケースがこれに該当します。売り手企業は会社を存続させ、売却で得た資金を元に新規事業を始めたり、他の事業に集中したりすることが可能です。

税務上、売却の主体は会社(法人)となるため、売却益に対して法人税等(法人税、地方法人税、法人住民税、事業税)が課されます。この法人実効税率は約30%であり、株式譲渡の税率よりも高くなるのが一般的です。

さらに、事業譲渡では、建物や機械設備といった有形固定資産だけでなく、WEB広告代理店の価値の源泉である「営業権(のれん)」も課税資産とみなされ、消費税(10%)の課税対象となる点に注意が必要です。

売却代金は法人のものとなるため、オーナー個人がその資金を得るためには、役員退職金や配当といった形で引き出す必要があり、その際にさらに所得税が課される「二重課税」の問題も考慮しなければなりません。

1.2 WEB広告代理店特有の価値「のれん」と税金の関係性

WEB広告代理店の事業売却を考える上で、避けては通れないのが「のれん(営業権)」の存在です。この業界は、工場や機械設備といった有形の資産よりも、顧客基盤や運用ノウハウといった無形の資産にこそ価値があります。

この無形資産の価値が、税務上どのように扱われるかを理解することは、売却価格の交渉やスキーム選択において極めて重要です。

1.2.1 顧客基盤や運用ノウハウの価値である「営業権(のれん)」

M&Aにおける「のれん」とは、会社の純資産額(資産から負債を引いた額)を上回る部分の価値を指し、いわば「超過収益力」の対価です。WEB広告代理店の場合、この「のれん」は以下のような要素から構成されます。

  • 大手企業との安定した取引実績や顧客基盤
  • Google広告やMeta広告など、特定プラットフォームにおける高度な運用ノウハウ
  • 優秀な広告運用者やコンサルタントといった人的資源
  • 独自の分析ツールやレポーティングシステム
  • 業界内でのブランド力や知名度

これらの目に見えない価値が、事業売却の際には買い手から高く評価され、売買価格に「のれん代」として上乗せされます。特に事業譲渡のスキームでは、この「のれん」は「営業権」として譲渡資産の一つとなり、消費税の課税対象となります。

1.2.2 買い手側の節税メリットとなる「のれん償却」

「のれん」は、売り手にとっては売却価格を高める要素ですが、買い手にとっては税務上のメリットを生むことがあります。これが「のれん償却」です。

事業譲渡のスキームで「営業権」として計上されたのれんは、買い手企業が5年間にわたって均等に償却し、その償却費を費用(損金)として計上することが税務上認められています。つまり、のれんの取得価額を5年間で分割して経費にできるため、その分だけ課税所得が圧縮され、法人税の節税に繋がるのです。

この買い手側の節税メリットは、M&Aの交渉において非常に重要な意味を持ちます。買い手は、のれん償却による将来の節税効果を見越して、より高い買収価格を提示しやすくなります。

一方で、株式譲渡の場合は原則としてこの「のれん償却」による損金算入が認められないため、買い手にとっては事業譲渡の方が魅力的に映ることがあります。この点を理解しておくことで、より有利な条件での交渉を進めることが可能になります。

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2. 【株式譲渡編】WEB広告代理店の事業売却で個人の手取りを最大化する税金対策
株式譲渡vs退職金の税負担比較 株式譲渡所得 譲渡対価(売却価格) 1億円 取得費+譲渡費用 500万円 = 課税対象額 9,500万円 税率:20.315% 税額 1,930万円 手取り額 8,070万円 退職金 退職金額 3,000万円 退職所得控除 (勤続25年の場合) 1,150万円 ( ) × 1/2 課税対象額 925万円 税率:約15%(累進税率) 税額 約139万円 手取り額 2,861万円 退職金併用により実質税負担を大幅軽減 ※退職金3,000万円、株式譲渡7,000万円の場合の比較例

WEB広告代理店のM&Aにおいて、オーナー経営者が個人としての手取り額を最大化したい場合、最も選択されることが多い手法が「株式譲渡」です。会社の経営権そのものを株式の売買によって買い手に移転させるこの方法は、手続きが比較的シンプルで、税制上のメリットが大きいのが特徴です。

ここでは、株式譲渡によって得た利益にかかる税金の仕組みと、手取り額を合法的に増やすための具体的な節税策を詳しく解説します。

2.1 株式譲渡所得にかかる税金(所得税・住民税)の計算構造

会社の株式を売却して得た利益は「株式等に係る譲渡所得」として扱われ、所得税、復興特別所得税、住民税の課税対象となります。この譲渡所得は、給与所得や事業所得といった他の所得とは合算せず、分離して税額を計算する「申告分離課税」が適用されるのが大きな特徴です。

税金を計算する上での基本となる譲渡所得の金額は、以下の計算式で算出されます。

譲渡所得の金額 = 株式の譲渡対価(売却価格) - (取得費 + 譲渡費用)

「譲渡対価」は買い手から受け取る売却金額そのものです。「取得費」は後述しますが、その株式を取得するために要した費用を指します。

「譲渡費用」は、M&A仲介会社に支払った手数料など、株式を売却するために直接かかった費用のことです。これらの費用を正確に把握し、譲渡対価から差し引くことで、課税対象となる所得を圧縮できます。

2.1.1 譲渡対価から差し引く「取得費」の重要性

税額を左右する極めて重要な要素が「取得費」です。取得費とは、売却した株式を手に入れるために支払った元々のコストのことで、具体的には以下のようなものが該当します。

  • 会社設立時の出資金(資本金)
  • 増資の際に払い込んだ金額
  • 他人から株式を買い取った場合の購入代金

この取得費が大きいほど、課税対象となる譲渡所得が減るため、結果的に支払う税金も少なくなります。したがって、会社設立時の契約書や増資時の払込証明書など、取得費を証明できる書類は必ず保管しておく必要があります。

万が一、取得費が不明な場合や証明できない場合は、売却金額の5%を「概算取得費」として計上することになります。例えば、1億円で株式を売却した場合、取得費はわずか500万円とみなされ、残りの9,500万円(譲渡費用がない場合)が課税対象となってしまいます。

実際の取得費が500万円を大きく上回るケースがほとんどであるため、概算取得費の適用は大きな不利益につながる可能性が高いのです。

2.1.2 20.315%の税率と確定申告のポイント

株式譲渡によって得た譲渡所得には、所得の金額にかかわらず一律の税率が適用されます。税率の内訳は以下の通りです。

税金の種類 税率
所得税 15%
復興特別所得税(所得税額の2.1%) 0.315%
住民税 5%
合計税率 20.315%

例えば、譲渡所得が1億円だった場合の税額は、1億円 × 20.315% = 2,031万5,000円となります。この申告分離課税は、所得がいくら高額になっても税率が上がらないため、高額な売却益が出やすいM&Aにおいては非常に有利な制度といえます。

株式を譲渡して利益が出た場合、売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に、所轄の税務署へ確定申告を行い、納税する必要があります。申告を忘れると、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されるため、注意が必要です。

2.2 役員退職慰労金の活用による合法的な節税スキーム

株式譲渡による税金対策として、手取り額を最大化するために非常に有効なのが「役員退職慰労金」を併用するスキームです。これは、株式の売却と同時にオーナー経営者が役員を退任し、会社から「退職金」を受け取る方法です。

売却対価の一部を退職金として受け取ることで、税制上きわめて優遇されている「退職所得」として扱われ、株式譲渡所得と比べて税負担を大幅に軽減できる可能性があります。

このスキームは、買い手側にとっても支払う退職金を会社の損金に算入できるため、法人税の節税につながるメリットがあります。そのため、M&Aの交渉段階で買い手の合意を得やすいという側面も持ち合わせています。

2.2.1 退職所得控除がもたらす税負担の軽減効果

退職所得が税制上優遇されている最大の理由は「退職所得控除」という大きな控除枠が設けられている点です。控除額は勤続年数に応じて大きくなり、以下の計算式で算出されます。

勤続年数 退職所得控除額の計算式
20年以下 40万円 × 勤続年数(※80万円に満たない場合は80万円)
20年超 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)

例えば、勤続年数が25年のオーナー経営者の場合、退職所得控除額は「800万円 + 70万円 × (25年 - 20年) = 1,150万円」となります。この金額までは税金がかかりません。

さらに、退職所得は控除額を差し引いた後の金額を、さらに2分の1にしてから課税されるという大きなメリットがあります(課税退職所得金額 = (収入金額 - 退職所得控除額) × 1/2)。

この「2分の1課税」と、超過累進課税(所得が高いほど税率が上がる)が適用されることにより、株式譲渡所得の一律20.315%と比較して、実質的な税負担を劇的に下げることが可能です。

2.2.2 損金算入の要件となる役員退職金の適正額と功績倍率法

役員退職金スキームを成功させるには、税務署から「不相当に高額である」と指摘されないよう、退職金の金額を「適正額」の範囲内に収めることが絶対条件です。適正額を超えた部分は会社の損金として認められず、買い手側の法人税負担が増えるだけでなく、オーナー個人に対しても役員賞与とみなされ、高い税率で課税されるリスクがあります。

この適正額を算定する際に、実務上最も広く用いられているのが「功績倍率法」です。計算式は以下の通りです。

役員退職金の適正額 = 最終月額報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率

「功績倍率」は、その役員の会社への貢献度を示す指標で、役職に応じて変動します。一般的に、社長は2.0~3.0倍、専務・常務は1.5~2.5倍、平取締役は1.0~2.0倍程度が目安とされていますが、会社の規模や業種、同業他社の支給事例なども考慮されるため、一概には言えません。特にWEB広告代理店のような成長産業においては、功績をどう評価するかが重要になります。

このスキームを実行するためには、株主総会での退職金支給決議や、可能であれば事前に役員退職慰労金規程を整備しておくなど、法的に有効な手続きを踏むことが不可欠です。功績倍率の設定や手続きの進め方には専門的な判断が求められるため、必ずM&A税務に精通した税理士に相談しながら進めるようにしましょう。

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3. 【事業譲渡編】法人利益と税金をコントロールするWEB広告代理店の事業売却

株式譲渡がオーナー個人の手取り最大化を目指す手法であるのに対し、事業譲渡は法人格を残したまま、特定の事業のみを切り出して売却するM&Aスキームです。会社そのものは手元に残るため、WEB広告代理店事業は売却し、残った法人で新規事業を始めたり、不動産管理会社として活用したりするケースで選択されます。

この事業譲渡における最大のポイントは、税金がオーナー個人ではなく、売却主体である「法人」に課される点です。ここでは、事業譲渡で発生する法人税等の仕組みと、売却後に会社に残った資金をどう扱うかという「出口戦略」について、税務的な観点から詳しく解説します。

3.1 事業譲渡で法人にかかる税金(法人税等)の仕組み

事業譲渡では、譲渡する資産や負債を個別に評価し、その合計額で売買取引を行います。この取引によって法人に生じた「譲渡益」に対して、法人税、法人住民税、法人事業税といった「法人税等」が課税されます。また、譲渡する資産の種類によっては「消費税」の納税義務も発生する点が、株式譲渡との大きな違いです。

3.1.1 譲渡対象資産ごとの課税関係の整理

事業譲渡の税金計算を複雑にする要因は、譲渡する資産ごとに消費税の課税・非課税が異なる点にあります。WEB広告代理店の事業譲渡では、PCやサーバーといった有形資産だけでなく、目に見えない「営業権(のれん)」が大きな価値を持つことが多く、その税務上の取り扱いを正確に理解しておく必要があります。

具体的に、どのような資産が譲渡対象となり、それぞれにどのような税金がかかるのかを以下の表に整理しました。

資産の種類 具体例(WEB広告代理店の場合) 法人税の課税対象 消費税の課税対象
有形固定資産 PC、サーバー、オフィス什器、車両など 譲渡益に課税 課税対象
無形固定資産 ソフトウェア、自社開発の運用ツールなど 譲渡益に課税 課税対象
営業権(のれん) 顧客基盤、取引先との関係、運用ノウハウ、ブランド価値など 譲渡益に課税 課税対象
土地 (保有している場合) 譲渡益に課税 非課税
有価証券 株式、債券など(事業に関連するもの) 譲渡益に課税 非課税
債権 売掛金、貸付金など 簿価と譲渡価額の差額に課税 非課税

このように、WEB広告代理店の価値の源泉である「営業権(のれん)」は、消費税の課税対象となります。そのため、売却価格を交渉する際には、消費税込みの金額なのか、税抜きの金額なのかを契約書で明確にしておかなければ、後々トラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。

3.1.2 譲渡益に対する法人実効税率と繰越欠損金の活用

事業譲渡によって法人に生じた利益(譲渡益)には、法人税等が課されます。この譲渡益は、以下の計算式で算出されます。

譲渡益 = 譲渡価額(資産の売却価格) - 譲渡資産の簿価

この譲渡益に対して、法人税、法人住民税、法人事業税を合わせた「法人実効税率」が適用されます。法人実効税率は会社の規模や所在地によって異なりますが、概ね30%〜34%程度です。

ここで重要なのが「繰越欠損金」の存在です。もし、売却する法人に過去の事業年度から繰り越されてきた税務上の赤字(繰越欠損金)がある場合、この譲渡益と相殺することができます。例えば、譲渡益が1億円発生しても、繰越欠損金が1億円あれば、課税所得はゼロとなり、法人税の負担は発生しません。

したがって、多額の繰越欠損金を抱えている会社にとっては、株式譲渡ではなく事業譲渡を選択することで、税負担を大きく圧縮できるというメリットがあります。

3.2 事業売却後に会社に残った資金の出口戦略と税金

事業譲渡が完了すると、売却代金は法人の預金口座に入金されます。しかし、このお金はまだ会社のものであり、オーナー経営者が個人で自由に使えるわけではありません。この会社に残った資金をオーナー個人に移す「出口戦略」をどう設計するかによって、最終的な手取り額が大きく変わってきます。

3.2.1 株主への配当時に発生する「二重課税」の問題

会社に残った資金をオーナー個人が受け取る最もシンプルな方法は、株主への「配当」です。しかし、この方法は税務上、非常に不利になる可能性が高い「二重課税」という問題点を抱えています。

二重課税とは、以下の2段階で税金が課されることを指します。

  1. 法人段階の課税:事業譲渡で得た利益に対して、法人が法人税等(約30%〜34%)を納税する。
  2. 個人段階の課税:法人が税金を支払った後の利益を原資として株主に配当すると、受け取った個人は「配当所得」として所得税・住民税を納税する。

配当所得は、給与所得など他の所得と合算して税率が決まる「総合課税」の対象となり、所得額に応じて税率が上昇します(最高税率は住民税と合わせて約55%)。

この結果、法人税と個人の所得税・住民税を合わせると、事業譲渡で得た利益の半分以上が税金で失われるケースも少なくありません。これが、事業譲渡が株式譲渡に比べて手取り額が少なくなりがちだと言われる最大の理由です。

3.2.2 会社の「清算(解散)」とみなし配当課税

事業譲渡後に会社をたたむ(清算・解散する)という選択肢もあります。この場合、会社に残っている財産(残余財産)を株主に分配することになりますが、ここでも複雑な税金計算が待っています。

会社を清算して株主が受け取る残余財産は、税務上、次の2つの部分に分けて扱われます。

  • 資本金の額等を超える部分:この部分は「みなし配当」とされ、配当所得として総合課税(最高税率約55%)の対象となります。
  • 資本金の額等の部分:この部分は、保有していた株式を譲渡したものとみなされ、譲渡所得として申告分離課税(税率20.315%)の対象となります。

つまり、会社の資本金の額がいくらかによって、総合課税の対象となる金額と申告分離課税の対象となる金額の割合が変動します。事業譲渡で得た多額の利益が内部留保として積み上がっている会社を清算する場合、みなし配当の金額が大きくなり、結果として高い税率が適用される可能性が高まります。

このように、事業譲渡は法人税のコントロールや繰越欠損金の活用といったメリットがある一方で、その後の出口戦略を誤ると多額の税負担が生じるリスクを伴います。

どのスキームが最適かは、会社の財務状況やオーナーの将来設計によって大きく異なるため、専門家である税理士やM&Aアドバイザーと十分に協議しながら進めることが不可欠です。

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4. 手取り最大化へ:WEB広告代理店の事業売却における税金対策と専門家活用

WEB広告代理店の事業売却における税金は、用いるスキーム(手法)によって大きく異なります。しかし、手取り額を最大化するためには、単にスキームごとの税金構造を理解するだけでは不十分です。

ここでは、さらに一歩踏み込み、「いつ売却するのか」というタイミングの視点と、「誰に相談するのか」という専門家活用の視点から、税金を最適化し手取り額を最大化するための具体的な戦略を解説します。

4.1 税金最適化を意識したM&Aの実行タイミング

M&Aは、実行するタイミングによって納税額が大きく変動する可能性があります。特に消費税や法人税の観点から、最適なタイミングを見計らうことは、最終的な手取り額に直結する重要な要素です。ここでは、WEB広告代理店の事業売却において特に注意すべきタイミングに関する税務上のポイントを2つご紹介します。

4.1.1 消費税の免税事業者・簡易課税制度の活用

事業譲渡のスキームを選択した場合、消費税の取り扱いは非常に重要な論点となります。特に、売り手である会社の消費税の納税義務の有無が、手取り額に影響を与えることがあります。

具体的には、課税売上高が1,000万円以下の「免税事業者」である場合、事業譲渡によって買い手から預かった消費税(例えば、営業権や有形固定資産の譲渡対価に含まれる消費税)を納税する義務が免除されます。これは、売り手にとって「益税」となり、手取り額がその分増加することを意味します。

もし、自社が免税事業者に該当する、あるいは近い将来該当する見込みであれば、そのタイミングで事業譲渡を実行することは有効な選択肢となり得ます。

また、課税売上高が5,000万円以下で「簡易課税制度」を選択している場合も注意が必要です。WEB広告代理店は、一般的にサービス業として第五種事業に該当し、みなし仕入率は50%と定められています。

原則課税と比較して、簡易課税制度が有利に働くケースも少なくありません。事業譲渡の計画段階で、自社の消費税の申告・納税方式を確認し、どのタイミングで実行すれば最も有利になるかをシミュレーションしておくことが望ましいでしょう。

4.1.2 決算期をまたぐM&A取引の税務上の注意点

M&Aの最終的な効力が発生する「クロージング日」が、会社の決算期をまたぐかどうかは、税務申告に大きな影響を及ぼします。

株式譲渡の場合、オーナー個人の譲渡所得として、暦年(1月1日~12月31日)単位で課税されます。そのため、クロージングが12月になるか、翌年1月になるかで、確定申告を行う年が変わります。他の所得とのバランスや、将来的な税制改正の動向を見据え、戦略的に譲渡のタイミングを決定する必要があります。

一方、事業譲渡では、譲渡益は法人の利益として計上され、法人税等の課税対象となります。どの事業年度に譲渡益が帰属するかは、節税戦略を立てる上で極めて重要です。例えば、多額の譲渡益が見込まれる場合、過去の赤字である「繰越欠損金」と相殺できる事業年度にクロージング日を設定することで、法人税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。

また、役員退職金の損金算入とタイミングを合わせるなど、決算期を意識したスケジューリングが、法人の税負担を最適化する鍵となります。期末ぎりぎりの取引では、十分な節税対策を講じる時間的余裕がなくなるリスクがあるため、余裕を持った計画が不可欠です。

4.2 税理士・M&Aアドバイザーとの連携の重要性

WEB広告代理店の事業売却における税務は、極めて専門的かつ複雑です。自己判断で進めてしまうと、予期せぬ多額の納税が発生したり、将来的な税務リスクを抱え込んだりする可能性があります。手取り額を合法的に最大化し、安心してM&Aを完了させるためには、M&A税務に精通した専門家との連携が不可欠です。

4.2.1 M&A税務に精通した税理士の選定ポイント

日頃からお付き合いのある顧問税理士が、必ずしもM&Aの税務に精通しているとは限りません。M&Aには、組織再編税制や企業価値評価、デューデリジェンス(買収監査)といった特殊な知識と経験が求められます。最適なアドバイスを受けるためには、以下のポイントを参考に、M&Aの実績が豊富な税理士を選ぶことが重要です。

M&A税務に強い税理士の選定ポイント
選定ポイント 確認すべき内容
M&Aの支援実績 WEB広告代理店を含む、同規模・同業種の事業売却案件を扱った経験が豊富か。具体的な実績件数や事例を確認する。
スキームの提案力 株式譲渡と事業譲渡のメリット・デメリットを比較し、自社の状況に合わせた最適なスキームと税金対策を具体的に提案できるか。
企業価値評価(バリュエーション)の知見 WEB広告代理店特有の「のれん(営業権)」の価値を正しく評価し、税務上の観点から妥当な譲渡価額の算定をサポートできるか。
デューデリジェンスへの対応力 買い手側が実施する税務デューデリジェンスにおいて、的確な資料準備や質疑応答のサポートができるか。
料金体系の明確さ 相談料、着手金、成功報酬などの料金体系が明確であり、事前に詳細な見積もりが提示されるか。
4.2.2 最終契約書における「表明保証」の税務関連条項

M&Aの最終段階で締結される株式譲渡契約書や事業譲渡契約書には、「表明保証(Representations and Warranties)」と呼ばれる条項が設けられます。これは、売り手が買い手に対し、売却対象となる会社や事業に関する特定の事柄が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証するものです。

この表明保証の中でも、税務に関する条項は特に重要です。具体的には、以下のような内容が含まれます。

  • 過去の税務申告が、関連法令に従い適正に行われていること。
  • 全ての納税義務を履行しており、未払いの税金が存在しないこと。
  • 税務当局による調査や更正処分、異議申し立てなどを受けていないこと。

もし契約後に、表明保証した内容に違反する事実(例えば、過去の申告漏れによる追徴課税など)が発覚した場合、売り手は契約違反として買い手から損害賠償を請求される可能性があります。この賠償金は、せっかく手にした売却代金から支払うことになり、結果的に手取り額を大きく減少させる深刻なリスクとなります。

このような事態を避けるためにも、契約書に署名する前に、M&Aに強い税理士や弁護士に契約書の内容を精査してもらい、自社が負うリスクを正確に把握・管理することが絶対に必要です。専門家によるレビューは、安心して事業売却を完了させるための最後の砦と言えるでしょう。

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5. まとめ

WEB広告代理店の事業売却で手取り額を最大化するには、税金に関する深い理解が不可欠です。売却手法である「株式譲渡」と「事業譲渡」では、課税対象や税率が大きく異なり、この選択が税金対策の出発点となります。

結論として、オーナー個人の手取りを最大化したい場合、税率が20.315%と比較的低い株式譲渡が有利なケースが多く、役員退職慰労金の活用でさらなる節税も可能です。一方で事業譲渡は、法人税に加え、売却後の資金を個人に移す際の二重課税リスクも考慮する必要があります。

このように税務は複雑なため、最適なスキームを選択し、合法的に税負担を軽減するには、M&A税務に精通した税理士のような専門家への早期相談が極めて重要です。専門家との連携こそが、手取りを最大化させる最も確実な秘訣と言えるでしょう。

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