事業売却のメリット・デメリット|手取り・従業員・許認可の実務手順

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公開日:2025年2月16日最終更新日:2026年8月16日
事業売却は、会社全体ではなく特定事業だけを手放せるM&A手法です。株式譲渡や会社分割との違い、税金、従業員・契約への影響を整理し、自社に合う選択を判断します。
1. 事業売却は法律上の事業譲渡にあたる取引です事業売却は、一般的なビジネス用語です。会社法上の契約や手続きでは、原則として「事業譲渡」と呼ばれます。
対象は会社そのものではなく、事業を構成する資産、契約、従業員、技術、ブランドなどです。会社の一部だけを売却する場合、売り手の法人格と残存事業は維持されます。
一方、M&Aは合併や買収を含む広い概念です。株式譲渡や会社分割もM&Aの手法であり、事業売却はその一部に位置付けられます。
比較項目 | 事業売却(事業譲渡) | 株式譲渡 |
|---|---|---|
売却対象 | 特定事業の資産・契約など | 会社の株式 |
経営権 | 原則として移転しない | 買い手へ移転する |
法人格 | 売り手会社が残る | 会社は残るが所有者が変わる |
承継方法 | 個別承継 | 包括的に維持 |
1-1. 事業譲渡で引き継ぐ資産・契約・債務の範囲
事業譲渡では、引き継ぐ資産、負債、契約、従業員、知的財産を契約書で特定します。機械や在庫だけでなく、顧客基盤やノウハウも対象になり得ます。
指定しなかった借入金や簿外債務、偶発債務は、原則として売り手に残ります。未払残業代や訴訟など、過去の事業活動に起因するリスクも洗い出しが必要です。
1-2. 株式譲渡なら会社全体の経営権を移転する株式譲渡は、株主が保有株式を買い手へ売却する方法です。過半数の株式を取得すれば、買い手は株主総会を通じて会社の経営権を得ます。
会社の法人格、既存契約、許認可、従業員との雇用関係、債務は原則として会社に残ります。手続きは比較的簡便ですが、簿外債務を含む会社全体のリスクを引き継ぎます。
1-3. 会社分割は事業を別法人へ包括承継する手法会社分割には、新会社を設立する新設分割と、既存会社へ移す吸収分割があります。事業に属する権利義務を包括的に承継させる組織再編です。
事業譲渡のように資産や契約を一つずつ移す必要がない一方、事業を構成する権利義務をまとめて承継します。一定の要件を満たせば、税制上の繰り延べが認められる場合もあります。
1-4. 七つの判断軸で事業売却か株式譲渡か診断する判断軸 | 事業譲渡が向く傾向 | 株式譲渡が向く傾向 |
|---|---|---|
売却対象 | 一部事業だけ | 会社全体 |
経営権 | 残したい | 移したい |
税引後資金 | 会社に残したい | 株主が受け取りたい |
契約数・従業員数 | 少ない | 多い |
許認可 | 再取得できる | 維持したい |
負債 | 限定したい | まとめて承継する |
七項目のうち、事業譲渡側が5項目以上なら事業譲渡を、株式譲渡側が多ければ株式譲渡を軸に検討します。最終判断は法務・税務の確認が必要です。
2. 事業売却のメリットとデメリットを売り手・買い手で比較事業売却の最大の特徴は、売り手が売却範囲を選べ、買い手も必要な事業だけを取得できることです。ただし、個別承継に伴う手続きと税負担が発生します。
立場 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
売り手 | 不採算事業の整理、法人格の維持、資金獲得 | 契約移転、税金、競業避止義務 |
買い手 | 必要な事業だけ取得、債務を限定、のれんの償却 | 許認可再取得、再契約、人材流出 |
不採算事業を切り離すと、資金、人材、経営者の時間を中核事業へ配分できます。売却対価を借入金の返済や成長投資に回し、会社全体の収益構造を改善することも可能です。
会社全体を売る必要がないため、残したい事業、社名、法人格を維持できます。後継者不在でも、買い手の経営資源を活用して事業と雇用を残せる場合があります。
2-2. 売り手に残る負債と競業避止義務を確認する譲渡契約に記載しなかった借入金、保証債務、未払残業代、税務リスク、訴訟は、売り手会社に残る可能性があります。売却代金だけでなく、残存負債を差し引いた資金計画が必要です。
事業譲渡では、同一市町村と隣接市町村で同一事業を行えない競業避止義務が、原則20年間生じます。特約で期間を30年まで延長できるため、将来の事業計画と条項を照合します。
従業員や主要取引先が移らなければ、事業価値そのものが下がります。契約前に承諾取得の見込みを確認し、表明保証や補償条項で未確認リスクの負担も定めます。
2-3. 買い手は必要な事業だけ取得し債務を限定できる買い手は、顧客、技術、設備、人材、ブランドなどを選んで取得できます。会社全体を買う株式譲渡に比べ、不要な事業や簿外債務を抱えるリスクを抑えられます。
既存販路とのクロスセルや技術統合により、新規事業をゼロから立ち上げるより早く成長できる可能性があります。ただし、取得範囲が曖昧だと、期待したシナジーが生まれません。
2-4. 買い手は契約移転と許認可再取得に対応する必要がある顧客、仕入先、賃貸人、リース会社との契約は、原則として個別に承諾を得ます。従業員の雇用契約も自動承継されず、再雇用や転籍への同意が必要です。
許認可は会社に付与されるものが多く、買い手が再取得しなければ事業を開始できない場合があります。許可取得の期間、費用、取得可能性をクロージング前に確認します。
対策として、主要契約を重要度で分類し、同意取得の進捗表を作成します。キーマンには処遇と役割を早期に示し、顧客にはサービス継続を具体的に説明します。
3. 事業売却の税金と手取りを価格算定から試算する事業売却では、売却価格がそのまま手取りになるわけではありません。譲渡益にかかる税金、課税資産の消費税、仲介・専門家報酬、移転費用を差し引いて判断します。
事業譲渡の対価は通常、売り手会社が受け取ります。個人株主へ資金を移す場合は、配当や役員報酬など別の税務論点が生じるため、会社内に残す資金と個人へ移す資金を分けて試算します。
3-1. 時価純資産法・類似会社比較法・DCF法を使い分ける
時価純資産法は、資産を時価に直し、負債を差し引く方法です。資産保有型や赤字事業の下限価値を確認する際に使いやすい一方、将来収益を反映しにくい特徴があります。
類似会社比較法は、同業企業や過去の取引倍率を参考にします。DCF法は将来キャッシュフローを現在価値に割り引くため、安定収益事業や成長途上のIT事業で有効ですが、事業計画の前提に左右されます。
3-2. 法人が事業を売る場合の法人税と消費税を確認する法人の事業譲渡益は、売却対価から譲渡資産の簿価と譲渡費用を差し引いて計算し、会社全体の所得と合算して法人税等を計算します。実効税率は会社規模や所得で異なります。
建物、機械、在庫、営業権などは消費税の課税対象となる場合があります。土地など非課税となる資産もあるため、資産ごとに対価を配分し、税理士へ確認します。
3-3. 株式譲渡との税引後手取りを同じ価格で比べる簡易的には、事業譲渡の手取りを「売却価格-簿価-譲渡費用に対する法人税等-課税資産の消費税-専門家報酬」で確認します。実際は会社全体の損益や税務上の繰越欠損金も影響します。
例えば売却価格5,000万円でも、簿価、税率、報酬、移転費用が不明なら手取りは確定しません。株式譲渡では、個人株主の譲渡所得に対する課税が中心となり、同じ5,000万円でも結果が変わります。
比較時は、売却価格だけでなく、最低報酬、成功報酬の計算基準、着手金、中間金、税金、DD費用を同じ表に入れます。税額は取引条件で変わるため、契約前に税理士へ確認します。
3-4. 買い手の消費税・のれん償却と会計処理を整理する買い手は、課税資産に対応する消費税を負担します。不動産を取得する場合は、不動産取得税や登録免許税なども発生し得ます。
取得対価と引き継いだ純資産の差額は、会計上ののれんとして処理します。税務上は一定期間、通常5年間で均等償却できる場合があり、償却費が損金となる点が株式譲渡との違いです。
4. 事業売却の準備からクロージングまでの実務手順事業売却は、準備、候補先探索、交渉、デューデリジェンス、契約、決済、移転の順で進めます。契約数や許認可が多いほど、全体の期間は長くなります。
4-1. 売却前に事業別損益と契約・資産資料を整えるまず売却目的と対象範囲を決め、事業別の売上、売上原価、営業利益、資産、負債を整理します。共通部門の人件費や賃料は、配賦ルールを明示して買い手が再計算できる状態にします。
過去の決算書、試算表、事業別損益
顧客・仕入先・外注先の一覧
契約書、賃貸借契約、リース契約
従業員名簿、雇用条件、退職金情報
許認可、特許、商標、ソフトウェアの資料
訴訟、保証債務、未払残業代の資料
資料の不足は、買い手の不安と価格調整につながります。過去の取引や個人保証も含め、先に事実を一覧化すると交渉が安定します。
4-2. 秘密保持契約から基本合意までの交渉を進めるM&A仲介会社やFAを選び、匿名のノンネーム情報で候補先を探します。詳細資料を開示する前に秘密保持契約を締結し、情報の利用目的と開示範囲を定めます。
候補先との面談後、買い手は意向表明書を提出します。基本合意では、価格の目安、対象事業、独占交渉権、スケジュール、従業員の扱いを確認します。
4-3. デューデリジェンス後に最終契約と決済を実行するデューデリジェンスでは、財務、税務、法務、事業、人事、許認可を調査します。売り手は資料を提出し、未払債務や契約違反などの指摘に事実関係を回答します。
調査結果を踏まえて価格、補償上限、表明保証、競業避止義務、従業員の処遇を最終交渉します。合意後、事業譲渡契約を締結し、必要に応じて株主総会の特別決議を行います。
クロージングでは、対価決済、資産の引き渡し、契約の承諾、雇用契約の締結、登記や届出を実行します。決済日と移転日を分ける場合は、責任と収益の帰属日を明確にします。
4-4. 従業員・取引先・許認可を移せない場合の代替策従業員が転籍に同意しない場合は、一定期間の出向、業務委託、採用契約などを検討します。ただし、実態が雇用であれば労務上の問題が生じるため、弁護士や社労士に確認します。
取引先の承諾が難しい場合は、売り手が一定期間契約主体となり、買い手へ業務を委託する方法があります。許認可の再取得に時間がかかる場合も、暫定的な代理店契約が選択肢になります。
個別承継が事業価値を損なうなら、会社分割や株式譲渡へ手法を変更します。会社分割は包括承継、株式譲渡は会社自体の経営権移転となるため、法務・税務の比較が不可欠です。
5. 事業売却後の影響と見送るべき会社の判断基準
事業売却後も、売り手会社には譲渡対象外の資産や負債が残ります。従業員や取引先の移転が不十分なら、売却後の運営だけでなく売却価格にも影響します。
5-1. 事業売却後も残る保証債務と偶発債務を洗い出す借入金や経営者保証は、契約で買い手へ移すと定めても、金融機関の承諾がなければ保証人が外れない場合があります。決済前に金融機関へ解除条件を確認します。
未払残業代、税務調査、製品保証、訴訟、環境問題などは、譲渡対象外として残る可能性があります。発生可能性と金額を一覧化し、補償期間と上限を契約に定めます。
5-2. 従業員の同意と取引先説明で事業価値を守る事業譲渡では雇用契約が自動承継されません。従業員ごとに転籍先、給与、勤務地、労働時間、退職金の扱いを説明し、書面で同意を得ます。
情報漏えいを防ぐため、説明時期は契約締結後や承諾取得の段階に設計します。主要取引先には、サービス品質、窓口、支払条件が変わらない点を具体的に伝えます。
5-3. 年商規模と業種別に事業売却の判断例を確認する従業員5〜30人で契約数が少ないIT事業は、事業譲渡で技術と人材を切り出しやすい例です。許認可が比較的少なく、買い手のシステムや販路との相乗効果も説明しやすくなります。
建設業は許可や技術者の配置が重要です。許可の扱いを確認し、株式譲渡や会社分割のほうが事業継続に適する場合があります。
介護事業は指定や人員基準の確認が欠かせません。年商や従業員数だけでなく、指定権者への手続き、利用者への説明、管理者の継続勤務を軸に判断します。
5-4. 売却を急がず再建や承継を選ぶべき状況を確認する事業と会社の共通資産を分離できない場合、事業譲渡は契約作業が増え、手取りが低下します。許認可を再取得できない場合も、売却後に営業できないため慎重な検討が必要です。
買い手候補が従業員の雇用や顧客対応を受け入れないなら、成立を急ぐべきではありません。売却価格から税金と費用を引いた手取りが、再建費用や承継準備費用を下回る場合も見送ります。
売却対象と残存事業を明確に分けられる
主要契約の承諾見込みがある
従業員と許認可の移転方法が決まっている
簿外債務と保証債務を確認している
税引後手取りが経営目的に達する
買い手の運営方針に合理性がある
可能性はあります。赤字の原因が一時的で、顧客基盤、技術、人材、許認可、買い手とのシナジーに価値があれば評価されます。
赤字額だけでなく、改善後の損益、撤退費用、再成長の条件を資料化します。買い手が検証できる数値を示すことが重要です。
6-2. 事業譲渡で従業員の雇用契約は自動承継されますか自動承継されません。買い手と従業員が新たな雇用契約を結ぶか、売り手から買い手への転籍に個別同意が必要です。
給与や勤務地だけでなく、勤続年数、退職金、福利厚生も確認します。説明不足は離職や事業価値の低下につながります。
6-3. 事業譲渡と株式譲渡は税金でどう変わりますか事業譲渡は、売り手法人の譲渡益に対する法人税等と、課税資産の消費税が中心です。株式譲渡は、個人株主の譲渡所得に対する課税が中心となります。
税率や税額は法人の規模、株主、簿価、損益、資産構成で変わります。契約前に税理士へ手取りを試算してもらいます。
6-4. 検討開始からクロージングまで何か月かかりますか期間は、資料準備、候補先探索、交渉、DD、契約、移転作業の量で変わります。契約数、従業員数、許認可、株主総会の有無が長期化要因です。
短期間で進める場合でも、承諾取得や税務確認を省略できません。日程より、事業開始に必要な条件を満たす順序を優先します。
7. おすすめ商品: 手取りを重視するならM&A PMI AGENTの特徴と選び方事業売却では、売却価格ではなく、仲介手数料、税金、実費、引継ぎ条件を差し引いた手取り額で比較する必要があります。手取りを重視するならM&A PMI AGENTは、売り手経営者向けに手取り額を整理する無料オンライン相談を提供しています。
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譲渡価格5,000万円の比較例では、他社最低報酬2,000万円に対し、最低報酬500万円〜の場合は手数料差額が最大1,500万円となります。実際の条件は案件内容や契約条件で異なるため、見積書の比較が必要です。
買い手候補への打診から条件交渉、DD、最終契約、クロージングまで支援し、ビジネスDD、PMI、企業再生、経営改善にも対応します。手取りと移転後の運営を同時に確認したい場合の選択肢です。
8. まとめ事業売却は、法律上の事業譲渡として、必要な事業だけを個別に移転する方法です。売り手は法人格と残存事業を維持でき、買い手は不要な債務を限定できます。
一方で、契約の承諾、従業員の同意、許認可、税金、競業避止義務への対応が必要です。株式譲渡や会社分割と比較し、税引後手取りと移転の実現可能性で判断します。
最初に事業別損益、契約一覧、従業員情報、許認可、保証債務を整理してください。そのうえで、税理士、弁護士、M&A専門家に相談し、複数の手法と買い手候補を比較することが次の一歩です。


