M&Aにおけるフリーキャッシュフロー(FCF)の意味・計算方法・用途を解説【企業価値評価の鍵!】
「M&Aにおけるフリーキャッシュフロー(FCF)って、よく聞くけど実際何なの?」「企業価値評価で、なぜそんなに重要視されるの?」 この記事では、そんな疑問に答えます。
フリーキャッシュフロー(FCF)の意味を分かりやすく解説し、M&Aにおける重要性、具体的な計算方法、そして企業活動における活用例までご紹介します。
この記事を読めば、フリーキャッシュフロー(FCF)が企業価値評価の鍵となる理由が理解できるはずです。
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- 目次
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1. フリーキャッシュフロー(FCF)とは
1.1 企業活動で創出されたキャッシュを表す指標
1.2 「自由に使途を決められるお金」という意味を持つ
1.3 フリーキャッシュフローと利益の違い
2. M&Aにおけるフリーキャッシュフロー(FCF)の重要性
2.1 企業価値評価の重要な指標となる
2.2 M&Aにおける買収価格の決定に大きく関わる
2.3 フリーキャッシュフロー(FCF)の安定性と成長性が重要
3. フリーキャッシュフロー(FCF)の計算方法
3.1 フリーキャッシュフロー(FCF)の計算式
3.2 営業キャッシュフロー
3.3 設備投資額
3.4 計算式の具体例
4. フリーキャッシュフロー(FCF)の用途
4.1 企業の財務健全化
4.2 株主還元の強化
4.3 事業の成長投資
4.4 事業ポートフォリオの再編
5. まとめ
1. フリーキャッシュフロー(FCF)とは 1.1 企業活動で創出されたキャッシュを表す指標
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、企業が事業活動を通じて創出したキャッシュフローから、設備投資額を差し引いたもの、つまり、企業が自由に使えるお金のことを指します。
企業は、売上を計上しても、そのすべてが現金として手元にあるわけではありません。売上の中には、まだ回収されていない売掛金などが含まれている場合があるからです。
また、商品を仕入れたり、従業員に給料を支払ったりするために、現金が流出していくこともあります。
フリーキャッシュフローは、こうした企業活動全体における現金の流れに着目し、実際に自由に使えるお金がどれだけあるのかを示す指標です。
1.2 「自由に使途を決められるお金」という意味を持つ
フリーキャッシュフローは、「自由に使途を決められるお金」という意味を持ちます。
企業は、このフリーキャッシュフローを使って、借入金の返済、株主への配当金の支払い、設備投資、M&A資金など、様々な用途に資金を充当することができます。
フリーキャッシュフローが多い企業は、それだけ資金繰りに余裕があり、経営の安定性が高いと言えるでしょう。
逆に、フリーキャッシュフローが少ない、あるいはマイナスの企業は、資金繰りが厳しく、経営が不安定である可能性があります。
企業が長期的に成長していくためには、安定的にフリーキャッシュフローを創出していくことが重要になります。
1.3 フリーキャッシュフローと利益の違い
フリーキャッシュフローと混同されやすい指標に「利益」があります。しかし、フリーキャッシュフローと利益は全く異なるものです。
利益は、あくまでも会計上の概念であり、現金の増減を表すものではありません。例えば、多額の売上を計上していても、それがすべて現金で回収されていなければ、利益は大きくても、実際の手元資金は少ないという状況もあり得ます。
一方で、フリーキャッシュフローは、実際に企業が自由に使えるお金を示す指標です。企業の財務状況や経営の安定性を把握するためには、利益だけでなく、フリーキャッシュフローにも注目することが重要です。
指標 | 定義 | 特徴 |
---|---|---|
フリーキャッシュフロー | 企業活動で創出されたキャッシュから設備投資を差し引いたもの | 実際に自由に使えるお金を示す |
利益 | 収益から費用を差し引いたもの | 会計上の概念であり、現金の増減を表すものではない |
このように、フリーキャッシュフローは、企業の財務状況や経営の安定性を把握する上で非常に重要な指標です。投資家は、企業のフリーキャッシュフローに着目することで、その企業の将来性を評価することができます。
2. M&Aにおけるフリーキャッシュフロー(FCF)の重要性
フリーキャッシュフロー(FCF)は、企業の収益力を測る指標として、M&Aにおいても重要な役割を担います。特に、企業価値評価においては、その重要性が一層際立ちます。
2.1 企業価値評価の重要な指標となる
M&Aを実施する際、買収対象企業の価値を適正に評価することは非常に重要です。この企業価値評価において、フリーキャッシュフロー(FCF)は重要な指標の一つとして用いられます。
なぜなら、フリーキャッシュフロー(FCF)は、企業が自由に使えるキャッシュ、つまり、借入金の返済や設備投資、株主還元などに充当できる金額を表しているからです。
将来にわたって安定的に高いフリーキャッシュフロー(FCF)を生み出すことが期待できる企業は、それだけ高い収益力を持つと判断され、企業価値も高くなる傾向にあります。
割引キャッシュフロー法(DCF法)における活用
企業価値評価の手法として、一般的に用いられる割引キャッシュフロー法(DCF法)では、将来にわたって企業が生み出すと予測されるフリーキャッシュフロー(FCF)を現在価値に割り引くことで、企業価値を算出します。
このことからも、フリーキャッシュフロー(FCF)が企業価値評価において重要な役割を担っていることが理解できます。
2.2 M&Aにおける買収価格の決定に大きく関わる
フリーキャッシュフロー(FCF)は、M&Aにおける買収価格の決定にも大きく影響します。買収企業は、買収対象企業の将来におけるフリーキャッシュフロー(FCF)を予測し、その収益力に見合った買収価格を提示します。
買収対象企業のフリーキャッシュフロー(FCF)が大きければ大きいほど、買収企業は高い買収価格を提示する可能性が高くなります。
買収後の投資回収計画との関連性
買収企業は、買収価格を決定する際に、買収後の投資回収計画を立てます。買収対象企業が生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)は、買収資金の回収源として重要な役割を果たします。
買収企業は、買収後の統合費用や事業投資なども考慮しながら、フリーキャッシュフロー(FCF)に基づいて投資回収計画を策定し、買収価格を決定します。
2.3 フリーキャッシュフロー(FCF)の安定性と成長性が重要
M&Aにおいては、フリーキャッシュフロー(FCF)の現在の数値だけでなく、将来にわたる安定性や成長性も重視されます。
一時的に高いフリーキャッシュフロー(FCF)を生み出している企業よりも、安定的にフリーキャッシュフロー(FCF)を生み出し続ける企業の方が、企業価値や買収価格は高くなる傾向にあります。
また、将来的にフリーキャッシュフロー(FCF)の成長が見込める企業も、同様に高い評価を受けます。
デューデリジェンスにおける分析ポイント
M&Aを実施する際には、買収対象企業の財務状況や事業内容を詳細に調査するデューデリジェンスが行われます。
このデューデリジェンスにおいて、フリーキャッシュフロー(FCF)の安定性や成長性を分析することは非常に重要です。
過去のフリーキャッシュフロー(FCF)の推移や、今後の事業計画に基づくフリーキャッシュフロー(FCF)予測などを分析することで、買収対象企業の収益力やリスクを評価します。
3. フリーキャッシュフロー(FCF)の計算方法
フリーキャッシュフロー(FCF)は、以下の計算式で算出することができます。
3.1 フリーキャッシュフロー(FCF)の計算式 フリーキャッシュフロー(FCF) = 営業キャッシュフロー - 設備投資額
上記の計算式からもわかるように、フリーキャッシュフロー(FCF)を算出するためには、「営業キャッシュフロー」と「設備投資額」の2つが必要です。それぞれの用語について詳しく見ていきましょう。
3.2 営業キャッシュフロー
営業キャッシュフローとは、企業が本業の事業活動で得たキャッシュフローのことです。計算式は以下の通りです。
営業キャッシュフロー = 税引前利益 + 減価償却費 ± その他の損益 ± 営業活動による運転資本増減額税引前利益
税引前利益とは、法人税などの税金を支払う前の利益のことです。損益計算書から確認できます。
減価償却費
減価償却費とは、建物や機械設備などの固定資産を長期にわたって使用する際に、取得原価を費用計上していく費用です。損益計算書から確認できます。
その他の損益
その他の損益には、受取利息や支払利息などが含まれます。
営業活動による運転資本増減額
営業活動による運転資本増減額とは、売上債権や棚卸資産などの流動資産と、買入債務などの流動負債の増減額のことです。貸借対照表から確認できます。
3.3 設備投資額
設備投資額とは、工場や機械設備などの固定資産の取得や建設のために支出された金額のことです。キャッシュフロー計算書から確認できます。
3.4 計算式の具体例
例えば、ある企業の財務情報が以下のようであったとします。
項目 | 金額(億円) |
---|---|
税引前利益 | 100 |
減価償却費 | 50 |
その他の損益 | -10 |
営業活動による運転資本増減額 | -20 |
設備投資額 | 80 |
この場合、営業キャッシュフローとフリーキャッシュフロー(FCF)は以下のように計算できます。
営業キャッシュフロー = 100 + 50 - 10 - 20 = 120(億円)フリーキャッシュフロー(FCF) = 120 - 80 = 40(億円)
つまり、この企業は本業で120億円のキャッシュフローを生み出し、そのうち80億円を設備投資に充てた結果、40億円がフリーキャッシュフロー(FCF)として残ったということになります。
4. フリーキャッシュフロー(FCF)の用途
フリーキャッシュフロー(FCF)は、企業が自由に使えるお金として、様々な用途に活用されます。企業の成長戦略において、FCFの使い道は非常に重要です。ここでは、代表的なFCFの用途とその内容について詳しく解説します。
4.1 企業の財務健全化
借入金の返済
企業は、事業拡大や設備投資のために金融機関などから借入を行うことがあります。FCFは、この借
入金の元本返済に充てることができます。
借入金を減らすことで、利息負担が軽減され、財務体質の改善につながります。また、返済能力の高さを示すことで、企業の信用力向上にも役立ちます。
有利子負債の削減
社債や長期借入金などの有利子負債は、企業にとって大きな負担となります。FCFを活用して有利子負債を削減することで、財務リスクを低減し、より安定した経営基盤を築くことができます。
有利子負債の削減は、企業の収益力向上にも貢献します。
4.2 株主還元の強化
配当金の支払い
企業は、株主に対して、利益の一部を配当金として還元します。FCFは、この配当金の原資となります。安定したFCFを生み出す企業は、継続的に配当金を支払うことが期待できるため、投資家にとって魅力的な投資先となります。配当金の増加は、株価上昇にもつながる可能性があります。
4自己株式の取得
自己株式の取得とは、企業が自社の株式を市場で購入することです。自己株式を取得することで、発行済み株式数が減少し、一株当たりの利益が増加する効果があります。
FCFを活用した自己株式の取得は、株主還元策の一つとして有効です。
4.3 事業の成長投資
設備投資
企業は、生産能力の向上や新製品の開発などのために、工場や設備への投資を行います。FCFは、これらの設備投資の資金源となります。将来の収益拡大を見据えた積極的な設備投資は、企業の成長に不可欠です。
研究開発費
技術革新の激しい現代において、新たな技術や製品の研究開発は、企業の競争力を維持するために重要です。FCFは、この研究開発費に投資することで、将来の収益の柱となる新事業や新製品の創出を促進します。
M&A資金
M&A(合併・買収)は、企業が短期間で事業を拡大したり、新たな技術やノウハウを獲得したりするための有効な手段です。
FCFは、このM&Aに必要な資金として活用されます。M&Aによってシナジー効果を発揮し、企業価値を高めることが期待できます。
4.4 事業ポートフォリオの再編
新規事業への投資
既存事業の成長が鈍化する中、新たな収益源を確保するために、新規事業への投資は重要性を増しています。FCFは、リスクの高い新規事業に挑戦するための資金として活用できます。
新規事業の成功は、企業の将来的な成長に大きく貢献します。
不採算事業からの撤退
収益性が低迷している不採算事業は、企業全体の業績を悪化させる要因となります。FCFは、不採算事業からの撤退に伴う費用に充てることができます。不採算事業から撤退することで、経営資源を成長性の高い事業に集中させることができます。
このように、FCFは企業にとって様々な用途に活用できる重要な資金です。投資家は、企業がFCFをどのように活用しているかを分析することで、その企業の経営戦略や成長性を評価することができます。
5. まとめ
今回はM&Aにおけるフリーキャッシュフロー(FCF)について解説しました。FCFは企業価値評価の重要な指標となり、M&Aにおける買収価格の決定に大きく関わります。
FCFは企業が自由に使えるお金であり、その額が大きいほど企業の収益力が高いと判断されます。M&Aを検討する際には、FCFを理解しておくことが重要です。
編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのエキスパート。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。