株式譲渡・事業譲渡の違いと選び方をわかりやすく解説|M&A初心者向け!

株式譲渡・事業譲渡の違いと選び方をわかりやすく解説|M&A初心者向け!

本ページの更新日について

公開日:2024年6月27日
最終更新日:2025年6月5日

M&Aに興味がある方や、会社売却・事業承継を検討している経営者向けに、株式譲渡と事業譲渡の基礎知識や両者の違い、メリット・デメリット、選び方をわかりやすく解説します。この記事を読めば、自社に最適なM&A手法が見つかり、失敗しない取引のポイントが理解できます。

【無料】会社売却・事業承継のご相談はコチラ
「M&Aは何から始めればいいかわからない」という経営者からも数多くのご相談をいただいています。M&Aを成功に導くはじめの一歩は無料のオンライン相談から。お気軽にご相談ください。

365日開催オンライン個別相談会

編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。




1. M&Aにおける株式譲渡と事業譲渡の概要

M&A(企業の合併・買収)は、企業の経営戦略や事業拡大、事業承継などさまざまな目的で行われ、日本国内でも中堅・中小企業から上場企業まで幅広く活用されています。M&Aにはいくつかの手法がありますが、代表的なスキームとして「株式譲渡」と「事業譲渡」があります。
ここでは、株式譲渡と事業譲渡とはどのようなものか、その基本的な特徴や役割について解説します。

1.1 株式譲渡とは何か

株式譲渡とは、企業(株式会社)の経営権を、株主が保有する株式を他者に譲り渡すことで移転させる方法です。取引においては対象会社(譲渡会社)の株式がそのまま新たな株主へと移り、会社そのものが持つ債権・債務や契約関係、従業員、許認可などは原則そのまま継続されます。
中小企業のM&Aで最も利用されているスキームであり、短期間で会社全体を引き継ぐことが可能です。現経営者が代表取締役として引き続き経営に関与する事例や、オーナー経営者の事業承継にも活用されています。

項目 株式譲渡の特徴
譲渡対象 株主が保有する株式(会社の所有権)
引き継がれるもの 会社資産・負債・従業員・契約・許認可・ブランドなど、会社全体
主な利用場面 オーナー経営者の事業承継、経営権の移転、グループ会社化
1.2 事業譲渡とは何か

事業譲渡とは、会社が営む事業の一部または全部を、他の会社や個人に譲り渡すM&Aの手法です。譲渡対象は会社単位ではなく、事業単位(事業部門、資産、負債、契約、従業員など)で切り分けて移転させます。

譲渡する範囲(事業・資産・負債・契約など)は個別に売主と買主で合意し、必要なものだけを移転できます。一部事業のみの切り離しや、事業ごとの選択的な譲渡ができるため、事業再編やノンコア事業の売却などによく利用されます。

項目 事業譲渡の特徴
譲渡対象 特定の事業、資産、負債、契約、従業員など(会社全体ではない)
引き継がれるもの 合意した資産・負債・契約関係・従業員・許認可等のみ
主な利用場面 一部事業の売却、事業再編、経営資源の集中

株式譲渡と事業譲渡では、譲渡の単位や引き継がれる範囲、手続きの内容に大きな違いがあり、M&Aの目的や会社の状況に応じて選択されます。それぞれの概要を正しく理解することが、最適なM&A手法の選択に役立ちます。

【関連】事業売却か事業譲渡か?最適な選択で会社を未来へ導くためのM&A完全ガイド

2. 株式譲渡と事業譲渡の違いを徹底比較
株式譲渡と事業譲渡の違い 株式譲渡 会社全体 譲渡対象: 会社全体(経営権含む) 手続き: 株式譲渡契約書 取締役会決議 税務: 譲渡所得税 消費税:非課税 印紙税:軽微 契約承継: 包括的に維持 メリット: 手続きが簡易 一括引継ぎ デメリット: 簿外債務も引継ぎ 対象限定不可 事業譲渡 事業A 資産B 負債C 譲渡対象: 特定事業・資産・負債等 手続き: 事業譲渡契約書 株主総会決議 税務: 法人税・所得税 消費税:課税あり 印紙税:必要 契約承継: 個別承諾が必要 メリット: 対象選択が柔軟 不要資産除外可 デメリット: 手続きが煩雑 再契約が必要 VS
2.1 譲渡の対象範囲の違い

株式譲渡と事業譲渡では、譲渡の対象範囲が大きく異なります。株式譲渡は「会社そのものの所有権」を移転する行為であり、株主が保有する株式を買い手へ譲渡することで、会社の経営権そのものが移動します。

一方、事業譲渡は「会社の特定の事業や資産のみ」を移転する点が最大の特徴です。つまり、売り手会社は法人格を維持したまま、譲渡する事業に関連する資産や負債、契約等を個別に移転します。

項目 株式譲渡 事業譲渡
譲渡対象 会社全体(経営権含む) 特定事業・資産・負債等
法人格の維持 維持される 維持される(事業のみ移転)
2.2 手続きや流れの違い

株式譲渡の手続きは比較的シンプルで、株主間で株式譲渡契約を締結し、株式名義書換や会社への株主名簿の変更などが主要な工程になります。一方、事業譲渡では譲渡する事業内容を特定して個別の契約が必要となり、資産や負債、従業員、各種許認可、取引契約ごとに移転手続きが発生します。特に、譲渡する事業の価値や規模によっては、会社法上の株主総会決議が必要となる場合があります。

手続き項目 株式譲渡 事業譲渡
主な契約 株式譲渡契約書 事業譲渡契約書
必要な決議 取締役会(非公開は不要な場合あり) 株主総会(会社法467条)
許認可の承継 原則自動承継 原則再取得が必要
契約の承継 包括的に維持 原則個別に承諾が必要
2.3 法律や税務面での違い 2.3.1 会社法・契約手続きの違い

会社法上、株式譲渡は原則として会社の組織再編には該当せず、株主間の契約で完結することが多いですが、譲渡制限のある場合は承認手続きが必要です。

事業譲渡は会社の重要な資産移動を伴うため、一定以上の規模の譲渡(重要な一部の事業の譲渡等)は、会社法467条に基づき株主総会の特別決議が必要となります。また、許認可や各種契約の移転には相手方の承諾や行政手続きが伴います。

2.3.2 税金・消費税・印紙税の違い

株式譲渡の際には、譲渡益に対して「譲渡所得課税」(譲渡所得税)が課されますが、消費税は非課税です。印紙税は株式譲渡契約書には軽微または不要となるケースが多いです。

対して、事業譲渡では事業に含まれる資産ごとに個別の課税が発生します。譲渡資産が土地などの場合は譲渡所得課税、不動産取得税、登録免許税なども対象となり、売買価格に消費税がかかる対象資産もあります。また、事業譲渡契約書には印紙税が必要です。

税目 株式譲渡 事業譲渡
譲渡益課税 譲渡所得税(非上場20.315%) 法人税・所得税(資産ごと)
消費税 非課税 課税資産の場合あり
印紙税 原則不要または軽微 契約金額に応じて必要
その他の税金 原則なし 不動産取得税・登録免許税等の対象
2.4 従業員や取引先への影響の違い

株式譲渡の場合、会社自体は存続するため従業員との雇用契約や取引先との契約も原則として自動的に維持されます。会社名や組織の変更がない限り、外部からは大きな変更が見えにくいのが特徴です。

一方、事業譲渡は個別の契約に基づき、対象となる従業員には買い手側から新たな雇用契約を締結する必要があり、取引先との契約も原則個別の承諾が必要になります。そのため、従業員・取引先には一定の調整や説明が不可欠となります。

2.5 メリット・デメリットの違い

株式譲渡は、手続きが比較的簡単で、会社全体の経営権を一括して移すため、経営の迅速な承継に適しています。承継後も各種契約や許認可はそのまま維持できることが多いですが、隠れた負債やリスクの引き継ぎも発生しやすい点がデメリットです。

事業譲渡は、譲渡対象の限定が可能なため、必要な事業だけを切り離して売却・買収できます。また、不要な資産や負債を残すことができる点がメリットですが、資産・契約ごとに個別の移転手続きが発生するため、事務手続きやコストが増加しやすく、従業員や取引先への影響も高い点がデメリットです。

比較項目 株式譲渡 事業譲渡
メリット 手続きが簡易、会社全体の承継、一括引継ぎ 譲渡対象の選択が柔軟、不要資産や負債を除外可
デメリット 簿外債務やリスクも引継ぎ、対象限定不可 手続きが煩雑、従業員・契約先との再契約必要
【関連】M&A仲介なしで株式譲渡・事業譲渡は可能?自分だけで行うリスクとは?

3. M&Aの現場での株式譲渡と事業譲渡の選び方

M&Aに取り組む際、株式譲渡と事業譲渡のどちらを選択すべきかは、譲渡する側・受ける側双方の事情や目的、企業の規模、取り巻く環境などによって大きく異なります。適切なスキームを選ぶことで、より円滑かつ効果的な事業承継や成長戦略の達成が可能となります。ここでは、実際の選び方や判断ポイントについて、ケースごとにわかりやすく解説します。

3.1 ケース別で見る選び方

実際のM&A現場では、譲渡対象となる法人や事業の性質、関係者の意向、リスクの回避、税務上の観点など様々な要素を考慮に入れてスキームを選択します。下表は、代表的なケースと推奨されるスキームの例をまとめたものです。

ケース 株式譲渡 事業譲渡 主な判断基準
企業全体を丸ごと引き継ぎたい 企業全体の権利義務やブランド、契約等を包括的に承継したい場合には株式譲渡が有利
複数事業のうち一部の事業だけ譲渡したい 特定事業のみを分離したい場合、事業譲渡が有効
簿外債務やリスクを避けて引き継ぎたい 不要な資産や負債、リスクを切り離して移転したい場合は事業譲渡が適す
M&A後も経営者に残ってほしい 現経営者の継続や相対的にシンプルな手続きを希望する場合、株式譲渡がスムーズ
事業承継に税務優遇を活用したい 相続・贈与税の納税猶予など税務優遇は株式譲渡の方が活用しやすい
許認可や契約の移転が重要 事業譲渡の場合は各種許認可や契約が個別に引き継ぎ必要。特定事業によって使い分けが必要

このように、実現したい目的や現状の企業規模、リスク管理の視点などに応じて最適なスキームを選択します。

3.1.1 中小企業における選択ポイント

中小企業のM&Aでは、株式の所有関係がシンプルでオーナー経営者が全株主というケースが多く見られます。この場合、株式譲渡を選ぶことで手続きが簡便であり、許認可やライセンス、重要な契約もそのまま引き継ぐことが可能なため、スムーズな移行がしやすくなります。

一方、簿外債務のリスクを避けたい、特定事業だけを譲り渡したいといったケースでは、事業譲渡を選択することも増えています。中小企業庁が策定する事業承継ガイドラインでも、企業規模や譲り渡したい範囲によってスキームの選択が推奨されています。

3.1.2 スタートアップ・ベンチャーの場合

スタートアップやベンチャー企業の場合、知財や人材、ブランドなど無形資産の価値が企業価値の大半を占めることが多く、投資家が複数存在して資本政策が複雑なケースもしばしばです。

これらの場合、株式譲渡によるM&Aが主流ですが、事業単位で切り出して譲渡することで、投資家など関係者の利益調整や資本構成の整理を行いたいときは事業譲渡が選択される場合もあります。また、IPOを目指しているスタートアップの場合は、M&Aに伴う株式譲渡のタイミングやストックオプション行使の是非なども慎重に検討する必要があります。

3.1.3 事業ごとに切り離したい場合

グループ企業や多角的に事業展開している中堅・大企業が一部の部門や事業のみを譲渡したい場合は、事業譲渡による切り離しが有効です。例えば、不採算部門の売却や新規事業の切り出しの際には、経営戦略上の目的に応じて譲渡対象事業や資産を個別に選定できる点が最大のメリットと言えます。

ただし、従業員の再雇用手続き、取引先との個別契約の締結、資産や債務の名義変更など、手続きが煩雑となるため、実務上は時間やコストがかかるケースが多い点も押さえておきましょう。

3.2 専門家への相談の重要性

M&Aのスキーム選定は、会社法や税法、労働法、独占禁止法など多くの法律に関係しています。また、税務上は一定の要件を満たさない限り、譲渡益への課税や消費税課税、印紙税の負担などが発生し、適切な手続きがなされなかった場合、想定外のコストや法的リスクが生じる恐れもあります。

そのため、M&Aアドバイザー、公認会計士、税理士、弁護士といった専門家に必ず相談し、目的や状況に応じた最適なスキームを選択することが不可欠です。独立行政法人中小企業基盤整備機構や日本商工会議所、金融機関のM&A仲介部門など、信頼できる公的機関や民間サポートを活用しながら、事前準備・デューデリジェンス・契約書作成からクロージングに至るまで、十分な検討を行いましょう。

特に、会社の未来を左右する重要な経営判断となるため、複数の専門家によるセカンドオピニオンも活用しながら、自社に最適な譲渡方法を見極めることが成功への近道となります。

【関連】業績向上までサポートするM&A仲介サービス

4. まとめ

株式譲渡と事業譲渡は、譲渡対象・手続き・税務・法律面など多くの点で違いがあります。どちらを選ぶかは会社の状況や目的によって異なります。適切なスキームを選択するには、税理士や公認会計士、弁護士など日本国内の専門家に必ず相談し、最適な方法を検討しましょう。

メニュー